そいつの第一印象。


猿。



しつこい。



そいつは最初市場で針売りをしていた。

それを突然家来にしてくれと言いだしてきた。

断ったが事あるごと頼み込んできた。

それでも俺は断った。

ある日愛人の吉乃のがいる生駒家に行ったらなんとそいつがいた。

そいつはすっかり吉乃と仲良くなってて、吉乃はそいつを家臣にしてやってくれと進める。

だが、それでも俺は断った。

断っても断っても断っても、そいつはしつこく俺の家来になりたいと願い出てきた。


俺の脳内に後の時代にはよく使われるであろう言葉がよぎった。


ああ、これがストーカーって奴か。










「尿かけ事件は史実だぜよ?」











「信長様〜♪」


ボカ!!!!!!!!!


「ぎゃふんっ・・!!!!」


木漏れ日射す林の中、天気のいい晴れ渡る空に向って、小柄な猿が天高く舞い上がった。気がした。

俺は今日もまた俺に「家来にしてください!」と願い出に来たのであろうしつこい猿を出会い頭にぶん殴りあげた。

猿、猿って名前を覚えてないわけじゃない。

きっかり俺の脳内ブラックリストにインプットされている。

尾張中村出身、木下藤吉郎だ。


「またお前か。いったい何度人の散歩を邪魔したら気が済むんだ。殺すぞ。」

俺は冷酷な目で猿を見下ろす。

「既に殺されかけてます。」とでも言いたそうに猿は地面に伏せっていた体を無理やり起こした。

鼻血が出てるようだがすぐ止まるだろ。

その証拠にもう元気に・・かどうかは別だが、とにかく懸命にちょこまかと俺の方へ駆け寄ってきて地に頭をつけて土下座をしていた。


「失礼極まりないのは百も承知。ですがこの木下藤吉郎、どうしても信長様の下にお仕えしたく、再度お願い申しに来ました!」


この台詞何回聞いたっけか。

いつもそこで俺は冷たく断るんだが、それじゃあ何も変わらない事はいい加減学習できていた。

純粋に気になったのもあって今日は違う反応をとってみた。


「なんでそこまで。」


そう聞くとばっと顔をあげた猿の顔の温度が上昇したようだ。ほんのり頬が赤い。

急にどもりだして顔を俯かせもじもじとしている。

まどろっこしい・・苛立つ・・反面なかなか女子でも見れぬ初々しい反応に新鮮さを覚えていた。

かわ・・いい・・なんて死んでも思わねえけど。


意を決したように猿が顔をあげてこちらを見つめてきた。

汚れのない純粋な眼差しだった。

そして朧げに口を開く・・が、発した言葉ははっきりと、意思が込められていた。



「す・・・好きだからですっ・・!!!」



紅潮した頬。こちらをまっすぐ見つめてくる濡れて潤んだ瞳。

地でやってしまうのか子供のように小さな両手を自身の胸元に持ってきてぎゅっと握りしめている。

本来これは怯え、恐怖を感じている時にやってしまう動作だとか心理学なる者を学ぶ奴に聞いたことがある。

それ位緊張していた。心なしか肩も震えている。


恋する乙女以外の何物でもない。

薄々感づいてはいたがやはりそうか。




「どこが。」




「・・・・天下太平を目指す志が、です!

それそのものも素晴らしいですが、周りにうつけと言われても

それに構わず自らの足で土地を歩き、踏みしめ、いざと言う時の為に環境を把握しておこうとするその行動力。

考えあげ思いつく発想は奇抜ながらも有効的な物ばかりで。

でも理解しない者も多く、周りが敵だらけになって・・それでも!

自分を貫き通して・・。

決して逃げたりなんかしないで・・・。

実は私も・・今の戦乱の世の中をなんとか平和にしたい・・。天下太平へと導きたいと思って、私なりにやってきましたが・・。

情けなくもくじけて・・逃げてばかりで。

だけど信長様は・・!!

私にはない・・勇敢な男らしさがあって・・凄く素敵で・・逞しく思えて・・。

いつもは冷たいけど、本当は仲間思いで情に厚い処とか・・そんな所が・・・。」


言うごとに頬の朱の色が濃くなっていく。

こっちも認めたくないが俄かに朱に染まってたかもしれない。


「とまあ・・色々理由はありますが・・・・結局は・・・直感ですっ!

理屈など無しにこの胸がときめきました!運命を感じました!!

