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 日本と同様、死刑制度のある数少ない先進国のひとつアメリカ、現在37の州が死刑制度を残しています。人権団体アムネスティによると、2004年の同国の死刑執行は59件で、中国、イラン、ベトナムに次ぐ数です。2005年3月1日、18歳未満への死刑は残酷で異例な刑罰を禁じた憲法修正第8条に反すると、連邦最高裁判所が画期的な判断を下したので、ABA JOURNALの2005年3月号の論評を交えて紹介します。

1. 事件の概要と裁判の経緯

 1993年にミズーリ州で起こった誘拐殺人事件で州高裁が宣告した、犯行当時17歳の少年への死刑判決に関するものです。高校生だったシモンズは、 「誰かを殺したい」と15歳と16歳の友人を誘って事件を起こしました。
 3人は当日午後2時に落ち合い、ひとりは犯行前に立ち去りました。シモンズたちは被害者シャーリー・クルックの家に侵入し、ガムテープでクルック夫人の目と口を被い、 手を縛って彼女のミニバンに押し込み、州の公園まで運転していきました。彼らは被害者をさらに縛り上げ、顔をタオルで包み、川にかかる橋脚の鉄道線路まで連れて行きました。 そこで彼らは彼女の手足を電線用のワイヤーで縛り、顔全体をダクトテープで被い、橋から下の川に投げ落としました。 翌日午後、旅行から戻った被害者の夫が妻の捜索願いを出し、同日遺体が川で発見されました。シモンズはその頃、人を殺したと自慢し、友達には、 顔を見られたから女性を殺したと言っていました。
 翌日、シモンズがかかわっているとの情報を得た警察は、彼を学校で逮捕し、ミズーリ州フェントン警察に連行しました。警察は黙秘権や弁護人の立会いを求める権利等、 被疑者の権利を読み聞かせたところ、シモンズは弁護士を呼ぶ権利を放棄し、質問に答えることに同意し、2時間もしないうちに殺人を認めます。 州は強盗・誘拐・窃盗・第1級殺人の罪でシモンズを起訴しました。犯行時17歳だったので、ミズーリ州少年審判制度の対象ではなく、成人として審理されたのです。 被告側は犯罪事実については証人を呼ばず、親族らが減刑のための証言をし、弁護人はシモンズの年齢に言及しましたが、死刑が宣告されました。
 シモンズは控訴しましたが斥けられたので、ミズーリ州と連邦の裁判所に有罪判決に対する非常救済手続きの申し立てをしましたが1度目は斥けられました。 そして再度、州の裁判所に、憲法修正第8条は18歳未満の少年への死刑を禁じているとして非常救済手続きの申立てをしたところ、州最高裁はシモンズの死刑を取り消し、 仮釈放のない終身刑としました。
 これに対し矯正センターの所長が請願したことで、今回の連邦最高裁判所の審理となりました。

