FPIC連続セミナー 子どものある夫婦の離婚 テキストブック

ある夫婦の離婚物語 とその解説
はじめに
 誰でも暖かい家庭を夢見て結婚します。しかし,現実はなかなか理想どおりにはなりません。本当に親しい関係であればこそ求めるところも多く,お互いの気持ちが通じ合わないと,期待を裏切られたような感じになり,決定的に関係が壊れてしまうこともあるのです。愛し合う関係は,また傷つけ合う関係ともいえます。
 そのうえ,子どもがいる場合には,夫婦間の葛藤は,直接子どもに影響を及ぼし,離婚の問題は夫婦と親子という二重の課題を持つこととなります。
 このテキストでは,夫婦の関係で傷つき,別居や離婚をしたり,その問題で悩んでいる方が,子どものことを考えるとき参考になると思われる事柄をとり上げ,ある離婚の物語を通して解説しました。
 子どもたちにどのような配慮が必要か,親として何ができるのか,また,離婚後どのような問題が生じて,どう対処したらよいかなど,直面する問題を賢明に解決するために役立てていただきたいと考えます。
 夫婦関係のつまずきは,人生すべての失敗ではありません。自分自身の問題に気づき,人間関係を変えていく良い学習の機会にしていただけるよう願っております。
第1話
 美奈子さんが離婚を真剣に考えるようになったのは,末っ子の亜美ちゃんが生まれて間もなくのことでした。結婚当初から波風の立つことが多く,ふと,結婚を間違いだったと感じることもありましたが,子どもが育てば次第に家庭らしくなると自分に言い聞かせて努力していたのでした。そして,亜美ちゃんを妊娠したときには,もう離婚するわけにはいかなくなったという思いがしたものです。
イメージ 子ども ところが出産後間もなく,出張に行ったはずの夫の祐二さんが,休暇をとって女性と旅行していたことが偶然の機会から判明してしまいました。多少おかしいと思うことはあっても,まさかと打ち消していたことが現実となり,美奈子さんはパニック状態に陥りました。責め立てる美奈子さんに祐二さんは逆に開き直り,お前の態度が悪いからこうなったのだ,僕はずっと我慢してきたがもうこれ以上我慢できない,別れてくれと言い出したのです。子どもの前では控えていた夫婦喧嘩も,大声を上げ,物を投げ合う騒ぎになり,子どもたちも怯えて泣き出す始末です。
 美奈子さんは,8才の長女絵美ちゃん,6才の長男健くん,そして1才の次女亜美ちゃんを抱え,専業主婦の身では離婚することもままなりません。いったいどうすればよいのでしょう。実家の父は3年前に亡くなり,母親は美奈子さんの弟夫婦と同居しています。美奈子さんが子どもを連れて実家に戻ることは不可能でした。夫の祐二さんの両親は健在で,夫婦二人だけで広い家に住んでいますが,美奈子さんは子どもを手放すのは絶対に嫌でした。
(1) 離婚に伴う子どもの問題
 夫婦関係がうまくいかなくなって,「離婚」という考えが頭に浮かぶようになったとき,親として一番心配し,悩むのが子どもの問題です。親の離婚は子どもの心にどのような影響を与えるのだろうか,いろいろなことが心配になってきます。将来子どもが問題を起こすのではないだろうか。子どもの養育はどちらがするのか。子どもを引き取るとすれば,住居のこと,経済のこと,学校のことなど,暮らしのことはどうなるのか。このように考えると離婚の決意も鈍りがちです。
 しかし,そこでまた大きな問題にぶつかります。新聞を見ると親の別居や夫婦の不仲が子どもの自殺や非行の原因になっているようにも思えます。このまま夫婦であり続けることは,かえって子どもに悪影響を与えるのではないかなどと新たな悩みも出てきます。子どもを持つ親の悩みは尽きません。
 しかし,もし,やむを得ない最良の選択として離婚を選ぶなら,親自身がこの結論を自分の選択としてしっかり受けとめ,子どもへの影響をできるだけ小さくすることが求められます。

