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◆平成家族考 46


数年前までは、少年法改正の動向とからめて、マスコミは連日のように少年非行の増加、凶悪化、低年齢化などを報じていました。 その都度、本誌では増加も凶悪化もしていなければ、低年齢化もしていないことを統計に基づいて提示してきました。 今から10年前の平成10(1998)年5月25日刊「ふぁみりお」第16号に「少年法について考える―少年非行の推移を踏まえて現状を正しく理解するために」を掲載しています。 そこでは、少年事件が増減する主たる原因は、評論家や識者が強調するような核家族化や父権の不在でも、学校の偏差値教育や管理体制でも、 バブル崩壊に踊らされた拝金主義でもないと述べています。そして少年非行の増減の原因は、少年人口そのものの増減であることを指摘し、今後は、 少子化により少年人口は減少し続けるため、多少の波はあったとしても、少年非行が大筋で減少していくことは間違いないと指摘しています。 評論家や識者が掲げるようなものが少年非行の増加や凶悪化の原因であるとすれば、家庭も学校も社会もそれほど好転しているとは思えないのに、 少年非行が大幅に減少したり、凶悪事件が減少したりすることが説明できなくなります。

昨年11月20日に平成20年版「犯罪白書」が刊行されましたので、その中の第4編第1章「少年非行の動向」により、少年非行の数量的、質的状況はどうなっているのか、 また、本誌で指摘してきたことが正しかったかどうかを見てみたいと思います。

第1 少年刑法犯検挙人員等の推移(図1)

図1は、少年刑法犯検挙人員(触法少年の補導人員を含む)並びに少年人口比(20歳未満の少年人口10万人当たりの少年刑法犯検挙人員の比率) 及び成人人口比(20歳以上の成人人口10万人当たりの成人刑法犯検挙人員の比率)を示したものです。

少年刑法犯検挙人員の推移には、昭和26年の16万6,433人をピークとする第一の波、39年の23万8,830人をピークとする第二の波、 58年の31万7,438人をピークとする第三の波という三つの大きな波があります。

昭和26年にピークのある第一の波は、戦後の混乱と貧困によるもののほか、少年法改正により、少年年齢が旧少年法では18歳未満であったのを、 新たな少年法では20歳未満に引き上げられ、実際に引き上げられたのが26年であったことによるものと思われます。 第二の波は、戦後の第一次ベビーブーム生まれ(いわゆる団塊の世代)が少年となった時期であり、 第三の波は、団塊の世代が結婚して第二次ベビーブーム生まれ(いわゆる団塊ジュニア世代)が少年となった時期で、 いずれも少年人口が膨張したために少年犯罪が増加したものです。第三の波が去った後は、少年犯罪は減少の一途をたどっていくはずでしたが、 平成9年には増加に転じています。これは、少年法改正への機運を踏まえて、 その年の6月に警察庁長官が「悪質な少年事件には厳正に対処する」旨の発言をしたのを受けて、警察が強硬姿勢に転じ、 それまでは窃盗などに分類されていた万引きや引ったくりが、取り押さえようとした店員や被害者が少しでも怪我をすると強盗に分類されるようになって 強盗事件が急増したと言われています。 また、それまでは2万件台で推移していた横領事件が急に増加に転じ、平成17年には3万6,000件近くに達しています。 横領事件といっても遺失物横領(主として放置自転車の乗り逃げ)ですが、自転車の乗り逃げがそんなに急増するとは考えられないので、 少年事件が減少して余力が出てきた警察が、自転車の乗り逃げ事件の捜査に力を入れ始めたためと思われます。これらの掘り起しの努力により、 一時的には少年の検挙人員と少年人口比を引き上げましたが、少年人口の減少には抗しきれず、検挙人員、人口比ともに急落しています。 この傾向は、10年前に「ふぁみりお」第16号で指摘したとおりであり、少年人口が増加しないかぎり少年事件の減少は続くものと思われます。

殺人・強盗の年齢層別検挙人員の推移(図2)

図2−@は、殺人の年齢層別(年長=19・18歳、中間=17・16歳、年少=15・14歳、触法=14歳未満)検挙人員の推移を示したものです。 少年による殺人事件は、昭和36年には約450件もありましたが、41年ごろから少年人口が減少し始めると急速に減少し、55年には約50件にまで落ち込み、 その後はほぼ100件未満を維持しながら現在に至っています。昔は、年長少年による殺人が断然多かったのに、現在では中間少年と差がなくなっているようです。 少年による殺人事件が起きると、直ぐ少年事件の凶悪化かと騒ぐ人がいますが、このグラフを見て分かるとおり、そのような心配はありません。 ただ、今後も時々、社会を驚かすような殺人事件を引き起こすことは十分考えられます。

図2−Aは、強盗の年齢層別検挙人員の推移を示したものです。 少年による強盗事件は、昭和35年には2,750件余りありましたが、少年人口の減少に伴い急速に減少し、53年には570件余りまで落ち込み、 その後は1,000件未満で推移していましたが、先述の警察庁長官の厳正対処の発言のあった平成9年には1,700件余りへと急増しましたが、 14年の1,800件をピークに急速に減少しています。いかにも不自然なグラフになっていることが分かります。 悪質な万引きや引ったくりを強盗に算入することで、一時的には強盗の増加を見ましたが、少年人口の減少による強盗の減少には太刀打ちできなかったようです。

凶悪事件としては、殺人と強盗のほかに強姦と放火があります。強姦は、昭和34年の約4,600件をピークに減少し始め、52年からはほぼ1,000件足らずで推移し、 平成17年以降は100件台となっています。放火は、昭和36年の694件をピークに減少し、昭和63年以降は200件台で推移しています。 凶悪事件全体を見ても、少年非行は決して凶悪化してはこなかったと言えましょう。

第3 その他の事件

少年による薬物犯罪(覚せい剤。麻薬・大麻・あへん)及び毒劇物等の取締法違反事件の検挙人員は、昭和57年のそれぞれ約3万人をピークに激減してきており、 平成19年には、薬物犯罪1,304人、毒劇物791人となっています。

暴走族も10年前の3分の1に減少しています。

家出、不順異性交遊、不良交友等を態様とするぐ犯少年は、昭和50年代後半は3,000人を超えていたのが、その後減少し、 平成6年以降はおおむね1,000人未満で推移しており、平成19年には600人台となっています(司法統計による)。

第4 おわりに

少年非行は、本誌が指摘していたように、少年人口の減少に伴って減少してきており、凶悪化もしていないことが分かります。

少年による重大事件は、今後も散発的に起きると思われますが、その度に少年全体が凶悪化しているなどという短絡的な受け止め方は、しないようにしたいものです。


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