幻想ミステリ博物館館長日記 特別編 玉藻よしさぬきうどん再訪(三) 12月20日

てっちゃん、藤棚のある涅槃

 さて、高松市内から車で半時間、坂出に着いた。私のたっての希望でこの後、沙弥島(さみじま)と東山魁夷せとうち美術館へ行く予定なのだが、ここまで来てもう一軒くらいうどん屋回りたいやん、ちうことで、「てっちゃん」へ行く。ここはT氏が独自にリサーチした店、そんな有名店ではないようだ。とか言っちゃって、有名だったらどーすんの?
 さて県道からてっちゃんへのルートが最初、わからなかった。カーナビが違う住所を教えていたからだったが、車一台やっと通れる道をくるくる回らされては、運転のT氏がたまったもんじゃないだろう。
 住宅地をすっと抜けるや、いきなり広がる田園風景。のどかだね一句ひねるかうどん記念日、とか詠んでる場合ではない。用水路が両側にぽっかり口あけた、てっちゃんの駐車場入口はシビアだった。なんとか車を入れると、藤棚がある店舗が。
 ほんとに回りは田んぼしか見当たらない。そこに忽然と現れる店。まだ観光客に汚されていないうどん浄土発見か?藤棚には夏の名残の豆がぶら下がっている(藤はマメ科やさかいに)。これが初夏ともなれば、藤色の花房が一面に枝垂れて、まこと極楽浄土の入口と思しき眺めだろうね。
 店の中に一歩入ると、これがけっこう混んでんの。外には人影なかったのに、なんじゃこりゃ?香川人はとにかくうどん屋に群れるとは聞いていたが、ほんとにそうみたい。
 ここはわりと変わったメニューがたくさんあり、T氏は前にガイドブックかなんかで見たらしい「肉味噌うどん」をオーダー。私はその場の気分で「ごまだれうどん」。肉味噌は温玉乗ってて、ウマソ。こっちは貝割れ山盛りでへるしいで嬉しい。
 座敷に上がって、うどんを食す。ず…ずぞ…ぷはっ!うま。素朴な感じの麺に酸味の利いたたれが絡んで、食欲出るわ〜。ぐちゃぐちゃに混ぜられた甘辛い味噌うどんもグー。
 うどん食い終わって、涅槃気分で時間あるし寛ごうかなー、と思っていたら、あれよあれよという間に客が列を成し、店の中は更なる混沌に。テーブルも座敷も満員状態に。
 メニューの豊富さが判るのは、客がみんな違うもん食べてるところ。カレーうどんに肉うどん、きつね、天ぷら、ぶっかけ、しっぽく、肉味噌、豚汁うどん…最後の豚汁うどんが冬のオススメらしく、人気があるみたい。旨そうだった。
 だんだん客が詰まってきてダンゴになってきたので、そろそろおいとましようかと、店を出たら、わりと広い駐車場も満車になっていた。なんとまあ。
 その横にT氏がネギ畑を発見。なかむらみたいに自分で抜いて持ってくる客がいそう。細葱が、師走というのに青々と美しい。うどん涅槃に蓮の花は咲かない。かわりに青葱が生い茂る。
 今にも用水路に脱輪しそうなイキオイで車が飛び込んでくる。駐車場の車はナンバー見る限り、見事にジモティばっかりであった。ここは観光客よりは地元の人に愛されている店。これぞまさしく香川のうどん屋だ。子連れや老人、とにかく家族連れの客がいっぱい。子供は小さなお椀をもらって親のうどんをもらって啜っている。
 毎日弁当や昼飯作るオカーサンが、日曜の昼くらいたまには勘弁してもらって、みんなでうどん屋行く、そういう感じのほのぼのとした味わいのある店だった。一杯入魂系の店や観光客が列為す店とまた違った温かみ。そこに紛れ込んだ遠来の人間もそれをたっぷりと満喫したのだった。

NEXT UDON

LAST UDON

HOME