フェリシアーノの事はよくわからない。

やることなすことが突然で、謎すぎて、何が言いたいのか、何がしたいのか全く考えが読み取れない。

常識を考えず、非常識な行動がきわめて多い。



無邪気で純粋。

天真爛漫かつ自由奔放。

時に奔放さが度を超えることも。

かまってほしいのか度々悪戯をしかけては俺を怒らせる。

怒られるとしょげるが、

怒らずにいるともっと泣き出してしまう。

怒りながらも傍に置いてやると

とても幸せそうに笑う。

するとこっちも微笑みたくなる。

だけど傍にいたと思ったらどこかへすぐ消えてしまう。

まるで幻のよう。

掴もうとしてもするりと手から零れ落ちてしまう

まるで水のよう。

まるで悪戯好きの水の妖精だと思った。















「イタリア・・・芸術=プレゼント」
















月の綺麗なある夜更けのことだった。

またあの時のようにあいつは俺の家のドアを勢いよく開けて飛び込んできた。

やっぱり上半身の衣類は前で肌蹴ていて下半身は露出したまま・・・。


「ルートーーー!!!!俺ルートの事好きだよー!!ルートは俺の事好きー!!?」


「いっ・・・今何時だと思ってんだーーーーーーーー!!!!!!???????

それから服を着ろー!!!!」




フェリシアーノはよく見たら涙を流していた。

何か色々不安に思う事があったのかもしれないが・・

だからと言って甘やかしてもいられなかった。


「全くお前という奴は・・。

とりあえずこれを履け!!何度言ったらわかるんだ!下半身を露出したまま外を出歩くな!!変質者だろ!

それで済むならまだいいが・・お・・お前の身に何かあったらどうする・・!

大体こんな夜更けに他人の家を訪ねるなんて非常識だ!!

少しは大人になれ!いつまで子供でいるつもりだ!?理性的になれ!

感情に任せて行動するな!!」


フェリシアーノは俺が大声を張り上げるたびに肩をすくませた。

だが意を決したように自分の考えを言おうと顔を上げてきた。

怯えて潤んだ瞳でじっと俺の心に訴えかけるように放った言葉は。



「だって・・ルートに会いたかったんだもん・・。」


ドキッと・・

来ないわけじゃない。

来ないわけじゃないが・・。

そんなに感情任せに他人に迷惑かけていいわけでもない。

特に俺は理性的に常識的に秩序を守って行動するのが性分みたいなものだった。

そんな俺にとってコイツの行動は許せるものじゃなかったんだ。

だからあくまで俺は「正しいこと」を教えようとフェリシアーノの顔を両手でつかんで自分の顔に引き寄せて、強く言い聞かせていた。


「「だって」じゃない!!!「だもん」じゃない!!!!」


「うわああああああああああんっ・・!!!だってぇ〜〜〜〜〜!!!」


そしたら思い切り泣きだしてしまった。

ああもう、ほんとに子供だ・・・。



その日はしょうがなくオレの家で寝かしつけた。

というか、違う部屋に寝せてたはずなのに、

また例の如く朝には起きたら俺の横に寝てるわけだが。

裸でな・・・。


「フェリシアーノおおおおおおおおお!!!!!!!いい加減にしないと俺だってなあ・・・!!!!/////」

男なんだぞ狼なんだぞ何するかわからんぞ!!!!というか本当にしてやろうか!!???

そう心で叫びながらイタリアに大声を浴びせたが、

その声に反応してのっそり起き上がったイタリアは目を擦りながら危機感なんて微塵も糞も無くのんびり言い放った。


「ヴェ?あ〜ルートおはよ〜♪」


「・・・おはよう。」


俺の動きが止まった。

願望、欲求は多々あるのに、暴力的にも性欲的にも理性が強い自分を酷く呪った。






さらにある日のこと。


「ルートールートー!俺、ポスター描いたんだけど張っていい〜?」


「ん?ああ、好きにしろ。」


「わーい!じゃあ張ってくるー!」


そのポスターはそう、あの時のポスターだ。

イメージ的には俺とフェリシアーノの相合傘なちょめちょめ絵。


「待てええええええええええ!!!!!??

フェリシアーノおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」



俺はポスターをすぐさま回収させた。

フェリシアーノは何でポスターを回収されたのか、そしてなんで俺が怒ってるのか解っていないように困って首をかしげていた。


「なんで??何でダメなの????」


俺は顔を赤らめながらも胸に少々の怒りを抱えながらため息をつく。


「なんでって・・・こんな恥ずかしいもの・・・。

お前はなんでこれを描いたんだ?」


するとフェリシアーノがにっこり笑った。


「だってドイツが好きなんだもん♪」


極めて無邪気で屈託ない笑顔で答えてくれた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ・・・・・・・・・・・。」


俺はまたフェリシアーノの顔を両手でつかんで自分の顔に引き寄せて、強く言い聞かせていた。


「「だって」じゃない!!!「だもん」じゃない!!!!」


ぎぅうううううううっ・・・・


「うわああああああああああんっ・・!!!だってぇ〜〜〜〜〜!!!」


フェリシアーノはまた泣いていた。








あいつは解らない。

かわいいと感じないわけじゃないが

一緒にいると疲れる。

反面一緒にいて癒されることもあるが。

やはり困ったことをすることが多すぎる。


もうあんな奴の子守なんてまっぴらだ!!!


そう叫びたい気分でしょうがないんだが。

反面いないといないで心にぽっかり穴が開いたようになる。

慣れって奴は恐ろしい。


どうして俺と一緒にいたがるのだろう。

どうして俺の事が好きなんだ。






俺は以前フェリシアーノから貰った絵を眺めていた。

額縁に入れて綺麗に飾っておいてある。


「絵自体は素晴らしいのにな。」


そう、フェリシアーノ、イタリアが描く絵は素晴らしかった。

絵だけじゃなく彫刻、作詞作曲、歌なり芸術に関することはほぼ万能であった。

流石ルネッサンス発祥地の芸術大国である。

今眺めてる絵は一人の美しい妖精が人間の恋人に「愛」を送っている絵だった。

その光景を言葉などでは言い表せぬ程美しく表現されていた。

特に恋人に対して一途で健気、そのように思わせる美しい妖精に目を惹かれる絵だった。

そういえばこの絵を見た俺の部下たちが言っていた。


「綺麗な絵ですね。特にこの妖精が可愛らしいです。こんな妖精に愛されたら、きっと幸せでしょうね。

俺も一途で純粋でかわいい妖精のような人に愛されてみたいですよ。どこかにいませんかね。」


一途で、純粋、かわいい・・・。

そう言われるとついフェリシアーノを連想してしまった。

条件としては文句なしに該当してしまう。

世の中から見たらフェリシアーノは理想の恋人像なのか。

分からなくもないが。


一途で、純粋、かわいい・・・。


「いたら大変だぞ。」


俺はそうため息をついた。



いたら・・。

そう、あいつは皆の理想像である反面

いない存在となっているのだ。

そんな奴いるわけがない。夢の見過ぎだ。

皆の中でそう結論しているのだ。


だが俺の目の前にはいる。

いるからこそリアリティがない。

不思議すぎて。


よくわからない。

形がない。

虚像のようだった。

存在そのものが。




「よう、どうしたんだ?元気ないなあ。」

どうにも俺らしくもなく仕事が捗らず、外の空気を吸ってる所にフランス、フランシスがやってきた。

こいつとは昔からの付き合い・・・何かそれ以上にもっともっと昔から一緒にいた気がするが。

それは記憶にはっきりしたことじゃないので断言はしないでおこう。

とにかく昔から一緒にいたことでこいつはおれの兄貴分の一人みたいなものだった。

反面嫌味も良く言われるので悪友に近いようなものだが。

まあ時にはこうして心配し、声をかけてくれる時もある。



「まあ・・実は、フェリシアーノの事でな。」



フェリシアーノとこいつもお互い幼いころからの付き合いらしく、兄弟のようなものらしい。

だからフェリシアーノの事ならこいつに相談するというのもいいだろう。

特にフェリシアーノが「わからない」のだからな。

フェリシアーノをよく知ってる奴に相談するのが一番というわけだ。



「フェリシアーノが何を考えてるかわからないってか。

それは俺も同じだぞ。」


フランシスは適当そうに笑って答えていたが俺は真剣だった。


「だが幼いころからの付き合いなのだろう?なら俺よりは知ってるはずだ。」