2. 審理の争点

 憲法修正第8条は、「過剰な保釈金や罰金を課してはならない。また、残酷で異例の刑罰も課してはならない」と規定しています。問題となるのは、未成年者への死刑判決が、 憲法修正第8条が禁じている、残酷で、異例な刑罰にあたるかどうかということです。
 法廷意見は、憲法修正第8条のもとで何が残酷で異例な刑罰かについて、裁判所の見解を形成してきた判断の基準が、50年近くの間にどのように変化してきたかを分析して、決定の基礎としています。
 1989年に連邦最高裁は、5対4という僅差で、修正8条は、16歳以上18歳未満への死刑判決を禁じていないとの結論を出しました。当時死刑制度のある37州中25州で17歳への死刑判決を認め、 22州では16歳にも死刑判決を認めている州法の状態から、世論は未成年者への死刑に反対していないと判断したのです。
 同日最高裁は、修正8条が、知的障害者への死刑判決についても、絶対的除外を規定しているものではないと判断しました。同様に死刑制度のある州のうち、 わずか2州が上記の被告への死刑を禁じる法を設けているに過ぎないことを理由にしたのです。
 とこらが、2002年には、知的障害者への死刑判決は過度の制裁にあたると判断しました。このときには、18州が知的障害者への死刑を制限的に禁じ、 全面的に死刑を認めない12州と合わせると30州が認めない状況になっていました。そして禁じていない20州でも現実に執行されたのは1989年以降5例に過ぎないというのです。 こうして知的障害者への死刑は、州法と実際の執行の面で非常に稀なものとなっており、世論が反対している現れとみて判決にいたりました。
 さらにこの裁判では、たとえ善悪の判断のつく知的障害者でも、一般的な犯罪に比べれば有責性は劣り、障害によって弁論・反証の力が損なわれていると認められる以上、 知的障害者の生命にかかわる国の権力には相当な制限があるとの判断を示しました。
 未成年者についても、再度、十分にこの問題を検討したのが、今回2005年3月の判決です。
 まず成人一般との区別をする年齢について、各州の投票できる下限年齢(全州が18歳としている)、 陪審員となる下限年齢(ミシシッピ州・ミズーリ州は21歳、アラバマ州・ネブラスカ州は19歳のほかはすべて18歳)、 親や司法的同意なしで結婚できる下限年齢(ジョージア州・メリーランド州が16歳、ミシシッピ州は男性17歳・女性15歳、ネブラスカ州が19歳であるほかは18歳)を表にして掲げ、 社会が多くの目的で子どもと大人を区別するために設けている境界線であり、成熟には個人差があるという異論を認めつつも、裁判所として死刑を選択する境目として18歳を設定すべきと判断しました。
 死刑制度についての州法の現状は、30州で未成年者への死刑を禁じていて、そのうち12州は完全な禁止、18州は死刑制度を維持しつつも未成年者には禁じているか、 司法的解釈により未成年者を除外しています。さらに形式的には禁じていない20州でも、実際に未成年者に執行されることはほとんどありません。上記1989年の裁判以来、 未成年時の犯行で死刑を宣告したのはわずか6州、過去10年では3例に過ぎません。しかも、1989年の連邦最高裁判決の犯行時未成年の死刑囚については、2003年12月、ケンタッキー州知事が、 「われわれは子どもに死刑を執行すべきではない。この判断は合法的なものである」と宣言して、仮出獄なしの終身刑に変更しました。
 また、1989年には未成年者の死刑を認めていた5州が、その後の15年間に4州は法整備によって、1州が司法判断によってこれを放棄しました。 このような変化、しかもそれが死刑廃止の方向で一貫していることは、反対の世論が高まっていると判断しています。
 このような時代の潮流に加えて、科学的・社会学的研究の成果を考慮し、「死刑宣告は、成人の事件であっても重大事件のごくごく狭い範囲の限られたものに限定して選択されなければならず、 その場合の犯罪性は非常に高く、まさに執行に値するほどのものでなくてはならない」と述べています。
 「ましてや未成年者は、(1)未成熟で責任感が十分発達していないため、衝動的で無分別な行動や判断をとり易い、(2)負の影響力や外部からの圧力に影響され、 心理的なダメージに傷つきやすいため、自己管理ができない、(3)人格がまだ十分に形成されておらず、性格的特徴としても一過性で固定されていない、といった特性が見られ、 成人とは異なる。そのため専門的心理学者でさえ、不幸にも一過性の未成熟さから罪を犯した未成年被告と、 回復できない堕落が反映しているまれなケースの未成年被告を区別するのは困難なことである。精神科医は、18歳未満の患者に人格障害、精神病、ソシオパス等の疑いが見られても、 病気として診断名をつけない。未成年者がたとえどんなに凶悪な犯罪者であっても、確信をもってそういいきることは不可能である。 国は、未成年被告から基本的な自由のいくつかを剥奪することはできても、その生命と、人間として成熟した理解力を身につけていく潜在能力を消滅させることはできない。
 同時に、死刑制度のふたつの社会的目的、応報と抑止力という観点からも、成人に比べて未成年者には不釣合いであるし、有効に働かない」と判示しています。
 このような観点に加えて、未成年者への死刑に対する新たなコンセンサスを見出す必要を認めた多数意見は、国際的な環境や歴史的経緯に言及しています。 国連が児童の権利に関する条約(1990年、37条で18歳未満の死刑を禁じている)を発効して以来、それまで死刑制度のあった他の7カ国も廃棄あるいは公式否定をし、 合衆国は公式に未成年者への死刑を認める唯一の国になってしまいました。しかも憲法修正8条は、歴史的関係の深いイギリスの権利宣言(1689年)の条項を手本にしており、 そのイギリスが1948年に刑事訴訟手続法を制定して18歳未満の死刑を禁じてから56年が経過し、国際社会における非常に大きな影響力となってきました。
 以上の判断を総合して法廷意見は、「憲法修正第8条は、犯行時18歳未満の被告に対して、死刑判決を禁じている」と判断しました。

3. この判決についての批評や判決の影響

 今回の判決は裁判官5対4という非常に僅差で、法律家や関連分野の専門家にも波紋が広がっています。
 そのひとつは、憲法修正8条は、仮出獄なしの終身刑にも当てはまるのではないかというものです。
 また、現在72人いる未成年時の犯行で宣告を受けた死刑囚はどうなるのか、自動的にほかの刑に変えられるのか、あるいは新たな判決を法廷で言い渡されるのかという疑問もあり、 それぞれの州の法律が異なるため、問題は複雑です。
 判決を歓迎する少年司法政策の専門家はこう言っています。
 「過去15〜20年間、州は、10代の青少年は犯した罪に対して成人と同等の責任があり、相応に処罰されるべきであるという考えを前提にして法を制定してきた。しかし、今回の裁判で、 10代の青少年は人格が十分に形成されておらず、有責性は成人より低いということを明確にしたので、すべての州で大規模な改革に取り組むべきであり、安易に成人同様に起訴されてきた法律を、 青少年犯罪者への矯正教育を最前線にした量刑政策に変更すべきだ。
 今回の判決は、医学・宗教・福祉・人権・少年司法組織等の広範囲な協力関係の成果であり、同じような協力が結べれば、これ以外の、仮釈放なしの終身刑等、 少年司法に関連する問題への初めての改革が実現される可能性がある」。



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