「朝鮮出兵じゃあああああああ!!!!朝鮮をこの豊臣秀吉の物とせよおおお!!!!!!

あはははははは・・・ああああははははははははははっ・・・・・・・!!!!!!」








晩年の豊臣秀吉は狂っていた。

病んでいた。
















人たらしと呼ばれるほど

いつも明るくて、無邪気に陽気に笑ってて

人一倍、人に対して優しくて、誰の気持ちも理解しようとして

困ってる人は助け、命を誰よりも大事にして救おうとしてた。

時々泣き虫で、おっちょこちょいで、我儘で、だらしなくて、情けなくて、

ちょっぴりいたずらに腹黒い処もあるけれど。なんだか憎めなくて。

みんなそんな太閤様が大好きだった。


なのに・・・


死期も近いのやもしれぬ晩年に差し掛かると、

老人ボケなのか何事か、

少々の腹黒さなど比にならぬ

まるであの魔王信長のような残虐さ非道さ冷酷さを見せるようになっていた。

本当にまるで何かに取りつかれたように、人を殺し続け、悪魔の鬼になり下がっていた。




























「舞散る太閤の狂愛 それは夢のまた夢」
































「いーつになったら朝鮮征服できるのかな〜。」


太閤秀吉は城の最上階の縁側からぼんやり景色を眺めていた。


「バーカ。できるわけないじゃん。」

そんな秀吉に嫌味を放つのは彼の側室である茶々、淀君であった。

腕を組んで太閤である秀吉を見降ろして非常に高慢そうだ。


「あ〜茶々〜・・何やってんのそんな処で〜・・。」


「おまえがだよ。猫背すぎるぞ背中しゃんとしろ。」


「じーさんなんだからしょうがないじゃ〜ん・・。

・・外眺めてたんだ〜。」


「見ればわかる。」



再び秀吉は遠い目をしていた。


「朝鮮ってどんなとこかな〜って思ってさ。見えるわけないけど・・。」


茶々は呆れた口調で言う。


「見てもいないとこ征服しようなんてのが馬鹿なんだよ。

どーすんの。お金もう全然ないよ?

あんたの大好きな「人の命」もね。」


秀吉はうつろと頭に拳を作ってちゃめてみせた。


「・・・・・・・・・・あ〜・・・失敗失敗。」




「じゃすまねーよバカ猿・・。



なんで朝鮮手にいれようなんて思った?」



茶々がそういうと秀吉は当然のように答えた。


「え〜、だって信長様やりたいって言ってたも〜ん。」


茶々は再び呆れる。これのくり返し。


「・・・恋は盲目か?頭のいいお前なら、晩年の父上の考えはろくなもんじゃないって少し考えりゃわかっただろうに。」


秀吉は急に膝を抱えて下に俯いた。


「・・ん・・・やれるかなって思ったんだ・・・。やりたかったんだ・・だってこんな城だけじゃ足りなくて・・・

信長様の後継者の証・・・・。


「・・・・・・・・・・。」

そんな秀吉を茶々は労しい目で見ていた。



「ぱーぱ〜。ま〜ま〜。」


すると縁側の入口の方から幼い声が聞こえてきた。

秀吉と茶々の息子、秀頼であった。

まだ年は3歳でした。


「おー秀頼〜どうした〜☆パパもママもいなくて寂しかったか〜☆うんうんお前はかわいいな〜☆」


秀吉は愛しの我が子を抱えて溺愛の如しに頬ずりすりすりしていた。



「茶々には感謝してるぞ〜。子ができにくかった私にこんなかわいい子を授けて下さってな〜。

愛してるぞお茶々〜〜〜☆」


そう言って茶々に抱きつこうとしたら。



「調子に乗んな糞猿があああああああ!!!!!!」


それまで可憐な美少女の顔立ちをしていた茶々の顔が凶変し、

切れ長で釣り上った白目の大きい、そう、魔王信長のような顔になって

強烈キックを食らわした。

これこれ、老人は労わりなさい。見た目少女だけど(笑


しかしこの顔と言い暴力と言いこのお茶々信長にそっくりである。

それもそのはず。

この茶々・淀君は織田信長の実の娘なのだから。

しかも相手は信長の妹お市様であった。

恐ろしい事に近親相姦生まれガールである!!!

