アンモナイト・セミナー 第3回

アンモナイトの話題(1) −Eogunnarites tanakai

昨日(9/13),道新フォーラム会場(三笠市民会館)で,久々に札幌のMさん親子と会いました.そしていくつかの標本の中にエオグンナライテス・タナカイ(Eogunnarites tanakai)がありました.そこで,エオグンアライテス・タナカイについて簡単に紹介します.

 この Eogunnarites tanakai HAYAKAWA, 1997 は1997年に三笠市立博物館紀要第1号でエオグンナライテス属の新種として,私が記載したアンモナイトです.種名の tanakai は旭川の田中さんという,私が大学院修士課程の時に,古丹別のフィールドで出会って以来の共同研究者のお名前にちなんでいます.

 E. tanakai  の完模式標本(holotype:ホロタイプ)は,その田中さんが朱鞠内のセノマニアン階下部で採集された標本です.同じノジュール内には,他には化石がありませんでしたが,周辺では Desmoceras, Mariella などが産出しています.現在は,三笠市立博物館のタイプ標本コーナーに展示されているはずです.
 いわゆるエオグンナライテスよりも大型で,しかも,大型になってもへそ周辺のトゲがハッキリとみられるという特徴があります.螺環断面もやや円形に近い形をしています.
 E. tanakai は記載当時,産地の状況からセノマニアン最下部としましたが,その後,朱鞠内地域で研究している研究者から微化石ではアルビアン階であるとの指摘がありました.その後,三笠市立博物館紀要第4号で,早川・横井(2000)で報告した大夕張山の標本はよく研究されている地域であるために時代のはっきりした標本で,セノマニアン階最下部からの産出でした.よって,この層準は大型化石ではセノマニアン階最下部,微化石ではまだアルビアン階を示す層準であろうと考えられます.そして,今回の標本も上流部には確実なアルビアン階の地層の分布していない地域での産出であることから,やはりセノマニアン階最下部のものと考えられます.

 エオグンナライテスはケネディ博士らによってソーウンナライテス属(Genus Sounnarites)のシノニム(異種同名),可能性としては大型のメス,小型のオスという性的二型であるかも知れないとの指摘がありましたが,この E. tanakai は大型のエオグンナライテスであることから,この示唆は適当でないと思われます.また,ソーウンナライテスはセノマニアン中期までは生存していませんが,エオグンアライテス属はセノマニアン中期まで生存しています.むしろ,へそ周辺にトゲの無いソーウンナライテスと,装飾型であるエオグンナライテス・タナカイが性的二型であるのかも知れません.

 極めて少ないと思っていた E. tanakai も記載をして公表したことでいくつかの標本を見ることが出来ました.まだ,全部で10標本は見ていないと思いますが,まだまだお手元にこのアンモナイトをお持ちの方は多いことと思います.札幌のMさん,ありがとうございました.


Eogunnarites tanakai  の完模式標本.(記載論文からの抜粋)
産地:朱鞠内
時代:白亜紀セノマニアン最下部
採集者:田中和実さん

文献
Hayakawa, Hiroshi, 1997 : Eogunnarites tanakai sp. nov. from the Lower Cenomanian of Shumarinai.      Bull. Mikasa City Mus.(Nat. Hist.), 1, 19-22.
早川 浩司・横井隆幸,2000:北海道夕張産の大型 Eogunnarites について. 三笠市立博物館紀要(自然科学),4, 61-63.