信長様はそういうのはお嫌いでしょうけど・・。」



正直驚いた。

ここまで「俺」を見抜いてる奴は初めてだったかもしれない。


『確かに。俺は無神論者だ。直観だとか理屈の通ってない事は酷く嫌いだが・・・

俺がそういう合理主義者というとこもこいつは解ってるのか・・。』


そしてそれ以上に理屈があろうともなかろうとも俺をまっすぐ慕う様に心くすぐったさを感じた。


無神論者の俺がコイツのこういう処に心動かされ影響受けたのがきっかけで

後の桶狭間の戦いで「神のご加護」を使って兵の士気を高めることに成功させたとは・・

今の俺には夢にも思わなかった。




そう、どんなにこいつの一途さや純粋さ、それらの魅力が、それこそ理屈的に解っても

俺の感情は認めなかった。




「ああ、嫌いだ。そういうお前も俺は好きにはなれない。

そもそも農民出身のお前が志願したいと思うならもっとそれなりのルートや順序ってものがあるだろ。諦めるんだな。」


「そっ・・そんなあっ・・!!」



俺の言ってる事は間違ってない。

そもそも農民の出からの志願はないわけじゃないがそれなりの紹介があって入ることがほとんどだ。

こいつのように何の前触れもなく本人に志願してくるなんてのは前代未聞だ。

まあ、普通より違ってる方が俺の興味が沸くのも事実だが・・。

後で知った話だが、こいつは紹介できる奴がいなかったわけじゃない。

何しろコイツの親父は俺の親父の足軽大将だったらしい。

そこまで遠くない関係だったという訳だ。

その親父が死んで再婚したとかもあったらしいが、それでも親類に頼めば幾らでも紹介に通じれただろう。

だけど、こいつはそれを棒に振っていた。

親子喧嘩をして家を飛び出したかららしい。

それで一度目のチャンスを棒に振ったらしいが、なんと二度目のチャンスもあったそうだ。

犬千代(前田利家)に聞けばあいつと前に会ったことがあるそうだ。

その時に色々あって意気投合したらしく、「信長様に紹介してやろうか?」と言ったらしいが、

自分で認められて振り向かせてみせる!とかなんとか言って断られたそうだ。

杉原助左衛門定利(ねねの父)にも同じ事を聞いた。

なんともまあほんとに人とずれてるというか変わった奴だ。

最初針売りをしてた時も、どう考えても寧ろ俺を不快にさせるだろうと分かる言動行動をわざわざとってきた。

これも後にねねに聞くことになるが、その頃の猿は特にホラを拭いたり妙な行動をとっては

人の関心を引き付けようとする癖があったそうだ。俺に対しても、それで「覚えてもらえる」と思ったのだろう。

それが悪印象となるとも解らずな。

自分も人の事は言えない。だから変わってる奴は大好きだ。

大好きなはず・・なんだが。


何故かこいつは冷たくあしらいたくなってしまうのだ。

これじゃあいつもの繰り返しだ。



「信長様っ・・待って下さ〜いっ・・!!」



やっぱり泣きそうになりながら追っかけてくる。

しつこいっての・・!!このストーカーがっ・・!!

しかしストーカーと言うよりは道に迷った迷子だなありゃ。

自分より何回りも小さい猿が幼く情けない顔つきでちょこまかついて来るのを見るとそんな事を思ってしまった。


そんなこんなでやりとりしてると当然時間は経過してくるもので。

「ん・・・・?」

俺はふと、腹部から下半身にかけて違和感を感じた。

まずい・・何でこんな時に。と額から冷や汗を流した。

別に不思議なことではない。

人間なら誰でもなる生理現象だ。




『と・・・・・トイレに行きたい!!!!!!!!!』(正確にはこの時代は厠v




おい、頼むからそこの読者ズッコケないでくれ。

天下の織田信長のイメージが崩れるのはよっく分かるが、

何しろこれから話そうという事のトリそのものは紛れもない史実なのだから

事の大きさとしてそう大差ないだけにそこで引かれても困るというものだ。

これで幻滅するならば今すぐこのページから消えろ。



俺は素直に猿に尿を足してくるとも言えずに無言で足を速めて猿を遠のこうとした。


「わーん待ってくださいよお〜っ・・!!」


それでもついてこようとする猿に苛立ちを感じた。


「別に帰るわけじゃねえからついてくんな。」


その辺の草むらで用足したら一応また相手してやるつもり・・だってのにこいつは聞きやしねえ!!!