(2) 離婚問題は誰に相談したらよいでしょうか
 離婚の問題は,誰にも相談せず,長い間心の中に秘めて一人で悩んでいる場合が多いものです。いよいよ問題が深刻になったとき,初めて親しい友人や実家の親兄弟などに打ち明けることになります。その際一番信頼できる人を選ぶのですが,身近かな人が必ずしも良い助言者になるとは限りません。相談した相手によっては,問題がますますこじれ,大事なことが見えなくなってしまうことにもなりかねません。自分の味方になって相手を非難してくれる人に相談したくなりますが,何が問題であるか,きちんと事態を把握し,適切な助言のできる第三者がのぞましいのです。また,迷っているときは,結論を言ってくれる人を頼りがちですが,よく話を聞いてあなたの気持ちを整理し,自分で選択できるように仕向けてくれる人の方がよいでしょう。
 家庭裁判所は,離婚が決定的になってから争いを解決しに行く所と思われていますが,お互いの言い分をよく話し合った結果,円満に元の鞘に納まることも決して少なくありません。夫婦の仲がうまく行かなくなったとき,家族問題を専門とするカウンセラーや家族療法家に相談してみることもよいでしょう。思いがけない新しい見方が得られ,関係が改善されることもあるのです。
第2話
イメージ喧嘩 夫か家に帰らない日が多くなり,たまに帰ってきても,口を利かず朝早く出て行ってしまうようになりました。美奈子さんも黙りこくり,一人になると涙がこぼれる日が続きました。ある晩,夜中に帰ってきて,衣類や小物を鞄に詰めはじめ,預金通帳まで引っ張りだした祐二さんに美奈子さんが詰め寄り,振り払った祐二さんの手が美奈子さんを張り倒す形となって大騒ぎになりました。絵美ちゃん,健くんは目をさまし,部屋の片隅で凍りついたように身を固くしていました。亜美ちゃんは火の付いたように泣き出しました。祐二さんは,すがりつく美奈子さんと揉みあった末,泣いている美奈子さんを残して出て行き,それきり帰ってきませんでした。恐ろしい場面を目撃し,お父さんが財産を持ち出して家族を見捨てたと思った子どもたちは,どれほど大きなショックを受けたことでしょう。
 それから二か月ほどして,美奈子さんは,健くんのことで学校の担任から呼び出されました。健くんが友達に乱暴をして怪我を負わせたというのです。いつも元気な子なので,一寸したはずみの出来事かと思いましたが,先生に健くんは最近落ち着かず,いらいらして友達とのトラブルが多いと聞かされ,美奈子さんは,はっとしました。『下の子に手を取られ,つい放っておいたのがいけなかったかも知れません。』 それだけ言うのがやっとで,美奈子さんは肩を落として家に帰りました。
(3) 夫婦喧嘩のショックは大地が裂けるほど
 幼い子どもにとって,親は自分たちを守ってくれる唯一の拠り所です。自分の存在全体を支えて揺らぐことのない大地のようなものです。その親同士が争ったり傷つけあうのを目撃することは,子どもにとっては身がすくみ,心臓が止まるほどの恐怖の体験です。まさに,大地が音をたてて裂けるようなショックを受けるのです。いつもなら,恐ろしいことが起きたら駆けよってくれ,身体を張って守ってくれる人が,近寄ることもできないような状態になっているのです。このような恐ろしいできごとから受けた傷は深く,外からは見えませんが,容易には消えません。

(4) 母親の不安が子に伝わる
 止めようとする自分の手を振り払って目ぼしいものを持ち出し,そのまま帰らない夫のことを思うとき,妻は,悔しさと惨めさの感情が入り乱れて,どうすればいいのかわからなくなります。明日からの生活の不安に直撃されています。こうした母の不安を,子どもたちは,実に敏感に感じ取ります。母の顔から優しさや微笑みが消え,子どもが泣いても気がつかない,話しかけても上の空の返事しか返ってこない,ときには当たり散らすなど,お母さんが,いつの間にか,子どもたちに自分の不安を撒き散らしています。子どもも不安になっていることに気がついてほしいものです。
 このことは,妻が家出して,残された父子で生活するときも同様です。