世間一般では茶々はお市と浅井長政の娘となっているが、

実はあの戦国一美男美女ブラザーズの隠し子なのだ。

現在は茶々の生まれた記事が浅井家の日記に記されてないなど、

家系図から抹消されてるだの、

茶々の乗ってた籠の家紋が豊臣家&浅井家ではなく織田家だったなど。

様々な証拠が立証されている。


無論この時は秘密でしたが。



茶々はコロッと顔つきを元に戻した。

この時の茶々は母お市にそっくりである。

まあ秀吉にとっては信長もお市もどちらも愛しい人だったのだから、

その合体バージョンのような茶々はまさに理想の女性というわけなのだ。

絶対趣味おかしい。

と、世間からは言われるわけですけどねv



「愛してるのは、私じゃないでしょ。」


「ん〜?」


「愛してるのは、父上でしょ。太閤様。」


茶々は皮肉を込めて言っていた。



「・・・・かもね。勿論茶々も愛しとるよ?そして〜

秀頼超愛してるよ〜〜〜〜〜おひろ様〜〜〜〜〜☆」

また頬ずりすりすりしていた。


おひろとは秀頼の幼名拾丸から来ている呼び方である。

しかし太閤たる親が実の子に「お」をつけて呼ぶのは前代未聞であった。

「お」は敬愛を示す言葉。目上の者に使う言葉なのだ。

特に親子上下関係が厳しかったこの時代には珍しい。

なのに秀吉は秀頼に手紙を送る際にも「御拾様」と書き記してるのだ。

異常である。

何故・・。



「あんた、実の息子に「お」はやめな。

なんでそこまでそいつを溺愛する・・。」




「えへへ〜・・決まってんじゃん・・。

信長様の娘の君が産んだこの子は〜・・・

信長様の直結の血筋というわけさ〜・・・・・。

それも、私の子で・・・・・だから私と信長様との子な気分・・・

だからす〜ごく大事〜☆


あーあ・・・ほんとに信長様の子産みたかったな〜・・。」



その表情は、幸せそうでありながらも空虚で・・やはり病んでいたのだった。


















本当に狂いだす前から、秀吉の様子はおかしかった。

まだ秀頼が生まれる前の話。


元々側室を何十人も召し抱えるという異常な好色ぶりを見せていたが、


どんどん見境がなくなり女子を乱暴に凌辱するようになっていた。


精力が弱く子供が出来ぬ事に焦りを感じてるのか・・。


寧ろ女性がリードする形にも近かったぐらいなのに

一体どうした事か。





「お前様っ・・!!いいかげんにしなさい!!側室達はあなたの「物」じゃないのよ!!?」



正妻のねねが秀吉に叱咤していた。

秀吉はそれをぼんやり聞いている。


『どっかで聞いたような言葉だなあ・・。』



それは・・・かつて自分が自分で愛する主君、信長に叫んだ言葉だった。

「あなたのものだけど「物」じゃない」と・・。



そう、今の自分はあの時の信長と同じ状態だった。

寂しくて寂しくて

悲しくて悲しくて


それでも毎日毎日時は流れて多忙に世を統一しなくちゃいけなくて。



辛い辛い辛い辛い

会いたい会いたい会いたい


信長様・・・・信長様っ・・・信長様っ・・!!!!!


だけど彼はここにはもういなかった。



寂しいっ・・!!!

悲しいっ・・!!!!



だけど死んだ人が戻ってこないのは解ってる。

だからせめて「信長様の後継者」としてがんばろうと思った。

なのに・・・自分には子供ができなかった。

なんで自分はこんなにも精力が弱いのだろう。

このままじゃ「私」の後継者はできず、豊臣家は滅びるのみ。

「信長様の後継者の私」が途絶えてしまう。

消えてしまう。

忘れ去られてしまう。



あああ・・・・・・・

寂しいっ・・・・


悲しいよっ・・・


助けて・・・


信長様・・・・・・・・!!!!!!





「・・・信長様・・・信長様・・・・・信長様・・・・・。」



「・・・お前様?」



「このままじゃ・・・・私は・・・豊臣家は・・・・信長様・・・・。」



「・・・お前様!?」


虚ろにぶつぶつと何かつぶやき始めた秀吉にねねは血相を変えて近寄った。

だがその瞬間秀吉にキッと睨まれ

叩かれた。


「きゃあっ!!!??」


「ねね様!!!」

「おねね様!!!!」


勢いよく叩かれた拍子に後ろに腰を抜かしたねねに侍女たちが駆け寄った。

秀吉は黒く病んだ人ではない狂気に満ちた顔をしていた。



「ああああああああっ・・・!!!!!!!

このままじゃ豊臣家がっ・・・信長様の後を継いだ私が作り上げたこの豊臣家が滅んでしまううううっ・・!!!!

