『葦牙Journal』No.75.
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『葦牙』の会/編集・牧梶郎
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No.75
巻頭言 国家という社会からの「のけ者」
最近作『掾iルビ・らふ)たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ』で、大江健三郎はクライスト作『ミヒャエル・コールハースの運命』を作中にとり込んだ。一六世紀なかば、ザクセン国辺境の領主の公子に理不尽に黒馬を奪われ、妻と下僕まで殺された馬商人コールハースは、ドレスデンの法廷に訴えるが握りつぶされる。忿怒した彼は、虐げられた衆を糾合し蜂起する。焼き討ちの恐怖と騒擾を収拾すべくマルティン・ルターが動く。不法を咎めるルターの貼り紙が出るや、コールハースは単身ルターの館に潜入、直接談判に訴える。クライスト作の勘所は以下(要点)にあった。〔吉田次郎訳、K=コールハース、L=ルター〕。
K:私が人間社會を相手にしてゐる戰は……私が其處から遂はれてゐないのでしたら、悪逆非道の行ひでありませう。
L:誰がお前の暮してゐる國家社會からお前を遂ひ出すか。國家のある限り何人にもあれ遂ひ出されるやうな場合がある筈はないではないか。
K:遂ひ出されると申しますのは……法律の保護を拒絶された者のことです。
「『人間をおとしめる』とはどういうことか―沖縄『集団自殺』裁判に証言して」(『すばる』2008・2)で大江健三郎は、曽野綾子が「そうして国に殉じるという美しい心で死んだ人たちのことを、何故……あれは命令で強制されたものだ、というような言い方をして、その死の清らかさを自らおとしめてしまうのか」という、こうした「特殊な言い方」で自身の思想を代弁させる彼女こそ、「神の視点」を利用して「人間をおとしめる者」、と述べた。国は教科書検定制度で見せたように、「琉球処分」以来、国家社会から「のけ者」にしてきた沖縄住民を、「保護」どころか彼らの死にたいし軍の責任も「法律」で「拒絶」し、なきものにしたい。曽野綾子はこれに輪をかけ、そうして「のけ者」が「美しい心で死んだ」「清らかさ」を讃えよという。「神の視点」とはいえ、クライスト作のルターとはえらい違いである。
(山根 献)
目次
No.75
平和憲法は作成者の思惑を超えた ……大内要三
真空管のラジオだった
……中川璃々
連載(第2回)諷詠
はじまりの季節……星 陽子
蔵王山麓ごみ騒動戦勝記(一)
日本一うら、おもて ――……猪口信男
「熊谷寺」巷聞……長谷部儀冶
第14回葦牙ふぉらむ(報告の骨子)
捕虜体験を経た世界像 ……上原 真
「君が代問題」を考える……青木信夫
転換期にある日本経済
―-低金利政策とデフレ・インフレ……岡本磐男●イタリア・レジスタンスの旅(五)
流血のトスカーナ州
―-狙われたアインシュタインの従兄弟……岡田全弘●英国通信 第12回
凋落する労働党政権と英国既存秩序……山上真
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