人気作品に法則ってあるの?

COLUMN

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初稿:2001/4/26(最初に書いた時から、1年も放ってましたね)
新規:2002/3/29
追記:2002/5/08 …電機メーカーの年収に関して
補注:2002/11/29
 
 気象精霊記よりもあんてぃ〜くシリーズの人気が高いらしい。この状況を不思議に感じている読者が多いようですね。そこで、ちょっと人気って何なのか、作者が日ごろ感じていることをダラダラと書いてみたいと思います。
 
人気作品って何!?
 作家という仕事をしていると、つい人気って何だろうかと考える時があります。
 話題になっている本が、拙著より売り上げ部数が少ないと知った時。逆にまったく話題になっていない本が、拙著の何倍もの売れていると知った時。そんな時に世間に流れている評判と売り上げのズレを強く感じて、人気って何だろうかと考えてしまいます。
 
広告が人気の火付け役?
 何度も広告が打たれて、見る間に売り上げを伸ばす小説があります。テレビで話題になって、本屋に大量に並ぶ小説もあります。中には評判が評判を呼んで、1巻だけで売り上げが100万部を超える本があります。
 ところが、評判倒れやカラ人気の小説も少なくありません。第1巻は実売部数で68万部を誇ったのに、続巻は何度も広告を打ちながらも、結局6千部そこそこという惨澹(さんたん)たる結果を残した小説もあります。
 ある小説は、話題沸騰ということでOVA化が決まりました。その時の発行部数は5巻までで24万部。実はこの数は、同じ5巻まで出ている気象精霊記よりも少ないのです。ところが、アニメが完成して売り出される頃には、話題性のためか増刷を重ねて52万部(5巻まで)に達していたそうです。この小説はそれが起爆剤になって、今では広告がなくても高い人気を誇っています。
 そう考えると、本当に『人気』って何なのでしょうね。
(註:刷り部数は広告によるものなので、多少の誇張があると思います。また実売部数とも違います)
 
売れてるから人気があるの? それとも人気があるから売れてるの?
 話題性に満ち溢れ、根強いファンを持ちながらも、売り上げ的にはサッパリな作品があります。逆に話題性も評価も乏しいのに、何故か多く売れている作品もあります。この疑問はニワトリとタマゴの問題とは違い、例外がある分だけややこしい難問です。
 それはともかく、小説を世に出すことは慈善事業ではありません。利益を出すためにも、売れる作品を生み出す必要があります。これは、すべての作家に与えられた最優先課題であり、編集部にとっては義務です。
 しかし、どうすれば売れるのか。この答えは、まだ見付かっていません。
 あるとすれば経済学者の云う「売れる作品を作れば売れる」でしょうか。
 
人気作品を生み出す条件?
 以前、少年ジャンプで「友情、努力、勝利」が人気作品を作る条件だとして、すべての作家にその3条件を作品に盛り込むように指導をしていたことがあります。確かにその方針で売り上げ部数を伸ばしているように見えた時期がありました。しかし、1994年末の約653万部を頂点に、その後は急降下しています。急降下が始まった理由は、当時人気のあった「ドラゴンボール」「幽★遊★白書」「スラムダンク」の3大連載が相次いで終了したためだと言われています。ただ、その後も3条件を作品に盛り込ませる方針を変えなかったため、同じような作品が並び、公称で4割もの読者が離れる結果となりました。
 上の3つの条件は、理屈としては正しいかもしれません。しかし、すべての条件が入っていない作品でも、面白いものは面白く、3条件がすべて揃っていても、つまらない作品はつまらないのです。
 しかし、出版界には少年ジャンプの一時的な成功に端を発した3条件神話が、今も根強く残っています。「恋愛、成長、冒険」「強大な敵、友情の芽生え、苦労の末の勝利」など、変形した条件が闊歩しています。
  
万人向けの小説は必要か?
 理想論からすれば万人向けの作品を書けば売れます。でも、万人って何でしょう。少なくとも平均値は非常識です。
 たとえばサラリーマンの平均値は、35歳、年収800万円、電機メーカー勤めです。でも、現実の電機メーカーは国際競争にさらされているため、割合に高い給与の技術者でも、せいぜい500万円ほど。若くして部課長になった人でも、35歳で800万円は望めません。第一、35歳で年収800万円を超える人は同年代の就労者全体の、わずか3%しかいません。しかも、そのほとんどは起業家や特別な資格の持ち主で、普通のサラリーマンではありません。
 これと同じで、読者に平均値を設定するのは無意味です。特にライトノベルは小学生から成人までの幅広い読者を相手にするのですから、なおさら平均的な読者像を設定することは困難です。
 
 それに万人向けに書くことに、何の意味があるのでしょうか。少し考えてみましょう。
 その前に出版界での売り上げの話題をします。小説の場合、最新刊の売り上げ4万部が売れっ子の条件です。1冊当たり7万部でヒット作、10万部なら大ヒットです。
 ここでライトノベルの読者層を考えます。中心となる年代は、中学高校大学生。1学年120万人と想定して、10学年で1200万人です。この中の1%でも、12万人もいるわけです。
 そこで、その1%の人たちが好む作品を想定します。当然、似た傾向の作品を書く作家がいれば、その人とのシェア争いになります。あとは強い個性と知名度の勝負でしょう。
 しかし、個性が強くて似た作品がないとしたら、12万人が丸々読者になり得ます。あとはその読者たちが、作品に触れる機会があるかどうかです。個性的な作品が話題になった途端、すぐにヒット作になる理由がよくわかりますね。
 そう考えると、多くの読者を得るためには、競争相手のいない分野を開拓するのが一番となります。その分野に興味を感じる人が多いほど、多くの読者が待っているのです。
 もっとも、言葉で説明するのは簡単ですけど、新分野の開拓は作家にとっての永遠の課題であり難問ですけどね……。
 