何故だ!!何故子供が出来ないんだっ・・!!!

そもそも何故お前に子が宿らないんだねね!!!!!

お前は私の正室なのにっ・・!!!

この役立たずっ・・・!!!!!!」


ねねは泣いていた。

秀吉も泣いていた。

ねねの事が嫌いなわけがない。

どんなに側室を取ろうとも女で一番愛してるのはねねだった。


だけどそんな事も忘れて吹き飛んでしまう位に

信長様への想い・・・

そこから歯車が狂った黒き狂愛が

今の秀吉の心を支配していた。


「はあっ・・はあっ・・・誰かっ・・・誰でもいいっ・・・!!!

私の子を孕めっ・・!!豊臣家を安泰させよっ・・!!!!

私を安泰させよおおっ・・!!!!!!!」



そう言って秀吉が侍女の一人に掴みかかったその瞬間。



パン!!!!




平手打ちが秀吉の頬へ飛んでいた。

飛ばしたのは三成だった。


秀吉は呆気にとられながら頬を抑える。

怒気を放ちながらも冷静に、凄味を持って諭すように言う。


「悲しみはわかります・・。

が、それを女子にぶつけるのはおやめ下さい。」



そう言って三成は秀吉の体をひょいと肩へ持ち上げ、そのまま奥の部屋へ向かって歩き出した。

そのように持ち上げられてしまうほど体格差のある相手に、秀吉は成す術もなかった。


「こ・・こら!!三成っ・・!!何すんのっ・・!!離せーーーー!!!!!!!」



叫びもむなしくそれは奥の部屋へと消えていった。








奥の部屋では三成が秀吉を壁際に追いやり追い詰めていた。

華奢な手首をつかまれ秀吉は動けずいた。

離せと命令しても離す気配はなかった。

それどころか三成は黙って手を動かしたかと思うとそれは秀吉の恥部へと向かっていた。

我を忘れていたはずの秀吉も流石に理性を取り戻す。

その迫る手を制止させた。



「何を嫌がってるんです。

こういう事を求めたのはあなたでしょう。」



確かにそうだがあくまで求めたのは女子に対してだ。

男とやる気はない。

信長様以外の男とは・・・。





「・・・・あなたは今他者の愛を求めている。


だが・・一番愛が欲しかった人はもうこの世にいない。




とっくの昔に。」



「・・!!」



解っていたこと・・。

だが面と向かって言われ涙が零れ落ちていた。

三成はその柔らかそうな白い頬を伝う涙を、指先で優しく拭った。

そして自分よりも体も手も足も顔も幼くて頼りなく、今も怯えた小動物のように震え泣く

まるで子供のような自分の主君、

この国の全てをこの小さな体に背負った太閤殿下を

強く優しく抱きしめた。




「女子にぶつけるぐらいなら

男に抱かれなさい。」



ああ、三成は私の事を考えてくれてるんだ。

そうわかったのに、

私から出たのは、それでも譲れぬ我儘な想いだった。



「やだ・・・・。

私を抱いていいの男(ひと)は信長様だけだもん・・。」






なんでそこまでして信長様に拘るんだろう。

どこまで情けなくて・・女々しいのだろう。



そうだよ・・。

どーせなら女に生まれればよかったのに。

こんなに生まれつき体が小さいなら、

こんなに生まれつき力が弱いなら、

こんなに生まれつき女のようにお喋りなら、

こんなに生まれつき精力が弱いなら、


こんなに生まれつき一人の殿方を愛してしまう位

何もかも女々しいなら。


信長様に孕ませられる体ならよかったのに。




素敵だなあ。

信長様と私の子供・・。





そう想いを馳せてみても、

その相手はもうこの世にいなくて、

自分は男だった。


どんなに想像を掻き立ててみても

物質的に空虚すぎるそれは・・・

夢のまた夢だった・・・。



悲しくて・・・・

悲しくて・・・・・・

涙があふれていた・・・・。



そんな秀吉を三成は切なそうに見ていたが・・。






「もう・・・・泣いても止めません。」




自分自身限界だった事。

愛しい人の心も限界だった事。

なんとかその心を癒せたらと三成は

その悲しみに震える小さな体を

優しく激しく抱いた・・・。













だけど秀吉心の穴は埋めれなかった。




















秀吉はどんどん病んでいっていた。

朝鮮の件だけじゃなく、日本でも、疑心暗鬼に囚われ虐殺的な事をするようになってしまっていた。

まるで本当に晩年の信長であった。


「あははははは・・・裏切り者はっ・・全員殺せ!!その妻も子も母も父も関係者は全員なあ!!!

