あなたも庭師・入門編

10 ちょっとだけよ (隠すより見せる工夫を)

 恥ずかしいこと、ひとに知れると都合の悪いこと、あるいは目障りなものと、ひとはいろいろなものを隠します。
 ちょっと目だってきた下腹を、ゆったりとした服を着て隠す。人前で思わず出してしまったおならの臭いに、知らぬふりをする。
 そんな程度のことなら、だれしも身に覚えのあることですから気持ちは分かりますし、まあいいかと済ますことができますが、それが密室のなかでの談合であったり、生命や財産にかかわる不祥事隠しであったりすると、笑って済ますことができません。
 隠したものは、いずれ露見するものです。ゆったりとした服を着たために、かえって余計に太って見えたり、おならのあとの強ばった表情で、一層のひんしゅくを買ったりと、隠したためにろくなことにならないことは周知のとおりですが、隠したいものをうまく工夫して隠すことで、思いもかけない効果を上げることもあるのです。
 庭にも隠したいものがたくさんあります。隣の家や通りを行く人たちの視線。またエアコンのユニットやボイラーが茶の間から見えたり、下水の集水枡が茶室のまん前にあってはせっかくの庭もつや消しです。
 それぐらいのもの気にしなければいいんだとおっしゃる向きもおありでしょうが、隠すことによってよりよい住環境が作れるなら、隠すことに後ろめたさを感ずることもないのではないでしょうか。
 しかし家の周りをぐるりと高い塀で囲んだり、つい立や植木で隠しても、いかにも隠しているような隠し方では、かえって目だってしまうものです。
 隠したものを覗きたいのは人情です。それならいっそのこと、見られてもいいように工夫する。威圧感のないような垣根にするとか、庭の一部として違和感のない造作にすると、隠しているようには見えないものです。
 発想を転換して、隠すのではなく、ちょっと見せるというのが、上手な隠し方のポイントです。
 がんじがらめの重装備やすっぽんぽんよりも、裾からちらりと見える脹脛を粋というのではないでしょうか。
                                (新潟日報 夕刊 2003・12・9)

写真説明
茶室の前の井戸。当たり前の造作のようではあるが、実はこれ、中は集水枡である。旭町のHさんの家。

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