「福島を救え」国民アピール
国の責任で一刻も早く放射能の垂れ流しを止めよ
三月十一日に東日本大震災が発生して、すでに五十日がたちました。被災地の中心である宮城・岩手・福島の三県の復興はまだその全体像はおろか方向性も見えていません。なかんずく深刻なのは、現在でも避難民となって不自由な生活を強いられている住民が十三万人近くもいることです。行方不明の人も一万一千人を超えています。津波による瓦礫撤去も遅々として進んでいません。それでも、これら避難住民対策、行方不明者対策、瓦礫撤去対策については、それぞれの関係当局を中心にそれなりの努力が続けられている様子を窺うことができます。
ところが、今回の大震災の三要素(地震・津波・原発)の一つである原子力発電所の事故による災害については、事情がまったく異なります。事件後五十日をすぎても、国の責任において原発事故を収拾するという体制が確立されていないのです。政府はさる四月十七日に、事故の当事者である東京電力に「事故収束への工程表」を発表させ、それをもって事故対策の事実上の国家政策としています。
これはまことに不可解な事態です。なぜなら、国民の生命・財産の安全に責任を持つべき政府が自らの主体的責任においてそれを行おうとしないで、賠償責任以外では責任主体があいまいな民間企業に事故収束策まで丸投げしてしまっていることを意味しているからです。しかも何より重大なのは、四月十二日に、福島第一原発の事故評価について、INES(国際的事故評価尺度)にしたがって最悪の「レベル7」にまで引き上げたあとの事故の収束について「六〜九か月」かかるとしている工程表を丸飲みしていることです。これは、一号機から四号機までの事故炉から現在漏出されている放射性物質の抑制について「六〜九か月」をかけてもかまわないと認めたのも同然です。
そしてこれはまた事実上、四基の原子炉からの放射性物質の垂れ流しを認めることでもあります。まさに恐るべき「事故収束策」と言わなくてはなりません。この無責任体制のまま推移するなら、福島原発の二十キロ・三十キロ圏内の土地を放射能汚染地域としてチェルノブイリ型の廃土としてしまう危険性をもたらします。これはまた一日も早い帰郷を願望している関係避難住民にたいする重大な裏切りといえます。同時に、県内はもとより他県の乳幼児や児童・生徒ら子どもの健康と安全にとっても深刻な被害をもたらす危険性を秘めています。一刻の猶予も許される状況ではないのです。
憲法の原則から言っても、この国の法的責任は明快です。ところが現状までの国の対応の推移を見るなら、原子力災害対策特別措置法などの形式的な運用にとどまり、未曾有の大震災により誘発された原発事故の新しい状況に全く対応することができていません。その実態は、事故過失責任者に事故の処理をまかせるようなもので、法的にも無責任の極みというほかありません。交通事故でさえ、過失責任の伴う行為については法的強制力をもつ捜査の対象となるのです。しかも言うまでもなく、今回の東電の原発事故は国内問題にとどまらず、国際的にも被害を及ぼす重大な事故であり、国際条約に沿った対応がもとめられる事故なのです。一民間企業にまかせておけるものではないことはどこから見ても明白です。
福島県民、なかんずくその二十キロ・三十キロ圏内住民はもとより、その近隣県の住民は一刻もはやく「放射能をストップさせる」ことを願望しています。国民の生命・財産を守る立場から、これに応えなければならないのは政府自身です。私たちは、政府がこの責任を自覚し、放射性物質の放出を一日も早くストップさせ、安全に封じ込めるため、国内外のあらゆる英知を結集し、より有効な対策を講じることを強く要請します。何兆円かかろうとも、この対策こそ先決事項としなければなりません。あの旧ソ連ですら、その方法の良し悪しはあるとしても、第一義的に緊急を要する放射能拡散の要因となっていた原子炉の火災を事故後十三目ほどで収束させています。
現在、政府の事故収束への責任と対策について、新聞・テレビなどのメディアは批判はおろか何らの要求もしていません。国会論議においても、一言の批判もないという信じ難い実情にあります。しかし、政府がその無批判の状況に甘んじることは許されません。メディアの無批判と国会の無策をよいことにして現状の推移を許すなら、福島原発周辺地域は放射線に汚染され人が住めなくなってしまうでしょう。無人の尖閣諸島や竹島の領有権に責任を持つと宣言している政府が、この七万人以上の避難住民が住む地域を放射線の汚染にまかせて廃土としてしまう愚を犯してはなりません。
わたしたちは、以上の理由によって、ここに政府に対して「福島原発から放出されている放射性物質を一刻も早く止める」ことを強く要求します。二〇一一年五月一五日
「葦牙」の会 有志
山根献、武藤功、牧梶郎、小原耕一、中野健二
川上徹、中里喜昭、ジグラー・ポール、松坂尚美
photo©y.k