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 2003年日本の合計特殊出生率は、1.29ショックとさえいわれたほど低下しました。第2次ベビーブーム(1971〜'74年)の頃は2.14であったのが減少を続け、 ベビーブーマーが30〜33歳になった現在も出生率回復の兆しは見えてきません。働く女性の増加との関連も論議されますが、 もはや世界的には女性の就業と出生率の関係は正の相関が見られます。 中でも、スウェーデンは出産期(25〜44歳)の女性労働力率は84.3%と高いのに、合計特殊出生率も1.65と高いのです。
 今回は、この数字を支えるスウェーデンのシステムを、内閣府経済社会総合研究所の林伴子主任研究官が、現地での家庭生活調査を通して研究されていますので、 その結果の一部を紹介します。

1 高い女性労働力率と出生率の両立

 年齢別女子労働力率を見ると、日本では出産によって仕事を辞め、その後再就職する女性が多いのでM字型になるのに対して、スウェーデンでは育児休業等の取得により、 育児との両立を図り就業を継続しているので逆U字型で、しかも休業者を除いた労働力率の方は日本とほぼ同じになります。
 スウェーデンでは、母乳志向が強く、日本の「3歳児神話」に類似した「1歳児神話」ともいうべき考え方が存在していて、1歳までは母親が育てるべきと考えている人が多いそうです。 このため、出産後1年は育児休業をとって子育てに専念し、その後に復職して保育所を利用し、かつ勤務時間を短縮して働き、数年後に通常の勤務時間に戻るというパターンが多く、 それを可能にしているのが次のようなシステムです。
(1)育児休業
 育児休業は、出産10日前から子の8歳の誕生日までに、両親合わせて480日労働日の取得が可能です。
 その間の所得は両親保険という制度で保障されています。1974年に導入された、世界初の両性が取得できる収入補填制度です。 給付率は、導入当初は休業直前の収入の90%でしたが、その後いったん75%に削減されたものの、1998年から80%とされています。収入がない者には一定の保証額が給付されます。 ただし、給与の80%が支払われるのは390日のみで、残りの90日は減額されたものが支給されます。
 390日の内訳は、パパクォーター・ママクォーター(配偶者に譲ることができない休業日数)はそれぞれ60日ずつ、両親が譲り合える(多くは父親の分を母親が使う)日数はそれぞれ135日ずつです。 連続してとる必要はなく、また全日でとる必要もありません。親の事情に合わせて、出勤時間を全日、4分の3日、2分の1日、4分の1日で組み合わせて出勤できます。 ひとり親家庭では480日分をひとりで取得でき、また双子以上の場合、子どもひとりにつき180日が追加されます。
 通常、同じ期間には父親か母親のどちらかしか休業をとることはできませんが、子どもの出産後29日間は母親に無条件の受給権があるので、この29日間は、父親も母親と同時に休むことができます。 さらに、出産前の両親教室に参加する場合にも、この両親保険受給権を行使することができることになっています。
 給付額は、休業直前の収入により決まります。特例として次の子どもが2年6ヶ月以内に生まれた場合、スピードプレミアムが受けられます。
 これは、休業中や労働時間を短縮して復職中であっても、その前の子どもを産む前にフルタイムであった人はそのフルタイムの給与から給付額が決められるというものです。 育児休業制度が導入された当初は、1年という短い期間であったので、制度による出生率上昇の効果は見られませんでしたが、1980年に「2年以内」へ条件を変更したことにより、 出生率の上昇が見られ、さらに現在では2年6ヶ月になっています。
 両親保険の財源は、事業主の社会保険拠出(両親保険料率は2003年で支払い給与の2.20%)によります。
 この他に一時介護両親保険というものもあります。子どもや両親の病気、子どもの予防接種、健康診断などのために給付を受けながら休暇をとることができます。 また、父親による出産への立会い、家事や他の子どもの世話をするための父親出生休暇手当が保障され、利用者は少なくありません。 さらに、1歳半から8歳もしくは小学校1年終了まで、労働時間を4分の1短縮できる権利などが認められています。
(2)就学前教育
 1996年、スウェーデンの保育所は社会省から教育省の管轄に移行し、保育サービスは、就学前教育システムへと位置づけられました。 充実した各種サービスを、組み合わせて利用することで、仕事と子育ての調整を行うことが可能です。
就学前学校(1〜5歳:全日利用可):日本の保育所に該当し、利用者負担は19%(2000年)と低く、残りはコミューン(市町村)が負担します。
就学前クラス(6歳:半日利用):小学校の中に置かれ、集団生活を学ぶことを目的としています。
学童保育(6〜12歳:始業前、放課後、休日):小学校に併設されており、小学校に行く前や後に子どもが立ち寄ることが可能です。
公開児童センター(1〜5歳:2〜3時間利用):後述の保育ママや育児休業中の親が立ち寄る団欒場所として利用されています。
家庭内保育(1〜12歳:全日):子どもを4人まで保育ママが自宅で保育する制度です。
(3)勤務時間の短縮制度と早い帰宅時間
 スウェーデン家庭生活調査から女性の復職後の働き方を見ると、約6割がいくらかの時間を短縮して働いています。
 また、出産後に限らず、スウェーデンの女性全体を見ても4割はパートタイム(時間短縮労働)で働いています。 ただし、パートタイムといっても日本の非正規雇用とは異なり、スウェーデンの場合、フルタイム労働者の雇用条件と同等にその身分・待遇を保障されているのです。
 実際の帰宅時間も、女性は3時までが15%、4時までが20%、合計すると5時までには60%が帰宅しています。 男性でも約50%が5時頃までに帰宅しているというのは、日本の場合と比較すると驚きとしかいえません。もちろんこれには、通勤時間も短くてすむというスウェーデンの地域的な事情も影響しています。
(4)児童手当と住宅手当
 スウェーデンでは16歳未満の子を持つ全ての親に、所得制限なしに、第1子から児童手当(非課税)が支給されます。 これは3人の子どもがいるカップル世帯の可処分所得の約1割に相当し、2人の子どもがいるひとり親世帯の所得の約1割に相当します。
 これとは別に、子どもがいる世帯の約3割が非課税の住宅手当を受給しています(ただし所得制限あり)。