あははははははははっ・・!!!!!!」


本人が手を下す事は少なかったがその高らかに笑うその様自体が、残酷極まりない光景に思えた。


「秀吉ぃ!!いい加減にしろよおっ・・!!

お前いつからそんなになっちまったんだよおっ・・!!」


彼の親友である前田利家が悲痛に叫び上げる。

だけどそれが秀吉の耳に届く事はなかった。




「あはははは・・・ははは・・・・・・はははは・・・・・は・・・は・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」





ドサッ・・・・・・・・







ある日秀吉は突然倒れた。






「秀吉ぃ!!!!」

「秀吉様!!!!」

「お前様!!!!!」








秀吉は病に侵されていたのだった。










心だけでなく

体まで

文字通り

心身共々

病んでいったのだった。












それから秀吉は布団での生活が多くなっていった。

寝たきりにも近づいてくようだった。





「三成〜・・朝鮮の方はどうなったよ〜・・。」


「んな事気にしてる暇があったら大人しく寝てください。」


「もう寝飽きたよ〜・・。」


「だからって布団から動けるわけじゃあるまいし。」


三成がきつめに言う。

そう、最近の秀吉は本当に布団から動けなかった。

たまに調子が良くなることもあったがそれもすぐ終わるのだ。


病と言うのがなくても、もう年が年。

こういう状態になるのも当然と言えば当然なのだ。


「う〜・・退屈だ〜・・・三成〜なんか本読んで〜。」


子供ですか・・。

というのは今さら言うまい。

彼が熱を出して寝込んだ日や

時には夜一人が怖くて眠れないやらでよくこういう夜伽に付き合わされたものだ。

けっしてその頃はあっちの夜伽はさせてくれたことがなかった。

無邪気に笑むその微笑み、無防備な寝顔に何度理性を失いかけたことかっ・・!!

しかし最近狂気に病んでいた秀吉を目の辺りにしていただけあって、

こういう元の秀吉を見ると幾分ほっとする。

まあ・・弱りきった力ない声・・衰弱しきった体は・・決して「元の」なんて言えなかったけど・・。


「浦島太郎、かぐや姫、不思議の国のアリス、シンデレラ、眠り姫・・・・どれがいいですか?」

南米関係も取り入れた秀吉お気に入りの類を取り出す。

特にシンデレラがお気に入りのようだが。

みすぼらしい庶民から、いっきに国のプリンセス。というあたりが自分に似てるからだろうか。

そんな他愛のないことを考えていたが・・。



「朝鮮侵略マニュアル本完全版とかない?」


「ありませんよ。通常版すらありません。」



唐突な大ボケにツッコミを返してしまった。

が、気分的には大真面目だったのかもしれない。

その目にはどうしても朝鮮を侵略したいと言う目の色が残っていたから。




「どうしてそんなに朝鮮にこだわるんですか・・・。」




秀吉は徐に口を開く。


「信長様が・・・明も征服したいって言ってたから。

邪魔してくる朝鮮が悪いんだよ。」


「そんな・・・・あいつの言う事なんか・・。」


「やりたかったんだもん。私自身・・・・。

信長様の後継者として、

何をやったら・・・みんな私を信長様の後継者だって認めてくれるかなあって

必死に考えてみても・・

それ位しか浮かばなくて・・。


私こんなに凄い事したんだよ〜・・って

信長様の後継者に相応しいだろ?って・・・・・・・・・・・・・・・。


あは・・・・・・でもねえ・・・・・・


失敗しちゃったもんねえ・・・・・・・


その上失ったのはたくさんの国の資金と・・・


人の命・・・・・・。


はははは・・・ははは・・ははは・・・・・・。


私悪い子だね・・・・。


これじゃ認めてもらえないよね・・・。


認めてくれるわけがないよね・・・・・・・・。


みんなに・・・・・・


信長様にっ・・・・。


うっ・・・・ははは・・ああ・・・・はっ・・うああああ・・・・。」


秀吉の瞳から涙かこぼれ・・

それでも空虚に笑っていて・・

どちらも混ざった病んだ顔に再びなってしまった。



「・・・・!!!秀吉様っ・・・!!!!!」


三成は秀吉の小さな掌をぎゅうっと自身の両手で握りしめた。

彼もまたやるせないように・・瞳から大量の涙を溢れさせていた。



「秀吉様・・・・・。あなたには十分太閤の素質があった・・・・・。


世を平和にする素質だってあった。


だけど・・・・・





アイツに囚われ過ぎたんだ・・・!!


