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オバマ政権の「核兵器使用戦略」をどう見るか
新原 昭治・国際問題研究者
(2014.2.13)

     ◇ 
 
 国連総会や核不拡散条約再検討会議準備委員会などで米国の顔色をうかがって世界の核兵器廃絶の流れに背を向け、有事の際の核持ち込みを容認する日米核密約は温存、米国政府の了承のもと閣僚が「非核2・5原則」発言をし、そして米国との「集団的自衛権」の名で核兵器使用を容認する外相発言等々、日本政府の異常な米核政策追随姿勢――。「これで被爆国の政府と言えるのか」との内外の不信、批判の広がりは当然です。
 では、肝心のオバマ政権の核政策はいま、いったいどうなっているのか。核兵器廃絶と非核の日本実現のために、米核政策の実態をとらえ、これにどう向き合うかが問われています。
 非核の政府を求める会は2月13日、核問題調査専門委員会を開き、専門委員で国際問題研究者の新原昭治さんが「オバマ政権の『核兵器使用政策』をどうみるか」と題して講演しました。同講演(要旨)を今号と次号で紹介します。


■はじめに

 私の報告は、昨年6月、米国のオバマ政権が公表した「核兵器使用戦略」をどう見るかについてです。この戦略をめぐってわが国ではほとんど議論がありませんが、米国では核兵器廃絶の速やかな実現を求めて運動している人々から、きびしい批判の声があがっています。
 その一方で、わが国では去る1月20日、岸田外務大臣が長崎で限定的な核使用なら認めていい≠ニ発言し、これに対する抗議の世論が広がっています。私は今回の岸田外相言明の背景には米国の「核兵器使用戦略」があり、安倍政権が早くもこれに追随して出てきたのが外相発言だと見ています。
 その点からも、オバマ政権の「核兵器使用戦略」とその問題点をきちんととらえておきたいと思います。

■「核兵器運用戦略」か「核兵器使用戦略」か

 まず、「核兵器使用戦略」の訳語について、少し話したいと思います。
 昨年6月、オバマ大統領はベルリンで核兵器問題の演説をしましたが、その直後、米国防総省は米議会宛てに「核兵器使用戦略」と題する公開文書を出しました。ホワイトハウスもこの戦略について概要報告書(ファクトシート)を公表しました。どちらの発表でも「核兵器使用戦略」という表題がついており、原文はnuclear weapons employment strategyでした。
 日本の新聞はこれを「核兵器運用戦略」と報じましたが、私は疑問を持ちました。米国防総省の公式の軍事用語辞典の定義も確かめましたが、それによれば「核兵器使用戦略」と訳すべきもので、「核兵器運用戦略」の訳は適切でないと判断したのです。
 米国防総省の軍事用語辞典は「employment」の定義として戦力≠フ「戦略上、作戦上、戦術上の使用」を意味すると書いています。核戦略の場合、戦力≠ニは核兵器のことですから、要するに核兵器の「使用」戦略を指しているのです。
 それを「運用」と訳したら、日本語としてとてもおかしなことになります。「新明解国語辞典」「広辞苑」「日本国語大辞典」など代表的な国語辞典はどれも、「運用」とは、「資金や規則などをうまく使って活用すること」とか、「うまく機能を働かせ用いること」等の意味だとしています。まさか核兵器を世界の兵器市場に出して、資金運用するわけではないのですから、やはり「核兵器使用」と訳すしかないと考えます。
 米国内で同戦略への批判が起きているのに、わが国でほとんど見かけないのは、報道における訳語も関係しているのかもしれません(念のため、長崎大学核兵器廃絶センターの梅林宏道氏は「核兵器使用戦略」の訳語で語っています)。

