幻想ミステリ博物館館長日記 特別編 沖縄ぬちぐすい紀行(二) 2007年12月7日

ぬちぐすいの真髄・月桃庵

ジーマミー豆腐 もずくの山かけ
かんぱちとチラジャー(貝) パパヤシリシリー
ロブスターの雲丹ソース クーブイリチー
豆腐よう ニガナの炒め物
チマグー 鯛の唐揚
黒米ご飯に海ぶどう アーサの入った潮汁
紅芋のデザート

 毎回、一冊の沖縄本を手にして旅をする私たちですが、今回選んだのは、仲村清司氏の『沖縄うまいもん図鑑』(双葉文庫)。今まで読んだ沖縄本で謎だった部分がかなり明らかになった、衝撃の一冊(笑)です。例えば、塩をなんで「まーす」と言うのかさえ知らなかった私ですが、「真潮」が訛ったものだと知った、という具合に、色々知識を授けてくれる有難い本でした。
 作者は大阪生まれの沖縄三世で、長じて沖縄に戻り住んだ経歴の持ち主。今までの本がないちゃー(内地人)の著者だったのに対し、ネイティヴの著者ならではの薀蓄が沢山あって、いい本です。
 さてその文庫の最後で仲村氏と対談している、沖縄料理研究家の玉城良子氏が経営するお店が「月桃庵」といいまして、那覇の松尾消防署通りにございます。前回とちゅげきしました(笑)「山本彩香」さんよりはリーズナブル、ということで、この店の一番高いものを出してもらおうか、とゴーマンかまして、一番高いコースをいただくことにしました。と言っても、5000円なんですけどね。東京あたりじゃ懐石料理とかウン万取られるからさ。

 坂道の途中にぼうっと蛍光色の看板が点っておりまして、そこが月桃庵の目印。その奥の細道の奥に、お店の入口があります。立派な門構えの古民家ふうのお宅で、中に通されると、縁側のテーブル席でした。座敷とは障子で隔てられていて、密談できそう。実際、料理と料理の合間に、こっそり持ち込んだ照屋さんのグルクンかまぼこ(前回紀行参照のこと)をかじったりしてましたけど(^^;)。かまぼこ旨かった!
 気を取り直して、月桃庵。ここの料理は文庫の対談でも語られていることですが、日常料理を基本にして、沖縄のぬちぐすい思想を取り入れた品のある料理ということで、おそらく「彩香」さんにもひけをとらないのではないかと、楽しみにしていたのですが、早速、前菜に私の好きなじーまみー豆腐ともずくが並んでいて、嬉しいっす。
 味は濃すぎず甘すぎず頃合で、少し気取って食べたいフォーマル感も漂いつつ、部屋のウルトラ・ドメスティックぶりに間接外し、かっくん、されますね。なにせ縁側にアップライトピアノがどんと置かれて、その上にどこの家にもありそうな飾り物がちらちら載ってて、微笑ましいと言うか、ちょっと遠い親戚の家に招かれたような微妙な心持ち。
 珍しかったのはチラジャーという貝の刺身。小さな棘があってそれを残しつつ食べます。ネットで調べてみると、この貝和名「マガキガイ」と言い、棘の部分を足にしてぴょんと飛んで逃げるそうです。可愛いじゃん。
 パパイヤや昆布の炒め煮も実に丁寧な仕事で、実際翌日別な店で食したパパイヤイリチーよりも遙かに柔らかくてダシが効いて美味でした。
 お店の方は「ロブスター」と仰ってましたが、伊勢海老?の雲丹焼がたまらなく美味しくて、頭の味噌のところまで余さず戴きました。シークヮーサーをかけて食べるのもすっきりとしていていいですね。私今まで、シークヮーサーって酸っぱいのしか飲んだことありませんでしたが、そろそろ柑橘系の実りの季節なのか甘さがほのかに感じられます。
 この店の名物料理がありまして、それが右の画像にもある「チマグー」です。夜は朱塗りの椀に入って麗々しく出されますが、ランチではこのチマグー、食べ放題だそうで、お店太っ腹。
 テビチよりもさらに足先の部位をチマグーと言うそうで、このチマグー、肉はほとんどなくコラーゲン部分のみ。これをとろっとろになるまで炊き上げているので、口どけがあわあわとして、自己主張の強いテビチとは全然違う味わいです。これは食べるの初めてでしたが、癖になりそうです。コブダシが染み渡り、芸術品のような仕上がりでした。これを食べるだけでも月桃庵を訪れる甲斐があろうかと言うものです。なんせ18時間ことこと煮込んだ逸品ですから。
 先ほどから引き合いに出している仲村氏と玉城氏の対談も実は、「『人生はチマグーだ!』沖縄料理の神髄を語り合う」と題されているくらいでして、その中で、お年寄りは足が弱るのでチマグーを食べなさい、肝臓が悪ければ肝臓を食べなさい、弱いところ、悪いところを食べなさい、という一節がもの凄く印象に残りました。
 私は若い頃からゼイタク病の痛風を患っていて、実は、テビチや豚肉そのものなどは、プリン体の多い食物として避けなければならない身上なのです。今回の旅でもほぼ毎日、山のようにテビチ類をわっせわっせと食べたので、正直、あとで痛風が出やしないかと、気が気ではなかったのですが、ところがぜーんぜん、足が腫れるどころか足どり軽くスッキリ。いずれのお店でも丁寧に脂を抜いたりしてヘルシーに調理する一手間をかけているのが、よくわかります。食材イコール悪玉、ではなく、それを摂取する側の状態に問題あり。これこそ伝統的沖縄料理の「ぬちぐすい」の真髄=神髄だったのですね。
 今、沖縄の食生活は、必ずしもこのぬちぐすいを守ったものではないようです。アメリカさんの占領時代の名残か、とにかく脂っこいものが多く、スパム・ミートを「ポーク」と称して毎日のオカズにしたり、おにぎりにはさんだり、沖縄料理の代表選手として知られる「チャンプルー」も元はと言えば、手抜きの油いためなのです。
 もともとのぬちぐすいの根幹である「イリチー(炒り煮)」や「シンジムン(煎じもの)」といった手間のかかる調理法で作られたものは、本当に身体によいのです。
 だからこそ「ティーアンダ(手の油、手間暇かかる、の意)」で作られる料理を提供してくれるお店を、沖縄を訪れる多くの人にもっともっと試してもらいたいですね。前回の「山本彩香」といい、この「月桃庵」といい、手間暇惜しまず美味で身体によいものを提供しようと、日々精進されているようで、心強い限りです。我々ナイチャーも日々、身体によろしくないファースト・フードもどきに塗れているのではなく、食を通して文化の創造と健康の増進に努めたいものです。

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