2.家族政策への財政支出

 このようにスウェーデンでは、育児負担を社会全体で担い、全ての子どもの生活を親の属性にかかわらず保障することを基本理念としています。 これに基づく一貫した子育て政策が出生率を支えているといえるでしょう。  家族現金給付・サービス費の対GDP比は、3.31%(1998年)と極めて高いものです。ちなみに日本ではわずか0.47%です。
編注 財政支出は、その国の税制等との関連を抜きには考えられません。 スウェーデンでは、現在、付加価値税25%、地方税31%強で、租税・社会保障の国民負担はGDP比50%強(日本は約27%)となっているとのことです。 また、今回の調査のうち家計についての調査では、収入の約3割近くが税負担であるとのことですから、 スウェーデン国民は、高福祉のために高負担を受け入れているということを忘れてはならないでしょう。


3.この他にもある子育てを支えるシステム

(1)サムボ制度
 1988年に施行されたこの法律は、「登録している住所を同じくし、継続して共同生活を営み、性的関係をもつカップル」を対象にしており、婚姻法に基づく法律婚と同様、サムボカップルも、 家事・育児を分担し、家計の支出を負担し合うべきことを定めています。
 サムボ解消時に財産分割の対象になるのは、住居と家財のみで、それ以外の個人が所有している全ての資産は、たとえそれがサムボ開始後に取得したものであっても分割の対象にはなりません。 この点が婚姻法と異なります。カップルに未成年の子どもがいる場合は、離別後、子どもと同居する親が同じ住居に住み続けることができます。
 また、カップルのいずれか一方が死亡した場合、パートナーが相続できるのは、住居・家財、政府が取り決めた額(2003年現在で77200クローナ、1クローナ=約15円)以下の金融資産です。 ただし、死亡前に個人財産を共有財産とする法的手続きをとっていれば、法律婚夫婦と同等の権利を得ることができます。
 なお、子どもの権利を保障する観点から、1976年に親子法が改正され、サムボカップルに生まれた子どもに対する法的差別は全くなくなり、法律婚カップルの子どもと同様の権利が保障されています。
 ただし、養育権については、法律婚カップルの離婚の場合と異なり、母親が自動的に単独で養育権を得ます。 しかし、スウェーデン政府は、全ての両親が共同養育権を持つことを奨励しており、そのように希望するサムボカップルは、 サムボ中または解消後にかかわらず申請手続きをすればすぐに共同養育権を得られます。 なお、母親が単独養育権を持つ場合でも、父親は養育費を支払わなければなりません。
 スウェーデンでは、このサムボがライフスタイルのひとつとして社会に受け入れられていて、法律婚の9割がサムボを経て結婚していますし、第一子の婚外子率は65%に達しますが、 第二子では44%、第三子では29%に減少しており(1990年現在)、サムボが法律婚に移行する前の段階として定着していることが示されています。
(2)養育費支援制度と強制徴収をする制度
 法律婚で離婚した場合でも、サムボを解消した場合でも、初めからシングルマザーであった場合でも、子と離れて暮らす親は養育費を支払わなければなりません。 額は両親が自主的に決定しますが、最低額が決められています。この額は、母子家庭の平均可処分所得の約17%、子のいるカップル世帯では約13%にあたります。 負担能力が最低額を下回る場合は、差額を国が負担します。
 親が養育費を支払わない場合、社会保険事務所が子を養育する親の申請に基づいて立替支給し、その後、支払わない親に返済請求します。しかし、回収率が低いため、 1997年に強制徴収を開始しました。国税庁に強制執行を委託し、賃金からの天引きや動産・不動産の差し押さえなどの方法で徴収し、未返済分は債務として蓄積されます(遡及年数は5年)。
 立替支給する額は養育費最低額で、支払わない親への返済請求額も同額ですが、低所得者への請求額は所得に応じて減額され、差額は国が負担します。