俺がそう言うとフランシスは少し寂しげな表情をしてぽそりと呟いた。


「・・・・お前だって小さい時からあいつと一緒だったのにな・・。」


「え?」


「いいや、なんでもない。

そうだな・・。確かに俺とフェリシアーノは兄弟のようなものだから、結構似てるとこがあるんだよな。

俺だって他の連中から何考えてるかわからないって言われることが多いしな。」


そういえばそうだ。こいつはこいつで十分シュールでミステリアスだ。

なかなか一貫性のない行動が多く、周りを困惑させる。

だがフェリシアーノと違って落ち着きのある大人のような振る舞いもし、いざという時は頼りになる。戦でと言うよりアドバイザーとしてだが。

それでもコイツの感性にはついていけない時がある。フェリシアーノと同じように。


「そういう時お前ってすぐ怒るよなあ。まさかフェリシアーノにも怒ってるのか・・?」


「あ・・・ああ、まあ、そりゃあな。非常識な行動をとるのだから当然だろう。それは仕方のないことだ。」


そう言うとフランシスが少し憂いの表情を見せ、俺を憐れむような声を漏らしてきた。


「ああ・・なるほど。

そりゃあいつが何考えてるかわからなくなるはずだ。」


「な・・どういうことだ。」


フランシスは憂いの表情ながらも微笑を浮かべている。

そういう様がよく似合う奴であった。


「俺とイタリアが芸術国家なのは知ってるだろ?」


「ああ。」


イタリアとフランスは2大芸術国家と呼ばれている。

イタリアはルネッサンスの発祥地だし、フランスには芸術の都パリがある。



「俺達は、芸術でお喋りしてるからな。」



「え・・。」


「芸術で自分の伝えたいことを伝えてる。

言葉では言い表しきれない、そのままあるがままを描くために1枚のキャンバスにありとあらゆる想いをぶつけている。」

それが地なんだ。だから普段の行動にもそれが出る。

そもそも俺達は存在自体が芸術だからな。」


自分で言いきってしまう所が何ともフランスらしい。

でも納得行ってしまう言葉だった。

フランスも、イタリアも、どちらも優雅で洗礼されていて、美しく、存在自体が芸術のようだった。

行動言動全てまでもが。

まるで物語の登場人物のようで、言えば芝居がかってるというやつだが、

それは芝居でも何でもなく、こいつらにとってはそれが地なのだ。


「下賤なお前らには高等な俺らの思考、感性は理解できないだろうよ♪」


この見下し感もまたフランスらしいが、それが様になってしまうのもまたフランスしかりか・・。

俺は少しむっと来たが「しょうがないなあ」と自然と許してしまうように微笑してため息をついた。


「でも俺とイタリアじゃ、同じようで少し違うな。」


「・・?」



「俺の国はな、大人としてプライドを持った上で自分たちの感性を誇りにしてる。

だけど、子供のころ見えてたものには敵わないって思う時がある。

アイツの国じゃ、子供が大人だからな。

成長してないって意味じゃないぞ。

ずっと大事なものが見えたままなんだ。

永遠の子供の国。

永遠のおとぎの国って言われてる。

ネバーランドって奴かもな。

だから、俺はあいつが羨ましい。

俺も芸術で世界から認められたり、愛されたりしてるんだろうけど

あいつは俺より世界に何十倍も愛されてる。

純粋なものには勝てねえよ。

まあ、俺も愛してるけどな。イタリアは。

大事な弟だからな。」


「フランシス・・。」


笑みが零れる俺にフランシスはまた昔を懐かしむようにぽそりと呟いた。


「お前もな・・。」


「え?」


「いや、なんでもない。とにかくお前には、フェリシアーノの事任せたって思ってるんだぞ?」


「な・・・何故俺なんだ。勝手に決められても困るぞ。」


「でも、あいつはお前じゃないとだめだから。」

『ずっと昔から・・。』

再び昔を懐かしんだ表情を見せるが、今度は少し寂しげで言葉には漏らさなかった。


「そんなことも分からないのか?」


「・・わかるというか・・。「俺じゃなきゃダメ」の根拠がないだろ。」



「好きっていつも言ってるのにか?」



俺は少し押し黙って少し顔を斜めに俯かせて答える。



「好きというもの自体が・・曖昧なものだろ?」



少し間が空いた。

フランシスは少しショックを受けたような表情になり血が上ったように急に俺の胸倉に掴みかかって来た。

そして強く言い放つ。


「・・・・・・・ああそうだよ!だから言葉ばかりに目向けてたって駄目だ!

