晴雨計

12 スルメイカの作り方

 イカを天日干しにするとスルメになる。生のイカもいいが、あぶったスルメイカにも生のイカにはないうまさがあっていい。
 自然と庭は、生のイカとスルメイカの関係に似ている。もちろん自然の木や草や石そして風景そのものが生のイカで、庭がスルメイカ。自然の素材に手を加え、風景を取り込むと庭になる。つまり自然を天日干しにすると庭になるのである。
 イカとスルメイカの例えは、昔からよく写真でいわれてきたものである。実際の被写体が生のイカで、写し取られた映像がスルメイカ。写真は現実の一断片に過ぎないが、時には現実よりも人の心を揺さぶることがあって、それはカメラマンの心が写真を通してうまく見る側に伝わったからに他ならない。
 庭は自然の素材を使っているから自然そのもののように思われるが決してそうではなく、あくまで自然の雛形であって、擬似自然に過ぎない。擬似自然とは、悪く言えば贋物の自然。しかしそれをいかに本物の自然に見せるか。そこが庭師の腕の見せ所なのである。
 見せ場と思って肩に力が入ると、大概失敗する。奇をてらい策をろうすると、むしろ自然から遠のいてしまう。植生を無視した木の植え方をすれば、それはむしろ環境破壊。蛍が帰ってきたから、あるいはブナを植えたから自然が戻ってきたというのと同じ勘違いだ。
 自然が手の内にあると思うのは、庭師の勘違い。思い上がりである。庭ができ、客によい庭ができたとほめられても、ほめられるのは庭師であるが、本当の手柄は自然の方にある。
 スルメイカがうまいのは、生のイカがうまいからだということを肝に銘じなくてはならない。
 肴はあぶったイカがいい。いえいえ、イカ刺しも塩辛もなかなかなもんです。いろんなイカのいろんな料理を食べ、ついでにぬるめの燗のお酒を飲み、それぞれの味を覚えたところで、初めて肴はあぶったイカでいいと歌えるのです。
                               (新潟日報 夕刊 2002・10・17)

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