中島みゆき『夜会vol.17 2/2』 12月23日
 今週の月曜に東京公演の楽日を迎えた夜会ですが、今頃感想を書いております。実は観に行ったのは今月の頭だったのですが、まあ、なんやかんや師走で、延び延びになっていました。まだ来年2月の大阪公演もありますので、ネタバレを心配される方は、ここからさっさと御帰り下さい。

 何日に行ったとか詳しいことはいいんですが、私、今年は思いがけず、最前列で観ることが出来ました。もう思い残すことはございません。目の前にみゆきさんの載った○○が○○○○って来た時は、鳥肌が立ちました。わずか一、二メートルの近さでみゆきさんに歌ってもらえて、大変嬉しゅうございます。

 私は上手寄りの最前列だったので、舞台の奥の方で演技されるとちょっと見づらい場面は何回かありましたが、目の前でみゆきさんが跳びはねたり、コビヤマさんが座ったり、いつもDVDで観ている以上の迫力でした。オペラグラスも要りません、双眼鏡も要りません、なんてシヤワセなことでせうか。

 これだけ感激しておいてナンですが…、舞台の感想はちょっと微妙でした。私は95年の初演を観た時は、それまでの既成曲夜会でなくて全曲オリジナルで面喰らいましたが、いたく感動しました。それ以来、好きな演目だったのです。97年の再演版は残念ながらチケットが取れず観ておりませんが、初演をDVDで観、みゆきさん自身がノベライズした小説を読み、一応映画も観ましたよ…(映画版は随分脚色されていて、『2/2』の黒歴史だ…)。

 演出に関しては、ストーリーの提示法は今回が一番こなれていて、良かったと思います。初演の第一幕なんて、ベトナムの場面と過去の日本での場面が交互に演じられて、なかなか観客泣かせでしたから…。聞くところによると、再演版では物語が時系列に直されていたそうで、今回も過去にフラッシュバックすることがなかったので、それはまあよしとしましょう。

 ですが、今にして思えば、初演版は引き締まった構成でした。複雑な進行なのに無駄な場面がなく、些細なミスから一直線にヒロインが異国で危機に陥って行く怖さを充分に味わわせてくれました。二重人格の悪意ある「私」に操られてはいるものの、それ以上に、馴れない海外でうっかり手筈を踏まなかったために帰国できなくなるという、他人事でない恐ろしさがありました。あの頃は海外を旅するには、リコンファームなんて面倒な段取りがあったんですねえ。隔世の感です。

 しかし今回のヒロインは、最初から生活の痕跡を絶っての渡航という、結論の出た状態でした。海外で事故に巻き込まれ失踪、という展開は小説にも書かれていて、今回は多分盛り込まれるのがわかっていた事でしたが、あまりヒロインが追い詰められる悲愴感がなかったなあ。だから感情移入できなかったのかも。

 感情移入できない理由はほかにもあって、恋人の画家の存在が大きくなっていたこともあります。男性視点の歌が歌われ、恋人役だけが登場の場面もあり、まあ要するに期待していたよりは、みゆき度が下がっていたんでしょうな。登場人物もベトナム側の人物が増え(小説に出てきた人たちが舞台にも登場)、なんかごちゃごちゃした感じ。まあそのせいでストーリーは平易になり、大方には今回はわりと絶賛されているようですが、私は物足りない…。

 こういう勝手な感想を言えるのも、還暦近いみゆきさんのヴァイタリティのたまもので、贅沢なことですが、やはり初演版が好きかも。ベトナムのホテルの場面で、しょっぱなからヤケクソで明るく登場するところや、空港で荷物がどんどん盗まれてゆく怖い場面など、いいですね。それに決定的なのが、アンコールの場面。初演のラスト、竹林でみゆきさんと植野葉子さんが、双子の姉妹として同じ黄色のアオザイを着て、「紅い河」を踊る場面の素晴らしさ。97年の再演では既になかったみたいで、今回も復活せず、残念。