■米核戦略分析の視点

 訳語の問題とも実は関係するのですが、話のついでに、米国の核戦略の基本構造として、米核戦略を形成している柱についておさらいをしておきましょう。
 米国の核戦略は、3つの基本的な柱から成り立っています。
 第一の柱は、核兵器の「取得政策」です。「調達政策」と言い換えてもいいでしょう。どんな核兵器をどれだけつくるか、その予算をどれだけ準備するか、などです。
 第二の柱は、「配備政策」です。米国内あるいは海外のどこに、どのように核兵器を配備するか、固定的配備か変転自在の緊急対応型にするか、などです。いま核保有国の中でも海外に核兵器を持ち込んでいるのは、ほとんど米国だけと見られますので、それとの関係で「配備政策」は特別の意味を持っています。
 第三の柱が「使用戦略」です。核兵器戦略の3つの基本的な柱のなかで最も重要な位置を占めてきています。アイゼンハワー政権の例では、「核兵器を通常兵器と同じように使う」との原則に沿って、核兵器を使うことがあらゆる意味で核戦略の超重点でした。しかし、アイゼンハワー政権以降の歴代米政権でも、核戦略の中軸に位置づけられてきたのは「使用戦略」で、他の柱は核使用のために奉仕したわけです。
 米核戦略の3つの柱としての「取得政策」「配備政策」「使用戦略」の実態に迫ることは、米国の核兵器政策を本質的に把握するうえで大事な手がかりとなります。
 ジャン・ノラン米ジョージタウン大学教授の著書や核兵器専門家ウィリアム・アーキンとロバート・ノリスの分析が、それを裏づけています。(文末の参考資料参照)
米核戦略を研究する場合、もう一つどうしても知っておかなければならないのは、核戦略の3つの柱の赤裸々な内容が明らかにされることはないということです。
 米国の核兵器専門家らがそのことを強調しています。とくに米国務省に勤務した経験があるうえ、1994年の核態勢見直し(NPR)の実際の経過を、事後に政府部内関係者らからの聴き取り調査でリアルに解明したノランは、次のように述べています。
 「現実の核作戦計画を構成している核兵器の『取得戦略』・『配備戦略』・『使用戦略』は、公表される核兵器政策からは正式に切り離されている」「(政府内の)核兵器計画がオープンに審議されているという見方は、思い違いか幻想に過ぎない」。
 問題の「2013核兵器使用戦略」も、まさにそんなものです。こんどの核使用戦略には秘密文書がない≠ネどとホームページに書き込んだ人がいますが、事実ではありません。
 この戦略確定直後の昨年7月、「核兵器使用戦略」策定に参加したジェームズ・ミラー米国防次官が、国防産業協会などとの朝食会で「核兵器使用戦略」について報告しました。そして、「この戦略の見直しは90日間研究≠ナやるつもりだったのに、2年近くもかかった」「急速に変化する状況下で、米国の安全保障にとり、また拡大抑止にとって何が必要かが見直しを導いた」と述べるとともに、「もちろん仕上がった詳しい指針の全文は、秘密です」と言っています。ノランが指摘した通りです。

■オバマ政権の「核兵器使用戦略」とは何か

 ではオバマ政権の「核兵器使用戦略」について、米国内ではどんな議論がされているのでしょうか。ここでは核兵器廃絶を追求してきた人々の意見を中心に拾ってみましょう。
 まず共通して、オバマ大統領が2009年のプラハ演説で「核兵器のない世界」実現への希望を表明して国際世論の大きな期待を集めたにもかかわらず、今回の「核兵器使用戦略」は大統領が打ち出した目標とは食い違っているとの批判が見られます。
 なかでも、オバマ大統領が「核兵器の役割を縮小する」と約束したのに、この「核兵器使用戦略」はある条件下での米国の核兵器の一方的使用の選択肢さえ含んでいることが指摘されており、とうてい容認できないという批判の声があがっています。
 その他にも、批判的議論の論点として次のような問題点が指摘されています。
 ▼集団的自衛権行使としての核兵器による「拡大抑止」に米政府が執着し、米国が核兵器を米国の同盟国のために使う用意があるとしていることへの批判。
 ▼米核戦力の遂行手段として、「冷戦」時代そのままに、ICBM(大陸間弾道弾)、戦略核潜水艦、戦略爆撃機用核爆弾の「3本柱」〔注:これは米核戦略の3つの基本政策とは別〕を、これまで通り維持しようとしていることに対する批判。
 ▼ヨーロッパでのB61核爆弾の配備中止を求める世論の広がりを無視したことへの反発。
 ▼米国の国家財政がきわめて深刻な状況に追い込まれている状況のもとで、巨額の国家資金を投じて「耐用年数延長計画」等の名目のもとに核兵器の大規模な事実上の新鋭化が目論まれていることへの批判。

