<延長/復元>

   拾った事物に接し、完全な姿を類推する。まったく同時にその完全な姿との関係で、その事物への欠落感が浮上し、足りないところが類推される。完全な姿の類推と、足りない部分の類推は同時に進行する。事物の欠落感と類推された完全像の有り様はとても本質的で微妙な性質のものである。それは事物の数ほどあり、かつ事物への見る側の視点の数ほどある。同じ事物でも視点のとりようで、完全なものにも、欠落したものにもなり、欠落の程度、方向性もまた異なってくる。
 私はこれまでつねに拾い上げた断片の固有な存在を第一に尊重しようとしてきた。固有性を尊重し、引き出そうとするとき、無限にありえる視点の置方も、自ずとしぼられて行くことになる。無数にあった筋道は、無心になってその断片自体の声に耳を傾けて行く時、一本か二本の道筋のみがのこされる。それはけっしてアバウトで恣意的なものではなく、必然的な「選択」なのである。結果的に大きく観て、つねに二通りの筋道が形成されてきた。それを「延長」、「復元」と各々呼ぶことにする。

 <延長>  断片の「社会的意味」のレベルとは無関係で、「もの自体」のレベルに沿う修復。結果的に例えば車の断片が「車的形状」ではなく、抽象的な名付けようのないニュートラルな形状に導かれる。元になる断片の特徴を源として、形状を引き継ぎ、引き出して行くため、これを「延長」と呼ぶ。

 <復元>  断片の「社会的意味」のレベルに外見上沿うような修復。結果的に例えば車の断片が「車的形状」に導かれることから車の「復元」と呼んでおく。

*基底面について  「延長」、「復元」、のように一つの断片による作業では、断片に附随する「基底面」と、新規に修復される部分に附随してくる「基底面」が相互に影響しあうことになる。相互の影響関係の中から全体としての「基底面」が発生して行く。拾われた断片と新規の修復部の「基底面」相互の間には、過去/現在、他者/自分、工業製品/手作業などの違いがありる。それは対比・融合関係を造り出し、「なおす」行為ならでわの独自な創造性の核となる。