アイツのせいで・・・!!!秀吉様はっ・・。」





全身全霊で、

このいたいけなお姫様の心を虜にし、弄び、ぼろぼろに壊していった

あの魔王に対する怒りと恨みを、腹の底から叫んだ。



握りしめた秀吉の掌をさらに強く握る。

二人の手が三成の涙で濡れていた。

秀吉は悲しそうに三成の方を見る。




「三成・・・違うよ・・・。

私、確かに最初から世を平和にしようって、天下太平を目指そうってがんばってたけど・・。

信長様がいなかったら私弱いまんまだったもん・・。




なんで私が中国大返しなんてできたと思ってんの。

殺されたのが信長様だったからだよ。」





全てを投げ捨ててでも命に変えてでも

いつもがんばってこれたのは・・・全部・・・・・・・。





「その地位をゆずりたくなかったのは、

他の奴には任せられないって

私には天下統一できる素質があるからって。

思ったからってのもあるけど・・・。





結局ねえ・・取られたくなかっただけ。

信長様の後継者という立場を・・・・・


信長様を・・。






取られたくなかったんだよおおおっ・・・。」











只々、泣きじゃくっていた。











秀吉はこのように理性を保ってる状態と狂った状態とを度々繰り返してた。

もはや今でいう精神病の域だったとも言えるし、単にご老体故の知能低下だったとも言えるし。

両方だったとも言えるし・・。



















ある日、家康が秀吉の元へ見舞に来ていた。

秀吉は家康が思っていたよりも衰弱していた。





「家康・・・秀頼の事よろしくね。・・・ね?」



「はい。勿論。立派な跡取りにしてみせますから。」


二人はこれからの事を話してた。

残念だが・・・・・

秀吉の命はそう長くない。

跡取りの秀頼がろくに大きくもならないうちに彼はこの世を去るだろう。

だからだれかが実権を握って豊臣家を支えなくちゃならない。

それを誰に頼むか。

そんなのもう決まっていた。

徳川家康、この人だ。


周りは油断のならぬやつと言う物も多いが、

思ってるよりもこの人は悪い人じゃない。

寧ろ優しいいい人だ。

そしていい知れぬ頼りになる何かを持っている。

何か違う・・・同じできる者同士なのに違う空気を感じるのだ。

神に支えられてるかのような・・。何か・・・。

それに対して嫉妬することもあったし、

それで付かず離れずの方がちょうどいいと思って、距離を置いたが・・。

ちゃんと友として信頼していた。


家康の方も同じ気持ちだ。

友の後継者である秀頼を立派に育て、豊臣家を安定させるつもりだ。



『でも・・・そうならなかった時は・・・。』


そう、秀頼はまだ赤子。

今後どのように育つかは決まり切ってない。

秀頼だけの問題じゃない。

家臣面々がその豊臣家でどう動くかだ。


あくまで二人の中で誓い合ったのはこの世の中を天下太平に導くこと。

豊臣家を野放しにする事でそれが長引くようであれば・・・・。



そう心の中で思ったが、ただでさえ不安でいっぱいの今のこの人に

そんな事言えるわけがなかった。



状況によってはその状況に見合った行動を取るまで。


だけどあなたには・・・


「夢」を見たまま逝って欲しかった。





秀吉は、申し訳なさそうに、今にも消えてしまいそうなぐらい弱々しく、家康に言葉を絞り出した。



「ごめん・・。

がんばるって言った癖に・・

できなかった・・。

あの世でもお仕置き決定だよ・・こりゃ・・。」



悲しげな秀吉に、家康は微笑んで答える。



「私は・・何かを切り開くのは苦手だけど。

何かを支え続ける事は得意だよ。

まかせて。」



家康が敬語を使わなかった瞬間だった。

でもそれは敬意がないからとかそんなんじゃなくて

友への、本心から出た自分の精いっぱいの決意と励ましだったから。


秀吉が涙に震えながら・・・呟いた。






「わたし・・これでも・・ちゃんと世の中・・平和にしたかったんだよ・・?」