 以下、米国内で核兵器廃絶のために活動している人々の、「核兵器使用戦略」に対する批判の発言を紹介しましょう。

 □核兵器問題専門家クリステンセン氏の「核兵器使用戦略」についての立ち入った批判的解明
 米国など核保有国の核戦略の実態をリアルに分析し、そのデータを各方面に精力的に知らせてきている核兵器問題専門家に、ハンス・クリステンセン氏がいます。同氏はデンマーク出身の研究者で、ワシントンに事務所を持つ「米科学者連盟」に所属しています。
 クリステンセン氏によるオバマ政権の「核兵器使用戦略」分析は、核兵器専門家としての本格的なもので、精緻な解析に加え、紹介する論評の表題にも見られるように、「プラハに及ばない」という批判も込められています。
 以下は、クリステンセン氏の論評「プラハに及ばない――オバマの核兵器使用政策」(ワシントン・軍備管理協会『アームズ・コントロール・トゥデー』誌2013年9月号)の抄訳です。
「大統領の核兵器使用指針の見直しは、きわめて大きな変化をつくりだすことができるものだが、実際には滅多にそんなことは起きない。核の指針の変化はゆっくりとなされる。通常きわめてゆっくりと。核政策の根本的な新方向を創り出す代わりに、大統領の指針はふつう現実に追いつくこと以上のことは、少ししかやらない。
 2013年6月19日発表のオバマ政権の核兵器使用政策に関する指針も、見たところ型通りのようである。指針は、オバマ大統領が2009年にプラハ演説で公約した『冷戦思考を終わらせる』というよりは、核攻撃計画の立案を貫いてきた過去数十年来の中核に据えられてきた原則や特徴をあらためて確認して、冷戦的思考を続けているように見える」。
 クリステンセン氏の論評は、まず書き出しでこう述べたあと、「核兵器使用戦略」について次のような冷静な分析を行っています。
 「ペンタゴン作成の議会向けの改定版核兵器使用戦略の概要報告によると、新指針は、『長期間、米国の核兵器政策を導いてきた抑止力に関する立場と一致しているが、今日の戦略状況に適合するよう適当な修正も加えられている』。
 この新指針の主な目的は、2010年の『核態勢見直し(NPR)報告』の確認内容と結論を、潜在的な敵勢力による米国や同盟国・提携国に対する攻撃を抑止するため、軍部が核戦力の役割と構成をどのように計画するかの指令に活かすこと、ならびに抑止に失敗した場合、米国や同盟国・提携国に有利な条件で敵を敗退させるため、軍部が核兵器使用をどのように計画するかの指令に活かすことにある。
 新指針の明白な手柄は、新〔米ロ〕戦略兵器削減条約(新START)で許されている配備済み戦略兵器弾頭数より『最大3分の1』以下少ない配備戦略弾頭によって、米国と同盟国・提携国の安全を確保できるという決断にある。もし『ロシアとの取り決めによる削減』を通じて追求されるなら、この決定は米国の弾道ミサイルをさらに500弾頭を追加的に取り去る可能性を秘めている。
 ●新指針は配備された核弾頭数の削減の可能性に道を開いてはいるものの、指針は『現に配備されている米国核戦力に手を加えることを指示してはいない』。指針は、米国が陸上、航空機、潜水艦に配備された戦略核戦力の3本柱を保持し続け、それは非戦略戦力の核搭載可能航空機によって支援されるとしている。
 ●3分の1を上限とする配備済み戦略弾頭の撤去と貯蔵がなされるなら、弾道ミサイル弾頭数削減という最近の傾向が続くことになろうが、ただしそのことは、弾頭の破壊を必要としないし、したがって復元不能な削減を意味するものともならない。弾頭は恐らくは貯蔵弾頭の「ヘッジ」(損失防止手段)の一部となるだろうし、危機に臨めば再び(ミサイル)発射台に積み戻されることもありえよう。弾頭の移動は、米国が保有する核兵器数には直接影響しない。
 ●米軍はすでに、運搬システム上に配備されている以上に数多くの弾頭を、ヘッジとして持っている。新指針が見通している配備済み戦略弾頭の追加移動は、その弾頭戦力数をさらに増加させるだろう。ヘッジ弾頭は、2つの目的を果たす。もしロシアや中国が核兵器数を顕著に増やしたとすれば、ミサイルや爆撃機に搭載する弾頭数を増加させることが一つ。もう一つは、別の種類の弾頭や運搬システムの技術的不全を埋め合わせるのに十分な特定タイプの弾頭をたっぷり確保しておくことである。しかし、モスクワから見るならば、ヘッジ弾頭が増大することは、新STARTの水準を超えて米国が核兵器配備を可能にし、危機に際してロシアより戦略的優位を持つことを可能にする不安定化要因となる。
 ●高価な即応型インフラをつくったり、交換可能な弾頭の信頼性を得るための長期の取り組みの結果、新しい方法で約束の規模のヘッジ削減を実現するには長い期間がかかるかもしれない」。