「あいつ」を見てやれ!!そしたらどんだけお前の事が好きでそれが絶対的で一途で純粋で高等な思いかわかる!!」


俺は当然冷や汗を流し動揺した。


「わわわわわ・・・わかったから!!!(ホントはよくわからないけど)

お・・お前は自分の感性を強く論じてくるのをやめてくれっ・・。」


フランシスはばつが悪そうに俺の服から手を離す。


「性分だよ。お前が真面目にしなきゃ気がすまないのと同じようにな。」


「・・・!・・・。」


フランシスは遠い眼をしていた。


「国によって違うんだよ。だから俺は「変」って言葉がよくわからない。

こんだけ世界中いろんな国があって、それぞれ考え方が違ったら、何が「変」で何が「常識」かなんてわからないだろ?

まあ、特に俺とイタリアは・・世界中から見て「変」みたいだけどさ。

まあそれを長所として面白がってくれる国も多いけど、たまには罵る奴もいるよな。

イギリスとかな!あんの堅物中傷好き国家!」


イギリスとフランスは仲が悪い。その原因はそういうところにもあるのかもしれない。


「日本とかもな。一番「変」を受け付けない国だしな。受け入れてもらうまでが大変だ。

そして・・お前、ドイツな。

結局生真面目でお固い奴ばっかだよなー。他の国は変とか無しにのびのびやってるぜ?」


「悪かったな。」


そう言われれば、俺も、今挙げた他の二国に比べれば、イタリアの正反対ながらの奔放な所に素直に惹かれる事も多かったが、

無意識にイタリアの変で非常識な部分を罵っていたかもしれない。兄貴分なだけあってそういう部分においてよく似ている、目の前にいるフランスにも。

そう気づいてみると申し訳ない気分になった。

フェリシアーノにも、目の前のフランシスにも。


「俺が罵られるのは構わない。大人だから。だけどイタリアは勘弁してやってほしい。

子供に子供らしくするのをやめろって言ってるようなもんだ。」


「・・・・!」


「子供は・・のびのびしてるのが一番だろ?

あいつにあまり何が正しいとか、常識とか、そういうのを威圧的に押し付けないでやってほしい。

かえって、あいつはあいつにない所を持った真面目なお前に惹かれて好きになったのかもしれないけど。

だからってそんなに高圧的に「常識」を押し付けてるだけじゃ・・・


そんなんじゃ・・ますますあいつが言いたいこと解らなくなっちゃうぞ?」





フランシスはその後、

「まあ世界中こんなに色々人がうじゃうじゃいたら簡単に分かり合えなくて当然だろ?

ゆっくりいけよ。あまり難しく考えて慌てるなってこと。

大丈夫!・・・お前らなら大丈夫だ。」


そう肩を叩いてくれた。

去り際・・・・

「フェリシアーノとお前が結婚してもっ・・!たまにはあいつと寝かせてくれよ!?☆」

そういつものあいつらしく決めポーズをして変態ぶりを発揮して去っていった。

「誰が寝かせるかーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

当然俺は激怒した。












「永遠の子供の国。

永遠のおとぎの国。」


純粋で無垢で無邪気で素直で明朗で、天真爛漫で、自由奔放で、心が優しくて・・。


大人にならなきゃいけない。

大人がいい。

そう決めたのは誰だろうか。

大人にも大人の良さはあるが、子供と比べてそんなにいいものだろうか。

腹黒く、狡猾で、残酷で、非道で、陰湿で、陰険で、自分勝手で、

そんな奴しかいないじゃないか。


そもそも、それは大人とは言えないじゃないか。


せめて・・

純粋で可愛い

そういうものを愛おしく思い・・可愛がることができる。

それが大人ってものだろう?