(5) 子どもの不安はいろいろな形で現れる
 子どもは,父母の争いを目撃しても,その後の親の対応によっては,ショックから立ち直る機会を得ることができます。子どもの心の傷を癒すものは,親から与えられる《安心感》です。
 反対に,親が夫婦の争いに心を奪われて子どもの甘えを拒否していると,子どもは病気のときに優しくしてもらった経験から,病気になることを願って,本当に熱を出すこともありますし,いらいらが高じて健君のように粗暴な行動に出ることもあります。また,日ごろから親が子どものしつけのことで言い争ってきたときには,子どもは自分が父母の争いの原因だと思い込んでしまうこともあります。また,一方の親に似ていると言われて育つと,自分がもうひとりの親から見捨てられるのではないかとの不安を抱きます。父母に仲良くなってもらいたい思いが,非行や家出になったり,絵美ちゃんのように懸命に《よい子》になって,親に心配をかけまいとする子どももいます。
 このようなとき,子どもたち一人ひとりに『私はあなたの親。大丈夫よ,安心して』と変わらぬ言葉をかけ続けたいものです。
第3話
 美奈子さんは,学校から帰るやいなや健くんを叱りつけました。『ママが大変な思いしているのに,あなたまでママを困らせる気なの。乱暴者は出てってちょうだい!』『こんなに家をめちゃめちゃにしたのは誰なのよ。私は必死で努力しているのに。』美奈子さんは,泣き出した健くんと一緒に,その場に泣き崩れてしまいました。その夜,絵美ちゃんが甲斐甲斐しくエプロンを掛け,みんなにスパゲッティーの夕食を作りました。美奈子さんは心を慰められ,絵美ちゃんに言いました。『絵美ちゃんだけが頼りよ,ママを助けてね』絵美ちゃんは,『ママは私が支えなければ。』と思い,こんな目に遭わせたパパを決して許さないとかたく心に誓ったのです。
イメージ泣き崩れる 美奈子さんは本気で離婚を考えはじめ,実家に相談に行きました。祐二さんからは何の連絡もなく,お金も入ってきません。
 そのうち,ママのお手伝いをして頑張っていた絵美ちゃんが風部をひいたのがきっかけで,学校に行かれなくなってしまいました。前の晩は『明日は行く』と約束するのですが,朝になるとお腹が痛くなり,布団から出られないのです。美奈子さんがむりやり支度をさせても,一歩も外に出られません。『登校拒否!』美奈子さんはぞっとしました。もう隠してはおけないと思って事実を打ち明けた担任の先生に紹介され,絵美ちゃんを連れて相談所に行くことになりました。
(6) 子どもには離婚をどう伝えればよいか
 親の離婚は,大人が予想しないような深刻な不安を子どもに与えます。この不安を取り除いて安心感を与え,子どもなりに現実を受け入れられるような説明が必要です。たとえば,離婚は親同士がうまくいかないからであって,子どもの責任ではないとか,離婚後も父母は子どもを大切に思い続けており,別れて暮らす親とも会ったり訪ねたりすることができるとか,住居や学校がどうなるかなど,今後の生活についての説明を,できれば両親が揃って伝えるのがのぞましいことです。

(7) 紛争の渦中にある子どもへの禁句
 相手に対する怒りや怨みの感情を抑えていると,子どもを感情のはけ口にしやすいものです。子どもは,親から嫌われているのではないか,自分は存在してはいけないのではないか,両親から見捨てられているのではないかなど,幼い心を痛めています。紛争の渦中で,親がつい言ってしまいそうな,しかし,絶対言ってはならない言葉を挙げておきましょう。

  子に責任を感じさせる言葉
   あなたが○○しないからよ!
   役に立たないわね!
   気がきかない子ね!
   私を困らせたいのね!