「信長様あっ・・・!!!」



『だからトイレ行きてえんだよ!!!!察しろこの野郎!!!!』


我ながら情けねえ心の叫びだ・・。

俺は怒りの臨界点の淵に立ちながら猿を睨みつけた。


『糞っ・・もう我慢できねえ!!!!』


それは猿に対する怒りか、それとも尿の方が限界だったのか。

恐らくはどっちもだったのだろう。



俺はばっと己の褌を解き、下半身の立派な逸物を猿の目の前に露出させた。


「っ・・・・・・!!!!!!!!????????」



猿は両眼を大きく見開き凝視して硬直した。

一瞬にして顔が真っ赤に染まる。

心の中はパニック状態になってるだろう。

俺は不敵に黒く笑って見せた。




「ひっ・・・ひやああああああああ!!!!?????」





猿は甲高い悲鳴をあげていた。

当然だろう。

猿の顔に俺の尿をかけてやったんだから。





「あ・・・あ・・・・・・。」


顔から胸や脹脛まで黄色い液体でびしょ濡れになって腰を抜かしていた。

何が起こったか分からないといった具合に放心している。

勢いでやった事だが、瞳を潤ませ眉を八の字にした情けない面を

己の尿で汚したかと思うとちょっと優越感を覚えた。

多分性行為の後顔に白濁液をかける時と似た感覚なのだろう。



俺は無意識に口端をあげて黒く笑んでいたいた。

その表情を見て猿はたじろぐ。

怯え震えて瞳に涙をためている。

今にも声を出して大泣きしてしまいそうだ。



そうだ。

これで流石のこいつも懲りただろう。

これ以上酷い目に会いたくなかったらとっとと泣いて村に帰んな。



しかし猿は悲しそうに歪めていた顔をすっと俯かせ、

次の瞬間・・・。






「この藤吉郎、信長様の為なら肉便器にでもなんでもなってさしあげましょうっ。」





ぱっと笑み明るく微笑んで・・いや、にやけていた。






な・・なあにいいいいいいいいい!!!!!???????

こいつMか!?マゾか!?正真正銘交じりっ気なしのMっ子なのか!!!?????

というか肉便器の意味ちゃんと分かって使ってんのかよ!!!???


てゆーかなんで俺がこんな台詞言わなきゃいけねーんだ!!!!!!!!





流石の信長も顔を青ざめさせたじろぎ後ずさった。

が、すぐに気づいた。

笑みを作ってもなおその肩が震えてる事に。

にやけて見えたのはそれがひきつった無理やり作られたような笑みだったからという事に・・。



違う・・・。

こいつはMなんかじゃない。

Mの振りしてるだけだ。


こうやって乱暴で粗野で鬼畜で外道な行動をとる俺と一緒に居たいが為に・・。



「ほ〜う、なかなか面白いじゃねーか。」



自分で言うのもなんだがこの通り俺は正真正銘のドSだ。

誰かをいたぶってやるのが面白いと感じる性質だが、

最初っからどMでいたぶられるのを喜こんでにやにやされてちゃ意味がない。

寧ろ元々はSだったり強気な奴を屈服させる方がやりがいがある。

勿論Mで弱くて従順な奴を徹底的に泣き叫ばせて堕とさせるのも興奮する。

だがこいつは、弱くて従順ではあるがMではないと来た。

本当はそんな関係望んじゃいない。嫌で嫌でたまらないんだろう。


ならいたぶってやろう。

嫌がってるのを無理やり、が一番興奮するに決まってるからな!