クリステンセン氏による「核兵器使用戦略」分析は、さらに続きます。
「*核兵器の役割
 核兵器の役割を縮小することは、オバマ政権の核政策の重要な柱である。ホワイトハウスの要約は、新指針によって『米国の核戦略は21世紀の抑止に必要な目標や使命にのみ焦点を絞り込むものとなる』と述べている。この戦略がなぜそれ以外の何かをやろうとするのかは、明確ではない。クリントン政権もブッシュ政権も同じような言葉を使った。
 新指針は、米国の核兵器の『基本的役割』が核攻撃を抑止することにあると確認し、またゆくゆくはその役割を米国の核兵器の『唯一の目的』にするとの政策を持っていると確言している。唯一の目的という政策に移行するために、明記されていない通常ならびにミサイル防衛能力の強化以外の、どのような条件が満たされなければならないのかは明らかではない。指針は、NPR報告が『この安全保障の対象とならない諸国――核兵器を保有している国および核不拡散義務を順守していない国――のケースでは、米国の核兵器が今なお、米国、同盟国、提携国に対する通常兵器や生物・化学兵器による攻撃を抑止するのに役割を果たすかもしれない狭い範囲の非常事態が存在し続ける』と確認している。
 国防総省とホワイトハウスの文書は、核兵器の役割をさらに減らす潜在力をもつ措置について述べている。彼らはペンタゴンに対し、『非核攻撃の計画化を指示することによっていっそう多くの選択肢』を大統領に提示するよう指示している。しかし、これが現実に核兵器が果たす役割をどのように、またどれほど減らすことになるかは不明確である。
 *核兵器使用に対する
  制約
 新指針は核兵器の潜在的使用に対して、公式に若干の制約を設けた。すべては全般的な米国の政策のなかで長らくとられてきた構成部分をなすものである。しかし、それらが大統領指針にとって新しいものかどうかは、これまでの古い大統領指針文書が公開されていないので不明確である。
 第一の制約は、米国は核兵器の使用を『極度の状況』下でのみ考えるというものである。国防総省の指針文書も、ホワイトハウスの要約文書も、なにを指して『極度』とするか、あるいは、そこでいう『状況』とは米国と同盟国とパートナー国の死活的利益を守る以外の何かであるかについて、何も語らない。
もう一つの制約は、指針がすべての核攻撃計画は武力紛争法規の根本原則に合致しなければならないとし、米国は『故意に民間人と民間目標を攻撃目標にしない』としていることである。したがって、都市攻撃は、そこにきわめて重要な軍事目標がない限り、禁止される。モスクワや北京など若干の都市には、それがある。現行計画では恐らく両都市とも攻撃目標にされるのだろう。戦略軍がある都市の軍事施設を目標に決めたとしても、計画作業においては市民に対する副次的損害を可能な限り制限しなければならない。しかし、数多くの研究が示している通り、純粋に軍事目標に対する核攻撃であっても、それは非軍事の市民らに対して壊滅的な損害を及ぼしうるものである。〔太字は訳者による。以下、同〕
 第三の制約は、核不拡散条約下の義務を果たしている非核保有国に対しては、米国が核攻撃を行ったりそれを行うとの脅迫をしないというものである。この消極的保証は、1970年代以来、米国の核政策の一部になっている。そして、2010年核態勢見直しは、ソ連とワルシャワ条約機構の崩壊を反映して、その修正を行った。核態勢見直しはこの修正を核兵器の役割を削減する重要な措置のように描いているが、それは今日の敵に対する核計画化作業にはなんの明確な効果も持たないものである。
 *ヨーロッパの核兵器
 新指針は非戦略核兵器について若干の方向を示し、NATOがその態勢を変えるまでの間、ヨーロッパに『前進配備体制は維持すべきである』と結論づけ、NATOの2012年『抑止と防衛態勢見直し』と歩調を合わせている。
 これにはがっかりさせられる。それは、ヨーロッパからの核兵器削減や撤退に反対しかねないヨーロッパの同盟国に、米国を屈服させるからだ。また、オバマが6月ベルリンで、『ヨーロッパの米ロ戦術核兵器の大胆な削減を求める』と述べたことに照らしても奇異だ。オバマ大統領が求めても、たった一同盟国でそれを阻止できることになる。
 *結論
 新しい米核兵器使用指針は、冷戦思考に終止符を打っていない。核兵器の数および役割を減少させるための適度の措置を含んでいるようには見えるものの、指針全体はあまりにも用心し過ぎた文書となっていて、冷戦中に米国の核計画化作業を導いてきた多くの中核的性格や原理が、引き続き21世紀における計画化の支柱になっている。米国がその核政策の冷戦思考に終止符を打つまでには、明らかにかなり距離があるようだ」。