  子の存在を否定するような言葉
   可愛げがないわね!
   お父さんと暮らせばいいんだわ!
   嫌なところがパパそっくり!
   出て行きなさい!

(8) 感情処理と精神保健
 離婚の決断ができず,無理に感情を抑えて生活していると,体調が狂ったり,無感動や無気力になったり,思わぬところで感情を爆発させたり,アルコールに浸ったりすることがあります。同様に,子どもの場合も,感情を抑えて,かいがいしく家事を手伝ったり,親を慰めたり,機嫌をとって《よい子》をしていると,やがて過重な役割に疲れ果て,極端な無気力になったり,反抗的になったり,不登校となることがあります。絵美ちやんの場合は,お父さんがいなくなり,お母さんまで感情を爆発させて頼れない存在になったとき,たいへん不安になり,これ以上状況が悪くならないようにママを助ける役を引き受けようとしました。そのとき心の底に抑え込まれた不安や,父を『嫌い』と言いながら本当は父に助けてほしいと思っている父親っ子の絵美ちゃんの気持ちを誰かが汲んで,重荷をおろしてあける必要があります。
 
第4話
イメージ 買い物 相談所のカウンセラーは,美奈子さんの話に耳を傾け,絵美ちゃんに,『大丈夫。今,とても疲れているのね。無理をしないのがいちばんいいのよ』と言ってくれました。絵美ちゃんも美奈子さんもほっとして,毎週相談に通うことにしました。
 三ヵ月前に出て行ったきり,祐二さんからは何の連絡もなく,預金も次第に心細くなってきました。たまりかねた美奈子さんは会社に電話をかけて,祐二さんに生活費を請求しました。ところが,祐二さんは,お金だけを求められたことに腹を立て,『離婚してくれ。子どもたちはこっちで面倒を見る。マンションは処分して,購入時にお前の実家から借りた百万円は返す。できるだけ早く家を出てもらいたい』と言い出しました。『子どもを手放すことはできません。私が今まで家庭を守ってきたことをどう思っているんですか』抗議する美奈子さんの電話は切られてしまいました。困り切った美奈子さんは実家に相談しました。父親の死後,弟家族と同居している母にはそれほどの経済力はありませんが,それでも当座の金として五十万円を貸してくれました。それにしても,夫は,生活ができないほど,経済的に妻を追い詰めることが許されるのでしょうか。もし一人で子どもを育てるとしたら,公的な援助は何かあるのでしょうか。
(9)別居中の生活費をどうするか
 美奈子さんのように,夫が家を出て別居の状態にある場合には「婚姻費用の分担」といって家族の生活費を請求することができます。これには美奈子さんの生活費と子どもの養育費が含まれ,その金額は,家族が資産・収入・社会的地位にふさわしい通常の社会生活を維持するのに必要な費用が基準となります。
 婚姻費用をどのように分担するかは,相手が話合いに応じなかったり,金額が折り合わない場合には,家庭裁判所に調停の申立てをすることができます。調停でも合意が得られなければ,審判で決めることになります。夫婦間で意見が対立しているような場合,調停や審判で金額が決まるまでには数か月はかかりますから,蓄えが底をつく前に申し立てましょう。緊急を要するときには,仮に分担額を決めてもらう方法もあります。

(10) 子どもの監護と養育費をめぐるトラブル
 離婚に同意していても,子どもをどちらで育てるかについて激しく争っている夫婦は少なくありません。養育費についても,夫婦で話し合いができなければ家庭裁判所に申立てて,調停や審判で決めることができます。美奈子さんのケースのように,夫が子どもを引き取ることを主張し,妻のところにいる子の養育費の支払いを拒むこともよくあります。その場合,配偶者に対する強い敵意や不信感から拒否していることもありますが,養育費を払える方が子を引き取る権利があるという意識も根強くあるようです。しかし,どちらが子どもを引き取るかは,お金の有無ではなく,むしろ,養育者として適任であるかどうかで決めるものです。そして,養育費は,実際に育てているかどうかに拘わらず,父または母であるという同じ立場から負担能力に応じて決められるものです。