 初演の年には阪神大震災、今年は東日本大震災と、何かと自然災害と縁のある演目ですが、そういう時だからこそ、夜会にしては珍しくハッピー・エンドのこの作品が取り上げられるのかもしれません。まあ、公演の準備は相当前からするようなので、今年に入って演目が決まったことはないでしょうが、何か救いがある演目でよかったと思います。これが『海嘯』だったらどうするんだ…。津波でヒロインが…。

 先月発売された38作目のオリジナル・アルバム『荒野より』も、半分以上が今回の夜会用の書き下ろし曲で、初演再演時の曲をほとんど総とっかえという、なかなかアグレッシブな作品ですが、もうちょっとヒロインの苦悩に焦点を当ててほしかったかも、です。
新宿で上海蟹を食す 11月4日
これが酔蟹だ! シジミの醤油漬け
皮蛋豆腐 雲白肉
豆腐糸切り炒め 大根もち
カラスミ炒飯
 おまたせいたしました。カニでございます。本当は蟹の甲羅をぱかっとあけた画像もあったらよろしかったのでしょうが、後の祭りでございます。

 蟹を喰おうと言うと、相方はちょっと難色を示しました。鳥取県人は蟹に食傷しているのだそうです。なんともうらやましいぉ…
 でも蟹の老酒漬けだと言うと、そんなら、と乗り気になりました。だから今回私は、蒸し蟹も食べたかったけれど、パス…。
 「九雌十雄」というくらいで、十月は雄の蟹が美味いんだろうとお思いのアナタ、これはあくまで太陰暦だということをお忘れなく。まだ暦では十月末は九月だったのです。さて上海蟹と申すは、大閘蟹の通名で、陽澄湖産が美味しいとか。新宿の「荘園」では陽澄湖産のポスターがでかでかと貼られていました。
 ここは台湾料理の店で、かつ、リーズナブルに上海蟹も食べられる、知る人ぞ知る名店。昨年訪れた台湾を思い出しながら、料理に舌鼓を打とうという魂胆。

 最初シジミの醤油漬けで、老酒を飲みました。ピリ辛のシジミが舌の上でとろりとろけて、絶品。お酒のアテです。
 そこに酔っ払い蟹。小ぶりだけど、お値段はそこそこする令人でございます。ハサミに毛の生えた川蟹。
 早速甲羅を開けると、橙色の味噌に黒いゼリー状の何かが絡まり、おいしそう…。箸の先でつまむと、とろとろ。甘い…。酒に生きたままほりこまれた蟹が、こんなにもうまいとは…。こっちまで酔っ払いそうだ。

 蟹の細い脚の身も、なんとかちゅるちゅる啜る。ここもあるかなきかの身が甘くて、ついつい歯で殻をかりかり噛み破る始末。手が汚れてもかまわない。蟹は無心に食うべし。
 生なので身の剥がれが悪いのは仕方がないのですが、それにしても、小さいケド食べ応えありますな。こういう高価なものを、ちまちま食べるのもまたいいものです。

 そこへ頼んだ料理が次々とやってきますが、とげで手を刺されながら蟹に夢中になりました。相方もこの蟹なら喜んでくれました。
 そもそも海の松葉ガニやタラバとは全然違うものなのですが、川蟹のモクズガニは日本にも生息していて、うちの田舎でも茹でて食ったりしますが、大閘蟹は同じ仲間。海蟹の塩味の効いた味噌とは違う、濃厚な味噌を味わえます。
 ああ、来月には雄の上海蟹を食べたいのう…。また来るか。

 他の料理も、美味しいです。上物のピータンと思しきとろけ具合が絶妙のピータン豆腐に、干し豆腐の炒め物、豚肉のニンニクソースなど、小皿料理を色々と食しました。画像にはないですが、小籠包や豚足も食べました。
 とんのそくは、相方が台北の「富覇王」と比べて硬い、とちょっと物足りなかったようです。多分料理の種類が違うんでしょうね。茹でたものを醤油漬けにしたものとおぼしい。まあ、あのとろとろ豚足を食べたきゃ、台北行けばええやん。
 カラスミの炒り粉がかかったチャーハンもうまし。レタスが入ってて食感がたまらんかったです。塩加減も現地に似て、わりと薄味でした。塩分制限ある身には有り難いですね。

