秀吉が太陽ならば、信長は月であろう。
それ位彼らは正反対で
且つ一体であった。
「太陽と月・勇者秀吉VS魔王信長」
羽柴秀吉、後の豊臣秀吉は織田信長に仕えていた。
彼こそ戦国乱世の世の中を天下太平に導いてくれる人だと、
本当の意味で本気で惚れこみ、身も心も捧げて彼に尽くしてきた。
彼が倒せと命じた敵は片っ端から倒す。
そうすれば世の中を平和にできると信じていたから。
時々は的であろうとも和解できそうな相手なら和解したし、信長様の目を盗んで逃がしたりした。
それでも信長様の為にと、
同じ家来の武士・戦士でライバルである明智光秀と対張ったり時には協力したりもしながら
世を平和にするために戦ってきた・・・
何よりも尊敬し、愛する信長様の為に・・・
だが、そんな日々は突然壊れてしまった。
織田信長が、第六天魔王だと解ってしまった日から。
信長は魔王だ。
そんな事はみんな言ってた事だ。
だけどそれは只の「名称」に過ぎなかった。
みんなそのつもりで呼んでた。
でも違った。
私、羽柴秀吉と明智光秀、織田信長に最も近い存在だった家臣の私たちだけが信長の秘密を知ってしまった。
ある日、信長はこの世の科学や理屈じゃ立証できない不思議な力を使っていた。
言うならばそれは魔法の類だ。怪しげな光を放ち、黒く不敵に笑うその姿はまさに魔王だった。
私と光秀がそれを見ていた事に気づいた信長は「ばれてしまっては仕方ないな。」と
魔王らしい恐ろしい声色と口調で私たちに自分の正体を明かした。
自分はこの世とは別の世界からやってきた
正真正銘本物の第六天魔王なのだと。
そしてこの世に邪魔な人間達を殺しつくし、世界を制服する為にやってきたのだと。
聞いた私たちは、ショックを受けた。
騙されてたんだ!!と・・・。
今まで正義の使者だと思い尊敬してきた人物が、なんと本物の闇と悪と魔の化身、第六天魔王だったからだ。
私と光秀は織田家を飛び出した。
お互い尊敬していた主君が一気に
世の平和の為に倒すべき魔王だと分かったから。
秀吉、彼が生まれる前の晩に母の体に日輪が飛び込んでくる夢を見たらしい。
その次の日に秀吉が生まれたと言われている。
そして生まれた日は1月1日。
だから秀吉は生まれたとき、「太陽の子」だ。「日輪の子」だと崇められて、日吉と名づけられた。
まるでイエスキリスト再来のような騒ぎだったわけだ。
実際日吉は他の子と少し変わっていた。異様に大きな福耳とか、猿のしっぽが生えてたりとか。
物覚えも異様に早くて子供の癖に頭の回転が速い。
どこか何か普通の子とは違う。
きっとこの日本の何かを変える神の子なのだ。
本当に幼子の時はそう囁かれてきたし親に何度もいい聞かされたが、
少々大きくなるとほとんどの人からは神童と言われなくなったし
本人もそんなことすっかり忘れてた。
だけどある日、日吉が十何つかぐらいの時だったか。
急に空が光って太陽の方から声が聞こえてきた。
まるでそれは神のお告げ。それ以外の何物でもなかった。
「お前は神に選ばれた太陽の子だ。この世を天下太平に導け。」
と・・・。
まるでジャンヌダルクの再来かと本能がツッコミを立てたが、
今起きた事は紛れもなく事実だった。
その日から日吉は、「この世を天下太平に導いてみせる!!」
そう物語の勇者のように、ヒーローのように、「太陽の子」として心に誓ったのだ。
神らしき人が言ったのであろう・・もう一つの言葉の意味など深く考えないまま・・。
「いずれ太陽と月がぶつかり合う。
お前は決してその月の闇に飲み込まれるな。
