理事長からのメッセージ

すべての子どもの未来に希望を
−当事者支援の法制度と政策の視座からー

公益社団法人家庭問題情報センター 理事長 若林 昌子

1 はじめに
いま、当事者支援の現場でも、何を大事にしなければならないかが見えにくい混迷化の時代を迎えていることを痛感します。そこで、人類が苦難の歴史を踏まえ世界中の英知を集約し育ててきた普遍的な理念を示す「児童の権利に関する条約」(Convention on the Rights of the Child・1989年 国連総会に於いて採択・1994年日本の批准・以下子どもの権利条約という。)の存在を改めて再確認することが必要ではないでしょうか。子どもの権利条約の基本的理念こそ、私たちの思考の原点であり、行動の支えだと思います。また、国連の目指す人類社会の基本的理念である“Leaving no one behind”の実感できる社会の実現、これこそが人類普遍の理念だとの思いを強くし、その実現を考えさせられます。すべての人々の願いも、すべての子どもの未来を「希望の未来」にすること、言い換えれば、すべての子どもにとって「子の最善の利益」を現実のものにすることではないでしょうか。
「子どもの貧困」がいわれて久しいのですが、実感として何が実現したのでしょうか。日本の子どもの相対的貧困率(所得の中央値の半分を下回っている人の割合)は1989年以降上昇傾向にあり、OECD加盟国34か国の中でも10位(2013年)であり、特に、「就労している・ひとり親家庭の貧困率」は先進国の中で最悪です。
(OECD Family Database http://www.oecd.org/social/family/database.html)
ひとり親家庭の子どもは、多くの場合父母の離婚により生じますが、それに関係する法制度、政策の在り方について検討すべき課題は多方面に及びます。そこで、面会交流当事者支援の現場で痛感することを取り上げ、当事者支援の現状における問題の所在、求められる法制度、政策について考えてみたいと思います。
2 当事者支援の現状と法的・財政的課題
特に、最近の面会交流支援については、家族法理論、関連実務、民間関係者、当事者など、あらゆる分野で強い関心がもたれています。例えば、日弁連家事法制委員会主催のシンポジウム「子の福祉のための面会交流〜面会交流支援団体の実情から考える」(2017年12月16日開催)など象徴的です。民間支援団体も、今や全国的に機運がみられ、活動の原動力は司法関係者(家裁調査官・裁判官・家事調停委員等OB)、弁護士、心理職関係者、当事者関係者により支えられています。
面会交流当事者支援は、いうまでもなく面会交流の本質的要請に対応するために専門的人材の確保、育成が不可欠です。面会交流の機会のトラブル、子どもの二次被害などの生じる可能性を考え、「子の最善の利益」をめざす面会交流の支援であるための的確な対応が求められることはいうまでもありません。
最近の傾向として、家庭裁判所による家事調停、審判における第三者関与の面会交流の事案も多くみられ、その面会交流の関係性、流動性、継続性の要請に対応する傾向は顕著です。ところが、当事者支援の実状は全てが実務裁量に委ねられ手探り状態であるといえましょう。面会交流法制として、援助実務の基本的指針、「子の最善の利益」侵害事由の明文化、司法機能と第三者機関との関係、第三者機関の交流支援の認証などについて明文化が求められます。これにより、当事者支援の根拠が明確化され、支援の質が確保され、当事者も法的安定性により先が見え、「子の最善の利益」の実現・継続に繋がります。
特に、民間当事者支援組織の財政的現状ですが、当事者支援団体の財政的基盤は会員の会費及び寄付によって支えられているのが現実です。面会交流の公事性を前提に、当事者の費用負担は無償化を図るべきだと考えます。支援スタッフ、支援場所の費用など基本的費用は公費で賄うことが支援の質につながることはいうまでもありません。
3 ドイツの当事者支援法制と支援政策の示唆
「子の最善の利益」実現の困難な時代に、国際社会の動向を視野に置くことが、新たな展望を導いてくれます。国際的な情報も豊富な時代ですが、特に、ドイツ法制の実効性重視の視点に注目したいと思います。
先ず、子どもの教育、父母の責任、国の責務について基本的理念を法律上明確にしています(連邦社会法典第8編SGB[1条)。中でも、離婚に伴う子どもの養育問題への早期対応、合意解決への公的相談支援システム(SGB[17条)、交流権の相談・助言を求める権利(SGB[18条)など規律化しています。
当事者支援団体として注目すべきはドイツ児童保護連盟の存在です。1953年に設立され430を超える支部を有し、1980年から交流権支援を行っています。各支部は法律的には独立性を有し、連盟共通の理念に寄りつつ地域性に対応する必要性、可能性を生かし、「独立しつつも共同で」効果的な業務提供の可能性、質の高さと継続性を保障する構造を生みだし実績を上げています。
付添交流の費用負担については、管轄地方自治体が負担し、民間団体が交流支援をした場合、その報酬を受け、当事者は無償で支援が受けられます(SGB[90条)。(稲垣朋子「面会交流援助の意義と発展課題:ドイツ法の適用を視座として(2・完)」国際公共政策研究17(2)47頁参照)
なお、子どもの権利条約は締約国に対して条約において認められる権利の実現、権利の享受に関する報告義務を定め(44条1項)、国連子どもの権利委員会は、この報告について提案・勧告を行う権限(45条4項)が付与されていますが、最近、子どもの権利委員会はこの勧告内容として法制度の在り方のみならず、制度の実効性を担保する財政的措置について重視する方針に改められた旨の報告に接しました。(2017年7月29日LAWASIA家族法部会主催・大谷美紀子弁護士の子どもの権利委員会委員ご就任記念講演会)
4 子どもの未来に希望を
「子の最善の利益」実現を如何に実効性あるものにするか。今、求められている最大の課題ではないでしょうか。その実現に向けて、当事者支援に関わる全ての関係者は、当事者支援の必要性を共有し、その実効性ある実務を目指しています。当事者支援関係者の課題は、「当事者支援の質」の確保です。
本法人における当事者支援は、会員一人、一人が社会的良心と家庭裁判所実務経験による専門性に支えられ、社会の変化と共に激動する現実的要請に応えるために日々研鑽努力を重ねています。子どもの笑顔に出会うことを何よりも大切にし、真の「子の最善の利益」実現にいささかでも貢献できることを願っています。子どもの権利条約が生きていると実感できる社会が近い未来であることを切に念願しています。
みなさまの本法人に対する温かいご理解とご支援を心から感謝し、活動の支えと致します。「子の最善の利益」の確実な実現のために。
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