 けっこう食べてお酒もそこそこ飲んで、ふたりで一万円いかなかったので、大変リーズナブル。新宿二丁目のけっこうディープなところにある店ですが、よろしかったらぜひ。この日はたまたま台北でゲイ・パレードがあった週末で、お店はがらがらでした。普段はもっと、ホゲている姐さん方で、賑わっていると思います。
これが一つ星のフレンチです 11月1日
アミューズ グラスのジュレ美味 たいらぎ茗荷ジュレ仕立て
フォワグラと牛頬肉カネロニ きのこのココット
さわら 海老芋と黄人参添え ジビエ フランス産うずら
シードル風味カクテル モンブラン
 …とまあ、書いては見ましたが、いささか恥ずかしいですな。スノッブまるだし。どうせ、いいのよ、俗物で。という訳で、何故か珍しく、大阪方面にお仕事を戴いて、週末に行ってきました。泊りがけになったので、前夜、叔母の一家にお招き戴いて、おフレンチを食してきました。確かに、おフレンチ、あんまり行きませんね。とんと御無沙汰だったので、ナイフとフォークが使えるか、ちょっと心配だったわ、おほほ。
 テーブルマナーは問題なしですが、問題は画像。撮るのが上手い下手以前に、食べ物を前にすると、画像を撮るのをころっと忘れる、のがアブナい。なので従妹に注意してもらって、忘れそうになるとツッコンでもらいました。毎皿、その繰り返しですたい。

 さてお店は、大川北浜べりの「ユニソン・デ・クール」。ビルの一階で目立たない感じですが、中はシックな大人のお店。昨年四月に開店したばかりだそうですが、早くも2011年版関西ミシュランで星ひとつ。やりますな。お店の名は、仏語で「心の合一、心の唱和」、そういう意味だと思います(『プチ・ロワイヤル』が地震以来見つからんので、うろ覚えでスマソ)。内装はシンプルで、BGMもなし。料理に自信がありそうで、いいんじゃないでしょうか。
 席は七時前でほぼ満席でした。週末とは申せ、こりゃすごい。今、外食はどこでも閑古鳥鳴いてますからね。いかにここが評判の店かわかろうと言うものです。

 叔母さん夫婦、いとこの姉、弟と奥さん、そして豚児の六人。ものいりです(汗)。まあお医者さんの一家だから、ペーペーの講師のような懐の心配は御無用でせうが、大食いブタ野郎のワタクシとしましては、カナリ申し訳ないのです。ワイン詳しくないからと、叔父さんがワイン・リストを渡してくれそうになるので、あせりました。豚児に思いのままに選ばせると、後がつろうございます。なので有り難く辞退しました。

 さて、悠然とお料理が出て参ります。画像を見て戴いてのお品が出で来ました。いずれも繊細で味付けも穏やか。関西のフレンチですね。エスプーマしたソースが乗っていたり、ジュレを多用したり、流行を敏感に取り入れた逸品ばかり。あまり、美味しかったので、アミューズの次の前菜一品目を撮り忘れたりしています(^^;)
 きのこのお皿の時、お店の方が、木箱をおもむろに持ってきました。「こちらを削ってお料理にかけると、いっそう美味しうございます」とな。やな予感…。
 その中に鎮座ましましていたのは、白いアレでした。和名は松露、し・ろ・と・りゅ・ふ! アカーン!!! ひとけずり千円以上の食べる宝石で、ご一家の語り草にする訳には参りません。ここはひとつ、差し出がましくも豚児が、こっそり「おやめになられたほうが…」と耳打ちしました。上客と思ってもらえたのかしらんけど、あぶね〜な。
 確かに一度は食べてみたいけどね。でもその時は自分のおあしでね。

