あなたも庭師・入門編

12 雪見障子 (物語生む 窓の切り取り)

 窓には物語があります。何の変哲もない風景も、窓を通してみると、そこに物語が生まれるのですから不思議です。窓がなかったら、あのO・ヘンリーの『最後のひと葉』も生まれなかったかもしれません。
 額縁効果とでもいうのでしょうか、絵画のなかの風景は、四角く切り取られた全体のうちの一部分に過ぎないのに、本物の全体よりも遥かに広がりを持った風景に見えることがあります。その額縁効果は窓にも当てはまり、窓で切り取った風景は、思いもしない広がりや物語を窓の外に生むのです。
 京都東山の雪舟寺芬陀庵には、雪舟の作った庭が復元されています。丸窓から覗く庭。障子を開けるにつれて広がる光景。庭は雪舟の作ったものそのものではありませんが、まるで雪舟の描いた絵を見ているような錯覚を覚えてしまうのは、窓の効果を考えた雪舟の、優れた庭師としての仕掛けのなせる業といえましょう。
 雪舟の目論んだ額縁効果は芸術的な演出ですが、芸術的な窓からの眺めとはいかないまでも、せっかく庭があり窓があるのですから、それぞれの部屋の窓を、その家ならではの風景画に作り変えない手はありません。
 庭を作る前に、そして庭を作りながら、窓から見える光景を意識してみてください。窓からの眺めをイメージしてデッサンしておくもよし、木や草を植えながら、いちいち部屋のなかに戻って、それぞれの部屋から見えるその眺めを確認するのでもけっこうです。当たり前のようでいて、意外といい加減に済ましてしまうこの作業。この窓から眺めるという作業は、庭作りには欠くことのできないものだということをお忘れなく。
 雪見障子の向こうの冬景色を見ながら、炬燵で暖まる。少しぬるめのお酒をいただいて、そして隣に美しい女性でもいれば、それはもう至福のときといえましょう。
 『あなたも庭師・入門編』は、今日が最終回です。四月からは、『研究編』が始まります。庭師はどのようなところで庭作りのヒントを得ているのか。この材料には、こんな使い方もありますよ。といったお話です。
                                   (新潟日報 夕刊 2004・2・17)

写真説明
雪見障子は、冬ばかりでなく、雪のない夏にも効果的で面白い。関屋本村のMさん宅の庭。

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