まるで、全てに対する懺悔かのように

秀吉は泣きながら震えて、でも力強く言った。




家康は優しくうなずいた。


「はい、わかってます・・。」




がんばりましたね。

と・・。





「家康・・あいつ・・三成の事もよろしくね。

あいつ、糞真面目で頑固だからさ・・。

家康に任せときゃ平和にしてくれるものを・・

絶対私の為とかいって刃向ってくると思うんだわ・・。

こっちからもよく聞かせとくけどさ・・。」




「はい・・。できるだけ・・。必ず。」



できれば・・・そうしたい。

なのに何故だろうか

胸をよぎるこの不吉な思いは。

でもそれすらも、今のこの人へ言うべき思いではなかったのだ。



「よろしくね・・・・。・・・よろしくね・・・・・。秀頼を・・・

私の・・・信長様の後継者の私の・・・後継者を・・・。」



そこからはずっとうわ言の様に泣いてそう繰り返していた。

彼は本当に死没が間近に迫った時にも

自分の家臣たちに「秀頼の事をよろしく頼む」と泣きながら鼻を垂らしながら

土下座をしてひたすら頼み続けたという・・・。




















美しい桃色の花弁が、白い光と青い空の中を舞散っていた。


本日大規模な桜花見が執り行われた。


大きな綺麗な緑の敷地にたくさん立ち並ぶ桜の木。


今日の為に秀吉が取り寄せたものだった。



最近戦で人々に暗い思いばかりさせたからと、

秀吉が計らった事、ではあったが。

朝鮮出兵の件で莫大に資金が失われていた中、こんな事をやるのはまた前代未聞でご法度だった。


それに本当は、

何より自分が癒されたかったのかもしれない。

この綺麗な桜の花びらに。


「わー、綺麗〜〜〜♪秀頼〜見てみな〜。」

最近いささか元気を取り戻してた秀吉。

それでも長くはないのだろうが、

愛しい息子を抱いて桜の花びらに見惚れる秀吉の笑顔は

そこにいる者に安心を与えた。




「あんなに元気で楽しそうなお前様見るの久し振り〜。よかった♪」

「だよな〜♪」

ねねや利家は本当に嬉しそうにしていた。

他のみんなも、家来たちも、なんだかんだ言いながらも、

この美しい桃色の桜の花びらに、季節の風を肌に感じ、

それを目に焼きつけ、大いに春の風流を堪能していた。



「ま、悪くないわね。」

茶々、淀君も満足そうであった。




「家康〜楽しんでる〜?」


「ふゎい??」


秀吉が家康のもとへ寄ってみると。

団子餅を頬張っていた家康がくるりと振り返った。


おお・・これか。花より団子というのは・・。




「ああ、すみません私だけ。秀吉さんも如何ですか?おいしいですよ♪」


家康はにっこりと団子餅の入った小皿を秀吉に差し出す。


「あ〜、じゃあ遠慮なく〜♪」


そう言って餅を口にやろうとしたら瞬時に皿も串に刺さった餅も消えていた。

秀吉が不思議に思って横に顔をやると

眉間にしわ寄せた三成が餅を取り上げていた。


「死ぬ気ですか!!殺す気ですか!!!」


三成は秀吉、家康と交互に見て怒鳴りあげた。


「いいですか!?秀吉様はもう死期も近いご老人なんです!!その上病にかかってるんです!!

そんな人に餅食わせてみてください!!一発であの世行きですよ!!!

食道に白いの詰まらせてえええええええ!!!!!!!!」


何故そこでわざわざ喉を食道呼ばわりする。


家康はそんな怒鳴りあげる三成を前にしてものんびりとしていた。

「私はお餅平気ですけどねえ〜。大分年ですけど〜。」


「あんたみたいに年中座って餅食ってそうな奴と家の秀吉様を一緒にしないでください!!

デリケートなんですよデリケート!!!

あんたはうすごと付きたて餅流し込んでもケロッとしてそうだけどなあ!!!」


そんなバカな。


秀吉がふと暗い顔をして。

「なんか寧ろ私の無力さが思い知らされてくような〜・・。確かにケロッとしてそうだこの子は・・。」


いやいやいやいや。


「だからこんなのと一緒にしないでください!!!」


家康どんなだ!



