庭師の歳時記

23 白い白樺 ‐ 新潟はウスチャカバがいい

 ヒョウタンのような顔をした男が頬を押さえ、眼を丸くして何か叫んでいる『叫び』という絵。見れば、「あぁ」とうなずくエドワルド・ムンクの有名な絵ですが、その一種異様な絵柄から、見た人はきっとこの絵を描いた人は病んでいる、と思うに違いありません。
 ムンクには、他にもすばらしい絵がたくさんあるのですが、『叫び』があまりにも有名で、その絵の印象だけで、病んでいると思われるのですから、ムンクもかわいそうといえばかわいそうです。
 そのムンクに、『雪のなかの白樺』という絵があります。雪の林のなかで、ぽつんと一本だけ取り残されたかのように立つ白樺。絵の中央で、まるで電信柱のように立ち尽くしている白樺は、その樹皮も雪の白と比べるとくすんでいて、この白樺も何かを叫んでいるように思え、その不思議な構図とともに、とても印象的な一枚です。
 白という色の持つ清潔感によるのでしょうか、上品さの漂う雰囲気によるのでしょうか、白樺は昔から人気の木でした。長野の高級別荘地を連想して、庭に白樺を植えるのが夢だった、という人もいて、白樺はある種権威を象徴するものでもありました。
 ところがいざその白樺を植えてみると、樹皮は思っていたような白にならない。薄茶色が混ざっていたり、ピンクがかっていたり、時にはアブラムシの分泌物で黒く変色してしまうこともあって、白樺は黙っていても真っ白になるものだと思い込んでいた人には、白くはないは、ずくずく大きくなるは、毎年のように毛虫に悩まされるはで、憧れだったものがむしろ厄介者。こんなものぶった切ってしまえ、ということにもなりかねず、そうなると何の罪もない白樺は哀れというほかありません。
 白樺は、寒冷地の木です。北海道や長野で白かった白樺が、同じものだからといって、新潟で同じような表情を見せるわけでもなく、結果、ウスチャカバやクロカバになってしまうのです。
 最近新潟でも、若木のときから真っ白になる、ジャックモンティーという種類の白樺が出回るようになりました。これでウスチャカバの悩みは解消。新潟でも手軽に長野の高級別荘地の気分が味わえるようになりました。
 いえいえ、やはり新潟にはウスチャカバがお似合い。新潟がジャックモンティーでいっぱいになったら、新潟が新潟でなくなってしまいますもんね。
                                (新潟日報 2007・1・19)
写真説明
寒いところでは、絵の具を塗ったように真っ白になる白樺。雪のなかで、鮮やかに映える。といきたかったのだが。 

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