(11) 自立を目指して
 「離婚はしたいけれど子どもを抱えてのこれからの生活が不安で踏み切れない」という女性の悩みをよく耳にします。たとえ父親からの養育費が決まっても,二重生活になりますから,その額は充分ではないのが普通です。事情さえ許せば,母も働きに出て生活を維持して行くこととなります。この場合に支えとなるのが社会保障等の公的扶助制度です。その代表的なものは児童扶養手当で,18歳末満の児童の養育をしている母子家庭に適用されるものです。このほか入学準備金,学用品,給食費等を援助する就学援助,母子寮入居,公営住宅優先入居,住宅資金の貸付け,就業援助,職業訓練手当などさまざまな援助が用意されています。丹念に尋ねて,これらの援助を積極的に活用しましょう。
第5話
 美奈子さんは,祐二さんが勝手に離婚届を出す恐れがあると思い,区役所の窓口で離婚届不受理の手続きをしてきました。また,家庭裁判所に相談窓口があることを聞いて,さっそく行ってみました。裁判所の人は申立ての仕方を教えてくれました。子どもの親権や,養育費についても調停でよく話し合うことができることが分かって,少し希望が持てました。美奈子さんは,さっそく「夫婦関係調整」の調停を申し立てました。こうして祐二さんが家を出てから四か月後,やっと話し合いの場ができました。
イメージ 背中  調停では,男女二人の調停委員が美奈子さんを迎えました。美奈子さんは,争いの経過や自分の希望,そして,自分と一緒に暮らしたいという子どもの意向を述べました。しかし,三人の子どものことを思うと,いちばん望ましいのは祐二さんが戻ってきて,元どおりの生活をすることでした。
 祐二さんは,自分の異性関係が不和の原因であるだけに,多少の強がりもあって別れたいと主張しました。祐二さんが家を出た原因は,どちらかといえばおとなしい祐二さんが,はきはきした美奈子さんに押されぎみであった上に,異性関係がばれてしまい,この先美奈子さんに頭が上からないと考えてのことでした。そして,気の優しい女性との交際の経験も,美奈子さんとの関係を疎ましく感じさせ,調停委員の和合の説得に迷いながらも,美奈子さんとやり直すことには踏み切れませんでした。
(12) 家庭裁判所に行く
 家庭裁判所は,離婚や相続などの家庭内の紛争や,非行を犯した二十歳未満の少年の事件を専門的に扱う裁判所です。美奈子さんの場合のように夫婦が自分たちではうまく話合いができない場合,夫婦関係の改善や離婚の話合いをするために,家庭裁判所に調停を申し立てることができます。調停は,裁判所が判断して決めるのではなく,解決は当事者双方の話合いによる意見の一致によって決まりますから,相手の言い分にも耳を傾け,現実的で理の適った主張をしないと解決が得られません。双方の意見が一致する見込みがなければ,調停は打ち切られます。地方裁判所で普通の裁判をしなければなりません。

(13) 離婚の話合い
 離婚には,迷いがつきものです。しかし,双方とも,相手の不当を責めて謝らせたい,相手の真意を試したい,自分が間違っていないことを認めてもらいたい,これ以上傷つきたくないなどの気持ちが絡んで,和合への期待を残しながらも,その迷いを率直に表現することが難しいものです。そこで,結論的に離婚になった場合には,お互いにやって行けないほど,相手に対する期待がずれていたのだということだけは納得しておきたいものです。

