3月1日
 三月は兎のシーズンですね。何のことか判らない人は、ルイス・キャロルでもおさらいしてね。そう言や『虚無への供物』にもキャロルネタがありました。書誌には載っていませんが、中井英夫は『不思議の国のアリス・ミステリー傑作選』というアンソロジーに作品を提供しています。どの短編なのかはよく知りませんけどね。

3月2日
 カルピスが好きです。特に瓶のやつが。頂戴ものの箱詰めのものはみんな瓶で、青の水玉模様の包装紙に包まれています。この包装紙を見るたびに、子供の頃を思い出すのです。母の目を盗んで原液を舐めたこと、夏の日に川から帰ってきて飲んだ味が名残惜しくて噛んだ氷の感触。カルピスの包装紙は懐かしさの宝庫です。
 そしてモダニズムの香りを今に伝えるものでもあります。中井や日影の短編には紛れもなくこの、モダニズムの香りが漂っています。皆川博子、服部まゆみしかり。そんな小説を守っていきたいからこそ、このHPを続けているのかもしれません。
 カルピスを口にする度に、あの小説、この作品、と思い出すのが、私の密かな楽しみです。同じカルピスでも紙パックではこうはいきません。

3月3日
 中井英夫の最後の「助手」だった本多正一氏のご本『プラネタリウムにて―中井英夫に―』(葉文館出版)が書店に並んでいました。最後の日々を綴ったもので、四年前に上梓された写真集『彗星との日々』(Bee Books)の文章版というところでしょうか。
 晩年の作家は、永年の恋人(男よっ!)に先立たれ、創作への集中力を失い、酒に浸っては呻吟するばかりの日々。しかも、作家がものを書かなくなるとどうなるか。中井英夫の生活は、経済的にかなり困窮していたようです。一番厄介なのは、そのことを中井自身が理解できなかったことで、本多氏のご苦労は並大抵のものではなかっただろうと推察されます。
 中井は1989年8月まで、世田谷区羽根木に住んでいました。私が1989年に上京してきて初めて住んだのは、その近隣、杉並区和泉だったのです。その頃出ていた三一書房版作品集の後書きなどで、敬愛する作家が近くに住んでいることを知り、せめて家でもと思って探したことがあります。ちょうど同じ時期に、本多氏も私と同じように中井邸(中井は流薔園と称していた)を探して訪れ、家の主と偶然出会い、結果、その死までを看取ることになったようです。私は慣れぬ東京の街並に手を焼いて結局たどりつけずじまいでしたが、本多氏の文章で知らされた事実を噛み締めると、ああ、自分ももしかしたら、なんて思うこともあったのです。私は当時まだ右も左もわからぬ未成年でしたから、とても中井の助手など勤まろうはずもないんですけどね。
 創元文庫の中井全集も一巻追加されて、楽しみが増えましたが、その分、本多氏のご苦労も増すばかりでしょう。気楽な読者の私は影ながらエールを送るのみです。

3月11日
 なかなか書評の執筆もはかが行かないと言うのに、色々と新しい構想を練っております。死ぬまできっとこんな、無責任極まりないお祭り屋の夢想家なんだろうと、諦め半分です。
 この「幻ミス博物館」では、基本的に戦後作家を扱っていますが、私、乱歩・正史も大好きなんですね。近頃、乱歩、金田一もの全作品くらいは扱ってみたい気がむくむくとおこっています。あと、中井、赤江の全作品解題とかね。
 いったい何年かかるやら、という迂遠なる計画ではありますが、これらの作品をたどる行為が、ひいては自分史と完全に重なると言う読書経験、いや、生きてきたことの意味となるような外道ゆえ、莞爾と笑ってお許し下さい。
 ところで、話が180度変わりますが、おととい、舞台を見てきました。『ロベルト・ズッコ』という、フランスの劇作家、B=M・コルテスの遺作です。コルテスはゲイで、1989年に41歳でエイズ死しています。タイトル・ロールの聖なる殺人者を演じるのは堤真一(鈴木京香のウワサのカレよ)。私がいままで見た堤の舞台は『真夜中のパーティ』だけです。
 と言うと、今回もゲイ・ネタかと思いきや、違うんですね。監獄から脱獄した狂気の殺人者はむしろ狂言廻し役、彼が逃走する途中で出会う人々の孤独に焦点が当てられます。生という不条理な監獄にいる人たちの生活を、ズッコが掻き乱してゆくのです。
 ズッコが「美男」の「ハンサム」のと女たちに誉めそやされる辺り、作者のゲイ性を感じました。エイズで逝った夭折の天才、なんて言うと、同じ国のエルヴェ・ギベール(『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』)や、シリル・コラール(『野性の夜に』)を思い出しますね。

