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最終更新日:2011年9月29日
 
作家は読者の純粋な反応が知りたい
 作家にとって、本の売り上げだけでは読者の気持ちがわかりません。
 作品は読まれたのか。途中で放り出されなかったか。何も反応がないと、不安でしょうがないのです。
 メディアから『話題の本』とされて何十万部も売れた本が、続編では数千部しか売れなかった。そんな事実を知っているだけに、読者からの反応がないと不安になります。
 そこでネットで感想を探し回ることもします。
 
 とはいえネットの感想では、なかなか純粋な感想に出会えません。
 適当に読んで書かれた適当な感想。作家志望者がやってしまう現役作家へのねたみが生んだ重箱の隅を突っつく悪意の感想。自己顕示欲から何でも批判することがクールでカッコイイと思っている人の感想。等々……。
 またブログという便利なツールができたためにネットに出回る感想が増えましたが、残念なことに人間の心理として、良かったと思うものを語るより、悪かったものを語る傾向の方が強いようです。こういうノイジーマイノリティ(うるさい少数派)の感想は、作家にとって気分を悪くするものでしかありません。
 ネット上で多くの人たちが悪いと批判する本ほど売れる。本の売り上げには、こんな困った傾向があることも、ネットではなかなか純粋な感想と巡り合えない。そんな状況を示してるように思います。
 
 ということでネットではなかなか純粋な感想とは出会えないからこそ、作家はファンレターやファンメールによる感想を欲しています。中でもファンレターは、読者の反応がもっとも作者に伝わる媒体(ばいたい)です。
 
ファンレターは、どのくらいの人が書いてるの?
 さて、実際にどのくらいの人が書いているのでしょうか。正直言って、よくわかりません。
 まず私がデビューした時(1997年)、他の人たちと比べて反応が大きいと言われました。でも、その数は1000冊売れて1〜2人程度です。なので、平均的なところは読者1000人に対して1人ぐらいかもしれません。
 また知名度が上がると反比例するように部数に対するファンレターの数が減ります。これも連載を経験した頃から急減したので実感しました。それに加えて最近の数年はインターネットの普及が進んだためにファンメールで済ませる人が不増えて、これでもファンレターは激減しています。
 
 現在届くファンレターはデビュー時の2割に届かないぐらい。ファンメールと合わせても3分の1程度です。
 読者1万人のうち5〜6人ぐらいという感じです。
 
本に挟まれてるアンケートハガキは、作家さんも見るの?
 アンケートハガキはプライバシーやセキュリティ等の問題から、作家が目にすることはありません。せいぜい感想に際立った傾向があった場合に、担当の編集者さんから伝聞の形で聞く程度です。
 どうしても作家本人に感想を読んでもらいたい場合は、お手数ですがファンレターかファンメールで伝えるようにしてください。
 
 だからと言って、アンケートハガキに感想を書くのは無駄ではありません。
 気象精霊記の初版の時、発売から半月で300通のアンケートが返ってきて、年末までに1000通を超えていたそうです。その一方で発売当初の売り上げは伸びませんでした。反響の大きさと売り上げの乖離(かいり)が大きいため、営業では重版の判断や続編 の判断にかなり悩んだそうです。
 そのような状況でも続刊の企画にGOサインが出たのは、アンケートハガキによる反応が良かったおかげです。ありがとうございました。
 
 余談ですが。(2011年9月29日追記)
 SDのどらごん・はんたぁでも反響の高さと売り上げが大きく乖離する現象が起こりました。こちらは3巻までで一度閉めて、様子を見るということで止まりました。
 
作家にとってファンレターはやる気のもと
 内容は何であれ、とにかくファンレターが届くのは嬉しいものです。文章に詰まった時などにファンレターを読み返すと、また文章が進んだりします。作者にとってファンレターは、まさしくやる気のもとです。
 作家にとってのドーピング──一種の麻薬なのかもしれません。
 
 ただ、人には慣れという厄介なものがあるため、1人のファンレターだけでは時間が経つと効力が薄れる贅沢なところがあります。好きな曲でも何度も聴いていると飽きてくる。そんな心理と同じですね。
 だからこそ多くの読者さんから「手紙(ヤク)をくれぇ〜」です。(危ない!)
 
編集部では人気のバロメーター
 出版社に届いたファンレターは、一度編集部に集められます。そのファンレターから、編集部では売り上げ部数やアンケートハガキからはわからない、作家の将来性を読み取ろうとしています。
 売り上げ部数は、作家の今の時点での人気であり知名度です。しかし、部数だけでは読者の姿はわかりません。そこで編集部も、その情報源をファンレターに求めています。
 若い読者は移り気で、気に入らない作家はサッサと見捨てます。逆に気に入った作家は友達に宣伝するし、別の作品にも積極的に手を伸ばします。つまり、若い読者のファンレターからは作家の将来性がよく見えてきます。
 逆に成人した読者は、シリーズが続いている限りは惰性で買ってくれます。その反面、新しいシリーズには、なかなか手を伸ばしません。つまり、読者の年齢層が高い場合は、作家の安定性が見える一方で、新シリーズの予測が難しくなります。
 ここから若い読者が多ければ売れていても短いシリーズを立て続けに出して読者の流入をうながし、反対に成人した読者が多い場合はシリーズが売れてる間は長く続けさせる戦略を立てることも可能です。
 ただし、女性の読者が多い場合には「娘と一緒に読んでま〜す」という場合があるため、安定性と将来性の両方が見えるらしいのですが……。
 まあ、とにかく1枚のファンレターでも、編集部には情報の詰まったカンヅメなのです。