10月4日
 もう早くも十月ですね。もうすぐ、貴女の声が聞けますね。年に一度、いや、近頃は二年に一度だったりと、さみしい思いをするときもあります。最近の僕は、あんまりイケてません。生活もいっつもきゅうきゅう、ゆとりがなくて、心が荒んでいるときもあります。いい出会いもなくて、一人で20世紀とおさらばをするのかもしれません。でもいいんです。孤独はいつも友達です。そばにいてくれるものです。
 お酒はあんまり飲み過ぎないようにしています。酒でしくじるのはもう、ごめんだからです。30にもなって酔っ払って自分の行動の責任も取れないようじゃ、始末に負えねえやねえ。
 最近の若い子は(などとおっさんくさい言葉も哀しい)やはり、若いだけに元気です。30を越すともう、失った元気がなかなか取り戻せなくて、今年は大変な年になりました。僕だけ世紀末のカタストロフが来たのかと疑いたくもなりますが、誰しも人生にこんな時期はあるんでしょう。だからじっと我慢、我慢。
 もし来年という年があるのなら、色んなことが上向きになっていることを祈りたいものです。それまで少し、慰めてください。癒してください。僕は文学、いや、言葉というものを通じて、見知らぬ誰かを癒したくてこの道を志したのです。でも、今は自分が癒されることを必要としている…。まったく笑い話です。
 もう少し、信じるものへの確信が生まれるまで、あと少し、背中を押してください。それで頑張れます。きっと…。貴女の声が頼りです。

10月9日
 骨骨アンソロジーのその後です。
 ◎「骨」小松左京 集英社文庫『骨』
 ◎「雙笛」皆川博子 角川ホラー文庫『うろこの家』
 ◎「無妙記」深沢七郎 中公文庫『妖木犬山椒』
 ◎「復顔」草野唯雄 角川文庫『私の中のあいつ』
 ◎「花曝れ首」赤江瀑 講談社文庫『花曝れ首』
 ◎「骨餓身峠死人葛」野坂昭如 中公文庫『骨餓身峠死人葛
 ◎「私の骨」高橋克彦 角川ホラー文庫『私の骨』
 ◎「骨の肉」河野多惠子 講談社文芸文庫『骨の肉』
 ◎「脛骨」津原泰水 廣済堂文庫『異形コレクションW 屍者の行進』
 ◎「死の都」ダン・シモンズ 文春文庫『ブルー・ワールド』
 ◎「頭蓋骨に描いた絵」マッシモ・ボンテンペリ ちくま文庫『わが夢の女』
 ◎「詩人」テネシー・ウィリアムズ 白水社Uブックス『呪い』
 これが当初のラインナップでしたが、周りのぼおんこれくたあな皆様から、いくつかご推薦がありましたので、ぜひここでご紹介。
 ◎「骨仏」久生十蘭 創元推理文庫『日本探偵小説全集8 久生十蘭集』
 ◎「事故」倉橋由美子 新潮文庫『倉橋由美子の怪奇掌編』
 ◎「胡蝶骨」松浦寿輝 新書館『もののたはむれ』
 ◎「骨の色」戸川昌子 光文社文庫『静かな哄笑』
 ◎「骨のプラネタリウム」阿刀田高 文春文庫『ミッドナイト物語』
 ◎「地底の鰐、天上の蛇」倉阪鬼一郎 幻想文学会出版局『地底の鰐、天上の蛇
 
「骨」レイ・ブラッドベリ 創元SF文庫『10月はたそがれの国』

 などなど。随分偏向した選択ですので、他にもあるよとおっしゃる方は掲示板にでも書きこんで頂戴ね。

10月10日
 近頃、殊勝にも、500円玉貯金を始めました。なんか小学生の話みたいですが、けっこうマジメです。だって全然蓄えがないんだもん。そりゃ、老後のこととか心配だわな(いつの話?)。だからちびちびこつこつ、少しずつでも、と思って始めたのでした。ただ、普通のものでは面白くないってんで、新500円硬貨のみ、という制約を付けました。
 金色に近い色の新500円玉、わりと好きなのですが、最近になってようやく多めに出回り始めたようですね。まだ自販機とかでは使えないところも多いのですが、コンビニなんかのお釣りでよくもらいます。
 で、今日も財布の中には、千円札二枚と、昨日出し忘れた500円玉がいっこ、入っていたのでした。大学から帰ってきて、本屋に立ち寄って、本を買いました。1300円のノベルス(高い!)かな。お釣りは700円なので、晩御飯、それで食べようかな〜ってね。
 そしたら釣銭が、新500円玉with100円二ヶ。心を鬼にして、メシ抜きでおうちに帰りましたとさ。
 ああ、こんな生活から早く抜け出たい…。500円玉貯金でいったいいつ、シヤワセが買えるんでしょうかね。うふ。楽しみ…。

