パブロックナイトに行った

by トラヴィス・川北(ワタナベマモルオフィシャルページ管理人) 




 服を着たままベッドに横たわっていた。なんだかとてもだるかった。
 時計を見るとそろそろ夜の11時になろうとしている。そろそろ出かける準備をしなくちゃいけない。

 仕事は今日で辞めた。最後の仕事は、2ヶ月遅れで入ってきた後輩達に自分がしてきたことを伝えることだったが、途中から上司が割り込んできてどうでもいいことを言い出したので、最後の最後まで気持ち良く終われなかった。残念ながら、彼に尊敬できるところを発見することは、結局全くできなかった。あとはおざなりに事を済ませて、誰に挨拶をすることも無く、午後2時に勝手に退社した。
 せめてもの気持ちの表現として、今出てきた会社の扉に向かって中指を突き立てて「ファックユー」とつぶやいたが、いくら年をとっても、どんなに知識を積み重ねても変わらない自分の愚かさにかえって腹がたってしまい、悔しさがこみあげてきた。

 ベッドから起きだして、アディダスのパフォーマンススタイルのショルダーバッグにキャノンの重たい一眼レフとストロボを詰め込んで、マグナムのハイテックブーツに足を突っ込んだ。このカメラが使われるのは本当に久しぶりだ。最後に使ったのは、ワタナベマモルのCD「ロックンロールヒーロー」の発売を記念したライブの時だったから、ほとんど1年間使っていない。

 電車を乗り継いで新宿に着いた。歌舞伎町はいろいろな種類の人間でごったがえしていた。蒸し暑いような肌寒いような妙な気温。
 2・3件の暴力沙汰の脇を通りすぎ、声をかけてくる客引きをかわして、少し迷ったが「ロフトプラスワン」に着いた。扉を開けたら、ロックが聞こえた。店員らしき人物に自分が何者か伝えて会場に入る。DJブースではワタナベとエンディーがDJ機材のセットアップをしていた。手を振って挨拶をしたら、ワタナベが手を振りかえした。ちょっと嬉しそうな顔をしたように見えたので、なんだかほっとした。不思議な気分だった。

リハーサル風景。写真右側、会場の奥が畳の席  リハーサル風景。アナログプレーヤーの針圧にこだわるワタナベ


 初めて見るロフトプラスワンは面白い造りになっていた。
 入り口を入るとすぐに目に付くのは、細い鉄骨で組まれたロフトで、そのあたりの壁は本棚になっていてたくさんのコッミクスで壁が見えなくなっている。ステージの右側のホールの一番奥には畳の席があり、ステージの反対側の奥はカウンターがある。天井にはミラーボールも備えた照明機材とボーズのスピーカーが6機。床は昔の新宿ロフトを思い出させるかのように、白と黒のPタイルで市松模様があつらえられていた。
 DJブースとなっているステージの後方には小さなスクリーンが吊られ、DJ機材は赤いボードで見切れないようにされていた。広さの割には高めのステージは、レンガのような装飾が施されていて、全体的に落ち着いた雰囲気をかもし出していた。いや、小屋全体が落ち着いた雰囲気を持っていると言ったほうが正確かもしれない。

 12時を回るとリハーサルも終了。ワタナベだけがステージに残り、客電が落とされた。ワタナベはそのままレコードを回しつづける。お客が入場し、それぞれがそれぞれの場所に落ち着く。

 隅っこでカメラをかまえていると、チャットの常連の人が声をかけてくれて、ファンキーな差し入れをくれた。
 忙しくてワタナベのホームページを頻繁に更新できなかった間、チャットや掲示板にいろいろ書き込んで盛り上げてくれた人だ。「あとで酔っ払ったらまた遊んでください」と言ったら、彼女は友達と一緒に自分の場所に帰って行ったが、この日彼女達を再び見つけることはできなかった。

ワタナベ1回目のDJ   それから、同じ角度でばかり写真を撮っていても変化がないので、ステージの向かい側のカウンターのところに移動した。ついでにカウンターでバーボンを注文。今日の一杯目は、店員いわく「多めにしときました」というストレートのジャックダニエルズ。

 お客の数もだんだん増えて、DJイベントっぽい雰囲気になってくると、ワタナベは曲に合わせてハーモニカを吹くまねやギターを弾く真似をする。ほとんどのお客はそれを観ながらリズムに合わせて体を動かしていた。
 ワタナベはステージ中央のマイクをつかんで
 「パブロックナイトにようこそ。今日はブルースを中心にかけたいと思います。まったりといこう。」
と軽く挨拶して、またレコードを回す。お客をひとあおりして「ダンス天国」をかけて、マイクを持ってシャウト。この時、客席はちょっとしたライブ会場のようになった。