(14) 離婚の際に決めておくこと
 子どものある夫婦が離婚する際に,必ず決めなければならないのが,親権者の問題です。これまで父母が共同で行ってきた親権を,今後は父母のどちらが行うかについて定めなければなりません。
 親権は,子どもを親に服従させる,親の権利ではありません。未成年の子を責任をもって養育し,また,子どもの権利をきちんと守る親の義務だと考えてください。親権の内容には,子どもが生活する場所を指定したり,教育を受けさせたり,必要な医療を受けさせるなど日常の世話をする身上監護権と,子どもの財産を管理したり,法律行為を代理する法律上の代理権とがあります。親権者とならない親が,監護権だけを持って子の養育にあたるという例もありますが,あまりのぞましいことではありません。親権者のことで父母双方の協議ができない場合には,協議離婚をすることはできません。家庭裁判所の調停の場で話し合うのがよいでしょう。
 離婚の際には,今後の監護の方針や,別れて住むことになる親と子が交流する方法,養育費の額や支払い方法についても,協議することが望まれます。
 養育費は,経済能力の高い方の親の生活水準を基準にして,父母がその収入に応じて,子どもの生活に必要な費用を分担するものです。このほか,夫婦が二人で作った共有財産の分与や,慰謝料などの財産上の清算についても,このときに話し合って解決しておくことがのぞましいのはいうまでもありません。
第6話
 調停は何回か繰り返され,結論が出るまでの間,祐二さんは別居中の生活費として16万円を美奈子さんに支払うことになりました。
 そして,6カ月後,離婚が成立しました。子どもたちの親権は美奈子さんに与えられ,祐二さんから美奈子さんに養育費として月15万円支払われることが決まりました。マンションは処分して,ローンを差し引いた残金を夫婦で折半することになりました。
イメージ 寝込む 美奈子さんは,今まで頑張ってきた心労がたたって,ちょっとした風邪から寝込んでしまい,半月ほどは胃の具合まで悪くなってしまいました。子どもたちの方は,むしろ離婚が決まったことで落ち着いた様子をみせ,寝込んだ美奈子さんを手伝いにきたお祖母ちゃんに甘え,久しぶりに子どもらしい明るさを取り戻しました。美奈子さんが子ともたちに,『パパとは離れて暮らすことになったけど,パパは今迄どおり,あなた達のパパよ。これからも会えるし,お金もちゃんとくれるの。すっかり心配かけちゃったけど,もう大丈夫。ママもすぐ元気になるからね』と話して聞かせたことも良い影響を与えたようでした。絵美ちゃんはまだ学校には行かれない状態でしたが,先生が訪問してくれたり,お友達が遊びにきてくれたりして,元気になってきました。美奈子さんも身体は回復しましたが,これからまだ大きな問題が残っていました。引っ越しと,仕事探しです。まだ小さい亜美ちゃんを抱えて,働くことは難しいと思われました。
(15) 離婚後の姓をどうしたらよいか
 協議離婚の場合は,市区町村役場で離婚届が受理された時点で離婚が有効となります。調停離婚では,その成立と同時に離婚が確定し,あとから調停調書を添えて市区町村役場に届け出ることになります。
 その際に,離婚後も婚姻中の姓を名乗りたいときは,離婚の日から3カ月以内に市区町村役場に届け出る必要があります。届出をしなければ,婚姻前の姓に戻ります。子どもの籍は,父母の離婚届を出しただけでは変りません。そこで,親権者となった母が,自分の離婚後の籍に子の籍を入れたい場合には,家庭裁判所から「子の氏の変更」の許可を得る必要があります。
 親権者として子どもと暮らすことになる母の場合は,離婚後の自分の姓をどうするのがよいか,子どものためにも,よく考えて決めましょう。

(16) 就職と職業訓練
 専業主婦が離婚した場合,職業を確保し安定した収入を得ることは容易ではありません。差し当たって何らかの職業を探して収入を得るには,積極的に情報の収集や求職活動に取り組むことが大切です。まず公共機関であるレディスハローワークなどの職業紹介や相談を活用するのがよいでしょう。また,ある程度の時間をかける余裕があるなら,職業訓練を受けて技術を身につけるのがよいでしょう。離婚に伴う夫婦の財産関係の清算に当たって,こうした自立のための資金を請求すれば,相手の方も前向きに考えるでしょう。