「ん〜、まあ薄餅の件はいいんですけど〜。三成くんは何をそんなに怒ってるのかな?」


「秀吉様に勝手に餅をっ・・。」


「あ・・それはあやまります。ごめんなさい。でもなんだかいつも怒ってるようですから。」


「この顔は元々です。魔王程じゃありませんけど。いえそれより・・・

秀吉様に勝手に餌付けをしないでください。」


「ちょっ・・!?餌付けって何・・!?」


秀吉が家来にあまりに不名誉な言われようをしたので慌ててツッコンだが、

弱々しすぎて気づいてもらえなかった。


「もとい・・秀吉様のお世話をするのはこの私です。

友だか何だか知らんが、俺はあんたを信用しちゃいない。

いつもそんなニコニコ笑って、裏で何考えてんのか知らんが、

おいそれと秀吉様にちょっかい出さないでもらいたいな!」



「ちょめ!!」

ぽかっと三成を殴る秀吉。

そんな力も、以前以上に衰えてはいたが・・。


「何するんですか秀吉様・・。」

「何じゃないでしょう。家康になんて失礼なこと言ってんの。謝りなさいっ。」

三成は不本意そうに家康を見て頭を下げる。


「・・・・すみませんでした。」


「いえ・・別に気にしてませんが・・。」


だけど家康はふと思った。

やはり彼とはぶつかる事になってしまうのかもしれない。

そんな予感がした。



こちらとしても・・・


あなたは何も知らないでしょう。


そう言いたいのですから。









花見をしながら、他愛のない話に花咲かせる人たち。


秀吉が少し虚ろとなってきていた。

「秀吉さん大丈夫ですか?」

家康が心配そうに聞く。

「ふえ〜?大丈夫大丈夫〜・・。」

半分寝ているかのような、夢を見ているような、そんな感じに見えた。


「辛いならそろそろお戻りになられた方が・・。」

三成も運ぶ準備をしだす。


「お前様〜?膝枕する〜?」

「私のでもいいけどあとで蹴りあげるわよ。」

「だったらしないでっ!」

ねねと茶々が正室VS側室対決をしていた。


「秀吉〜?おーい?」

利家が秀吉の顔の前で手を振って見せた。


うつろな秀吉が突然みんなの方をじっと見てきて、

こう言った。





「あのね〜、私ね〜、

生まれ変わったら女の子になりたいな〜。」




「「「はい?」」」




突然の話に全員が不思議がって固まった。





「女の子ですか?」





「うん。そしたら〜


信長様と結婚できるし〜赤ちゃんも産めるでしょ〜♪


今よりいっぱいがんばってアタックするんだ〜♪もう一度〜♪」




急に立ち上がって桜の花びらが舞うその中で、ふらふらと地に足付かず宙に浮くかのように、

ふわふわと力なく舞い踊り始めた。




またいよいよ頭がどうかしたのかと思う反面、

驚いていた。

ここにいるものなら秀吉の信長に対する異常な程の愛情は知っていたが、


太閤になってから・・いや、思えばその前から、

こんなにみんなの前で面と向かって楽しそうに

信長がそれほどまでに愛しいこと、

女になってまで信長の子を自分に宿したいと思ってた事


そんな感情を、素直に出したのは

これが初めてだったかもしれなかったから。


いつもは、わかりやすいようで、何を考えてるのかわからない。そんな処があったから。

誰だってそんな感情率直に出す者はいないだろう。

そんな事を本気で考えてる者も少ないだろう。

だけど彼の根本こそが、

まさにそれなのだから、

それを言われた日には・・・・


まいりました・・。


そう笑って言いたくなるのであった。




人が見ぬ夢を、夢見て、一途に夢見続けて、

成し遂げるも、成し遂げれずとも狂愛に至るまで夢見続ける・・・・・。


どこまでもどこまでも。


それが、太閤、豊臣秀吉なのであった。




農民に生まれながら太閤殿下まで駆け上がり天下統一と言う夢を成し遂げた彼。

信長様に認められる事を夢見て必死に頑張って、邪険に扱われてもめげないで一途に思い続けて

最後には一番愛されていた。

来世でもまた夢を馳せて生きてくのだろうか。

彼なら・・・彼女になってもきっと

なんどでも夢を見てその夢を叶えていくだろう。



だけど時々それは

夢見て、その夢が世界全体をいい世界にも変えれば

悪い世界に変えることもあって、

でも本人には悪い世界なんて、

周りの事なんて全然見えてない時もあって・・・


ほら今も

楽しい夢だけ見てふわふわ桜の花弁と一緒に踊っている。



辛い現実からぜーんぶ逃げてぜーんぶ忘れて。

夢の中。



なんて自分勝手な。

みんなみんな

そう怒りたかった気持ちもあった。



だけど・・・

楽しそうに無邪気に笑って、

でもそれすらどこか寂しげで悲しげで憂いて見えた

