あなたも庭師・入門編

5 シザーハンズ (樹形に変化をつけリズム)

 ティム・バートンという映画監督が大好きです。読者のなかにも、その名前は知らなくとも、『ナイトメイアー・ビフォア・クリスマス』や『マーズ・アタック』、そしてリメイク版の『猿の惑星』と作品名を並べれば、「ああ、あれなら私も好きだ」とうなずかれる方は多いのではないでしょうか。
 そのティム・バートンに、『シザーハンズ』という映画があって、そのハサミの手を持つエドワードという青年の美しくも悲しい物語は、涙なくして見ることのできないものでした。
 『シザーハンズ』のエドワードは、そのハサミの両手を使って、伸び放題の木を、一瞬のうちにトナカイや踊り子、そしてゴジラなどに仕立ててしまいます。それは西洋の庭園に良く見られるトピアリー・ワークという技法なのですが、トナカイや踊り子はいなくとも、マツの木をまるで絵に描いたような樹形に仕立てたり、ツツジなどの低木を幾何学的に刈り込んだり、また生け垣を緑の壁に作ったりと、日本の庭でも昔から、木が本来持っている自然の樹形とはかけ離れた形に仕立てる技法はふんだんに使われてきました。
 自然の素材を使っているとはいっても、庭はあくまで人工のものです。その作為の空間のなかで、時にそれらの自然とはかけ離れた形の自然が、思わぬ効果を発揮するのです。
 寄せ植えにして刈り込むことによって、一本の木ではだせないヴォリュームをだすことができます。刈り込みに起伏をつけることによって、庭のなかに流れをつけることができます。生け垣は、それだけで十分に庭になります。小細工ではありますが、それは庭全体にリズムをつけるのに、欠くことのできないテクニックといってよいでしょう。
 この季節、あちこちで新潟の『シザーハンズ』たちの、庭木の手入れをする姿を見かけます。無駄な枝を払い、木の形を整える。せっかくの良い機会ですから、プロたちのそんな作業を観察して、自分の庭作りに生かしてみてはいかがでしょうか。
 授業料を払う払わないはご自由ですので。
                                (新潟日報 夕刊 2003・7・15)

写真説明
 ツツジやシャリンバイの刈り込みが、庭石やギボウシとバランスよく配置されている。庭の奥では庭師がマツの手入れに余念がない。西堀通8の勝楽寺にて。

あなたも庭師・入門編 index

TOP PAGE