幻想ミステリ博物館館長日記 特別編 沖縄じゅうしい紀行(二) 2014年2月11日

赤と黒

 スタンダールの名作『赤と黒』の題名の由来は定かではありません。一説に主人公ジュリアン・ソレルが立身出世に利用しようとした軍人と坊さんの服の色をそれぞれかたどっているとも言われます。私はジェラール・フィリップがソレルを演じたクロード・オータン=ララ監督の映画が好きなのですが、そこでフィリップは美々しく赤と黒の衣裳を身にまとっていました。

 さて、この南海にもソレルのごとく赤と黒の衣を身にまとう魚がいます。ミーバイと呼ばれるハタの仲間です。調べると「ミーバイ」は「目が張っている」という意味でまんま「メバル」なのですが、本土でメバルと呼んでいる煮付けによくするアレは南西諸島には棲息していません。沖縄の目張り野郎と言えばこのミーバイです。

 ハタの仲間の総称なので、ミーバイは色々な種類がいるようです。そのことを全く知らずに「ミーバイ汁」を註文した私は、お椀の中から赤と黒の魚が出てきたので、別の料理が混入したのかと一瞬あせりました。毎度訪れる那覇泊港の食堂「えんがん」の、その日のミーバイ汁が赤と黒だったのです。画像ではちょっとわかりづらいですが、黒の下から赤い魚が出てきたのには驚きました。沖縄の食堂ってわりとやること大胆だからねえ。

 前回までは、ここでは私は必ずマース煮(魚と島豆腐の塩煮)を食べていました。今回は今まで食べたことのないシルを喰って見聞を広めるという目的があるので、好物を諦めシルに変えたのです。

 以前ここで相方が食べたイカスミ汁は豚ベースの漆黒の汁でしたが、ミーバイ汁はおやおや白味噌。これは、正月に食べる「いなむどぅち」に使う味噌ではないか。従ってひとくち啜ると大変お上品です。私のよく知る西京味噌ほど甘くはないですが、白味噌類はそもそも塩分控え目の製法上、甘くなるのが常です。魚のダシとまったり感の出た味噌の味が絡まって、これもイケます。ミーバイ汁は他のメニューに比べて少しお高めで、ちょっと贅沢したい時に伊勢海老の雲丹焼きなどと共に人気のメニューのようです。魚の身はたくさん付いていてほろほろと崩れ、ゼラチンの部分もぷるぷるで、これは嬉しい。

 相方の「アバサー汁」は打って変わって褐色の汁。頭をよぎるのはあの濃厚なイカスミ汁。あるいは、大洗名物のあんこうのどぶ汁。

 アバサーはこちらで言うハリセンボン。フグの仲間でもあんまり食用にされない、釣り上げてもクーラーボックスの中で他の魚を傷つけたりするので、海釣りで針にかかってもすぐホカされるのがオチのかわいいアレですが、沖縄では食べるんですね〜。いや、フグだから美味しいはずだと私は思っていましたが、さてその味やいかに。

 お笑いのハリセンボンは「顔は可愛いが(えっ?)、近づくと刺があって危険な喰えねえヤツ」という意味でネーミングされたそうですが、こっちは果たして喰えねえヤツなのか。

 味はやはりどぶ汁。味噌の味も濃い目だけど、やはり魚が濃厚。アバサーの肝が入ってるっぽい。どぶ汁も肝をすり潰して汁のダシにしてますが、こっちも絶対作り方はそうですね。だから旨味がたっぷりとあって、ご飯によくあう汁。以前調べた時はアバサー汁は脂っこい、という評判がありましたが、この「えんがん」のは全く脂っぽくなくて、味わい深いです。

 でも食べ進んでゆくうちに相方がちょっと不満そう。ミーバイほど食べる身がないのだとか。ああ、やはり…。ハリセンボンっていうかフグ類全般、養殖でもなければ、わりと骨はごついけど身が少ないのが玉にきず。身は締っていてダシが出て美味しいんですけどねえ。その身が少ない。しかもハリセンボンはちっこいからますます食べるとこないって。まあ、大根とか野菜が入っているのでそっちでガマンしよし。

 この「えんがん」では魚の汁は常時十種類くらいあって、その日の気分とお財布具合で好きなものが選べるようになっていますが、なぜか焼き魚がありません。これはどこの食堂行っても同じ。高温多湿の沖縄では魚のような足の早い食材は、揚げる(沖縄風てんぷら・揚げかまぼこ)・煮る(魚汁・マース煮)がメインで、新鮮なところをさっと焼いて、という食べ方はあまり普及しなかったんですな。そう言えば刺身も酢で和えて食べるし。

 所変われば品変る。でもこのミーバイなど、焼いても美味しいんじゃないかな〜、と思う私であります。

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