3月12日
 駅の裏で見てもらってもうらない(ああっ、頭痛がっ(;_;))。生まれて初めて手相見に占ってもらいました。理由は、近頃余りにもツイていないからです。去年から体を壊し(持病の肝臓病に、糖尿併発)、今年は大怪我をし(スカーフェイス)、スランプで論文も小説も一枚も書けず(人間やめますか、それとも文学やめますか)、カードぢごくで債務者だし(100万はいってないわっっ)、恋愛も雲行き怪しいし(見てたらごめんね)、バイトも決まらないし就職も出来ないし(怪我で入院してる間にクビ)、友達は結婚して出世するし(お前の行状を嫁にばらしてやる)、今年でみそぢだし(きっと文学部の窓際族になるのね)、昨日ビデオデッキが壊れたし(映画もえっちものも見れん)、HPに人が来ないし(笑)。♪どうすりゃいいのさ、このあたし、夢は夜開く〜(by藤圭子=宇多田ママ)。
 池袋駅の裏で見てもらいました。よく当たる、と知人に教えてもらったおばさんの占い師。手相を見るなり、おばさんの愛想笑いが曇りました。どっひゃ〜。
 結論から言いますと、来年一杯、運勢は
最悪
だそうです(BGMは「トッカータとフーガ」かしら)。人生にも春夏秋冬がありますが、あなたはいま冬です。新しい買い物は駄目、無駄遣いになるでしょう(ビデオデッキもあかんのかい)。就職はうまく行かないのでしてはいけません(そこまで言うかフツー)、恋愛は別れるならOK(見てたらごめんね)、耐えがたきを耐え忍びがたきを忍び(戦時訓かっつーの)、来年一杯はおとなしくしていましょう。
 ここまで最悪だといっそさっぱりして、気持ちが晴れ晴れしました。これで3000円は安いよ。おばさんに感謝して帰ってきました。もしお悩みがあって夜も眠れず電車のホームに立つと「一歩踏み出せば楽になるよ」って囁きが聞こえる人は、ぜひ占ってみてもらっては如何?
 うちに帰ってきて気がつきました、あの3000円は、先月分のガス代の一部だったことに。来週、我が家のお風呂は、湯気が立っていないかもしれません。さっぶ〜。
 今夜はひとり、ニール・セダカの「ソリテアー」でも歌いながら、パソコンのおまけでついているソリティアでもやってます。

3月16日
 泣き面に蜂と申しましょうか、今度は、プロバイダを変えようとして、モデムをいじくっていて、現在のプロバイダにも接続出来なくなる始末。あぁぁ、いったいいつ、日記の更新で皆様にお目にかかれることやら。自分のアホさ加減に吐き気すら覚える今日この頃です。機械オンチはなかなか治らんぞ! 誰か、たすけてえぇっ!
 PS. 10時間後、ほとんど自力で直すことが出来ました。新旧のプロバイダ、メーカー、サポートセンターをたらい廻しにされて、とても口には言えないような悲しみを感じました。結局頼れるのは自分だけです。

3月24日
 近頃私の運勢が慢性的に悪いことは、上記12日条で述べましたが、そんな中ささやかな喜びが。なんと、昨夜、ガリガリ君が一本当たったのです! 俺、昔からこのアイス・キャンディ好きなんだよなあ。体にめちゃめちゃ悪そうな色と言い、『買ってはいけない』に掲載されてそうな味と言い、たまらんね・・・。
 てなこと言ってるうちに、はたと気づきました。もしかしてこの一本のアイスは、今年の私のツキの全てなのではないかと。いやもしかしたら、来年一杯の幸運を使い果たしてしまったのではないかと。
 アメリカで、スロット・マシーンで史上最大の大当たりをしてしまった女性が、その一ヶ月後に車を運転中、事故にあって死に目に会った、というニュースはまだ記憶に新しいところですね。私のガリガリ君も、もしや・・・。
 嗚呼! 噫! ガリガリ君、レモンソーダ味、税別60円。
 とこの文章を書きながらまた性懲りもなくガリガリ君を食べていたんですが(30にもなって何してるねんて)、八割がた食べてしまってふと棒に目をやって、愕然としました。ま、また、当たり・・・。今度は普通のソーダ味です。今度も税別60円。うふふ、これは私にツキをもたらす幸運の女神の御業なのか。それとも、運命の残り火の燃え滓なのか・・・。そう言えば最近妙にソリティアの札目もいいな。
 とりあえず、棄てず交換せず様子を見てみようと思います。

3月30日
 ディクスン・カーのフェル博士の最後の事件が、ついについについに、翻訳されました。私は嬉しいっ!!! 『月明かりの闇』という本です。これで私のカー未入手本はついにあと3冊となりました(さり気なく自慢)。その3冊は、未訳の”Papa La-Vas”と、創元推理文庫で遥か昔に出ていた『殺人者と恐喝者』、そして、本を大量処分したときに誤って売ってしまった(我が人生の三大後悔のひとつ)『疑惑の影』。
 カー・マニアという言葉もあるくらい、カーの熱狂的ファンは多いのですが、私もご多分に漏れず、カーとなると、ヨダレが出ます。カーはミステリの三大巨匠のひとりに数えられますが、あとのクイーン、クリスティーとは違って、広い読者層を得ることはありませんでした。それだけに、選ばれた者だけが特権的に手にすることの出来る作家、というイメージがあります。でも、カーの作品は現在も、50冊近くがちゃんと新刊書店で買えます。これは全作品の3分の2です。だから、手に入らないという嘆きは言わせません。
 カーの傑作といわれる作品を、騙されたと思って読んでみて下さい。それで、ほんとに騙された、金返せと思うにしても、あなたはカーと相性がよくないというだけに過ぎません。そういうことです。
 私がお薦め出来るカーのベスト5をあげておきましょうか。
  ◇ 『三つの棺』ハヤカワ・ミステリ文庫→フェル博士もの
  ◇ 『火刑法廷』ハヤカワ・ミステリ文庫→ベスト1
  ◇ 『赤後家の殺人』創元推理文庫→ヘンリー・メリヴェール卿もの、カーター・ディクスン名義
  ◇ 『ビロードの悪魔』ハヤカワ・ミステリ文庫→歴史もの、というかSFスリラー
  ◇ 『パリから来た紳士』
創元推理文庫粒揃いの短篇集