多様化が進んだ時代では、一人一人の生理に適った小説が一番……かな?
 売り上げを伸ばすために、出版社では作家に多くの要求や注文を出します。しかし、要求や注文のつけ方によっては没個性な作品が乱立して、自分たちの首を絞めることになります。むしろ個性の強い作家の場合は、好きなように書かせた方が作品の多様性が保たれ、ニッチ戦略の観点からしても売れるのではないかと思います。
 と言っても、細かい要望を受け入れて書き始めたあんてぃ〜くシリーズの方が、3巻以降好き勝手に書いている気象精霊記よりも上という事実を考えると、あまり大きな事を言えないような……。(苦笑)
 ちなみに気象精霊ぷらくてぃかにも要望は出されてますけど、あまり受け入れると本編との食い違いになりますからねぇ〜。話は聞くけど反映はちょっと……。
  補注)気象精霊記は連載&ドラマCD発売の影響で、2002年7月にあんてぃ〜くの刷り部数を越しました。
     同8月には売り上げも逆転した模様です。
 
作品の勝負は3冊目
 さて、前に1冊目に比べて2冊目が……という話題を挙げましたので、最後にその話題で締めましょう。
 当然のことですが、シリーズ物は最初の1冊目がもっとも発行部数が多く、それ以降は徐々に少なくなっていきます。何かの本で読んだのですが、2巻は1巻の7割を超えれば及第点だそうで、以降は前の巻の1割ずつ発行部数が減っていくそうです。しかし、3巻で激減する場合があります。これは2巻は期待で買うものの、そこで見限る場合が多いためだそうです。要するに、
        第1巻……お試し版  面白いかどうか、試しに手に取ってみる本。
        第2巻……期待込み  第1巻からの期待で買ってみる本。
        第3巻……ファン専用 その作品を本当に気に入った読者だけが買う本。
 ということですね。これはシリーズ物に限らず、新人作家にとってはそのままデビュー後の冊数に置き換えられます。
 ちなみに私が作家として3冊目に世に出したのは、ラジカルあんてぃ〜くの第1巻でした。売り上げが落ちるかもしれない3冊目。しかも、落ちる可能性の高い新シリーズということで、編集部ではかなり神経をピリピリさせたようです。もっとも、フタを開ければ連載効果が手伝って、最初の配本分は数日で本屋から消える良好ぶり。3か月後には2割、更に1年後までに5割を増刷する勢いで、完全に独立したシリーズとして足場を築きました。
 最後に、シリーズ別の減率を公表しておきます。気象精霊記の1巻に対する2巻と3巻の比は0.80/0.73ラジカルは同0.87/0.76です。これをどう解釈するかは、この記事を読まれた方にお任せしましょう。
 

電機メーカーの年収に関する補足
 たとえばサラリーマンの平均値は、35歳、年収800万円、電機メーカー勤めです。でも、現実の電機メーカーは国際競争にさらされているため、割合に高い給与の技術者でも、せいぜい500万円ほど。若くして部課長になった人でも、35歳で800万円は望めません。第一、35歳で年収800万円を超える人は同年代の就労者全体の、わずか3%しかいません。しかも、そのほとんどは起業家や特別な資格の持ち主で、普通のサラリーマンではありません。
 上記の部分に関して、実際にメーカー勤めの方から「低すぎませんか?」「そんなにもらってないよ!」という声や、就職活動を控えた方から「本当に、そんなに悪いの?」という疑問がメールで寄せられました。
 中でもお勤めの方からの声には、予想外の企業間格差に驚かされました。
 まず有名大企業の方から知り合いに年収1500万円の技術者がいるというメール。中堅上場企業の方からは残業手当が消えて年収が300万円を割ったというメール。同じ技術者でありながら、恐ろしいほどの企業間格差があります。ちなみに中堅企業の方からは、30代で部長になった人でも年収600万円はないとか…。いやはや、なんともコメントのしづらい実態です。
 私が情報源にしたのは、連合や経済誌の発表する社員の平均給与です。その金額は名目では平均値で、一見すると横並びです。ところが、その実態は「最低保証賃金」「パート込みの平均」「(正社員)給与の理論値」「会社の努力目標値」など、「何、これ!?」と言いたくなるような内容。どうやら社会に出廻る数値は、情報源に実態のない胡散臭そうな内容のようです。
 ……で、結論。電機系技術者の給与は、一部では国際水準に見合うほど高い。上に書いた年収800万円は望めないという記事は、実例がある以上は間違いでした。でも、電機メーカー社員の平均年収は、サラリーマン平均の約6割。と言うことは、その他大勢の技術者は、平均的なサラリーマンの6割未満の年収であろう。……と言うことでしょうか。
 もっとも、お勤めの技術者5人のサンプル数では、この結論が何処まで当たっているのかはわかりませんけどね。
 
 そうなると、正しい統計は誰が把握しているのでしょうか?
 源泉徴収があるので、税務署が知っているという意見が寄せられそうですが、それは企業が正しく税務申告をしている場合です。
 私の知っている不正行為ですが、一度社員に給与として支払った一部を、事業協力金(敢えて減給とは言わないで)として回収する方法です。これは社員からの寄付行為ですので、税務申告すればその分が戻ってきます。でも、それを社員が知らないでいると、本来会社が支払う分まで余分に税を支払わせられるんですよね。会社は一度給与として支払ったことで、経費精算してますので、差益分だけ税負担が軽くなるわけです。
 サラリーマンの多くは年末調整だけで、確定申告をしません。仮にしたとしても、税務署は低い額での申告ですので、税務査察の対象外にしないでしょう。つまり、発覚の惧れは低いと言えます。悪い経営者にとっては、やりたい放題ですね。