そう数々の今まで溜めてた悩みを菊に打ち明けた。

そうしたらあいつはこう返してきてくれた。


「なら・・ルートさんはあと一歩じゃないですか。

だって、フェリシアーノくんが愛しいのでしょう?」


俺は出されたお茶にも手をつけずにいた。

生真面目な二人は畳の上でお互い正坐をしている。

俺は膝に置いてた拳をさらに強く握りしめ戸惑いを見せていた。


「だが・・愛しく思い続け、可愛がることができるかは自信がない。」


菊はお盆を手に、そんな俺を優しく見つめていた。


「少しずつでいいですよ。ドイツさん。

ドイツさんの国では「大人」になるのが美徳なのでしょう?」


俺はその言葉を聞いて、すっと肩の力が抜けた気がした。


そうだな。

そうだよな・・。









気がつけば、俺の周りは腹黒く、狡猾で、残酷で、非道で、陰湿で、陰険で、そんな奴しかいなくなっていた。

気がつけば俺の周りはしがらみだらけであった。



お前たちは本当に純粋な子供がいらないと思ってるのか?

そうじゃないだろう?だったらなぜそういうものに焦がれる?



あったらいいのに・・。

そうおとぎ話と決めつけて。

あったらいいのにで留める。

そこにある、あったらいいもの、には目もくれず。


俺の知り合い達が純粋な妖精のような天使のような子についてこう言った。




「見てるのはいいけど

いたら邪魔だろ。」




道具や人形のように・・。





「そんなこと言うな。

本人が聞いたら傷つく。」





そう俺が咎めると。






「いねえだろ。

そんなの。」







ならおまえらは、なぜそれを知っている。

この世界のどこかに遥か昔にでもいたからだろ。

今だっているかもしれないという考えに何故至らない。





あいつは虚像でも

幻でも

道具でも

人形でもない。


現実だ。


現実にいるんだ。



現実から



なくなっちゃいけないものなはずなのに。


なくしちゃダメだ。




あいつらだってそういうものを求めてるんだ。

素直になれないだけだ。






俺だって・・・・・・。








すまない。

そういう奴らばかりだな。

この「世界」ってのは。

おとぎの国の妖精には、永遠の子供にはきついよな。

住む場所が違うよな。







だけど、そう言ってお前を世界から遠ざけた時

お前らはどこへ行く!?






消えないでくれ。

いなくならないでくれ。

傍にいてくれ



俺がお前を愛するから







上手く愛せるか?