そして勇気を持って・・・・魔王を倒せ。
お前達は・・・その為に生まれたのだから。」
「信長!!!!」
「来たか・・猿よ。」
秀吉はかつての主君であった信長を呼び捨てにして意気込んで睨みつけていた。
信長はを少し距離が離れた場所から、小柄な体の猿を見下ろしていた。
口は不敵に笑んでいた。
ここは織田家の地下の奥深くにある広く薄暗い空洞。
真ん中に怪しげな魔法陣が描かれてあり、まさに魔王のいる場所と言った雰囲気を放っていた。
秀吉は織田家を飛び出してから、あのお告げの事を思い出して、
自分は信長を・・魔王を倒さなきゃいけないんだと悟って、ここまで乗り込んできた。
まるで気分は魔王に立ち向かう勇者だった。
なんだかんだ言いながらも・・信長は怖い・・。
だけど圧倒されないようにと気丈に振舞って見せたが
そんな様子もお見通しかの様に信長は余裕そうなふるまいを見せていた。
「光秀は一緒じゃなくてよかったのか?」
信長がそ問うと秀吉がもの悲しげに俯いた。
「・・・みっちゃんとは・・端から考え方が違うから・・・・・。」
「ほう、その考え方とは?」
「・・・光秀は・・・・完全にあなたを殺そうとしてる。」
「ほう。お前は違うのか。目的は同じ、俺を倒す事だろう?」
「そう、確かに私はあなたを倒しにきた
・・ううん。説得しにきた。」
「何・・?」
信長は訝しげに秀吉を見た。
「殺さなきゃダメなのかもと思った・・。だけどやっぱりできない。
私は・・あなたが・・信長様の事が好きだから。
だから・・・・・・・お願い。信長様。こんなこともうやめて。」
『やはりそう来たか・・。』
信長は口端をあげてにやりと笑った。
「信長様言ったじゃないですか。
自分が人殺しをするのは世の中を・・天下太平に導くためだって。
あれは嘘じゃないんでしょう?」
秀吉は潤んだ瞳で必死に話しかけてきた。
相変わらず・・敵であろうとも争おうとしない・・まっすぐで甘い奴だ。
「猿・・よ。本当のとこ、この世が「天下太平」というものになるには
一体どれ程の数の人間を殺さなければいけないと思ってる?」
「え・・・・・。それ・・・・・・・は・・・・・・・。」
「正確な数字などまどろっこしいな、わかりやすく言ってやろう。
いいか、生き残れる人間の数は・・・この日本で100分の1人だ!!」
「え・・・・。」
「世界ならば1000分の1だな!!」
「そんな・・・・。」
「これでも大分生き残ってる方だと思うが?」
「それでもっ他の人たちはっ・・!!他の人たちはどこに行ったんだよお!!」
「あの世・・だと思うが?」
「い・・いやだ・・・いやだ・・・人がそんなに死ぬなんてっ・・・。見たくないっ・・見たくないよお!!」
秀吉は頭を抱えて泣いて嘆いた。
今までも自分でも殺めてきたが、それはあくまで天下太平の為と思って・・。
それにできるだけ血を流さぬように努力した事は努力した。
話し合いで解決できるような相手ならそうしたし
そうやってできるだけ最小限の犠牲で天下太平が訪れるなら・・・そう思ってやってきてたのに。
それが無意味だったかのように思わせられる圧倒的な死者の人数告知に秀吉は絶望した。
「ならば見なければいいだろう?
そうだ。猿よ。お前、再び俺の仲間にならないか?
お前は日の光も月の明かりも届かぬ闇の奥に閉じ込めてやろう。
そうすれば人の死がいも悲鳴も異臭も、見ることも聞く事も嗅ぐことも何もかもなくなるぞ。
別に不自由はさせん。
一生このままでいたいと思えるほどの至福を・・・・・快楽を与えてやるぞ。」
「・・・ば・・・ばかにするなあ!!!