 やがて本日の2番手ランブルのエンディー氏の登場。
「今日はパブロック初級講座。パブロックが何かわかる曲をかけます。」
と言って始まったエンディー氏のDJは、あおるワタナベとは対照的に、まるでパブロックの求道者ように真剣な顔をして、座ったまま曲をかけていた。

パブロックナイトへようこそ  それからワタナベに誘われて楽屋へ。楽屋は広々としたバーになっていて、飲み物も注文できる。
 手帳にこのイベントで今まで見てきたことや感じたことをメモした。そして、バーボンのストレートを何杯かお代わりしなががら、ウーロンハイを何杯も飲んでいるワタナベに「ワタナベ的パブロックとは?」ときいてみた。
 いつものようにとりとめの無い話の中でワタナベが言ったことを要約するとこんな感じになる。
 「自分にとってのパブロックとは、場末の酒場。酒が飲みたくなるような、湿り気のあるブルースやソウル。
 『パブロック』というムーブメントでくくられるイギリスのある時代のロックだけということではなく、本当に自分が楽しめる音楽。」

 また、DJイベントで音楽をかけながら、お客にアピールすることについてたずねると、
 「曲を知らない人でも楽しんでもらえるように」
 とのことだった。ただ酔っ払って気持ち良くなってるだけではないのだ。(酔っ払って気持ち良くなっている部分は多分にあるように見受けられるが・・・)

DJワタナベ  DJワタナベ


 そんな話をしているうちに、会場ではDJがナニーキクチ氏にバトンタッチ。ワタナベともども会場に出てホールで一暴れ。もやもやした気持ちをバカ踊りで発散する。お客はそれなりに盛り上がっていたが、こんなバカ踊りをしていたのは自分だけだった。みんな自分で楽しむ方法を知っている。

楽屋の様子  ここで1回目のDJを終えた、主催者のエンディー氏に話を聞いた。エンディー氏に声をかけたら、彼はこちらのことを全く憶えていなかったので少しだけ悲しかった。

 エンディー氏によればこの企画の意図は、良い曲のたくさんあったパブロックというジャンルを、もっと多くの人に理解してもらいたいということらしい。
 パブロックは、パンクロックの前身ともいわれているが、ムーブメントとしてのの注目度は低く、時代の狭間にいた不運なジャンルに見えてしまうので、もっと聞いてほしいとのことで、また、パブロックから影響を受けている日本で活動中のバンドにも興味を持ってほしいとのことだった。

 また、日本の曲をイギリスの友人に聞かせたところ、その友人は大げさなメロディー展開に露骨に拒絶反応を示し、
「これはイエローの曲だ。」
と言ってバカにしたということも語ってくれた。エンディー氏は、そのときシンプルなロックの大切さを痛感したらしいが、おそらくそのときに
 「曲がだせえってのは許せるが、その『イエロー』って言い方は許せん!」
 と言って、突如ブルースリーと化し、全極東アジアの代表として、怒りの鉄拳でその友人を血の海に沈めたに違いない。エンディー氏には、それくらい期待できそうだ。

 今後のこの「パブロックナイト」の展開としては、単なるDJイベントということだけでなく、バンドの演奏も行って行く方針で、次回11月6日のパブロックナイトでは奈良から「まぼろしハンターズ」というバンドを呼ぶことが決定していることを教えてくれた。このバンドは「パイレーツ」というパブロックバンドの影響が強いらしい。
 また、ワタナベとエンディー氏で「パブロックオールスターズ」というユニットを組んで、次回のパブロックナイトで演奏を行うということも、あわせて教えてくれた。

客席で踊るワタナベ  そうこうしているうちに、DJは4番手のジェームズ氏(ストリートスライダーズ)にバトンタッチ。ブロックヘッズを中心とした渋めの選曲に何か感じたのか、ワタナベは楽屋を飛び出してホールに出て行った。

 夜は「まったりと」朝に向かいつつある。踊り疲れたらそこいらに座って、酒でも飲んでればいい。お客の大半は女の子で、たまに見かける男性客は本当に音楽だけを楽しみに来てるみたいだ。やってるほうも来てるお客も、みんなロックが好きでどーしょもない愛すべきやつらばかり。ここは歌舞伎町で一番安全な場所じゃないのかなんて考える。

