理事長からのメッセージ

子どものある離婚ケースと民間型ADR
−子どもの成長・発達する権利の視点からー

公益社団法人家庭問題情報センター 理事長 若林 昌子

1 はじめに
 子どもの貧困問題がいわれ、2013年6月には『子どもの貧困対策の推進に関する法律』が成立しました。この法律は、政府に対し子どもの幸福度についてモニタリングの仕組みの作成を義務付けています。未来を託す子どもの健やかな成長・発達する権利の実質的保障のために、実効性のある方策は実現したのでしょうか。
 父母の離婚を経験する子どもの養育問題は、現行の協議離婚制度では当事者にすべてが委ねられていますので、「子どもの貧困」問題の要因になり得る可能性があります。離婚後の親権者の8割は母親であり、母子家庭で育つ子供たちの背後には、社会の構造的変化、女性の就労環境の厳しさなど深刻な現実があります。父母の離婚後の「子の最善の利益」を実効性あるものにすることが最大の課題であると痛感します。
 民間の当事者支援組織としての本法人(以下、FPICという。)の現場では、父母の離婚を経験する子どもの養育費、面会交流など困難な問題に直面していますが、その多くの場合は、その紛争を早期に当事者間の合意によって解決することが、「子の最善の利益」の現実化につながることを実感します。
 そこで、注目したいのは当事者の自律的合意により紛争を解決するADRです。ADRの長所は、何よりも当事者の自己決定が尊重されることです。当事者の真の納得による解決の実現は合意した内容の確実な履行につながります。さらに、ADRは客観的に公正な調停プロセスにより合意内容の相当性が担保されます。したがって、子どものある離婚紛争については、ADRの利用促進が期待されますので、以下、この問題に関連して、FPICの現場で実感した個人的所感を述べさせていただきます。

2 民間型ADRの存在意義
 ADRの現状は、家庭裁判所の家事調停が主流ですが、当事者の選択肢として民間型ADRも公益的社会資源として充実させることが求められます。FPICにおけるADRは、@当事者のニーズに合わせ土曜日・夜間などの時間的配慮が可能であること、A話し合いの調停日を集中し短期間で結論を出すことも可能であること、B家事事件の専門職が担当することなどの長所もあります。ただし、民間型ADRの現実的な壁は、当事者の費用負担であると思われます。子どものある離婚ケースは、特に、子どもの未来を育てる公益性に配慮して、当事者の費用負担を家事調停と同程度にすることが期待されます。
 子どものいる離婚ケースについては、夫婦の婚姻破綻による葛藤関係を早期の専門的当事者支援によって、「子の利益を考える父母関係」に再生することが求められますが、実務経験によると、多くの場合、離婚紛争は一時的な葛藤状態であり、立ち直り得ることを実感できます。さらに、婚姻関係の破綻別居の初期段階における子どもの父母間養育ルールの合意解決は、離婚紛争そのものの解決を早期に合意解決につなげる可能性があります。このように、離婚紛争プロセスの支援の質は、当事者の人間関係を勝敗問題にする可能性を回避し、「子の最善の利益」実現志向の父母関係を回復させることが求められます。民間型ADRの多くのケースは、それが実現可能であり、中にはADRプロセスによって、父母も、子どもも成長する効果を実感できます。

3 子どもの権利条約理念の現実化をめざして
(1)父母共同養育責任と締約国の責務
 子どもの養育は、本来、私的領域の問題ですが、子どもの成長発達する権利の保障については国の責務です。つまり、国は父母が共同養育責任を果たすべく、それを支援する責務を負います。また、不幸にも、子どもの利益が侵害される虞の生じたときは、国の責務として私事領域への介入、子どもを保護する責務が生じます(子どもの権利条約3条1項、2項、6条2項、7条1項18条等)。
 このように、子どもの養育責務の私事性と公事性の関係は、父母の共同養育責任原則と、子どもの成長発達する権利の保障との二つの基本的理念から構成されています。父母の共同養育責任の私事性を優先させながら、その私事性優先を国が支えます。例えば、条約18条は、国に対し、父母双方の就労を前提に専門的保育支援の責務を課しています。要するに、父母の共同養育責任を支える責務を国に負わせ、さらに、子の利益侵害の予防、回避、保護の責務を国に負わせているのです。
(2)子どもの成長・発達する権利
 子どもの権利主体性・法的地位については、子どもの権利条約が基本的理念を明記していますので、国内法の解釈についても条約を解釈基準とすべきでしょう。成人と同様に、子どもも権利主体として法的な地位を有しますが、成人と異なるのは、保護を必要とする権利主体であることです。つまり、成長発達する権利の保障が求められているのです。
 意見表明権(条約12条)について、子どもの意思能力が認められる場合には、ADRでも子どもの意思、心情を聴くことは必要なことです。ただ、子どもの意思により親権者を選択させるとか、面会交流の可否を決めさせるのは行き過ぎです。意見表明権の保障は、子どもの意思を年齢、成熟度に応じた方法で「聴くこと(応答すること)」、「考慮が払われること」を求めています。
 私たちは平成28年度の厚生労働省委託事業である面会交流に関する調査研究により、多くの研究成果を得ることができましたが、中でも、面会交流については、子どもの成長・発達する権利の視点から考えることが求められることを痛感しました。面会交流理論の混迷化の現状も、子どもの成長・発達する権利の視点から権利論、方法論の錯綜を解明できるのではないかと思います。

4 子どもの未来に希望を
 父母の離婚を経験した子どもの未来を希望につなぐことができるように、FPICメンバーの一人、一人が、「子の最善の利益」が確実に現実のものとなるために如何にあるべきか、問題の所在あるいは課題を模索しながら努力しています。
 日々、痛感するのは、当事者も、子どもも、当事者支援民間組織の私たちも、いろいろな意味で法制度に支えられています。さらに、子どもの権利条約は、子どもの健やかな成長の基盤は「家庭」を原則としています。欧米にも、“There is no place like home.”ということわざがあります。子どもが健やかに育つためには、父母の共同養育責任が支えです。それを支えるのが社会の優しさです。ハード面の支えは福祉政策の充実です。ソフト面の支えの一つが、私たち当事者支援組織だと思います。さらに、専門的当事者支援が広く全国的に行き届くことを念願しています。
 私たちは、子どもの笑顔に出会うことを目指して、メンバーの一人、一人の社会的良心を支えに、日々専門性の研鑽に励み汗を流しています。温かいご支援を心からお願い致します。
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