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 アメリカの司法長官や最高裁判事の顔ぶれが変わり、人工妊娠中絶や同性婚についての司法判断が注目されています。 一方、新しい家族とその同居スタイルの現状は多様化していて、今年になってからも、州の裁判所ではありますが、次のような判決がありましたので紹介します。

1 子どもの最善の利益を重視すべきとして、同性愛者の里親の権利を剥奪した下級審の決定を破棄したケース

 2005年1月21日、イリノイ州最高裁判所は、同性愛者の里親としての権利を取り消して里子になっていた子どもを祖父・継母の訴訟後見人 のもとに移すという巡回裁判所の決定を破棄しました。
 今回のケースは未成年者、A.W.は生後5日目に虐待を受けている危険があるということで母親の家から保護され、後日この母親の監護権が停止されました。
 A.W.は里親に数か月育てられた後、祖父と継母の家に移されたのですが、頭蓋骨骨折、頚椎骨折、その他のケガを負い、1年もしないうちに保護されました。 祖父母から事情を聞くと、彼らがA.W.を虐待していたことがわかりました。
 2000年、A.W.は里親であるローズマリー・フォンテーンの家で暮らすようになりました。 そこには彼女の長年にわたる同性のパートナーであるタミー・ジョンソンともうひとりの里子も同居していました。 フォンテーンはA.W.を養子にしたいと考えていました。
 2002年3月、セントラル・バプティスト・ファミリーサービスの訴訟後見人が、児童家庭福祉局の監護と後見の権利を祖父母に戻すよう訴え、 巡回裁判所はA.W.を祖父母の下に戻すよう命じました。 それに対し抗告審は一審の決定を支持したので、児童家庭福祉局とフォンテーンは州最高裁判所に上訴したのです。
 2004年、全米ソーシャルワーカー協会とそのイリノイ支部は、ラムダ・リーガルディフェンス教育基金、ノースウェスタン大学法学部児童家庭法律相談所、 アメリカ市民自由連合イリノイ支部とともに、祖父母に監護権を与えた決定に対して、法廷助言者としての立場から反対の意見書を提出しました。
 その趣旨は次の通りです。「裁判所の決定は納得しがたい。子供たちに永続性を提供すると言う理念に反する。 今日まで4年、そして裁判所の命令から2年が経過しており、幼いA.W.は安定した、そして愛情のある里親家庭で幸福をつかんでいる。 親としての十分で安全な保護のもとにあり、里親(母)やその家族としっかりとした関係ができている。 またフォンテーンはA.W.が実の姉妹ふたりとよい関係を築くようにも努めており、今後もA.W.が姉妹との絆を維持できるよう努力するつもりでいる。
 法廷助言者として、もし巡回裁判所の命令が執行されA.W.が長期間過ごした家から転居せざるを得ない場合に彼がどうなってしまうかに、 裁判所は焦点を当てるよう請願する。およそ子どもというものは、家という物理的環境における安全性と同様に、親子関係の中での安定性と永続性を必要とするものだ。 A.W.の人生初期の基本的な養育者との関係は、彼の感情面および行動面の発達に重要である。裁判所はA.W.の現在の親子関係の安定と家庭環境を、高く評価すべきである。
 セントラル・バプティストのケースワーカーは、性的嗜好を理由に里親に対して偏見を抱いていたようだ。子どもの福祉に関わる公務員・裁判所は、 個人的な偏見が子どもの最善の利益に対して歪んだ勧告をしがちであることに注意をすべきである。
 同性愛の養育者に対する根拠のない偏見や、男女のカップルのほうがよいと考える傾向が、A.W.のセントラル・バプティストのケースワーカーを仕事に駆りたてたのであろう。 研究によれば、このようなことがしばしばおこっているようだ。
 しかし、子どもの福祉においては、里親や養子縁組の際に同性愛の人たちを差別する偏見を抱いてはならないのだ」
 イリノイ州最高裁判所の決定には、マクモロワ長官が多数意見を次のように記しています。 「巡回裁判所の命令には重大な過ちがあった。巡回裁判所は、行政が認定したA.W.に対する祖父母の虐待の事実を認めなかった。 巡回裁判所は命令に際して、子の最善の利益を重要視すべきだったのだ。巡回裁判所の決定を破棄し、監護と後見の権限を児童家庭福祉局に回復させる」
(「National Association of Social Workers News」2005年3月号より)