そういう問題じゃない!!見えてなくたって・・・嫌なものは嫌なんだあ!!
ううう・・お願い・・・・ですからあ・・・・そんなことやめてください・・。
何か他に方法があるはずだからあっ・・!!」
「そう言われてもな・・俺はその為に生まれてきたのだからな。」
「・・・・・・・・・・・。」
「猿・・・。いつでも話し合いで解決できるほどこの世の中は甘くないぞ。
だが・・・・それがお前なのはわかってる。
幾度となく、俺の計画を素直に実行してるようでその精神に邪魔されたのだからな。」
秀吉は信長の家来として忠実に任務を遂行し、人を殺めながらも、
チャンスさえあれば敵でも仲間に引き込むなり逃がすなり、そう言う事をしてきた。
「お前が生き伸ばした奴が全員、真っ当な人間として暮らしてると思うか?」
「でも・・誰だって・・いいとこもあれば・・悪いとこもあって・・いいとこだってあるから。」
「そうやって生かしてるうちに悪い方が出て悪行を犯すのさ。人間って奴はな。
俺は・・・中途半端など認めない。
生かすのは完璧に清い人間だけだ!!!!!
・・まあ・・流石にそれは存在しないに等しいが・・・近い奴なら探せば居る。
その一人が、お前と言う訳だが?」
「え・・・・・。」
「お前にだって黒さはあるがな。誰が見たって善の面が強いだろうよ。
だが・・・その分・・・・・人間からの風当たりも強かっただろう?猿よ。」
「え・・????」
「お前、生きてるうちに何度妬みを受けた?苛めを受けた?」
「え・・それは・・もう・・たくさん・・・・・なっ何でそんな事今聞くんだよ!!」
「そうだなあ。お前はお前に出来る事をやってるだけなのに、
どんどん出世していくお前を周りは妬んだ。
出る杭は打たれやすい。
お前は周りの奴と違う。やたら目を引き目立つ。
だから妬まれ苛めを受ける。
無論凌辱も何度となく受けただろうな?」
「・・・!!」
秀吉は恥ずかしさで顔を紅潮させ歪めた。
「だが、いくら目立つと言っても、それだけなら他にもいっぱいいる。
強い強豪はよく目立つからな。
だがそういう相手を連中は苛めはしない。
強くてとても敵ったもんじゃないだろうし、・・・・・自分と同じ悪の心を持ったものだとな。
人を切り殺す事に快感を得れる者同士、単純な憧れにつながるからさ。
その点・・お前は、弱そうなくせに、実際力は弱い、だが戦で勝利を収める。
それだけで苛めの対象にもなるだろうが何より、
心の甘さだ。
弱い上甘い、だが戦で勝って目立つ。
これじゃあ格好の餌食だ。
あいつはむかつく。目立ってムカつく。とにかくむかつく。
弱いからやってもやり返せない。
そう、やり返さないんだ。お前は。
心まで甘すぎるからな。
そこをつけこまれてんだよ、いっつもいっつも甘ちゃんなお前だからな!
