始めて舌に違和感を感じたのは2003年9月頃で、口内炎が舌の根元に出来ている事でした。
よく口内炎は出来るほうだったので、3ヶ月程そのまま放置して様子をみていました。
薬局で買った口内炎用の薬を塗ったり、ビタミン剤を飲んだりしましたが一向に治らず、痛みが増し、傷口が徐々に大きくなっていきました。
気がついたら、傷口の穴が大きくほげたようになっていました。
これはなんか変だと思い、正月明けの1月に総合病院の耳鼻咽喉科を受診しました。
そこで直ぐに細胞診を行いました。
これは舌へ局部麻酔を行い、傷口の組織をメスで数ミリ削り取り顕微鏡で検査を行うものです。

1週間後に検査結果が分かりました。
医者から「嫌な事はお一人で聞きたくありませんか?」「大丈夫ですか!」と言われました。
最初は何を言ってるのか、意味がわからずにとりあえづ「大丈夫です。」と笑顔で言いました。
そしたら医者から「癌です。舌癌です。」と言われました。
いきなり、癌と告げられあっけない感じでした。
よくドラマとかであるように家族が大泣きしての癌告知のようなものではありませんでした。
かえってその時は、私もあまり深刻に考えずにすみ良かったように思います。癌なんて肺癌、肝臓癌、白血病位しか知らなかったので、まさか舌に癌ができるとは思ってもいませんでした。


1週間後に大学病院の歯学部口腔外科に入院をし、CT・MRI・PET検査・触診・内視鏡検査・詳細な細胞検査等をして癌の大きさや進行度を調べました。
また同時に手術全般に必要なレントゲン・心電図・血液・肺活量等様々な検査も行いました。
手術は全身麻酔、気管切開で行われるため、長時間の手術に耐えられるかの体力測定のようなものでした。
血糖値や血圧値の高い方等は、その悪い症状を治してからでないと手術を受けられない事もあるようです。
私の場合はとりあえず、他に悪い所がなかったので手術は直ぐにでも受けられるとの事でした。
まあ、入院はもちろん初めてですし、病院に行く事が小学校の骨折以来で健康そのものだったのですが・・・


通常はある程度癌が大きくなると外科治療(手術)を行うようです。
放射線治療や抗癌剤治療等で腫瘍を小さく(弱める)してから手術を行う事が多いようです。早期癌ですと放射線治療や抗癌剤治療だけでも治せるようです。
私の場合は進行が速く年齢が若い為、直ぐに手術をし後から放射線・抗癌剤治療を行う事となりました。猶予期間がせまっていたようです。
癌(悪性腫瘍)の大きさはそれ程大きくありませんでしたが、腫瘍の出来た場所が舌根(舌の付け根、喉側)であった為、手術では舌を全部摘出しなければなりませんでした。
腫瘍の切除範囲は、通常CT画像や触診で確認できる腫瘍範囲から約1cm程広く切除するようです。
腫瘍が細胞レベルで点在する場合に画像では分からない為、1cm程度の安全マージンをとります。その為、癌が舌の半分程度進行している場合には、舌の約2/3の切除が必要です。
また、私のように癌が舌の根元にある場合は、根元を切除するとその先にいくら健康な部分があっても血液が通わなくなる為、先の部分を残す事が出来ず結果的に舌を全摘出する必要がある場合もあります。


手術で舌を切除した後そのままでは、日常生活に支障がるので、切除した大きさに応じて胸、腹、腕の筋肉等を移植し残った正常な舌と縫合させます。これを皮弁再建術と言います。
私は、左側の大胸筋(胸の筋肉)と腹直筋(おへそ横の筋肉)で皮弁再建術を行いました。
自分の舌が少しでも残っていれば、再建術をした事で舌と呼べる物があったのでしょうが、舌の全摘出を行い舌そのものがないので、見た目は舌というよりは、下あごの筋肉がもり上った感じになりました。
再建した部分は舌の本来の組織ではない為、その部分だけで動いたり味覚を感じたりする事はありません。
私の手術では再建術の為下側の歯は全て抜歯し、上側も奥歯が左右とも2本ずつありません。再建術後の状態は、胸の筋肉を引っ張って下あごの歯ぐきに縫いあわせている状態です。
当然手術の縫合あとは、お腹から胸から首にかけて100針以上あると思います。
胸の筋肉をあご迄引っ張っている為鎖骨の部分を胸の筋肉がまたいでおり、鎖骨部分がちょっと膨らんでいます。
また左側の乳首がなくなりました。その事に気が付いたのは1ヶ月以上経過してからの事で最初はビックリしました。乳首は移植した部分にあるようです。


