5月30日 さよなら、ヒラリー教授 
 性別不明名探偵というものが、この世には存在するのです。その名はヒラリー・テイマー。オックスフォード大学の法学教授です。サラ・コードウェルが創造した名探偵です。出番は4度、『かくてアドニスは殺された』、『黄泉の国へまっしぐら』、『セイレーンは死の歌をうたう』、『女占い師はなぜ死んでゆく』。いずれもハヤカワ・ポケミスより邦訳されています。教授はいわゆる安楽椅子探偵で、法曹学院の教え子たちの巻き込まれた事件を、手紙やファックスをもとに解決するのです。
 最初、ヒラリー教授は男性として翻訳されていたようですが、3作目の後書きで訳者の松下祥子氏が、実はヒラリー教授は本国で性別不明名探偵として有名なのです、とばらしたのです。
 このヒラリーというファースト・ネームこそ曲者で、男にも女にも付けられる名前です。男ヒラリーの代表は警察小説の大家、近年日本でも再評価されつつあるヒラリー・ウォー。女ヒラリーは前米国大統領クリントン夫人(いつまで夫人でいられる?)。要するに、作者のしかけた罠に、編集者もまんまとひっかかってこのような面白い状況になったのですね。
 でも昨年1月、作者のコードウェル女史が亡くなって、ヒラリー教授の5度目の活躍は幻となってしまいました。3作目と4作目の間に11年ものブランクができたのも、作者自身の闘病のせいだと言われています。だとすると、遺作となった4作目が完成したのは奇蹟に近いことなのでしょう。
 毎回ギリシャ神話をモチーフにした、ユーモアたっぷりの書きっぷりが気に入って、大好きな作家のひとりだったのです。だがヒラリー教授ともお別れです。去年、モース警部とのお別れに涙し、今年もヒラリー教授にお別れしなければならないなんて…。イギリス本格さみしいぞっ!