 オバマ政権の「核兵器使用戦略」を米国の反核活動家はどう見ているのか、代表例を紹介しましょう。

 ▽ピーター・ワイス米核政策法律家委員会名誉会長

 ピーター・ワイス氏は、国際反核法家律協会(IALANA)共同会長も務める米国の反核運動の有力者ですが、「核兵器使用戦略」をきびしく批判して、次のように述べています。
 「核兵器使用戦略の文書には、オバマ大統領が全面的な核兵器禁止に向けてどのように前進しようと考えているかの説明がない。一方、2010年の『核態勢見直し』(NPR)では抑止のための核兵器の役割に焦点が当てられていたが、今度初めて核兵器の使用(use)を意味するEmploy
mentが戦略の表題にされた。これは内外に向けて米国が核兵器使用を恐れていないことを告げる、かなり見えすいたやり方ではなかろうか」。
 「報告は米国政府が、『拡大抑止』に固執していることを示唆している。『拡大抑止』とは、米国の核戦力を同盟国等のためにも使うという公約だ。また国防総省の核兵器使用戦略に関する報告は、『民間人と民間目標への副次的被害を最小限にするよう努める』と述べて、核兵器使用計画がつくられつつあることを示した。核使用を計画する人々は、副次的被害の最小限化という実現不可能な課題を与えられている」。
 「一部の核軍縮支持者は、核弾頭削減というベルリンでのオバマ演説に喝采を浴びせたが、私は、大統領が核兵器の全面廃絶の目標に取り組むという政治的意思を表明するまでは、喝采を控える」。