母親の同性愛の影響の可能性は、監護者変更の事由とはならないとしたケース

 テネシー州控訴裁判所は、2005年5月31日、監護権をもつ母の性的嗜好が子の福祉に影響を与えるであろうという可能性の証拠は見当たらず、 母の性的嗜好が監護者変更の請求理由である実質的事情変更の要件を構成しているとした一審裁判所の判断は誤っているとの判決を下しました。 州控訴裁判所は、母の性的品行が子に及ぼすであろう将来の影響などというものは、一審裁判所が父からの監護者変更請求を認容する理由としては不適当であると述べたのです。
 本件夫婦の2001年作成の離婚合意書では、息子の同居親を母とする共同監護を取り決めました。 離婚成立後、母子は母の同性愛パートナーと1年半同居し、この関係が終わったあと、母は別の女性との同居を始めました。
 そのため父が8歳の息子の監護者変更を求める申立をしたのです。父は実質的な事情の変更が生じたとし、 子どもの最善の利益の観点から、母の同性愛と多数の交際相手の存在を理由に、父が監護者となるのがふさわしいと主張しました。 弁護士の助言を受けて母は交際相手との同居をやめ、まもなくその交際も終わりました。 父の申立による第一審の時点で、母には頻繁に訪れる同性の交際相手はいましたが同居はしていませんでした (父は、離婚するまで母が同性愛者であることを知らなかったと主張しましたが、母は早い時点で話していたと言っています。 しかし父は離婚後に改宗したときまで、母の性的嗜好に感心をもっていないようでした)。
 一審裁判所は、母の「あからさまに淫らなライフスタイル」によって子が影響を受けるという因果関係を示す証拠はないとしましたが、 「子が、成長に伴い母の性的嗜好とこれに関する問題に関わらざるを得なくなることは疑いがない」と講じました。 同裁判所は、既に実質的な事情の変更が生じていると認定し、父を監護者とすることが子の福祉に適うと判示したのです。
 控訴審を担当したリー判事は次の三点を挙げて論じています。

実質的事情の変更について

 論点は、母の離婚後の性的嗜好と実生活が監護者の変更の請求原因となるほどの実質的な事情の変更を構成しているか否かの点にある。 母の離婚後の性的嗜好にまだ影響を受けていないとする一審の事実認定には同意するが、母の同性愛のライフスタイルが、将来、 子に不利益な影響を与える可能性があり得るとした部分については、これを推測させる事実はない。
 親の性的嗜好は、下級審が監護についての審理において考慮すべき事項となり得るが、その時点で存在する証拠もないのに、 子に与える影響の将来の結果までも拘束するものではない。 他の裁判例を検討しても、本件事実に関する記録からは、母の性的嗜好が子の福祉に影響を及ぼしたとする証拠は何もない。

裁判所が証拠によらずに認定できる事実の範囲について

 一審の決定は母の性的品行が子に影響を与えるかもしれないとする判断に根拠をおいているが、将来の弊害の認定ということは推測によるもので、 母の同性愛が子の成長に伴い子に問題をもたらすであろうとの予測に過ぎない。 母の性的嗜好と子の将来の悪影響との因果関係を示す信頼できる証拠がないばかりでなく、この問題は裁判所が公知の事実と認める適格な事実にもあたらない。
 テネシー州改正証拠法201条(b)が裁判所に与える、証拠によらずに認定できる事実とは、(1) 裁判所の管轄地域内で一般的に知られている事実、 または (2) 確実な根拠により正確かつ容易に認知することができる事実、そのどちらかである。「同性愛が子の成長につれどのような影響を及ぼすか」 ということは裁判所が証拠によらずに認定できる性格のものではなく、ここにある証拠は、 母の性的嗜好により子が将来悪影響を受けるとする一審の判断を斥けるものであると判断する。

性的品行について

 一審がその判断基準の一部を「淫らな」と表現した母の性的品行に置いている点について、親の性的品行は、異性愛であれ同性愛であれ、 妥当なものでなく見境のないものであれば、子の福祉に悪影響を及ぼすであろうことに異論はないし、 一方の親の性的嗜好が監護権決定の重大な要素となりうる。 しかし本件の記録には、母がその性的無分別によって子をネグレクトしたとか、子がいるところで不適切な性行為を行ったとする証拠は何もない。
 たとえ母の行為がふしだらであったと推定しても、監護者の変更をするに際しては、子に対する悪影響があったことの証拠が存在しなければならない。 一審裁判所の決定は子の最善の利益を真に考慮したうえでなされたことに疑いはないが、本裁判所も法の解釈に熟考を重ね、 一審の決定を精査して慎重に導き出した結論として、子が母の性的嗜好によって悪影響を受けた、または、 今後受けるであろうという証拠は見出せないので、一審裁判所の命令を破棄する。
 スサノ Jr.判事は法廷意見に補足して以下の点を強調しています。「本件に欠けている証拠とは、専門家の証言という形式であれ何であれ、 当該男児が母のライフスタイルによって既に悪影響を受けている、または、悪影響を受けることが合理的に予期され得ることを証しているものでなければならない」
(「FAMILY LAW REPORTER」 Vol.31, No.30)



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