質問と怪答の部屋


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「Q&A」コーナーの開設に当たって

まずもって、お詫びを申し上げなくてはなりません。
『わかるまで素粒子論「常識編」』の更新を怠っているばかりか、沢山いただいているご意見やご質問にも無反応のまま時が過ぎております。
筆者の身辺諸事情もあるのだが、訪れていただいている皆様への礼をあまりにも失していると猛省し、ここに「Q&A」を発足し、少しでも読者諸氏に報いたいと思う次第であります。

せっかく、「物理について語る場」を掲示板の形で持っているのに、なぜこのようなコーナーを新たに設けるのか不思議に思われる方もいるかもしれません。
確かに、ご質問に対する回答があり、さらにその回答に対する質問が、という会話の形態ならば、掲示板の方が遥かに充実したやりとりが出来るのですが、いかんせん、今の私には、それを続けて行く時間を作れないのです。

かような理由により、ご不満はございましょうが、とりあえず一問一答の形式でこのような場を設けます。
但し、これは、あくまでこちらの都合でこういう形をとっているわけですから、ここでの回答へのさらなる疑問や、ご不満があれば、掲示板の方に書き込んでください。
即日回答という訳には行きませんが、必ず、お答えを掲載いたします。

ただ、この「Q&A」に纏めることにより、より多くの方に分かり易く読んでいただけるのではないかと思っております。
それでは始めましょう。



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[Q&A]No.1
Q:周回遅れ さま:2010/5/25(火) 0:45
 例えば導線の中の電気の伝導について考えた時、光速に近い速度で伝導するのは「電気」であって「電子」でないのは分かります。一つ一つの電子の移動はごくわずかだという程度の事は分かります。電子を光子に、電気を光に置き換えて考えると、光が一秒間に30万km進むとは言っても光子一つ一つが30万km/秒で「フッ飛んで」いっているわけではないのかな、とも思います。しかし、このように考えると以下A→Bのような疑問が湧いてしまいます。
A)光子のわずかな移動の積み重ねによって光が伝わる、と考えると、光が通りうる全ての空間は(導線内を電子が満ち満ちているように)光子で満ち満ちていなければならない。

B)しかし、暗闇(本当に全く光がない状態)で懐中電灯の光を灯した時、その空間に元々光子は存在していない。にもかかわらず光は30万km/秒で進む。つまり、点灯した瞬間は光子一つ一つが30万km/秒で「フッ飛んで」行っているのか、、、
 これは、「そうです。フッ飛んで行ってるのです」と答えられれば「あ、、そうですか」としか言いようがないのですが、そのような理解でよろしいのでしょうか?(単純に30万km/秒で移動しうる粒子というものが私のちっぽけな頭の想像の範囲を超えているのと、電子と電気に置き換えて考える事はできないな、と考えているのが私の迷走の原因だと思います。)

A:「場」を理解しましょう:2011/5/6(金) 17:06
 周回遅れ 様、お答えが大変に遅く成りましたことを改めてお詫び申し上げます。
 さて、ご質問にお答えいたします。
 まず、電気とはなんでしょうか。周回遅れ様は、この「電気」をどのような意味で使用されているのでしょうか。
 電気の説明について、「Wikipedia」から引用してみます。
電気(でんき)とは、電荷の移動や相互作用によって発生するさまざまな物理現象の総称である。それには、雷、静電気といった容易に認識可能な現象も数多くあるが、電磁場や電磁誘導といったあまり日常的になじみのない概念も含まれる。
 上記に書かれているように、「電気」という言葉を持ち出すと、その意味するところが曖昧になってしまうのです。人によって頭に思い浮かべるものが異なる恐れがあります。周回遅れ様は、この質問の中で「電気」を、いかなる意味で用いようとしているのでしょうか。手がかりは次の言葉にあると思います。
>光速に近い速度で伝導するのは「電気」であって「電子」でないのは分かります。
 周回遅れ様は、「伝導するのは電気」と言っておられます。
 例えば、開いた導線に電池を挿入し、スイッチで、その回路を繋いだ場合を考えます。開いている間は、導線に電流は流れません。スイッチを入れると、導線には電流が流れます。
 電流の定義は、「電子の流れ」です。よって、スイッチを入れると導線内の電子が一斉に動き始めます。と、書きましたが、導線内の電子は本当に一斉に動き始めるのでしょうか。そこで一つクイズを出します。

点灯
 図の、(A)、(B)、(C)の内、スイッチを入れてから最初に豆電球が点灯するのはどれでしょうか?