敵にも優しさを見せ隙を見せる無防備さ、心の清さ、白さ、
それは大抵の奴の「自分にないもの」だ
自分と違う物に厳しい。それが人間だ。
時に素直に自分と違う物に憧れを抱く者もいる反面、憧れを抱くほど・・
壊してしまいたくなるのさ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「特に・・
黒く染まった者は白いものを汚したくなる。
悪に浸った者は善を壊したくなる。
まあ・・気持ちはわからなくない。
俺がそれの塊りみたいなものだからな!!」
「・・・そんなあなたが・・・なんで悪に染まった人間達を殺そうとするの・・。」
「目には目を・・・矢には矢を・・・・悪には悪を。
俺は悪に染まり腐った人間どもを制裁する為に神に創造された第六天魔王なのさ!!」
信長の背中から無数の黒い触手が勢いよく飛び出し秀吉に襲いかかった。
「うわああああ!!?????」
秀吉は反射的に刀を抜いて切り落とした。
「あ・・・・・あ・・・・・・。」
現実離れした物を切り落とした感触が手に残る。
只の名称なんかじゃない・・。
本物の魔王だった。
そう思い知らされた。
そう一瞬ショックで放心したのが運のつき、
秀吉は次から次へと来ていた触手に絡み取られてしまった。
「わっ・・!!?やっ・・!!やあああああああっ!!!!」
勢いよく引っ張られてあっという間に信長の元へ引き寄せられる。
そして信長自身の、逞しく自分より何回りも大きなその体に後ろからがっしりと捕らえられてしまった。
「あ・・やだっ・・!!離してっ・・離せえ!!!」
こうして直に秀吉が信長に反抗して見せるのは初めてだ。
だがそれに身じろぎ一つせず余裕そうに笑みを浮かべて苦痛にゆがむその顔を眺めている。
「あきらめろ。どーせお前は俺には敵わない。力の差は歴然だろう?」
「だって・・・納得できないっ・・・諦めたくなんかないっ・・・!!
だってみんな・・・みんな・・どんなに悪に染まってたって・・!!本当は・・!!
みんな愛を必要としてるんだ!!」
「ククク・・ハーッハッハッハ!
お前よくそんな恥ずかしい台詞が堂々と言えるな。」
「うう・・・うるさい!他に思い付かなかったんだー!!」
「フッ・・・。」
信長は皮肉げに冷笑を浮かべた。
突然信長の触手から、信長自身から、怪しげな光が浮き出て魔力の流れが起こった。
「あっ・・?あ・・ああああ・・・・な・・・何これ・・・・ふ・・ああああ・・・。
な・・なにこれぇ・・・力が抜けてく・・。あ・・あ・・あああ・・・・。」
急に秀吉の体から力が吸い取られていく。
強制的に引き起こされる脱力感。
それと同時に性感帯を刺激されるのと同様の快感を与えられた。
どんどんどんどん体から力が抜けていく。
これも・・・魔王信長の能力なのだとすぐに悟った。
虚ろな目で後ろを見やれば信長が魔王に相応しい邪悪な笑みで勝ち誇ったようにこちらを見降ろしてきた。
そして秀吉の首筋を舌でぬるりと舐め上げた。
「ひああっ・・・!!あ・・・。」
そしてゆっくりと下から上へと舌を這わせ、人より福与かな柔らかい耳で舐め、責め立てた。
「やああああっ・・はあっ・・はあっ・・。」
秀吉はすっかり頬を紅潮させ息を荒くさせていた。
信長は秀吉のその様子に満足げな笑みを浮かべていた。
攻め終えた耳の傍で言い聞かせつけるように囁いた。
「確かに。人間達は愛を必要としている。
だが素直じゃないのさ。
言われて嬉しいくせに嬉しくないふりをする。
嬉しいという自分の気持ちにさえ嘘をつき欺瞞に陥る。」
頭を押さえつけて、まるで催眠術をかけるかのように・・・。
否、信長は本当に、秀吉を悪の心に洗脳してしまおうとしていたのだ。
「う・・・・ううう・・・あ・・・・いやあ・・・。」
快楽から逃れようとしてるのか、洗脳に対する恐怖を本能的に悟ったのか、
必死に抵抗してみせようとするが力を吸い取られて少しも動けない。
「お前のような奴は珍しい。
人に本気で優しくしようとしたり助けようとしたり
見てて痛いほどに純粋だ。
その分・・・・・
犯し甲斐があるというものだ。」
信長の声が、言葉が、残酷に秀吉の脳に響く。
秀吉の瞳には涙が浮かんでいた。
「あ・・・・あ・・・・・・・・・あああああ・・・・。」
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