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 ●提言・声明
 
憲法9条を破壊する「切れ目のない」戦争立法を阻止しよう
小沢隆一(常任世話人・東京慈恵会医科大学教授)
(2015.04.15)

  はじめに

 自民・公明両党は、2015年3月20日の「安全保障法制整備に関する与党協議会」(以下「与党協議会」と略)で、「安全保障法制整備の具体的な方向性について」(以下、「具体的方向性」と略)と題する合意文書をとりかわした。これによって、昨年7月1日の閣議決定(以下、7.1閣議決定とする)以降、準備が進められてきた安保法制(本稿では「戦争立法」と呼ぶ)の輪郭が見えてきた。
 それは、一言でいって、自衛隊が「いつでも、どの国とも、どこでも、いかなる場合でも」軍事行動を共にするための法制である。まさしく「切れ目のない」という言葉通りの戦争立法であるが、これらが作られてしまえば、逆に憲法9条は「細切れに裁断」され、その法的意味は失われたのも同然である。

1.「いつでも」(=常日頃から)、「どの国とも」共同の軍事行動

 「具体的方向性」では、7.1閣議決定での「米軍の武器等防護のための自衛隊による武器使用」を具体化する形で、自衛隊による武器等防護の対象を、「米軍以外の他国軍隊の武器等」にも拡大して、法整備を検討するとした。
 これは、自衛隊法第95条の趣旨を踏まえておこなうとされているが、同条は、もともと、自衛隊によって保管されている武器や弾薬や車両、停泊している船舶、駐機している航空機などの防護を念頭に置いた規定である。ところが、この間の政府の説明では、この規定は活動中の部隊が使用している武器等の防護にまで広げて解釈されている。
 政府の説明によると、「我が国の防衛に資する活動」に現に従事している米軍その他の軍隊の武器等は、「我が国の防衛力を構成する重要な物的手段」とみなすのだそうである。ずいぶんと無茶な理屈である。そこまで強引な理屈を通そうとするのは、何か理由がありそうである。政府作成の資料には、米軍による「我が国の防衛に資する活動」には、弾道ミサイル等への対応を含む情報収集・警戒監視活動が挙げられている。どうやら、弾道ミサイル防衛に関して日常的に情報交換、連携しているアメリカのイージス艦などを防護することを想定しているらしい。また、自衛隊と共同訓練をしている他国軍隊も「我が国の防衛に資する活動」をしていることになるのだという。
 これは、いわば「集団的自衛権」行使の前倒し的な法整備であり、アメリカやその他の国との緊密な軍事同盟関係を既成事実によって暗黙裡に構築することになる恐ろしい規定であるといえよう。そのような企みが可能になるのは、ひとえに集団的自衛権の行使を合憲としたからである。集団的自衛権行使容認は、それ自体として日本が他国と共同して武力を行使するという憲法9条を根底からくつがえすものに他ならないが、この「容認」は、その波及効果として、「武力攻撃に至らない侵害への対処」において、日本が他国とあたかも軍事同盟を結んでいるかのように自衛隊が行動することをもたらすのである。このことにも、私たちは恐怖し、警戒をしよう。