「お前、今日からおれの家来にしてやるよ。」



「本当ですか!!!!?????」


猿の顔が今度こそ本当にぱっと明るくなり笑顔を見せた。


「ありがとうございます!!!本当にありがとうございますうう!!!!」

今度は嬉しくて感涙してやがる。

どうでもいいけどいい加減顔体拭いたらどうだ・・。


だけどもうそんな事はどうでもいいかのように・・いやちょっとは気にしろよだが、本当に幸せそうに微笑んでいた。

そんなこいつを見てたら俺も色々どうでもいいように思えてきた。

なんでか和やかな雰囲気が流れてるのは何故だろう。

性に合わねえ。


「ふん・・・。役に立たなかったらすぐに放り出すからな!」

「はい!!がんばります!!!うわーい☆」

いつのまにか持参してた拭き物で顔や体を拭き終わった猿は満面の笑みでその辺をぴょこぴょこ跳ねていた。

猿のしっぽが犬の尻尾のように振り振り揺れていた。

お前いくつだ。



「・・・ふん。」



冷静に考えても、

これ以上は俺が頑なに断り続ける方が損な動きになる。

俺は無駄な動きを繰り返す事は好きじゃない。

こいつがそんなに俺の家来になりたいと、

どんな目にあわせてもそう願い出続けるなら、

家来にしてやればいいじゃないか。

それで駄目ならまた蹴落とせばいいじゃないか。

俺がそんな想定を考えるのは癪だが・・。

仮にもしも一緒に過ごして俺の目に適うような奴だったら、

そのまま重宝してやればいいだけの話さ。

オレも我ながら自分の事を魔王と呼ぶほど鬼畜な処があるが、

何も本物の魔王じゃない。

そんなにこいつが俺に使える事、俺と共に過ごす事を全てと考える奴だってんなら、

そのことを理解はしてやる。

一端権限も与えてやる。

それ位の人権は尊重してやるよ。










「よろしくな。肉便器。」






間・・・・・






「に・・・にく・・べ・・・・・。」



「なるって言っただろ?さっき。」






「あああああああああああああああああっ・・・あれは言葉のあやというかっ・・・。」

本気で便器扱いされそうになって慌てふためく猿。

もう本性が出やがったか?俺は意地の悪い笑みを受けべていた。

コイツが単語の本当の意味を理解してんのかしてないのかはしらんが、

どっちにしろこれぐらいで根を上がるような奴に興味はねえ。

「消えろ。」


「ひいいいっ・・いやっ・・信長様の為ならならせていただきますうううっ・・・!!!」

もう瞳から涙を流していた。さーてここからどこまで持つかなー。


「まあ流石に皆の前でその呼びは頂けんだろうからな。

これからお前の事猿って呼んでやるからな!猿!!!」


顔をひきつらせ、それでも懸命に笑みを作っている。

「さ・・・猿・・・・はっ・・はい!!ありがたき幸せっ・・・!!!」


ぷ・・クック・・んなことこれっぽっちも思ってねえくせにっ・・。

俺は腹から笑いがこみ上げるのを抑えるのに必死だった。


あ?それにしたって全然人権を尊重してないじゃないかって?

うるせっ。んなことは俺の勝手だろ。


俺は第六天魔王織田信長なんだからな。




俺はニヤリと魔王らしい黒い笑みを見せるのだった。















くろん「
スカトロ以外の何物でもない!!!!!!!!!
  信長が変態外道以外の何物でもない!!!!!!!!

信長「うっせーーー書いた本人が言うなーーーーーーーーー!!!!!!」
くろん「でも秀吉に尿かけたのは史実なんでしょ?」
信長「・・・・らしいな。」
秀吉「いくら主君といえどもやっていいことと悪い事があります!!謝ってください!!!」
信長「うおお!!?あの猿が俺に怒鳴って怒ってきた!!?・・いやあ、悪かったよ、すまんすまん。
   ・・・・・・って、おめえ誰に口答えしてんだよああああああああああ!??」
秀吉「ぴえええええええええすみませーーーーん!!!!(泣」
くろん「ちなみに上のやり取りのが一般的に伝わってるおしっこぶっかけ事件の正解のやりとりみたいです♪零さんのでもありましたね♪」
秀吉「それにしてもこのおまけ形式久し振りなんじゃないの?」
くろん「うん。勢いで思いついたから書いてみたよ!」
信長「オイオイ・・。」



はい、ということでスカトロネタ・・いやいや・・。藤吉郎が信長に小便ひっかけられたというあのエピソードでした。
家では家来本決まりとセットになってしまいましたが・・。どんな話だよこれ・・。
一般的に多く言われてるのが家来になった後でという事になってて、藤吉郎の反応は怒ってた方らしいですね。
家はあえて逆にしてみましたが^^;
でも家のと同じで家来本決まりの時にかけられて我慢したという話や、なんかドラマでは出会い頭かけられてるのもあったし様々ですねえ〜。
でもほんとに何を思ってひっかけたのか・・信長様ってば。
やっぱりこう変な話なだけに創作だと言われてるのもあるっぽいですが、草履取りの件もそうだけど、
逆に「創作だ」という立証がないんですからどうしようもないですよね〜。
まあ、それぞれのイメージで楽しみましょうや!てね。
しかし・・家の信様ほんとに外道だな・・イメージ壊れたって方ごめんなさいっ。
でもこの最初のころの心境に比べると、中盤、晩年と信長の秀吉に対する心境はかなり差があるなあ。と書いてて思いました。
ゆっくり愛を育んでいくのもいいんじゃないかい?v出発がコレってのもなんか空しいが・・。


2009年1月26日



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