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《Q&A》ズバリ!九条改憲問題
小沢隆一・東京慈恵会医科大学教授・非核政府の会常任世話人(2017.9.15)
非核政府の会常任世話人(2017.9.15)
 はじめに

 安倍晋三首相は、5月3日に開催された改憲派の集会にビデオ・メッセージを寄せて、「憲法9条に自衛隊の存在を明記した条文を追加して、2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べました。またGWのさなか、北朝鮮とアメリカとの対立と緊張が激しさを増す情勢のもと、戦争法で新設された「外国軍の武器等の防護のための自衛隊による武器使用」を定める自衛隊法95条の2を発動しました。6月15日には、さまざまな憲法違反をはらんだ共謀罪法案が、これまでの国会審議の慣例を乱暴に踏みにじって強行採決され成立しました。こうした、憲法改悪をめぐる目まぐるしい情勢をどうつかみ、どう立ち向かうか――。重要な論点をQ&A方式でまとめてみました。

 【Q】安倍首相の改憲発言は、「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)に違反しないのですか?
 【A】結論から言えば、違反します。それも、相当悪質な違反です。その程度」を把握することは、日本国憲法の神髄を理解する上でも大切なことです。
 憲法99条は、「天皇」から始まって「国務大臣、国会議員…その他の公務員」と、およそ公務に携わるすべての人たちの「憲法尊重擁護義務」を定めています。憲法は、国家権力を担う公務員に広くこの義務を課して、憲法と法律などに従ってその職務を厳正かつ公平に行わせることで、国民の権利を守る(守らせる)ことを目的としているのです。
 ここで重要なことは、公務員の「憲法尊重擁護義務」には、以上のような普遍性とともに、それぞれの職務の性格に応じた特殊性の両方が含まれていることです。首相(内閣総理大臣)に特殊な「義務」としては、改憲問題にむやみと関与しない(それを論ずることが認められているのは、憲法改正の発議権を有する国会と国会議員だけ)、「行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」(憲法66条3項)などがあるのです。ですから、首相は、5月3日の改憲発言について、国会で答弁する責任があります。ところがその際に述べたのは、あろうことか「読売新聞を熟読せよ」でした。責任放棄も甚だしい。
 また、「総理(大臣)ではなく(自民党)総裁としての発言だ」などと弁解をしていますが、そんな言い訳も通りません。首相は、政治家として「公務」に携わる以上、家族とのだんらんなど純然たる「私的」な時間以外は、首相の地位を消すことはできないはずです。「総理」と「総裁」の使い分けは許されません。
安倍首相の憲法への敵視とも言ってもよいくらいの無理解は度を越しています。

 【Q】その発言のなかで 現在の憲法9条の1・2項を維持して、自衛隊の存在を明記する条文を加えると述べましたが…。
 【A】いわゆる「9条3項 加憲」論です。この議論は、従来から公明党などが唱えてきたものですが、自民党の総裁が、それを言い出すのはきわめて唐突です。おそらく安倍首相の周辺の党内外の人も驚いたことでしょう。
 ここで、いわゆる「加憲」論の本質をつかむことがとても重要です。それは、当面の改憲反対運動の一大論点になるでしょう。まず強調したいことは、「改憲ならざる加憲」などというものはないこと、加憲はまぎれもなく「改憲の一種」であるということです。ここで重要なことは、「後法は前法に優る」という法律学の「黄金律」(ゴールデン・ルール)を理解することです。9条に3項が付け加えられれば、それと矛盾・抵触する限りで1項、2項さらにはその他のすべての憲法条文は法的意味を失います。そうでなければ、あえて憲法を変える意味はありません。法として同位にあるものの間でこの「黄金律」が働かなければ、法を制定するという国家の作用は大混乱に陥ります。「改憲ならざる加憲」という理解は、この「後法は前法に優る」という「黄金律」の存在を無視する混乱した思考か、あるいはそれを意図的に隠ぺいするデマゴギーのどちらかです。
 自衛隊の存在を合憲化する3項を加えれば、現在の9条1項と2項の意味は自ずと変わります。3項によって「上書き」された2項の「戦力不保持」の規定は死文化するのです。そして、合憲化される自衛隊は、2015年制定の安保法制(戦争法)によって集団的自衛権行使や他国軍への「後方支援」の権限を付与された自衛隊であって、「専守防衛の自衛隊の合憲化」ではありません。
 実は、日本の法律の作られ方は、「加憲」ないし「加法」の方式ではありません。通常は、新たな法律や条文を作る際に、それと矛盾・抵触する法条を法律から削除するのです。「上書き」されて死文化した法律の条文は、法典から消されて過去の制定の痕跡が残らないようになっているのです。これに対して、「加憲」というのは、それを残す方式です。アメリカはこの方式をとっています。例えば、米合衆国憲法の修正第18条(1919年確定)は、いわゆる「禁酒法」の根拠規定です。ところが、この法律によってアル・カポネらが暗躍してしまった。そこで1933年確定の修正第21条で「合衆国憲法修正第18条は、これを廃止する」と規定して18条を無効化してしまいました。今では、18条は条文としては残っていますが、それを廃止した21条のほうが有効なのです。
 現在の日本の方式にせよ、アメリカの方式にせよ、「加憲は改憲にほかならない」という点は不動のものです。

