幻想ミステリ博物館館長日記 特別編 沖縄ぬちぐすい紀行(三) 2007年12月12日

キジムナーのいる風景

 二日目は朝から車をレンタルして、南部を回りました。過去の沖縄旅行の時に敢えて避けていた南部戦跡を中心に、一日かけて、鍾乳洞や古民家そば屋を回ろうという計画。ところが、その日から台風が近海に接近してきて、空は晴れたり曇ったり、海際では風が吹き荒び、戦跡を巡るという重い気分にぴったりの空模様となりました。
 ひめゆりの塔と平和祈念公園を回ったのですが、あらかじめ相方にも言ってなかった秘め事―沖縄戦で戦死した伯父の調べごとなどで、けっこう気分がぐったりとなって、早々にお昼ご飯の「真壁ちなー」を訪れたのでした。
 糸満市真壁地区は、沖縄戦の激戦地のひとつで、そこに奇跡的に残った築110年の古民家をそのまま、そば屋さんとして営業してるのが「真壁ちなー」です。私は旅行前から戦跡巡りに気もそぞろだったので、相方がリサーチして探してくれました。
 県道から細い路地を、「車通れるのか?」とびびりながら入っていくと、お店の駐車場があり、けっこう車が入っています。穴場と思いきや、有名店だったみたい。

 この店の前の道がすこぶる雰囲気が良くて、Coccoが「ぎゃーっ!!」とか叫びながら駆けてきそうな雰囲気……え? それって怖いすか? なんかね、この道を見た瞬間から私の頭の中でCoccoスイッチが入ってしまって、Coccoの数々の名曲鳴りっ放しになっちゃったんでね。珊瑚を積み上げた石壁がすごくイイ感じです。ちなみにこの時鳴っていたのは「けもの道」。姫(Cocco)が歌の合間で「ぎゃー」と叫んでますのでね、だからさっきの感想になった訳ね。
 中庭には大きなガジュマルの樹がどーんと聳えていて、ここでもCoccoの「がじゅまるの樹」が鳴り響くわけですが、まあ、私の脳内BGMの話題はしつこいので、これまでにしておきましょう(笑)
 ガジュマルの木陰のテーブル席がすごく素敵なのですが、いかんせん、風びゅーびゅーの髪ぼーぼーになりますので、本日は外で飯食うのは根性要ります。風に負けない若い衆が、ブーゲンビリアの棚の下の席でそばや定食をかっ食らってました。そろそろ若くない我らは中の席が開くのを待ちます。
 その間に相方が、店の裏手を探ってきました。昔の豚小屋のあとの石組(有形文化財に指定されているそうな)や、羊歯に隠れたシーサーなど、興味深いおもしろいもんが眼一杯。
 相変わらず脳内BGMに浸る私ですが、でっかいガジュマルを見ていて、心和みながら、あることを思い出しました。愛読書であるお化け博士・今野圓輔氏の『日本怪談集 妖怪篇』(もとは現代教養文庫刊、現在は中公文庫刊)に出てくる、沖縄の樹の妖精、キジムナーのことです。
 キジムン、とも言い、奄美ではケンムン、ケンモンとも言う妖怪ですが、子供くらいの大きさで顔は真っ赤っ赤、髪は揚巻。人懐っこくて、時には人間に騙されたりもする、実にカワイイヤツです。古くて大きなガジュマルやアコウ、桑の樹に棲む妖怪で、読む限りでは本土の座敷わらしに似た印象を持ちます。今野氏も著書で「キジムナーはザシキワラシに似る」と認めています。
 こいつがきっと棲んでそうなガジュマルが、風にぼうぼうと煽られて、なんだか、南の島の自然の驚異の片鱗を感じたのでした。
 キジムナーは人間が好きで、親しくなった人には魚を毎日届けてくれたりして、愛すべき存在ですが、人間が度の過ぎた好意に恐怖を覚えるらしく(笑)、キジムナーの嫌いな蛸や鶏を使って追い払うと、その人は数日後に死んでしまったり、家は途絶えるそうで、そんなところも座敷わらしっぽいですよね。
 逆にキジムナーが憑いた家は末代まで栄えるとか。この「ちなー」の店のご一家も、もしかしてキジムナーにこっそり好かれてたりしてね。だから戦争で破壊されることなく、見事に一軒の民家が残ったのではないでしょうか。
 キジムナー伝説は主に本島中部の名護市あたり(ガブソカ食堂のあたりだ!)でさかんに伝えられているようですが、沖縄の人ならみな知っている民話の登場人物です。民話の時代と現代が断絶せず、目に見える形で残されていて、誠におもむき深いですね。
 「ちなー」の食べ物に関しては次回ということで。

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