第1作
『かくてアドニスは
殺された』
1981年

第2作
『黄泉の国へ
まっしぐら』
1984年

第3作
『セイレーンは
死の歌をうたう』
1989年

第4作
『女占い師はなぜ
死んでゆく』
2000年
5月20日 マイケル・ナイマンに涙して 
 映画音楽が好きです。名画と言われる作品には必ず、心や耳に残るテーマ曲があったと思います。しかし最近では、その音楽の位置が微妙にずれている気がします。
 例えば『太陽がいっぱい』や『ゴッド・ファーザー』のニーノ・ロータ。『おもいでの夏』や『シェルブールの雨傘』のミシェル・ルグラン。『白い恋人たち』や『男と女』のフランシス・レイ。『ティファニーで朝食を』や『シャレード』のヘンリー・マンシーニ。映画の場面とともに観客の心に残るのは、巨匠たちの作るメロディでした。しかし近頃はどうでしょう?
 『ボディガード』のホイットニー・ヒューストン。『タイタニック』のセリーヌ・ディオン。『アルマゲドン』のエアロスミス。曲そのものは素晴らしいものばかりです。でもこれらは別に映画がなくてもそこそこヒットはした曲たちでしょう。もはや映画音楽とは言い難い。音楽産業の送り出す商品としての「映画の主題曲」に成り下がっているのではないでしょうか。あと、メロディが美しければ歌なんかいらないよ、って思うのも私だけ?
 そんな風潮が支配する中、気を吐く作曲家たちがいます。『ピアノ・レッスン』『髪結いの亭主』などのマイケル・ナイマン、『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』のエンニオ・モリコーネなどです。
 特にナイマンは、1970年代からピーター・グリーナウェイ監督と組んで、映画の音楽とは何かを追及してきた人で、『実験音楽』なる著書もあります。ナイマン自身はあんまり叙情的な曲は作りたくはないらしいのですが、彼が音楽を担当した映画はどれも、映像が音楽によって引き立たせられていると思います。私は最近、ナイマンのサントラ盤を集めているのですが、どれもすんばらしくいい…。
 殊にノスタルジックでスタイリッシュなSF『ガタカ』のサントラ。そのテーマ曲を耳にしただけで、様々な場面が脳裏に甦り、目頭が熱くなります。映画自体もあんまり有名ではない作品ですが、しみじみと考えさせられ泣かされる名画だと思います。いずれグルニエの映画頁にその辺のことは綿々と書くつもりですので、乞うご期待。
 世評高い『ピアノ・レッスン』のテーマ曲も素晴らしいですね。マイケル・ナイマンは天才だと思います。私もピアノをたしなみますので、あの名曲はたまに弾いたりしています。自分の拙い指使いでも陶然とさせられます。映画そのものがたいしたことなくても、感動が3割増ぐらいになることもあります(『キャリントン』とか『彼女たちの関係』とかね)。天才の為せる技でしょう。
5月17日 山菜のお話 
 GW中は実家に帰っていたので、恰度山菜が美味しい時期でした。たけのこ、たらの芽、わらび、ぜんまい、ふき、などなど。
 その中でも私が好きなのは、虎杖です。こう書いて「いたどり」と読みます。タデ科の多年草です。日当たりのよい斜面などに生えるのですが、これの新芽がウマイ。
 新芽と言っても丈2、30センチに伸びていて、中が空洞なのでぽっきりと折れ採ることができます。皮をむいて生で食すと、酸味の強い味で、私の田舎では生食のときは塩をふります。
 でも美味しい食べ方は、皮をむいて茹でて水にさらしてあく抜きをして、それから炒めて軽く調味するやり方。梅干に似た爽やかな酸味が程よく残って、しゃきしゃきと歯ざわりよく、酒の肴やご飯のおかずに最適です。おかかなど振りますと、たまりませんねえ。
 実は関東ではこの山菜を食べる習慣がないと聞きます。現に、数年前の春先、丹沢に親戚の一家と遊びに行ったとき、いたどりが無造作にぼこぼこ生えていて、採り放題でした。叔母はいたどりの皮を剥き過ぎて腱鞘炎になったほど。
 このいたどり、私の実家のほうでは(和歌山でもごく一部だけ)「ごんぱち」と言います。なんだか人の名前みたいですね。ネットで調べてみると、関西から四国、中国などにかけて食べているようです。
 おいしいですから、まあ、一度試してください。もう時期が遅いですから、来年にでも。
5月12日 神保町の一日 
 今日は一日、神保町で過ごしました。学会が九段下のS大学であったので、昼前から出かけていったのですが、まあ、学会なぞ、だいたいご想像の通り面白からざるものなので、ついつい本屋街へ足が向いてしまうのです。困ったもんです。
 久しぶり(多分2年ぶりくらい)に行った神保町は、なにも変わらず、相変わらずおたくな熱気と不思議な賑わいに包まれていました。今日は神田明神の大祭があるらしく、昼からは神輿も靖国通りに出て、楽しい眺めとなっていました。
 でも、個人的にはすごく意気込んで出向いたのですが(そりゃ久しぶりだし…)、なんだか拍子抜けした気分です。だって…掘り出し物がなかったんだもん。
 結局、ネットの古本屋に慣らされてしまって、足で探しても滅多にないようなものしかもう、欲しい本が残っていないと言うことなのでしょうか。だとすると、これは不幸だ…。
 確かに私を呼んでいる本はいくつかありました。でも、ネットと値段も変わらんし、そもそも持って帰る労力を考えると、二の足を踏んでしまいます。もしかして、もう持ってたかもなあ、などと思い始めると、途端に購買意欲が薄れてしまう。
 まあ、本は買わずとも、馴染みの店に入って時間を過ごせたことで、満足でした。キッチン南海のフライを食べて(ここのフライものはサクサクしていて本当にうまい)、古瀬戸コーヒー店でお茶をして(カレーも高いけど美味しいです〜)、だらだらと本屋をのぞく。かつて十代の終わりから二十代の半ばに私が過ごしていた毎日の日常が、そっくりそのまま甦った感じです。
 明日も学会はありますが、私は多分、ボンディのカレーでも食って、またぞろ日がないちにち、だらだらと過ごしてるんでしょうか。むはははは、学会はどうなってるねん! こうやってかつて私は、その頃通ってた大学を中退したのです。罪深い街だなあ。
5月10日 虫歯が痛い… 
 虫歯が痛んでいる。このトシになって、と言われつつ、でもトシだからこそ歯も弱くなる。奥歯がぐらぐらするのは歯槽膿漏とかいうビョーキかも知れない。まいった。
 硬いものが食えないし、ほっぺも腫れてきそう。まったくこんな忙しい時期に、なんてことを、と天を恨みながら、日々過ごしている。日記だっていつものですますが消えた。それぐらい気分がよろしくないのである。
 金冠をかぶせてあったのが、もう耐久年が過ぎたらしくぽろりと外れて、そのまま半年放置したのがいけなかったのだろう。しかしこの世の中には、生まれてこの方一度も虫歯になったことがない、という果報者もいるのである。どうやら虫歯のミュータンス菌を赤ん坊の頃に親から貰うか貰わないかで、その人の歯の健康生活が決まるらしい。そう言えばうちは父も母も歯がガタガタである。
 一度も虫歯を経験したことのない友人は、歯もあんまり磨かなくても虫歯にならないそうである。毎日せっせと磨いててもなる、私のようなヒトもいるのにね。人生は不条理だ。
 ヨウカンのまるかじりとか、考えるだにおぞましいこともヘイキなヒトもいる。私は今夜は具のないカレーとせめてプリンでも食うか。ああ、みそぢの虫歯は悲しい…。詩にもなりゃしない…。
5月8日 紫式部のひみちゅ 
 私の大学院での専攻は平安時代文学なのですが、今、ちょうど『紫式部日記』を演習でやっています。この日記、最後近くに「消息文」と呼ばれる書簡体の部分が織り込まれています。ここで紫式部は、同僚の女房や文学者を批評しているのですが、一番最初が同僚たちの容姿への批評なのですね。
 宰相の君、小少将の君、宮の内侍、式部のおもと、という4人の女たちが槍玉にあがっているのですが、はて、小少将の君のことを紫式部はひどくお気に召しているようで、褒めちぎってます。
コドモっぽくてカワイイわね〜、と言わんばかり。
 小少将の君はこの日記のあちこちに顔を出す、レギュラーなのですが、その誉め方がちょっとアヤシい…。この件をネタにして、古来、紫式部ビアン説がまことしやかに語られてきたほどです。
 そして、式部のおもと。
太ってるけどー、カ〜ワ〜イ〜イ(コギャル風のアクセントでどうぞ)という口ぶり。
 おお、そうかっっ!! 『源氏物語』で世界文学史上に名を残す紫式部女史は、実は、
レズビアンのでぶ専(ああっ! 業界用語!)だったのだっっっ!!!
 まじめに研究なさってる方々、ごめんなさい…。私は破門になるかもしれません。私の先生が、このHPを見ていないことを祈るのみです。