 【Q】安倍首相は、なぜいま「9条3項加憲」論を言い出したのでしょうか。
 【A】正直なところは、本人に聞いてみなければわかりませんが、おそらくこの間の9条改憲の動きのペースの遅さに「しびれを切らした」のではないでしょうか。その意味では、焦り、いらだちの帰結と言えます。あれだけ大きな国民の反対運動を押しのけて制定を強行した戦争法も、南スーダンPKOへの自衛隊の「駆付け警護」任務付きの派遣は、たったの一期、半年で終了して撤収せざるをえませんでした。現地の「内戦」状況とPKO5原則との矛盾のもとで、現地からの日報も「戦闘状態」と言わざるをえない状況を、憲法9条との抵触を避けて「衝突事案」と偽ることの「重荷」に堪えられなくなった結果です。後で触れる(次号)ように、GW中にアリバイ作りのように行われた自衛艦による「米艦防護」も、北朝鮮への軍事的威嚇の必要と法的基盤の不安定な自衛隊法95条の2との間の「すり合せ」の中から生じたものと言えます。
 これらのことが示していることは、憲法9条とその縛りが、現実政治の中でしっかりと「生きている」ということです。安倍首相は、2016年2月3日の衆議院予算委員会で、稲田朋美政調会長(当時)との間で、「6割の憲法学者が自衛隊は違憲だとしている(今回の発言以来その数字は7〜8割と増えている)」ことを口実にして、自衛隊合憲化のための「9条2項改正」論の「エール交換」をしました。これなども、9条改憲の必要性、重要性をとりわけ「仲間」に対して「意識づけ」する目的でなされたのでしょう。
 憲法9条改憲を「まったなし」の課題としたいという思いが5月3日の改憲発言の背後に潜んでいると思われます。

 【Q】自民党は、憲法改正推進本部を中心に改憲活動を進めていますが。
 【A】自民党憲法改正推進本部の6月6日の会合で、保岡興治本部長は、具体的な検討項目として、@憲法9条の従来の政府見解を動かさないで自衛隊を憲法に位置付ける、A高等教育を含む教育の無償化、B緊急事態条項の新設、C1票の格差・合区解消などの選挙制度の4つを挙げました。
 @の「憲法9条の従来の政府見解を動かさない」という表現には注意が必要です。一見して、従来の憲法9条を大きく変えないような素振りの表現ですが、これも「加憲」論自体同様に、与党公明党など、慎重派への配慮が込められているでしょう。しかし、1項・2項のみからなる現在の9条と、3項が加わった9条とでは、対象としての条文が変わるのですから、それについての解釈も当然、変わらざるをえません。「憲法9条の従来の政府見解」は、3項が加わった途端に放棄されると見るべきです。
 また、同推進本部での最近の議論では、「やはり『戦力の不保持』を定めた9条2項を改正するのが筋だ」という論調が根強いとのことです。結局、3項加憲論も2項改正の改憲論も、その狙いに変わりはないということです。