2. 「どこでも」、「どの国にも」、「いかなる場合でも」後方支援で軍事協力

 今回の戦争立法の第二の特徴は、他国軍隊の軍事行動に対する自衛隊による後方支援活動の範囲を、極限にまで押し広げる点にある。すなわち、次のような点がそれにあたる。
@ 周辺事態法から「日本周辺」という概念をはずし、地球上のどこででも日本の「平和と安全に資する活動を行う他国軍隊に対する支援活動」を可能とする(重要影響事態法に)。
A 自衛隊などの活動範囲に関して、「他国の『武力の行使』との一体化を防ぐ」との言葉は残してはいるものの、他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」以外であれば、他国軍への支援活動をおこなうことができるようにすることで、従来の「他国の『武力の行使』との一体化」論が意味をなさないほどに、他国の軍事行動に深く関与する支援活動を行う。
B 自衛隊などによる支援活動における対応措置の内容を、従来の周辺事態法などでのものよりも拡大する。
C 新法(国際平和支援法)を制定して、「国際社会の平和と安全のために活動する他国軍隊に対する支援活動」を可能とする。
 周辺事態法を改正した「重要影響事態法」は、地球上のどこで起こる事態でも「我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」となりうるという前提でつくられようとしている。支援の対象である米軍などの軍事行動は、Cの「国際社会の平和と安全のために活動する他国軍隊に対する支援活動」とは異なり、国連安保理決議等の国際法的正統性がない場合の軍事行動も含まれうる。まさしく、「アメリカの侵略戦争に加勢する」という事態も十分に想定される。
 重要影響事態法にせよ、国際平和支援法にせよ、それによる外国軍隊への支援活動は、Aのように他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」以外であれば、どこでも可能となる。これにより、いわゆる「武力の行使との一体化」論は、葬り去られたに等しい。これからは、次のような筋書きで自衛隊は行動することになるのであろう。どこが「戦闘地域」か「非戦闘地域」かは、あらかじめ決めることはできない。それは事態が刻々と変わる活動の現場における判断に任せるしかない。自衛隊の支援活動は、とりあえず「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ、どこでも実施し、もし状況変化によって、そのような「現場」になった場合には、現場の部隊等の長が、支援活動を一時休止するなど、危険を回避する措置をとって対処する。しかし、これは、ようするにいつでも「戦闘地域」になりうるエリアで活動するということである。
 Bによって従来の周辺事態法などによる活動よりも他国の軍隊の「武力の行使」により密接に関わる支援活動を自衛隊が行うことも見逃せない。その具体的な内容は、医療、輸送、保管(備蓄を含む)、通信、建設、修理・整備、補給、空港・港湾業務、宿営地業務、宿泊、消毒、施設の利用、訓練業務であり、これまで禁止されてきた「弾薬の提供」も可能となる。できないことは、「(弾薬以外の)武器の提供」のみとなる。これを、従来の基準でいえば「戦闘地域」に等しいエリアで行うのであるから、「他国の『武力の行使』との一体化を防ぐ」という「具体的方向性」の言葉はむなしく聞こえる。「その気がない」と見るほかない。
 「国際平和支援法」も、支援活動の対象となる外国軍隊の活動を「国連決議に基づくものであること又は関連する国連決議があること」と広く規定することで「汎用性」を確保しようとしている。「国連決議に基づくもの」の例は湾岸多国籍軍、「関連する国連決議があること」の例は、2001年9月11日のテロ後の米英の武力行使と、それに続く国際治安支援部隊(ISAF)による武力行使を伴う治安維持活動である。どちらにせよ、大規模な戦闘、民間人を巻き込んだ軍事行動が行われたが、このような軍事行動に自衛隊が支援活動という形で深く関与することになる。「現に戦闘行為を行っている現場」以外での支援活動と「武器の提供」以外のあらゆる支援活動を行うという枠組みは、改正周辺事態法(重要影響事態法)と同じである。

3. 憲法9条破壊の戦争立法の阻止を

 このように、7.1閣議決定が集団的自衛権の行使を容認したことは、自衛隊自らが「武力の行使」に及んでいない段階の平素からの米軍その他の軍隊との共同・連携を可能とし、その際に万が一いずれかが攻撃を受けた時は、自衛隊が「武器等防護のための武器使用」を行うことで、当該軍同士に「同盟軍的性格」を与えることになっている。集団的自衛権行使容認は、それが実際に行使される、すなわち日本と他国とが共同で「武力の行使」を行うことそれ自体も重大な問題を孕む。それと同時に、述べてきたように「前倒し的な影響・波及効果」も、憲法9条の体制の実質を大きく掘り崩すものとして深刻な問題を引き起こすものである。
 また、7.1閣議決定とその後の法整備が、「武力の行使との一体化」論を事実上廃棄したことの影響も甚大である。戦争立法は、一方で「武力の行使」と「後方支援」の区別に依拠しつつ、他方でその区別を無きものにしてしまうような、次の瞬間には「戦闘地域」と化してしまう「現に戦闘行為を行っている現場ではない場所」という観念を持ち出した。ここには、軍事的必要性に引きずられた政府・与党のなりふりかまわぬ姿が露呈している。
 こうした今回の戦争立法による憲法9条破壊の暴挙の意味、性格をしっかりと国民のなかに伝えていこう。