10月17日
 みなさま、風邪を召してはおられませぬか。私はみごとに風邪です。この鼻声が聞こえますでしょうか。………。ね、詰まってるでしょ。ぶひ。
 くだらない前振りはさておき、今日はマンガ家、いしかわじゅんのノンフィクション『鉄槌!』を読みました。これが滅法面白いの何のって。とあるスキーツアー・バスに吹雪の中に置き去りにされて、追いついたものの添乗員、運転手とも謝罪すらしなかったという、まことに悪質でヒドい体験をマンガに描いたら、名誉毀損でツアー会社に訴えられてしまい、心ならずも裁判で戦ってしまったという内容。うーん、身に染むわ…。
 こういう悪徳企業の暴挙って、けっこう世の中にごろごろしてるんじゃないですかねえ。いしかわ氏の場合、相手の原告側が偽の証人までデッチ上げてきたというんだから、ほんとに災難。私財なげうって戦ったつもりが、味方のはずの弁護士に手付金ふっかけられて逃げられたという、すさまじいオチつき。
 涙なくしては読めません。ぜひご一読を…。

10月21日
 また涙なくしては読めない本の話など。
 長い間の友人を失ったような気持ちです。というのも、英国の人気作家、コリン・デクスターの
モース警部シリーズの、最終作『悔恨の日』が翻訳されたからです。手許にあるハヤカワポケミスの奥付をみると、私はこのシリーズを16年の長きにわたって読んできたことになります。第1作目の『ウッドストック行最終バス』が発表されたのは1975年ですから、およそ四半世紀もの間、モースは活躍してきたことになります。
 デクスターのミステリは、それまでのミステリにない新風を吹き込んだ画期的なものでした。クロスワード・パズルの鍵つくりのチャンピオンだったデクスターは、その技術を小説に応用して、一連のシリーズを書き上げたのでした。読者は二転三転、いや四転五転する曲面にひきずられる快感を覚えながら、このシリーズを読み進んだことでしょう。私もめくるめく論理の洪水に、溺れそうになったり、モースの大いなる誤謬に笑ったりしたものです。間違った仮説のほうが真実よりも面白いミステリなんて、他にあるのでしょうか。
 この四半世紀の間に、モース警部はブラウン管にも登場し、お茶の間をにぎわせました。日本でもビデオ発売されているTV版は、原作には必ずしも忠実とは言えないものの、モースの人気を最終的にはホームズやポアロよりも上位に押し上げたのでした。
 
「高性能不良推理機械」((c)神保博久)と称された彼の独特の推理スタイルは、最近ではやや衰えてはいたものの、それでも毎回楽しい論理の旅に私たちをいざなってくれたのでした。ちょっとスケベで口が悪く、しかしロマンティストで惚れっぽい、頭脳明晰で俗っぽく、孤独で唯我独尊なモースの人物像は、こういった論理中心の作風に潤いを与えてくれました。
 ポアロが死んだときは、さすがに私もまだ子供でしたので、その騒ぎは憶えていません。しかし、自分の人生の半分以上の長きにわたり親しんできた探偵の死は、心に寂寥感を催させます。
 モースには腹心の部下、ワトソン役のルイス巡査部長がいます。
『悔恨の日』の最後のシーンはルイスの男泣きで終わっています。深く胸打たれるシーンでした。私も今夜は、シリーズ全作を机に並べて、モースが最近好んでいたモルト・ウイスキーを舐めながら、しばし追憶に浸るとしましょう。
  ──さようなら、友よ、さようなら。
                       中村稔「浮泛漂蕩」より

           シリーズ作品リスト(全部、早川書房)
▽『ウッドストック行最終バス』      ▽『キドリントンから消えた娘』
▽『ニコラス・クインの静かな世界』   ▽『死者たちの礼拝』
▽『ジェリコ街の女』            ▽『謎まで三マイル』
▽『別館三号室の男』           ▽『オックスフォード運河の殺人』
▽『消えた装身具』            ▽『森を抜ける道』
▽『モース警部、最大の事件』(短編集)▽『カインの娘たち』
▽『死はわが隣人』            ▽『悔恨の日』