 DJは5番手のパッチ氏にチェンジ。こちらは気持ち良くロックを聞きながら、バーボンで消化器系統のアルコール漬をつくりながら、ラッキーストライクの煙で呼吸器系統の燻製をつくる。忘れるために生きてるわけじゃないけど、忘れたい事だってたくさんあるんだなんて、すっかり酔いの回った頭で考えたりする。


 DJも一巡して、2回目のワタナベの登場。手にはもちろんウーロンハイのグラス。
 楽屋から出て、ワタナベのDJを観ていたら、女の子が話し掛けてきた。「ロックンロールかパンクがかかると思い切り乗れる」と言ったその娘とダンスをしたが、またバカ踊りをかましてしまい、すぐにあきれられたようだ。イワシマ君(DAViESのベースのイカしたオヤジ)とダンス合戦してるわけじゃないのだから、もっと相手のことを思いやらなきゃいけないと反省。実は女の子とダンスするなんて、この時が初めてだったんだ。

 ワタナベに代わり、再度ナニーキクチ氏の登場。
 お客もこのころになると、さすがに疲れているようだ。それにとても眠い。午前4時ちかく。
 ステージを降りたワタナベが
 「もっと盛り上げよう。」
 とステージに上り、ナニー氏がフィールグッドを中心とした曲をかけている横でアピールしまくる。
 さらにワタナベは、CCDカメラの仕込まれた丸いすにの下にもぐりこんで、スクリーンに自分の顔やレコードジャケットを大写しにさせる

DJ:ナニーキクチ氏  DJ:ワタナベとパッチ氏 


 倦怠感と眠気とロックンロールとナチュラル・ハイとアルコールといろいろなものが入り混じりDJイベントは続いた。
 パッチ氏の2回目のDJの時には、エンディー氏がCCDカメラを使って、かけている最中の曲のレコードジャケットや歌詞をスクリーンに映し出したりした。大江信也(ルースターズ)の顔がスクリーンに映し出されたときには、やけに懐かしい気持ちになった。そういえば、ルースターズなんて、もう何年もレコードジャケットすら見ていない。

 ジェームズ氏は、やはりブロックヘッズ中心のマニア心をくすぐる憎い選曲で渋く決めた。

 そして最後のDJエンディー氏から、全員参加のDJ大会へ。イベントは非常にアットホームな雰囲気で幕を閉じた。


 お客が出てしまってから、ワタナベに誘われて、なぜか打ち上げにも参加してしまった。DJの人達は、やはり音楽の話をしているととても楽しそうだ。またここでもバーボンを飲む。もうすっかり朝なのに。

 それから、ワタナベといっしょに朝日のまぶしい近くの公園でビールを飲んだ。ワタナベのおごりだ。ここで自分は、自分が仕事を辞めたことに関して詳しいことを聞いてもらった。仕事自体は面白くて好きだったんだけど、もう続けていけないことを。話したら、なんだかすっきりした。友達は大切だ。本当に。

 「どこか店やってないかな?」
 とワタナベが言ったので、24時間営業の店があることを思い出し、職安通りまで歩いた。途中、交番の脇に止められたパトカーに、頭を包帯でぐるぐる巻きにした若い男が乗せられるのを見た。
 職安通りは、自分のテリトリーだ。ここには24時間営業の韓国料理店がいくつかある。
 そのうちの一軒に入り、ウーロンハイを飲みながら食事した。ワタナベは韓国料理をえらく気に入った様子だった。とくに「ジャガイモのチヂミ」と「豚のロース焼き」がうまいと言っていた。
 腹いっぱいになり、再び歌舞伎町に戻ってワタナベと別れた時には、もう9時を回っていた。ワタナベは近くに自転車を置いていたのだ。
 朝の太陽が目に突き刺さる中、新宿駅に向かって歩いていると、自転車に乗ったワタナベが追いついてきた。もう一回挨拶をした。
 「また近いうち遊びに行くよ。」


 新宿駅に着いた。駅の横のイベント広場では、日本テレビが何かのイベントの準備をしていた。
 新宿通りはすでに人であふれ始めている。とても暑くなりそうな天気だ。今日から普通の人は3連休になる。自分はこれからしばらくずっと連休だ。

 ものすごい睡魔に襲われながら、「タフになりてえな」とつぶやいた。ロックが好きで良かったと思った。


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Auther: Naoto Kawakita
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