 【Q】自民党が検討している9条以外の改憲論をどう見るべきですか?
 【A】いずれも「まやかし」 が多く含まれており、また「思いつき」の性格の強いものです。
〈「高等教育を含む教育の無償化」について〉
 Aの高等教育を含む教育の無償化は、この間の日本維新の会の主張にすり寄るかのような主張です。しかし、これほどウソで膨らんだ改憲の提案は見たことがありません。「元祖」である維新の会も含めて、問題をまじめに考え抜いたものとは思えません。
 私がいま教えている医学生は、卒業までの6年間の納付金が2000万円を超えます。他の私立医科大学には3000〜4000万円というところもあります。自民や維新は、そういう現状を根本的に変えて「高等教育の無償化」を本当に実現する気があるのでしょうか。あるのなら、改憲の提案をするよりも予算の見積もりと財源の確保が先のはずです。いずれにせよ、それらは法律と予算措置で対処すべきことで、あえて憲法の問題にする必要はありません。
 もともと、教育費の「私費依存体質」は、戦後日本の教育政策に染みついた欠陥であり、その解決は待ったなしの急務です。今年から導入された大学生への「給付型奨学金」も、受給要件が厳しすぎて十分に利用されていないそうです。こうした状況を改革するには、法律と予算によって、具体的かつ早急に着手すべきであって、なまじ「憲法で規定するべき問題」とすること(憲法問題化)は、問題の「先送り」にしかなりません。この提案をしている人たちは、実は改革に「不熱心」な人たちなのではないかと勘ぐりたくなります。
 8月1日に開かれた自民党憲法改正推進本部の会合でも、この案について賛成意見はほとんど出なかったとされています(8月2日朝日新聞)。自民党内部でも、提案の荒唐無稽さを否定できないようです。
〈緊急事態条項の新設について〉
 Bの緊急事態条項の新設として、いま自民党内で議論されているのは、衆議院議員の総選挙を控えている時に、その実施が不可能なほどの大規模な自然災害などが発生した場合に、衆議院議員の任期を延長することを可能にする規定を置くことの是非です。この問題も「もっともらしく」聞こえますが、現実的に考えてみると、つじつまが合わないことだらけです。
 衆議院の解散時には、通常は参議院も閉会となりますが、「国に緊急の必要があるとき」は、内閣は参議院の緊急集会を求めることができます(憲法54条2項)。この参議院の緊急集会でとられた臨時的な措置は、後日開会された衆議院で同意された場合にのみ効力を継続します(同条3項)。衆議院の総選挙が(全国規模で)実施できなくなるぐらいの大規模な自然災害の場合には、この参議院の緊急集会で対応すればよいのです。また、一部の地域で選挙が実施できなくなる程度の災害であれば、公職選挙法57条の「繰延投票」の制度を使えばすむことです。
 ここで少し冷静に考えてみましょう。全国的な規模で選挙ができなくなるというのは、一体どのような事態でしょうか。それは交通機関やその他のインフラにも重大な支障が生じているはずです。そんな時に、「議員バッヂをはずしているはずの人がつけている」ことで、何の意味があるというのでしょう。「議員バッヂ」の有無にかかわらず、臨機応変に政治家らしい活動に徹してもらえばよいのではないでしょうか。
〈参議院選挙区選挙での「合区」解消について〉
 自民党内には、昨年の参議院選挙から始まった選挙区選挙での「合区」(鳥取・島根、徳島・高知)の解消を、改憲のテーマにしようという声があります。この「合区」は、現行選挙制度の下で、なお大きく広がる「一票の格差」の是正のためにとられた「苦肉の策」です。「選挙権の価値の平等」は、憲法14条や44条但書から導かれ、また国民主権の原理からも要請される重要な原則であり、それを大きく損ねる選挙制度は、今さら採用しようがありません。また、「選挙区選出の参議院議員は都道府県の代表だ」などと言いだせば、衆参の議員とも「全国民の代表」と定める憲法43条の規定に正面から反することになります。この問題は、参議院議員の選挙制度の根本的な見直し、さらには衆議院議員の選挙制度も含めたトータル・ファッションの問題として考えるべきことであり、「合区解消のための改憲」という議論は、あまりに視野が狭すぎます。

 【Q】こうした改憲論の動きに対して、私たちは何にどう取り組んだらよいですか?
 【A】自民党は、7月2日の東京都議選で歴史的惨敗を喫しましたが、改憲への執念を燃やし続けており、この秋中の自民案の策定、来年の通常国会での審議、5、6月頃の改憲発議という日程をもくろんでいます。9月末から始まる臨時国会は、これをめぐる「一大決戦」の日々が始まるでしょう。
 いま、こうした安倍首相らが進める改憲の動きを阻止するべく、大きな運動がスタートしました。その名は「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」です。9月8日には東京でキックオフ集会が開催されました。この運動は、「安倍9条改憲」に反対する全国署名を精力的に展開し、来年の5月までに3000万人の署名を集めようとしています。この「市民アクション」の運動には、この間全国各地で9条を守る運動を展開してきた「九条の会」も正式に実行委員会に参加しました。2015年の戦争法反対の署名が2000万を目標にかかげて1580万を集めた運動でしたから、今回の運動のスケールの大きさがよくわかります。
 この運動を全国的規模で津々浦々まで広げて、本当に3000万署名を実現できたら、それは、改憲勢力による国会での発議を容易には許さない政治状況を作る決定的な力となるでしょう。改憲発議の阻止は、すなわち安倍内閣の退陣を勝ちとることにもつながるでしょう。それは、核兵器禁止条約の締結に反対し、労働法改悪やアベノミクスなどで国民生活を苦しめてきた政治の転換を実現する早道でもあります。
 今こそ、安倍9条改憲を阻止するべく「王手」をかけるときです。そのために改憲反対の署名を大きく広げましょう。