(17) 住まいを確保する
 子どもを引き取った親が,離婚後も同じ住居に住み続けることができるような施策を検討すべきだとの意見もありますが,わが国ではまだ実現されていません。実際には,夫婦の話合いがつかなかったり,長期のローンが残っていたりして,これまでの住居に住めない例が少なくありません。
 転居先を探すのはなかなか大変ですが,自分の仕事,子どもの学校,保育所などの都合を考え,何を最優先させるかによって割り切ることが必要かもしれません。子どもたちにも事情をよく説明した上で意見を聞き,我慢させるべきところは我慢させましょう。独りで悩まず,知人や(11)で述べた公的援助の活用も検討してみましょう。
第7話
イメージ 母子 あれから半年たって,美奈子さんは実家の近くにとても良い住まいを見つけることかできました。昔から美奈子さんの両親と親しい大家さんが,好意的に安く貸してくれたのです。絵美ちゃんも健くんも今迄の学校に通えるし,実家の母は頻繁に手伝いにきてくれるし,願ったり叶ったりの条件でした。仕事は亜美ちゃんがもう少し大きくなるまで,パートで働くことにして,亜美ちゃんの世話は,母に援助を頼むことにしました。子どもたちは,新しい生活に慣れ,美奈子さんも気持ちが落ち着いてきました。ところがおかしなことに,ときどき,気分が落ち込んだり,無性にいらいらしたり,つらい思い出が急に甦って,思わず涙がこぼれたりするのです。片づけなければならないことに追われて,心の痛みを感じる暇もなかったのでしょう。今頃になって苦しみに気づいたような感じでした。
 そんな時です。子どもに会いたいという祐二さんからの電話があったのは。美奈子さんは急に心が騒ぎたち,『今頃そんなこと言っても困るわ。やっと落ち着いたばかりなのに』『会わせるのは約束だっただろう。何の連絡もないじゃないか!』と,二人とも,つい大声になっていました。美奈子さんは,気持ちが落ち着いてみると子どもたちから父親を奪ってはいけないとは思うのです。でもまだ,すぐには同意する気持ちになれませんでした。
(18) 周りの好意を受け入れる
 美奈子さんは,周囲の人の好意に恵まれて好条件の中で再出発ができました。離婚後,「甘え過ぎはいけない」との自戒から周囲の好意を拒否して頑張ったり,期待するような援助や好意を得られない自分をひどく不幸な人間のように思って,周囲に不満を振り撒いたりすることがあります。子どもは,社会に向けて開かれた家庭の中で育てられることが大切です。殻に閉じこもらず,好意は喜んで受け,感謝する方が,人と人との関係を豊かにします。しかし,それを当然のこととして要求したり,与えられないといって周囲を非難すると孤立してしまいます。仕事の都合や自分の病気のときに互いに助け合うネットワークを作るなどの試みも大切です。

(19) 喪失の心理
 親の一方と別れ,これまで馴染んできた家,公園,学校,友人,近所のおばさんやおじさんなどとも別れて暮らすことは,幼い子どもに不安と同時に例えようのない淋しさを与えます。阪神大震災のあと「子どもの心のケア」が新聞の話題になりましたが,ちょうどこれと同じようなことが起きているといってよいでしょう。離婚のことをタブー化しないで,なぜ両親が別れて住むようになったか,今後の生活について多少の不便はあっても心配することはないし,もし,心配なことがあれば,どうなるのかと尋ねるように言いましょう。幼い子どもの場合には,それでも淋しかったりして,甘えたがることがあります。しばらくの間は甘えさせることも必要です。しかし,親の罪意識から抱え込みすぎて,子どもの自立を損なわないように注意することも大切です。

