幻想ミステリ博物館館長日記 特別編 沖縄なんくるなくない紀行(二) 2009年4月14日

旬の鰆を使った舌妙なる寿司

 前回の旅行の最後に、那覇空港の空弁として出逢った「大東寿司」、これをじっくり味わいたいと思って、今回、那覇に入ったその日のディナーに、「割烹喜作」を選びました。喜作は大東島出身の初代が、那覇で初めて大東寿司を看板にした有名店で、ちゃんと予約しておきました。でないと座れないかもしれないからね。割烹のお店なので寿司以外にも色々と食べられて、コースもあるというので、私たちは伊勢海老料理の入ったコースをお願いしました。
 さて、国際通り裏の定宿から、歩いて十数分のところに喜作はあります。前島という住宅地の一角に、お店は暖簾を出していました。お昼は羽田でハンバーガーをかじっただけの質素なものだったので、腹ペコじゃね。
 店に着くと、そこそこの賑わいで、予約していたカウンターに陣取った。常連さんとかはまだ来ていない時間帯で、なんとなく一見の客でも気兼ねせず座れたかな。那覇の寿司屋はいざ知らず、関東の寿司屋は本当に、初回は緊張するものですわ。それがあんまり感じられないのがいいですね。さすが観光都市。
 まずはるーびーで咽喉を潤したが、冬瓜を煮た突き出しがおいしい。突き出しがおいしい店はその後も期待できる。ましてやココは、あの食通某俳優も来るという店。某俳優の舌がいかほどのもんか、私はよくは計りかねるのですがね。
 そして、登場したのが、爪のある貝「ひらじゃー」。和名を「まがき貝」と言うそうな。ギザギザの爪を残して身をいただきます。以前、「月桃庵」で身だけの状態でお目にかかりましたが、今回は可愛い貝殻付き。シッタカとかシジミとか、こういうちっこい貝って、ほじくり出すと意地になるよね。この貝殻って、よくよく見ると、お廉めの貝殻細工に使われているモノかも。爪の部分を持って引っ張り出すと、繊細な甘い身が簡単に取れます。
 さて、刺身も皿に少しずつ盛られて、雰囲気が出てまいりましたが、そこに小ぶりな蓋付が。中にはお久しぶりの「どぅるわかしー」。田芋(たーんむ)を茹でて潰してお出汁で練った、手間のかかる逸品です。相方のTさんはこれが大好き。ここのどぅるわかしーは他の店よりもしっとりしているとか。私はたまーにおからを炊いたりしますが、多分似たような作り方なので、あちらに帰ってもできなくはないでしょうが、そもそもたーんむが本土にない(泣)。
 検疫の関係で、生のたーんむは本土への持込が禁止されているそうな。ならば茹でたたーんむなら、以前は我が家の近所のマルイ食品館に置いてありましたが、リニューアルされて沖縄物産がなくなっちゃいました。ある時には使い方がわからなかったもんですが、無くなってから知るそのおいしさ。無念!
 しかしまあ、食べ物の名前なのに「泥沸かし」だってね。なかなか思い切ったセンスですなあ。この泥は本当にウマイ。これを丸めててんぷらにした「どぅる天」なる食べ物もあるそうですが、まだ我々のお口に入っておりません。手間隙掛けた品を、わざと素っ気無いネーミングで出すってのも、粋かもしれませんね。
 さて、ついに、ホンモノの大東寿司が出て参りました。一人に二貫ずつ。もっと食べたい……いえいえ、おいしいものはちょっとだけがいいのよ。他にもごっつおが出て来るんだし。
 南北の大東島は、もともと、明治時代まで無人島で、八丈島から移ってきた開拓民が拓いた島で、戦前は製糖会社の社有地だったそうです。つまり島の文化のルーツは、はるか一千キロ黒潮の彼方の伊豆諸島。そういえば、池袋にある居酒屋で、昔、「島寿司」っちゅうものを喰った記憶があります。甘めのシャリの上にヅケになったネタが乗っていて、芥子で握った珍味。どうやら大東寿司はこの島寿司がご先祖らしいですぞ。
