同人誌 木之花
偶数月の第2金曜日に港区乃木坂で行われる三遊亭栄楽独演会にあわせて発行される同人誌です。

夢の同人誌 「木之花」 三遊亭栄楽
落語を演じその出来不出来はお客様の反応ですぐに判るものであるが、文章は少々時間がかかり判りにくい。人前で話すのが本業であるが、神社界の業界誌に計八回の連載をしないかという話が舞い込んできた。しかしそう安々と承知は出来なかった。というのは激しい教訓があったからだ。文字を書くのは落語及び、枕(落語の本題に入る前の本題にあった現在の面白はなし、前振りをいう。)を作る時に行う事であるが、原稿用紙に何枚と言われるとドキッとするのである。どうも学生時代の卒業論文を思い出しているのだ。国文学科で卒論は奈良時代の文学『万葉集』『古事記』などと同時代の『高橋氏文』の成立年代について原稿用紙に三十三枚書いたのであった。内容は簡単、高橋家の祖神の磐鹿六狩命が景行天皇に随行し東国の浦賀水道を船で渡ろうとすると、船が浅瀬に乗り上げた。その時に蛤と鰹を得て料理をし、天皇に差し上げたといものである。そんなことから一流料理屋の神棚にはこの神様が祭ってあるはずであるが、この卒論を毎年提出できず、またクリアせず、卒業できない人が100人中4、5人はいた。噺家に成る事を決めていたから、どうしても卒業しなければならなかった。書けなくて書けなくて苦労したものだった。卒業して十年間は夜中目覚め、卒論は大丈夫かと起き上がった事が何度もある。それくらい追いつめられていたのであろう。そんな事で軽く引き受けられなかった。しかし背水の陣、清水の舞台から飛び降りるつもりで書く事にした。
文章というのはテーマにあわせて、今までの記憶を整理するようなものだ。ネタは無数に有るが整理するのに時間がかかる。色々と感情はあっても文にすれば一行で済んでしまったりする。落語もそうであるが、ただ喋ればいいということではない。その言葉から気を発していなければならない。何かを伝えようとしているものがないとお客様を引き付ける事は出来ない。文も全く同じであると気付いた。よくタレントと称する人達が本を出し、後である箇所を取り上げられ、騒ぎになり、その真意を問われて「こんなことよく書きましたね!全く情けない」と言ったりする。あなたが書いたんだろう!と突っ込みたくなる。著者が知らないのである。影のライターが居るのだ。当人に適当に取材をして後はいいように作り上げる。著者たる人はどのような内容か知らないし、このような内容の本が出来ました目を通してくださいと言われても見ていないのだ。自分で書かないから楽なのであるがそんなミスも出てくる。
自ら書く事は大変な事であるがそれなりのものがある。なんといっても思考性、練り上げたもの、人間の深みとでもいおうか、顔にいい年輪として出てくるのだ。「顔は履歴書」というがあれだ。他人に書かせた者の顔と言うのは見ればすぐに判る。もう口では言えないシドイものだ!栄楽にライターは存在しない。書く者も居なければ火の方もない、正真正銘の栄楽の文だ。その証拠に顔にいい年輪が刻まれている。ご存知の通りだ。
計八回のエッセイと主張を書き上げるには、日程を区切られ時間とエネルギーを注ぎ込んだが、このエネルギーは消耗ではなく、自らを知り噺家の初心を改めて心に刻めた。だからかえってエネルギーが増幅したように思えたのだ。八回終えた時に、編集者に延長して書かせて下さいと頼んだほどだ。どうも虫が治まらないのだ。書きたくなった。書かなければならないと思ったのだ。それで同人誌だった。
格好のよさというのは個人差はあるが、中学高校と成長するに従って外見から内なる物への魅力、知的なものへの憧れを持つように成った。芸術家と称される人達、小説 美術 音楽 芝居 映画等これらに手段として人間、自然を表現しようとする、創作する人達、特に物書きに引かれたのであった。そのような人達が集まり、飲みながら「芸術を人生を」語り合う。いいと思うのである。そしてそこから同人誌が生まれる。モノクロの写真に著名人が写され、その写真の下に世に出る前の小説家ダレソレ詩人ダレソレ画家ダレソレ噺家だれそれ、噺家はいないが、そう紹介されているのを見ると自分もその中に入りたい。その一人になりたいと思った事だった。これが東京へ噺家へと走らせた要因であろうが、同人誌を作りたい、そして本にしたいのだ。
人間の究極の幸福感と言うのは人に何かをして差し上げ、喜んでくれた時、気持ちが通じ合えた時、喜びが共有できた時にあると信じている。落語もこの定義の中に入っていると思っている。だから自らも幸せを感じるし、お客様もそうであると思うが、その喜怒哀楽、人間というものを同人誌で文字にしたいのである。
人間は自らと同じ人達を求め続けているに違いない。噺家に成って十六年目、表現しようとしている手段は違っているが同じ人達が栄楽の回りにいてくれるように成った。落語会が終わるとかたずけを手伝ってくれる。座敷で一杯やる。色んな業種の人達だ。きっと夢に近づいているのだろう。近づいているに違いない。いいぞ栄楽!その調子 その調子。あなたもモノクロの写真に入らないか。
同人その1 藤井武美
藤井武美劇場と銘打って四コマ漫画を連載中!また栄楽独演会のビデオカメラマンでもある。一筋縄には行かない人だ。
同人その2 朝井朝冶 その3 谷賢二
同人その4 田島昇一
同人その5 太田龍彦
同人その6 須田一郎