 この問題は、講談社ブルーバックスの「物理トリック=だまされまいぞ!」(都筑卓司著)に掲載されている有名な問題です。この問題を考えた人(都筑氏ではない)は、答えを知りたくて、東大の物性研に問い合わせたそうですが、そこでも議論沸騰で結論は出なかった、という曰く付きの問題なのです。
 当のブルーバックスでも、都筑氏は、この問題に関して47ページを割いて解説しています。そのくらい奥の深い難問なのですが、逆に奥が深すぎて、細部に渡って考えれば考えるほど真実が不明瞭になってしまいます。
 電流は、電位差がある場所に電子を持ってくると電子が動き出して発生します。導線の内部には、自由電子(原子核の束縛を離れた電子)が1立方センチ当たり1022個も存在します。従って「電位差」さえあれば、導線に即座に電流は発生します。



 「電位差」という聞き慣れない言葉を使いましたが、要するに、「そこに電子を持ってきたら、電子に力が加わる場所」が、「電位差」のある場所、です。その場所のことを、工学では「電界」、物理では「電場」と呼びます。

点灯中
 回路のスイッチを入れる前には、回路(が成立していないので)内に電位差はありません。スイッチを入れ、回路ができあがった時、電池の負極は電子を放出し、正極は電子を引き込みます。これは、電場が発生したことを意味します。電場は発生した時点で、全空間に拡がるわけではなく、(導線の誘電率によりますが)最高でも光速で導線を満たして行きます。


 さて、この拡がる電場とは何物なのでしょうか。それは電荷(この場合は電池)から発せられる光子です。但し、この光子は、いわゆる普通の光ではなく、電荷が呼吸する仮想の光子です。仮想ですから、この光子は誰も見ることができません。それなら存在する意味がないではないか、と言われそうですが、別の電荷が仮想光子と出会うと、これを取り込んでしまいます。その結果、元の電荷が、他の電荷へ力を及ぼすことになるのです。
 電場は電池(電荷)を起点に発生するので、クイズの答えは、左図のように、電池に近い電球から点灯することになるでしょう。
 注)点線で示したものは仮想光子(電場)の拡がりと考えてください。


 さて、周回遅れ様、A)の問いにお答えします。
 「光子のわずかな移動の積み重ねによって光が伝わる」のでなく、「仮想光子の到達によって電場が拡がる」のです。最終的に導線全体に電場が行き渡れば、「電子が通りうる全ての空間が、仮想光子=電場で満ち満ちている」ことになります。
 次はB)の問いです。
 暗闇で懐中電灯を点灯した場合は、仮想光子(電場)が拡がるのではなく、実光子が拡がります。この意味では、点灯した瞬間から発せられる光子一つ一つは、30万km/秒で「フッ飛んで」います。

 周回遅れ様、理解の助けになったでしょうか。

   
   
   


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[Q&A]No.2
Q:周回遅れ さま:2010/5/25(火) 0:45
 「私たちの周りにある光は、エネルギーがあまり大きくないので、波としての性質が強く出ます。だから光同士の衝突という現象はあまり見ることができません。」に関して、「波にしてもどうして衝突しないのだろう」と考えてしまいます。
 この場合、自分の頭の中では波とは言ってもすでになんらかの粒子の運動によって生じる波(水分子の運動による波、あるいは粒子としての光子の軌道、等々のようなもの)をイメージしてしまっているので、「なぜだろう」「反発する力でも働いているのだろうか」などと迷走してしまいます。
 なぜか、ではなく、ここでいう波とは衝突しないもの、と考えるしかないのでしょうか?

A:「波」を粒子として見ると:2011/5/8(日) 4:59
 光は波なのか、粒子なのか、という議論が約100年程前、科学者の間で沸騰しました。結局、今日までにわかったことは、光は波として観測しようとすれば波動であり、粒として捉えようとすれば粒子である、ということでした。
 わかりづらいですが、光の波動性と粒子性を端的に現すのが次の式です。  
E = hν
 E とはエネルギーです。そして、特殊相対性理論によりエネルギーと質量は同じものである、とうことが知られていますので、エネルギーをとりあえず粒子の質量と考えておきます。それでは、νとは何かというと、これは波における振動数です。
 つまり、波としての性質(振動数)に、hという係数を掛けると、粒子の質量が出てくるわけで、上の式は、「波動と粒子の換算式」と言うことができます。必ずしも正確な表現ではありませんが、ここでは、光子という1個の粒子は、質量がhνである、と考えてよいでしょう。

 さて、それでは、地上デジタル放送に使われる電波(UHF)を粒子として考えてみましょう。UHF(極超短波)は波としては、波長1m、振動数は約30MHzです。 E = hν から計算すると、E は、2.0×10-25J(ジュール)となり、相対論の E = mc2 からm(質量)を計算すると、大体、2.2×10-42Kgとなって、これは、いうならば質量がめちゃくちゃに小さいのに大きさが1mもあるという、とんでもなく密度の希薄な粒子になってしまいます。
 この質量は、電子や陽子より遥かに小さく、光子1個が原子1個よりもずーっと小さな質量であるにも関わらず、大きさが1mという粒子です。
 おわかりいただけたでしょうか。波長の大きな光は、エネルギーが小さすぎて衝突できないのです。仮に衝突しても素通りしてしまうことは容易に想像できるでしょう。
 これに対し高エネルギーγ線(波長:3×10-13、振動数:10×20)で計算すると、その質量は、7.4×10-30となって、これは電子(9.1×10-31)より大きな質量になってしまいます。このように小さなエネルギーの塊は、もはや粒子と呼んでいいものになっています。実際この光子二つを衝突させると、電子と陽電子などの粒子が生成されることが実験で確かめられています。