 その後ブヒは、市内を遠く離れたホテルへ行かなあかんし(翌日の大阪シティマラソンのせいで、市内のホテルが全部ふさがっていた…オノレ、橋下…)お酒は最初のシャンパンだけにして、料理を堪能しました。まあ、翌日の講義の詳細をまだ考えていなかったてのもありますけど。
 いやー、およばれでフレンチも久々で、良かったですわ。ブヒが昔、接待でフレンチ連れてってもらったバブル最末期のことを思い出しました。これがジバランだと、なかなか勇気の要ることでございますわ。ごちそうさまでした。
 そんで、とんぼ帰りの翌日は、相方と待ち合わせして、都内で上海蟹をしゃぶってきました。ゴチソウ連チャンですか。馬鹿ですね〜。そっちの画像は相方が撮ったので、もらえたらUPするかもしれません。ブヒ。
『家畜人ヤプー』村上芳正の装画の世界 10月5日
 過日、神楽坂で開かれた村上芳正画伯の個展に行ってきました。三島の『豊饒の海』四部作や『家畜人ヤプー』、牧神社の日影丈吉未刊行短篇集成、講談社の連城三紀彦の初期短編集といった単行本や、ジュネ、赤江瀑、原田康子、渡辺淳一らの文庫の装画で知られていた人ですね。
 過去形で言わねばならないのが辛いところだが、あんまり現役で入手できる本はないのですな。相方と待ち合わせの間に新宿でデカい書店を廻って来たが、心当たりの文庫はひとつも見つけられなかった…
 まあそういうことだと、新しいファンは開拓し難いという状況で、画廊兼カフェの「アーディッシュ」は、昼下がりのカフェの客しかおりませんでした…。若いマスターらしき人が案内してくれましたが、さて、どこまで画伯の絵の世界を御存じなのかねえ。店の壁に『ヤプー』の装丁画や、映画『ルートヴィヒ』のポスター画が、気さくに飾られていました。別室に『ヤプー』愛蔵版のイラストがてんこもりで飾られていて、感激しつつ堪能しました。相方は、ちょっと引いてました。そりゃそーだよな、画廊行くと言っていきなり連れてこられて、ヤプーじゃねえ。
 私は文庫版を持っていったのですが、愛蔵版は所蔵しておりませんで、彩色されたヤプー絵は、文庫表紙以外ははじめて。繊細なペン画の線描に色を上品に乗せた画風ですが、描かれているのはどれも身体改造責め絵ばっか(^^;)。だってマゾヒズム小説の名作だもん、しょーがねー。
 しかも画伯の絵はたいがい、麗しき男の裸体にスポットが当たっていて、あ〜、おそらく組合員なのですね、と察せられます。だから三島が気に入ったんだな。
 原画を見ることが出来るのも有難いのですが、私のお目当てはここでしか売られていない、限定の画集です。残念ながら村上画伯は今まで画集を編まれたことがないようで、画業をささやかでも纏めたものが出ればいいな、と密かに思っていたファンはいたでしょう。私もその一人。
 だから百部限定とかいうその画集が欲しくて欲しくてもうね、たまらんかったです。売り切れてないか心配で心配で、昼飯のミャンマー料理も咽喉を…ま、たらふく通りましたけど。
 早速お店で茶しばきながら画集をぱらりとめくると、見覚えのあるあの本この本、数々のイラストが掲載されていて、嬉しいやら懐かしいやら。しかも、皆川先生(『瀧夜叉』の連載と単行本で村上画伯とコラボ)や、赤江先生(一連の角川文庫の表紙は私のヰタなんとかだったりして…)の短いけれど推薦文が載ってるし。嗚呼これは幻想文学マニアには法悦ですなあ。二冊セットで3000円。オフセットの同人誌ぽい造りですが、それでも画伯の画集です。
 画集はひとり一部限定だそうです。私は…相方にも一冊買うてもろて、保存版をゲットしました。ふふ、おまいら欲しけりゃ神楽坂へ走りやがれってんだ。ちなみに上の画像は、お店の招待状です。ここも懐かしきヤプー…たまらん…。