猫日和
猫バカの妻は、ペットアレルギーです。夜な夜な蒲団にもぐりこんでくる猫を、邪険に追い払うこともできずに、涙と鼻水にまみれて抱きかかえる姿は、哀れというほかありません。
一緒に現場にでたときには、決まって野良猫の姿を探します。北国の長く厳しい冬をしのいできた野良たちは、塀の上で、屋根の上で、時には無防備にも庭の真ん中で、穏やかな日差しを満喫するかのように、ごろりと横になっています。その愛らしい姿を見て、妻は顔をほころばせながら近づいていくのですが、ちょっと油断をすると、足の下にはしっかりと猫の糞。愛猫家の心、猫知らず。妻の心は思うように猫に伝わらないようです。
庭には、猫ばかりでなくさまざまな生き物たちが集まってきます。蜂や毛虫などは招かれざる客ですが、木々や水場に寄ってくる鳥たちは、庭にとっての最上客。鳥たちの存在は、庭の趣を格段に引き上げてくれます。鳥のさえずりの聴こえない庭など、福神漬けの乗っていないカレーライスのようなもの。ちょっと味気ない庭ですもんねえ。
ある現場で仕事をしていたとき、狸に出くわしたことがありました。狸はしばらく私と目を合わせていましたが、ふいと目をそらし、縁の下に消えていきました。
その現場は新潟市の繁華街のど真ん中。まさかとは思いましたが、間違いなくそれは狸でした。さまざまな事情があったのでしょう。住み慣れた里山を遠く離れ、新潟の繁華街にまでたどり着いたその狸は、薄汚れて痩せ細っていました。
狸が餌を求めて庭を徘徊しはじめたのと時を同じくして、山でしか見かけなかったスズメバチが、町うちの家の軒先に巣を作るようになりました。それまで北国では姿を見たこともなかった毛虫たちが、木々に鈴なりになり、このところ庭の来訪者たちの顔ぶれも様変わりしています。
このまま行くと、庭を狼が我が物顔で歩きまわる日が来る、なんてことはないでしょうが、もしそうなったら、小心者の庭師は、尻尾を巻いて逃げるほかありません。
今日もまた猫日和です。妻は仕事をサボって、猫に何か話しかけています。あ、ほらまた猫のウンコを踏んだ。おい、こら、そんな足のままこっちに来るんじゃないよ。
(「土」2006年5月号‐独立行政法人雇用・能力開発機構)