4.まとめ

 林主任研究官は、わが国もスウェーデンのシステムに学び、「次世代を担う子どもたちを『公共財』と捉え、子どもを産み、育てることに伴う負担やリスクは、 社会全体で支えるべきです」と提言しています。
 厚生労働省は1990年代以降、保育施設や育児介護休業の拡充等を進めていますが、出生率は減り続け、育児支援策が少子化を防ぐ実効性は上がっていない実情です。 これらの支援策をきめ細かく検討し、現実に子どもを産む世代にとって、より有用なものにまで改善していく必要があるというのが林研究官の意見です。
 就業に関する負担・リスクについては、「就業女性が労働市場からいったん退出して別の企業に再就職あるいは別の職業に就く場合よりも、職業能力の損失が小さい」という点を看過せず、 育児休業、保育サービス、勤務時間を短縮できる制度、子どもの病気やけがの際の看護休暇等、さらなる拡充の必要性を主張しています。妊娠・出産に伴うリスクには、 産前休暇、周産期医療の向上も無視できません。
 現在の日本の児童手当は所得制限があり、小学校3年まで(2004年から拡充)しか支給されません。月額で、第一子に5,000円、第二子5,000円、第三子以降10,000円です。
 最近では、それなりの収入はあっても生活の水準を落としたくないから子どもは持たない、あるいは結婚をしないという選択が増えているとも聞きますし、 幼稚園や小学校の時点で受験戦争が存在するという現実、投資しようとすれば莫大に膨らむ教育費も親となる立場とすればストレスです。
 子どもを育てる家庭の多くに、児童手当や教育費の軽減を手厚くし、親と死別・離別した場合の貧窮化リスクに対し、ひとり親家庭への支援策の重要性にも言及されています。
 このほど改正育児・介護休業法が国会で成立し、育児休業期間は最大1歳半までに延長されますし、有期雇用者は対象外だったのも、1年以上の雇用実績があり、 子どもが1歳になった以降も雇用の継続が見込まれる者も対象に追加されます。 その間の雇用保険による給付は40%です。また事業主の努力義務であった子どもの看護休暇も、年5日まで取得可能になります。
 しかしながら、制度化されても実際に利用できるかどうかは別です。 厚生労働省の2002年度女性雇用管理基本調査によると、法で権利が保障されている正社員でさえ、育児休業を取得した女性は64%、男性にいたってはわずか0.3%に過ぎません。 大企業の総合職の女性や、営業時間が長くなっている流通業で働く女性にとって、育児休業など絵に描いた餅とさえいえる労働環境が壁となっています。
 出生率の向上、子育て支援だけに焦点を当てるのではなく、社会全体も個人も、男性も女性も、働き方や休暇の取得に自由度が増し、税制・社会保障、賃金構造の面からも、 ライフスタイルを柔軟に選択できるバックアップ体制が整わない限り、容易には、幸せでゆとりのある未来を描いて子どもを持とうという選択にシフトしていかないように思います。

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