 ▽ローレンス・ウィットナー元ニューヨーク州立大学歴史学教授

 ウィットナー氏は、『世界の核兵器廃絶運動史』を著した反核運動の研究者として広く知られていますが、オバマ政権の核使用戦略に対し、新たな核戦争を準備するものだと強い疑問と批判を投げかけています。
 「米国政府はソ連の消滅、冷戦終結から4分の1世紀が経つのに、依然として核戦争の準備をしている。核兵器使用戦略の報告書で述べられていることは、『冷戦』時代から引き継いできたものの改革というよりは、それの継続だ」。
 「2010年のオバマ政権の『核態勢見直し』は、核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的にするため努力すると言ったが、今度の報告は、『我々はそのような政策を今日の時点で受け入れることはできない』と表明した。つまり、過去と同様、米政府は他国に核攻撃を加えることをみずから自由と考えているのだ」。
 「さらに戦略核兵器の3本柱がこれまで通り維持されることになったうえ、西ヨーロッパ諸国で広がりつつある推定200発のB61核爆弾撤去の要求にもかかわらず、その撤去要求に応える提案が何一つない」。
 「オバマ氏が、2009年にプラハで核兵器のない世界をつくると約束すると述べた時の、あの高尚な言葉はいったい何だったのだろうか。途方もなく危険で、時代に合わない過去の核政策と縁を切りたがらない現政権の姿勢は、一連の世論調査の結果や全国教会協議会、米国市長会のような社会本流の諸団体の決議に表明された、核兵器廃絶への米国内の国民的な支持を裏切っている。核戦争をあてにする米政府の態度を終わらせるだけの、しっかりした大衆動員がないかぎり、米政府関係者は核戦争への備えを続けそうに思われる」。

 ▽核兵器廃絶運動家のジョセフ・ガーソン氏

 ジョセフ・ガーソン氏は、ボストンを拠点に活動する米国のフレンズ・サービス委員会の核兵器廃絶運動家で、広島・長崎での原水爆禁止世界大会に毎年熱心に参加しています。ガーソン氏は米国のウェブサイトTRUTHOUTで、「オバマ大統領はなぜもっと多くを求めないのか?」と題し、ベルリンでのオバマ演説を論評。2009年のプラハ演説でオバマ氏がふくらませた「核兵器のない世界実現」に向けた希望を、大統領自身がにわかにしぼませたと指摘するとともに、「核兵器使用戦略」をはじめ、オバマ政権の姿勢に危惧を表明しています。
 「オバマ大統領は核兵器が存在する限り、米国は世界の最も有力な核兵器国であり続けるという長く続けられた誓約をくり返した」と指摘。「現実の行動が、言葉より雄弁だ。オバマ大統領5年目に際し、核戦争を始める準備と脅しが引き続き中心的なものになっている」と警告しています。
そして危惧される動きの実例を1、2挙げています。
 ● 2013年に、北朝鮮向けにB2とB52両爆撃機を派遣し核攻撃想定〔作戦〕を行ったことや、イランへの「あらゆる選択肢」保持の姿勢をとったこと。
 ● 核兵器とその使用手段の「新鋭化」のため、2000億ドル(=20兆円)近い巨額を投じようとしている。他方で、シカゴやフィラデルフィアで学校が記録破りのペースで閉鎖され病院が閉じられる等、一連の重要な社会サービスが大削減されている時期に、こんなことが起きている。
 こう指摘したうえで、ガーソン氏は主張します。
 「プラハの約束を履行するうえでオバマ大統領がやれることがたくさんある。 ……
 根本的には、世界中で核兵器による最大の重武装をしている国〔=米国〕が、核不拡散条約の約束を果たそうとするのであれば、全世界の核兵器の完全廃絶をめざす誠実な交渉に向けて、もっと意味のある行動に踏み出すべきである」。