子供のような太閤殿下、秀吉のその姿を見ていたら


こちらも憂いに微笑みたくなるのだった。





本当にその光景は夢の世界で。



桜の花弁の中で舞い踊るその人の姿は

本当に夢の住人のようだった。






慶長3年8月18日・・・

太閤殿下豊臣秀吉、享年61または62。病にて没死。病名は多説あり、詳しい事は不明である。

辞世の句は以下の通り。



「露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢 」。




























秀吉の晩年のお話でした。
秀吉も晩年はヤンデレです!!!!!!!!(オイオイ
ヤンデレ萌えです!!!!!!!!!!!!!!!!(ヘイヘイ
漫画の秀吉晩年のお話もこの流れのどこかに入ってる感じです。
とにかく本当に家の秀吉は信長が大好きで大好きでしょうがない子なのだ。行動原理が全て信長様!!!(オイオイ
信長のヤンデレ具合や病んだ理由とかはまだ分かりやすい感があったが、
秀吉は全体的に謎めいてますね^^;分かる人には分かるし分からない人には分からないみたいな?
本人が結構謎めいてたようなのでこの謎めきようは間違ってないと思う。相当な難解キャラ!!でもそんなとこが大好きだぜ☆
生まれ変わったら女の子になりたいと言ってた秀吉、で!見事に生まれ変わってあの日和ちゃんになってましたよとv
今度は信くんと結婚できるよ^^子供も産めるよ^^大家族作りな!!!!(笑
しかし家は晩年ネタが多いねえ。特に秀吉の晩年ネタはファンなら書くの避けるらしいんですが・・。寧ろ書きまくりですねえ。^^;浮かぶんだもんよ!
まあたしかにこれは書くのきつい・・というのもなかったわけじゃないけど^^;汚い面、醜い面はほとんど漏れなく登場させたと思います。
でもそれも全部信長様が好きだから。という原理が出現するだけで、全部納得いくと言えば納得いくから恐ろしいっ・・!!(笑
でもほんとに、恋心かはともかく信長の後継者という立場に異様に執着してた説はあったりするみたいですね。
でもそれも肩書ほしさの卑しい執着の仕方じゃなくて・・、信長直結の血筋なのだろう自分の息子の秀頼を手紙で御拾様と記してたとか。
信長の孫だから敬意をこめてこう書いてたと言う。・・・うん。そうとう純粋な忠誠心だと思う。
何しろ秀頼=信長の孫説は決しておおやけだったじゃないので、御拾様と呼ぼうが書こうが「信長の後継者」の示しにはならないのだよ。世間に対して。
だから本当に本人の心の中だけの忠誠心としてそんな行動までとってたというあたり・・・・が・・・・・・・・・・。
やっぱり恋してるようにしか見えないのはわたしだけか・・・?(汗爆
なんというか正統派の明るい優しいいい子な主人公が最後に病むって流れ自体・・大好きってわけじゃないのに結構描いたことあるなあ。(ええ!
まあだからなんというか秀吉は私にとって随分作りやすいキャラしてるような気がする。いい時も悪い時も含めて。
小学生の時から家の戦国のキャライメージ、ちょっとした小話、は浮かんでたわけですが。
ほんっとに3英傑の生涯とか周りの人とか戦とか本格的に勉強し出したのはここ1年です。
だから全然まだまだ勉強足りないけど、足りないなりに「よういろいろ読んで調べたなあ。」という気分になります。
1年前位に「実は戦国も好きです^^大体こんな感じで浮かんでます^^」とカミングアウトしてからしばらくもしないうちに
戦国乙女とか・・他いろいろ・・急に戦国ブーム到来・・!!!!慌てましたよそりゃあもう^^;
でもそこから勉強だし、現時点でプロじゃなかっただけに完全に第一陣には乗り遅れた感がありますが。
プロの方でもこっから暫くブーム続いて第2陣に乗っかるか、ぐるーり回ってきてブーム再来して私自信熟練してる頃にか
いつかどちらかでは描きたいですね^^戦国。これとはまた違う形になるのかもしれないけど。
小学生の頃から温めてきた物のひとつだもん。どんな形だろうとやっぱり描きたいね^^
とりあえず今の私の中の戦国を精一杯色々小説書いてみました。基本思いっきり趣味に走ってるけどね!(笑)まだ浮かんでるのもありますからちょくちょくと書いていきたいです。
最初の頃の直観のイメージや、途中でミスタージパングという色々ある戦国系のなかでも非常に私のイメージに近い信長や秀吉(日吉)達に出会えたという幸運、
そしてこの1年、しっかり史実も勉強して色んな人の作品も見てきましたが・・・
知れば知るほど大好きになります^^秀吉も信長も家康も他のみんなもいい面も悪い面も全員にあるけどそこも凄い魅力に思えます。
やっぱりいいな!戦国!!大好きだ!!!これからも精進致します☆


2009年2月3日


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