無理矢理心を覗こうとしたって、あいつを傷つけるだけ。

俺だって溺れてしまうだけ。


アイツの心は水のように澄んでて自由で、形なんてないんだから。



だから・・いいんだ。

全部わからなくたって。

でもこれだけはわかる。

アイツを失いたくない。

この世からなくしたくない。


尊い大切なもの。

俺は守りたい。



いつかあいつがもっと広い世界で自由に泳ぎまわれるようになるまで。

その後も、ずっと・・・。


愛してる。




















その夜、俺はイタリアのヴェネチアまで来ていた。

水路の水面に月明りがぽっかりと丸く浮かんでいる。

白い光に照らされたその町はとても幻想的であった。



「ほんとに、まるでおとぎの国だな・・。」



少し寂しげだった。


儚げで


今にも消えてしまいそうだ・・。





色んな絵が見えた。


小物が見えた。


歌が聞こえた。




俺は手元にあった、イタリアがあの日描いたポスターを見つめた。

俺とフェリシアーノの相合傘な・・・・・・。



「そっか・・喋ってたのか。ずっと。」



イタリアは自分の気持ちを、常識的で固まりすぎた言葉だけで表現させるのは難しい。

だから自然と身振り手振りが大きく体全体で話そうとする。

それでもそれ以上に伝えきれぬ思いは


芸術にして伝える。

芸術があいつのお喋りだったんだ。



でも、「お前」も知らなきゃ、それも間違って受け取ってしまいそうで。

虚像としか思えなくなりそうで。




ふと歌が聞こえる方角を見つめた。

するとそこには・・。



「フェリシアーノ・・・。」



「ルート・・・。」



ゴンドラの舵を取り、水を切る、ゴンドリエーレの姿をしたフェリシアーノが、

月夜に輝く水面の船の上に

幻想的に佇んでいた。




ああ・・綺麗だな。

本当に。

水の妖精のようだ。




この世のものじゃないみたいだ。


だけど本当に、今ここにいるんだ。





見逃しはしない。




俺は

明るく自由奔放で、

でもほんとは誰よりも繊細な心を持った、

純粋で儚げな小さな妖精が逃げてしまわないよう、

そっと近づいた。



「お前はわからない。

少しは解ってるつもりだが、

全部わかることはできない。


それは・・・お互い様だろう?」



「うん。」



「少しずつでいい、お前の事が知りたい。

虚像のままではいさせない。

お前が消えてしまわぬように。」



「うん・・。」



フェリシアーノは泣いていた。


「見せてくれ。お前の絵も。お前も。」


「うん・・。いっぱい見て♪」



水に揺れるゴンドラの上で

二人は寄り添いキスをした。








END








お、ハグじゃない初キッス☆(オイ)独伊ルーフェリのお話でした。
正反対同士なのに長いこと仲の良い、結局相性100%な独伊がほんとに大好きです。

イタリアとドイツとフランスの絡みが大好きです^^
彼らは元々フランク王国と言うひとつの国だったのです。
ちびたりあの一番最初の方で、ちびたりあと神聖ローマとちびフランスが一緒に出てきます。
そうなるとやはりちびドイツだけがいないのも変なので神聖ローマ=ドイツと考えるのが自然だと思いますね。
その上でこの3人が大きくなってからもちびの頃も凄い好きです。
フランスはなんだかんだでイタリアとドイツ(神聖ローマ)をお兄さんとして可愛がってるといいよ。
勝手にこの3人組フランクトリオと呼んじゃってます^^;

この話はヴェネチアが「おとぎの国」と称する人がいて、同時に少し寂しげに見えたとも言っていた所と、
下にある「イタリア人は芸術にあらゆる人間的な大事な部分をオブジェに固めながらみんなにプレゼントしようとしているのです。」と言う話から。
やっぱり芸術国家イタリアなんですね。フランスも芸術国家だから少し似ていますが、彼は大人の芸術家、そしてイタリアは子供の芸術家って感じがします。
北イタリアのウンディーネ伝承とも少し絡めてます。
やはりウンディーネは妖精で人間とは違い純粋過ぎるが故に人間とのすれ違いが生まれた。そういう所があります。
それって北イタリア人自身の性質を表してるんだとしたら、少し悲しい話です。
明るく陽気なイタリアだけど、芸術ができるということはほんとは誰よりも繊細でナイーブな心の持ち主なのかもしれないです。
どちらも勿論本当のイタリアで、いつでも自分の心にに素直なのだと思います。水のように何にでも一瞬のうちに形を変えれる、どれもが本当の姿。
純粋な子供のような大人になる。それがイタリア・・特に北イタリアの美学なんじゃないでしょうか。

「ウンディーネ」についてのとあるレビュー↓
「「美しくも儚いお話」多少陳腐な表現であるが本作を形容するのにこれ以上適切な表現はないと思う。
 水の妖精であるウンディーネは人間を愛することで魂を得ることができる。魂を得たウンディーネは美しい。
 しかし彼女は人間の身勝手さゆえに水の国に帰らなければならなくなる。そのとき彼女はただ悲しそうに微笑むだけである・・・。
 彼女にとって人間の世界は生き苦しいのかもしれない。 」


デザイン=プレゼント


「イタリア人は根本的デザイン、人の暮らし、人が生きるとはどういうことなのかを延々と研究して、
その結果をオブジェのようなかたまりにして投げかけてきます」。
氏は、イタリアのデザインを理解する上で、
「イタリア人の考え方を頭の中に置いておかないと、
彼らのデザインの背後に隠れている本当の良さが見えてこない」と付け加えます。
「イタリアの人たちは、人間の気持ちや、ロマンティックな部分、愛など、
あらゆる人間的な大事な部分をオブジェに固めながら、みんなにプレゼントしようとしているのです」と内田氏。
http://www.japandesign.ne.jp/KUWASAWAJYUKU/KOUZA/98-1/INTE/UCHIDA1017/ 

2009年9月10日

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