■日本の報道と
根拠なき「安心感」

 以上、米国の代表的な反核活動家によるオバマ政権の「核兵器使用戦略」に対する批判を見てきました。
 前回、核兵器専門家のクリステンセン氏は、オバマ政権の核使用政策に限界の不鮮明なグレーゾーンが存在していることを問題にしていました。その背後には核兵器使用に踏み切る「自由」を確保しようとする戦略的軍事的意図があることを指しながら、「冷戦思考に終止符を打っていない」と鋭く解明しました。
 その角度から日本での核兵器使用戦略の報道を振り返ると、一部で一面的な情報提供が人々に根拠のない「安心感」をまき散らしたのではないかと恐れます。
 たとえば、もっぱら「核兵器の使用基準や核兵器の役割をいかに縮小するかを詳細に示した」とか、「多くの民間人を犠牲にした広島や長崎への原爆投下のような攻撃は極力避けるとした」という点にだけ焦点を当てた報道ぶり(A紙昨年6月20日付など)に、その一例を見ます。
 クリステンセン氏は、「核兵器使用に対する制約」という項で、「新指針は核兵器の潜在的使用に対して、公式に若干の制約を設けた。すべては全般的な米国の政策のなかで長らくとられてきた構成部分をなすものである。しかし、それらが大統領指針にとって新しいものかどうかは、これまでの古い大統領指針文書が公開されていないので不明確である」と指摘しています。また、「第一の制約」とされる「米国は核兵器の使用を『極度の状況』下でのみ考える」との文言についても、「国防総省の指針文書も、ホワイトハウスの要約文書も、なにを指して『極度』とするかを語らない」と、故意に曖昧にされたことへの疑問を呈しています(傍線は引用者)。
 超大国の為政者が現実に何をしでかすか分からない怖さを「核兵器使用戦略」が内包している現実に、私たちも目を向けるべきではないかと考えます。
 同時に、クリステンセン氏が専門的立場から行った分析が、今回紹介したピーター・ワイス、ローレンス・ウィットナー、ジョセフ・ガーソン各氏の「核兵器使用戦略」批判とそれぞれのニュアンスの違いはありながらもかなりの点で重なっていることは、一連の核使用戦略批判に共通の根拠が存在している事実を裏付けていると考えます。

■東アジアへの新しい核兵器展開戦略と岸田外相発言の危険性

 オバマ政権の「核兵器使用戦略」が公表されて以後、わが国では「海外で戦争をする国」づくりをすすめようとする安倍政権の岸田文雄外相が、核兵器使用の容認発言を行うなど、実に危なっかしい動きが表面化しています。
 岸田外相は1月20日、長崎で、個別的・集団的自衛権にもとづく極限状況下での核兵器使用を肯定すべきだと発言しました。
 同外相は、「核兵器保有国の中には核兵器使用の可能性を広くとっている国もあるが、万が一の場合にも、少なくとも、核兵器の使用を個別的・集団的自衛権に基づく極限の状況に限定する、こういった宣言を行うべきだ」と述べたのです。
 岸田外相発言は「核軍縮」についての見解表明として行われたのですが、核兵器の使用が「核軍縮」と両立するかのような論理そのものに大いに驚かされ、強い憤りを感じました。
 そもそも「個別的自衛権・集団的自衛権にもとづく極限の状況」に限定≠キれば核兵器使用が許されるという主張自身、被爆国政府の閣僚の発言として絶対に許されないものです。そんな理屈を付ければ、核兵器がどしどし使われることになりかねないでしょう。 同外相が、核兵器を使うことの深刻かつ重大な犯罪性をどう認識しているのかが、きびしく問われます。
私は数年前、一九四五年に日本に2発の原爆が落とされて以後、核兵器の数が驚くほどふえ核兵器の使用の危険も何度も経験したにもかかわらず、それはなぜ使用されることはなかったのかという問題を研究して大著をあらわしたニーナ・タネンウォルドさんを、米ロードアイランド州ブラウン大学に訪ねてインタビューしたことがあります。研究者としての彼女の回答は、それは国際社会に大きく広がった「核タブー」、すなわち最悪の大量殺戮兵器である核兵器使用は絶対に許してはならないという国際的規範が事実上できてきていることに、その答えがあるというものでした(Nina Tannenwald, THE NUCLEAR TABOO, THE UNITED STATES AND THE NON-USE OF NUCLEAR WEAPONS SINCE 1945, Cambridge University Press, 2007.
「非核の政府を求める会ニュース」2008年5月15日号参照)。
この問題は今日もなお、きわめて切実な全人類的課題です。
 今回の岸田外相発言は、唯一の被爆国の政府閣僚でありながら、こうした核兵器使用を許さない事実上の国際規範の蹂躙に加担する発言を行ったもので、最も強く非難されるべき重大な言明と言うべきです。
 さらに言えば、「限定」という用語を核兵器使用肯定の言明の前に置きさえすれば、核使用肯定発言の衝撃をいくらかでも小さくできるかのように考え意図したことは、言葉の魔術≠ナす。大量殺戮兵器の使用が許されてよい 限界≠ネどありえません。
 最も非人道的兵器である核兵器の使用は、人類にとっては、ゼロ(使用禁止)か1(使用肯定)かのどちらかしかないのです。
 この岸田外相言明が、昨年末に安倍内閣が閣議決定した「国家安全保障戦略」の延長線上のものであることにも、注意を喚起したいと考えます。同戦略は、「幅広い日米安全保障・防衛協力のさらなる強化」と称して、「米国による拡大抑止提供」を強調しました。それの具体化としての岸田外相による正面切っての核兵器使用発言だったのです。