(20) 自分の心の安定も大事
 子どもが喪失の悲しみから立ち直って一息つく頃,働きづめに働いてきたあなたも喪失の痛みを感じるようになります。心に大きな傷を受けたとき,忙しさは一種の心の救いになっていますが,それだけでは済まされず,美奈子さんのような症状が出てきます。これは,心が十分悲しむことを求めているサインですから,恐れずにその気持ちを噛みしめ,あるいは,相手を選んで怒りを爆発させてみることも大切です。心おきなく話せる親族や友だちがいてほしいものですが,自助グループや短期のカウンセリングを活用することもよいでしょう。このような過程を経て,「別れた相手も,子どもにとっては掛け替えのない親」であることが受け入れられるようになれば,そのとき,あなたは離婚で受けた心の傷から立ち直っているといってよいでしょう。
第8話
イメージ 洗濯 二週間ほどして,祐二さんからまた,電話がありました。美奈子さんの心配を聞いてくれた上で,離婚後の親子が会うのを援助してくれる民間の相談室があるというのです。祐二さんに頼まれ,仕方なく電話した美奈子さんは,相談員に勧められて,面接相談に出向き,自分の気持ちや子どもたちの事情,希望する日時や場所など細かく話し,結局一週間後に,その面接室で祐二さんに子どもたちを会わせることになりました。最初の面会の試みは少しぎこちないながら,うまく行きました。初めのうち堅くなっていた絵美ちゃんも健くんも,久しぶりに会ったパパに,恥かしそうに少しずつ近づき,別れる頃にははしゃぎ回って甘えていました。第三者の立会いによって冷静になれた美奈子さんは,父子が慕いあっている気持ちを理解することができました。『私が気持ちよく会わせてあげれば,子どもたちは安心するし,あの人だって子どもたちを愛していて,なんとか償いをしてやりたいと思っているんですね』という美奈子さんにうなずきながら相談員が言いました。『離婚は家族全員にとって大変な苦しみではありますが,両親の愛情とお互いの思いやりがあれば,それをみんなの成長に役立てることだってできるのです。』
 美奈子さんは,お互いの過去を悔やむより,親として,ひとりの人間として今後に向けて再出発しようと思いました。
(21) 面会と交流の必要性
 以前は,「別れた親は,そっと陰から見守るべきだ」という意識が強く,二十数年前までは,別れて住む親子で交流がある例は二割足らずでした。近頃は「夫婦が離婚しても,親子が会うのは当然」との考え方が広まり,交流する親子は四割を超えるものとみられます。子どもが,交流の機会を通じて,これまでと変わらない愛情を父母双方から与えられ,一方の親だけからでは得られないような体験を得ることが,子どもの人格形成に大きなプラスになると考えられるからです。

(22) 面会にはルールとマナーが大事
 親子の面会と交流が,子どもの人格形成にプラスになるためには,父母は,子どもを,独立した人格として認め,夫婦としての思いは棚上げにして,子どものためを一番に考えて行動することが大切です。
 同居親が自分の都合や感情で,子どもが別居親と会うことを規制したり,逆に別居親が同居親への不信や干渉の目的で子どもと会うのであれば,子どもは親の感情の犠牲になります。子の成長に役立つ交流を進めるためには,次のようなことをお互いに約束し,無用な対立を避けましょう。
 もし,この約束をすることが難しければ,FPICのような専門機関に相談し,必要な援助を求めることが賢明といえるでしょう。

 双方の親に共通の基本的態度
  他方の親の悪口を,子どもには絶対に言わない,聞かせない
  他方の親の様子を根掘り葉掘り聞き出さない
  双方とも,相手の立場をパートナーとして尊重し,誠実に対応する

 別居している親の側の心得
  子どものペースや体力に合わせ,話題は学校や友達のことを中心に
  子どもの興味に関心を持ち,楽しく過ごすプランを立てる
  子どもに高額な金品を与えたり,過剰なサービスをしない
  『一緒に暮らそう』など子どもを動揺させる誘いや安易な約束はしない
  子どもに涙や感情的態度を見せない
  日時の変更は必ず事前に連絡し,約束は些細なことでも着実に実行する

 同居している親の側の心得
  子どもに関する情報を日頃から別居親に伝えておく
  別居親と会わせることについて,子どもに負い目や負担感を与えない
  会わせることに,いつも心を開いており,当日は淡々と笑顔で送り出す
  あまり細かく約束ごとで縛らない




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