皮弁再建術(移植)を行いましたが、残念な事に原型の舌がないので動く事はありません。おまけに胸の筋肉なので舌の部分にはうっすらとうぶ毛が生えてます。
動かないのに何故移植手術が必要ないのではとも思いました。しかし舌は下顎の筋肉部分からあり、見た目の3倍以上なので舌を切除するとその部分がぼっこり穴が開いたようにへこみ、その後の生活に大きな支障(話す・食べる)をきたすのです。もちろん腫瘍(癌)が小さ患者は、数cmの見た目の舌の切除だけですみます。
焼肉の牛タンを思い浮かべれば分かりますが、見た目のひょろ長い舌は厚い筋肉で動かしているのです。
現在は移植手術の技術も進み、半分から2/3位切除しても多少の障害は残るが、徐々に日常生活へ支障がないレベルまで回復するようです。
ですから手術を行っても殆どの人はあまり心配いらないようです。
しかし、多少でも言語障害・嚥下咀嚼障害・手術の傷跡などが残るので、英語の先生や料理人、女性の方等は手術を選択する事は大変な問題になりますます。


手術時間は約12時間の大手術でした。
手術は気管切開(喉に穴を開けて管を通して呼吸をする)となる為、管が抜けるまで話せませんし、食べられません。
また手術後は体中からドレインと呼ばれる管(傷口に溜まった血液を抜く管)が7本程でており、鼻には栄養摂取の為の管、両腕と足首には点滴の管、ちんちんにはおしっこが出る管が入っていました。
もう全身管だらけでした。
術後毎日、少しずつ管が抜けていく事によりだんだん体調が良くなって行くのが実感出来ます。
約1週間前後で全ての管がぬけ、集中治療室(ICU)から脱出できました。


術後1週間で一番苦しいのは痰(たん)の処理です。
気管切開をしているので、自分では痰をだす事が出来ない為、看護師に喉から吸引チューブを入れてもらい痰を吸引してもらいます。
この時痰を出すのに、むりやりむせる必要がある為、傷口にひびいて痛く、痰も頻繁に出る為多い時は5分に1回の頻度で痰出しをしてました。
当然夜も痰は出るので、夜は落ち着いて殆ど寝る事が出来ませんでした。
痰の量は個人差があるようですが、ヘビースモーカーの人は特に多いようです。私はタバコを殆ど吸っていませんでしたが、きつかったです。
また、手術後の状態によっては、私のように口から食事が摂取できない為、鼻から胃にかけてチューブを挿入しそのチューブからしばらく食事を摂取する事になります。症状によっては残念ですが、ずっと管からの食事になる事もあります。その為、鼻の管はそのまま残る事となります。
また気管切開のあとが塞がれば声が出るようになりますが、残念ながら手術で咽頭を摘出された方等は声が出なくなるようです。
私は、舌がない為話はできませんが声(あー うー等)はでました。
1週間寝たきり(食事やトイレ全てベットで行う)だった為ICUから出て最初の2日位は全く歩けず車椅子で移動をしてました。
また、手術後2ヶ月間は再建手術をしたお腹や胸の筋肉が無い為に手を上げたり、起き上がったり、寝返りをうったり等の動作が非常に難しく感じました。


放射線治療は体の自由がややきくようになった手術後3ヶ月目位から首に2ヶ月間行いました。
治療は、毎回同じ場所に放射線を照射出来るようにお面のようなプラスチックの型を初めに作ります。
そしてそのお面をかぶり首を固定して放射線を照射します。
照射時間は1日1回1分弱であっという間に終わります。
照射中は特に暑いとか痛いとか全く感じません。
しかし放射線治療が進むと口内炎が出来たり、筋肉が硬くなったり、唾液が出なくなったり、表面が火傷になったり、味覚障害等副作用が徐所におきてきます。
放射線の副作用は個人差があるようですが、放射線治療後2ヶ月もすれば殆どなくなるようです。
私の場合はただでさえ手術で喉の筋肉がなくて動きが悪く、副作用でさらに筋肉が硬くなり、最後は唾を飲む事が非常に困難になりました。
放射線治療開始から1ヶ月過ぎた頃からだんだん唾液が飲めなくなり、最後のほうは、昼も夜もむせる事が多くなりきつかったです。
唾をとるのに、1日ティッシュを3箱くら使ってました。今考えると驚きです。
放射線治療中は平行して点滴での抗癌剤治療も行っていました。
薬の副作用も種類や個人差で色々のようですが、私の薬は毛が抜けたりする事はありませんが、血液の白血球が低下する副作用があったので免疫力低下による風邪などには要注意でした。


半年間(1月〜6月)の長い入院生活を終了し、その後は月に3回程通院しながら飲み薬で抗癌剤治療約1年半行いました。
また手術後は、2〜3ヶ月ごとにCT・MRI・PET検査や血液検査(腫瘍マーカー)等をして癌の再発や転移を調べ経過観察を行っています。







舌癌の治療