 旬の鰆を程よくヅケにして、甘めのシャリでさっと握る。これがねえ、ホント、うまいのよ。鰆の身がねっとりと舌に絡み付いて、ほろほろと崩れるシャリの、あるかなきかの酸味で咽喉元へとともなわれてゆく。最後にヅケの醤油のコクが水脈のように消えてゆく。ん〜〜〜、文学的な表現しちゃったわー。ああ…口の中に海上の道が流れる…って、柳田国男ぢゃねーっつーの。
 馬鹿な筆者には勝手に悦にイってもらって、さて、空弁との比較ですが、板さんが「こっちのほうが断然おいしいですよ」と自信を持ってオススメくださるくらいで、比べてはいけませんな。あれはあれで、空港の食べ物としては出色の出来なのですが、やはり目の前で握られる大東寿司のうまいこと。腹の容量が許せば百貫は喰えるな(おめーはギャル曽根か)。
 そして定番メインディッシュの伊勢海老の雲丹焼き!
 これは興奮する料理ですね。結婚式のお食事で出てきてもさほど感心はいたしませんが、こういうお店でいただくとなると、テンション上がるわ〜〜〜。沖縄の海老がこれまたうまいのよ。生でもいいけど、焼くとミソが香ばしくて。
 前にも月桃庵で出されたことありますが、伊勢海老好きの私といたしましては、ミソの裏の裏までほじくってしゃぶり尽くさねば気が済みません。しかして、醜い食べっぷりとなるざんす。でもいいの、いせのおえびだもの。ミソだもの。ウニだもの。解体する間は言葉も発しませんって。
 辛抱たまらず泡盛をカラカラでいただきます。こうなると泥酔まっしぐらですが、まあせいぜい一合くらいにしときましょうか。酒に弱いTさんの残りビールものまんといかんしな。おかみさんらしき方が、「くず天」ですと言って、さつま揚げみたいなものをサービスで出してくれました。中は紫。たぶん紅芋をこねて揚げたんでしょうね。韓国のジャガイモチヂミのような、ぷにゅぷにゅした食感がうまい。
 お店はそろそろ常連さんで混んで来ました。いかにも泡盛に強そうな客がぞろぞろ。そんな中、カウンターの上に、細工寿司らしきものが乗ってます。あれは何かと尋ねたら、大東島の祭り寿司だそうで。
 見た目、玉子で巻いた伊達巻系で、さほど私の好物という訳ではありませんが、あんまりにもモノ欲しそうに見ていたようで、板さんが一切れづつ出してくれました。この時期だけの限定品で、希少価値がありますね。お味は…まあ、玉子巻ですわ。季節のもんやし、おいしくいただきました。
 よそのお客さんのところに運ばれていった、ナワキリのまーす煮がたいへんおいしそうだったのですが、腹一杯でけっこうお酒も回って、もう喰えん。いろいろ他にも試したいものがあったのですが、アウト。
 行きは歩きで来たというのに、タクシーで宿へ帰ったのでした。
 こんだけ飲んで喰って、東京あたりの寿司屋だったら、はなぢが出るくらい払わされそうですが、一万円とちょっとでした。沖縄は懐に優しい…。
 喜作は文句の付けようのない、那覇でも一流のお店です。一流なのに気取りがなく、フレンドリーだけど、洗練されています。こういうの、ホント、羨ましいわ〜。うちの近所の寿司屋なんて、エラそに講釈垂れるくせに、醤油の発祥の地も知らんかったりするのよ。そういうの、ムカつく。思わず喧嘩しちゃったなー。
 他にも埼玉で行ったお寿司屋だと、店主の態度がでかかったり、注文すると「品切れです」とか言って札ひっくり返したりする、信じ難い悪辣な店ばっかりしか知らなんだので、ちょっと泣いちゃいます。当たり前に親切なお店が近所に欲しい今日この頃です。

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