■被爆国政府にふわさしい正論の発信を

 唯一の被爆国の日本政府は、岸田外相の言明とは反対に、いっさいの核兵器使用肯定論をきびしくしりぞけて核兵器全面禁止の国際条約をこそただちに結べと、全世界に向かって呼びかけるべきです。
 日本政府が長年のアメリカ追随による核兵器肯定の呪縛≠破って、国際社会に向かって核兵器廃絶、核兵器全面禁止協定実現の正論を堂々と唱えたら、間違いなく世界中からこれに呼応する大きな反響が引き起こされるでしょう。そして、すでにアジア・アフリカ・ラテンアメリカ、さらにはヨーロッパにさえ広がっている核兵器反対・核兵器廃絶を速やかに実現せよという国際社会の大きな流れを、いよいよ圧倒的な世界的流れにすることができるに違いありません。
 しかし、実際に日本政府がやっていることは、核使用戦略に固執している米国の核戦略への追随です。
 民主党政権時代に行われた日米核密約の調査がたどった軌跡も、驚くべき結末となりました。1960年の核密約そのものが米国で解禁されていたにもかかわらず、あの調査のとりまとめをした有識者委員会(北岡伸一座長)は、同密約を厳密な意味での密約とは認めないとの判断を示し、政府も密約破棄を含むいかなる断固たる措置もとりませんでした。
 いっそう驚くべきことは、外務省の密約調査を指揮した岡田克也外相が、調査終結時に、秘かに米国側と外交折衝をやった結論に従って、「将来の日本の政権がその時の状況からして、『核を持ち込ませなければ日本を守れない』という状況になったときには、時の政権がそれを判断して決める」と国会答弁したことでした。共同通信の暴露によって、その岡田言明の文言は、日米折衝を通じてつくられていた事実も判明しています。
 さらに、最近の国会では、民主党政権時代に自分の責任でひそかな対米折衝を行って、非核3原則の「核兵器を持ち込ませず」原則つぶしにつながる国会答弁をやってのけた岡田氏自身が、安倍政権に対し自分が民主党政権時代に行った政府答弁を受け継ぐかどうかなどと質問し、岸田外相から「引き継いでいる」との答弁を引き出しています。
 驚くべき核持ち込み肯定の茶番というべきで、核兵器の速やかな廃絶を強く望む国民と世界の諸国民に対する冒涜的行為です。
 核兵器使用のいかなる策動も許さないために、非核3原則じゅうりんに反対し、非核の日本を真に実現するための国民的な世論と運動が、いつの時期にもましていよいよ差し迫って重要な緊急課題になっていることを痛感させられます。
 私たちは今こそ、そのことを多くの人々に呼びかけて、真の非核の国民世論を広げようではありませんか。

(参考資料)
*Janne Nolan, AN ELUSIVE CONSENSUS: NUCLEAR WEAPONS AND AMERICAN SECURITY AFTER THE COLD WAR, Brookings Institution Press, 1999
*William Arkin, Robert Norris, THE INTERNET AND THE BOMB: A RESEARCH GUIDE TO POLICY AND INFORMATION ABOUT NUCLEAR WEAPONS, Natural Resources Defense Council, 1997
[http://www.nrdc.org/nuclear/nuguide/acknow.asp]