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 ●提言・声明
 
【論点】
8年目を迎えた福島第1原発事故のいま
野口邦和さん(元日本大学准教授・非核の政府を求める会常任世話人)に聞く
(2018/4/15)

 東京電力福島第一原発事故から丸7年。原発の苛酷事故を風化させないために、また風評被害を退けて被害者が元の日常を取り戻すために、「8年目のいま」の具体的状況を知り、語り広げることが必要です。
 福島第一原発事故の現状と課題をどうみるか、日本大学理工学部講師で本宮市放射線健康リスク管理アドバイザーの野口邦和さんに聞きました。
避難指示解除

 昨年3月末から4月初め、帰還困難区域を除き、避難指示区域はほとんどが解除されました。あとは戻るか戻らないかの判断になりますが、線量がいかに下がろうと、インフラはまだ不十分ですし、避難先で安定した生活が得られているのであれば、あえて戻ろうと思わない家族も当然いることでしょう。7年という歳月の長さを感じます。でも、解除が早かったところほど住民が戻ってきていて、川内村、田村市都路地区などは80〜90%の帰還率です。
 地方に行くと高齢者の割合が高い。福島県も例外ではなく、事故直後には病気持ちのお年寄りが何十人も避難途中のバスの中で亡くなりました。震災関連死は、福島だけで2200人超です(去年9月末現在)。多くは避難に伴うもので、これも原発事故による被害だと思います。
 そして今度は、戻るにしても、たとえば人工透析を受ける病院が元の町になかったり、自動車で行くにも運転できる体調でなかったりすると家族が支えることになるから、結局、元の家に戻らないという判断になる場合もある。そういう人たちも原発事故の被害者です。だから、単純に放射線の被害だけではなくて、そういうことも含めて原発事故の被害者として援助していくことが求められているのに、そこがなかなかできていないという問題があると思います。
 環境省は、「避難指示解除の三要件」を作成しています。それによると、@放射線量が年間20ミリシーベルト以下となることが確実であること、A日常生活に必須なインフラや生活関連サービスが概ね復旧する、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、そのうえでB県、市町村、住民と十分に協議して解除すること、となっています。しかし、実際には去年3月末から4月初め、インフラの整備や生活関連サービスの復旧が不十分なまま避難指示を解除した面がなくはない。ですから戻ろうにも、自宅周辺は真っ暗だし、生活必需品は車で遠くの別の町まで買い出しに行かなければならない。車のない人もいっぱいいるし、病院に行くのも大変で、診療科のそろった総合病院がないなど、いろんな事情で戻れない人がいるわけです。
 ただ、十分に整ってから戻るのか、たとえ不十分でも戻って住民が役場と協力して住みよい町作りをする面もあるので、そのあたりの難しさはあります。
 問題は、避難指示解除と精神的苦痛に対する賠償がワンセットになっていることです。解除1年後に賠償がなくなる。政府としては賠償金を抑え原発被害を小さく見せるためにも早く解除したい。解除そのものは決して悪いことではないので、政府はそういうワンセットの仕組みを改めて、やはり被害者本意の賠償を行うべきでしょう。

事故現場

 事故炉の現状はどうか。従来の「中長期ロードマップ」によると、1、2、3号炉については、第2期(2013年11月〜2021年12月)中に使用済燃料プールから使用済燃料を取り出すことになっていた。それから燃料デブリ取り出しの方針や方法を決めることになっていました。2014年12月に4号機の使用済燃料プールからの使用済燃料の取り出しを1年ほどかけて終えました。2021年までに残りの1、2、3号機の使用済燃料プールから使用済燃料を取り出すことになっていました。しかし、それがこの1年間で進んでいない。去年9月に見直された「中長期ロードマップ」では、3号機については2018年取り出し開始で、1、2号機については2023年と、第2期中に終わらせる予定が第3期に入ってからやるというふうに延びています。
 初号機の燃料デブリ取り出し開始を2021年内と言っていたのが去年1月なのに、最近では燃料デブリの「号機毎の取り出し方針決定」ということを言わなくなってしまった。初号機の燃料デブリの取り出し方法の決定は2019年、取り出し開始は2021年内。早く確定したいのですが、燃料デブリがどこにどう散在しているか、いま調べているわけで、取り出し方法の決定は来年になってしまいました。しかし、2021年という初号機の燃料デブリの取り出し開始時期だけは、変えたくないようです。ここが遅れると批判を浴びるという懸念があるのだと思います。
 廃止措置に伴って出てくるいろいろな廃棄物の処理については、2021年度頃に技術的な見通しを発表することになっています。
 こうしたことは、廃炉・汚染水関係閣僚等会議で2017年9月に決めているので、それに沿って動いている。ただ、しばしば言われているように、「ロードマップ」は技術的な見通しをもって作られているわけではないので、なかなかそうもいかない面があって遅れ気味になっています。
 そういう状況で各地の原発の再稼働を進めていることは、当然批判の対象ですが、ただ、作業が遅れていること自体は強く批判することではないと思います。世界で初めて1、2、3号機が同時に苛酷事故を起こして、それぞれ原子炉の損傷の度合いも違うし、それぞれに対処しなければならないわけです。現場は一生懸命やっているのですが、これが現在の技術的対応の到達点だと言えます。ですから、多少期日が遅れようが、安全に廃止してもらわないと困るわけで、私はそういう目で見ています。

汚染水対策

 東電が発表している一番新しいデータを見ると、4月9日現在、いま、一1平均206トンの水を1、2、3号機に送っています。圧力容器底部の穴から格納容器を通じて建屋地下に漏れ出て貯まっている水がいま、3万6000トン。これを2020年頃までに5000トンくらいにまで減らすことになっています。地下水が建屋地下にいま、一日に150トン入っています。3万6000トンに毎日、平均150トンずつ増える勘定です。
 これを一日に300トン汲み上げて、セシウム吸着装置を通して、セシウムを数万分の一くらいの濃度に減らし、さらに淡水化装置で塩分を取り除いて淡水にしたうえでタンクに貯めているものが6700トンあります。ALPS(アルプス=多核種除去装置)で処理した水が86万トンほどある。ALPSで処理する前の汚染水が一時最大37万トン超ありましたが、いまはゼロです。建屋地下に流入する地下水をいかに減らすか、考え得る対策はやり尽くしたはずなので、どうやってさらに減らすかが問題です。
 汚染水対策では、考えられることは全部やりました。地表面はフェイシング(遮水)し、地下水バイパスは12本の井戸を掘り、サブドレンも40数本復旧させ、地下水ドレンで汚染水が海側に出ないようにした。凍土遮水壁、海側遮水壁もやって、海側土壌については水ガラスなどをつかって土壌改良をやった。港湾内の海水の放射能濃度は格段に低くなりました。それでも原子炉建屋にまだ1日150トンぐらいの地下水が入っている――。それをどうするかという問題があります。
 それから建屋内滞留水中の放射性物質の量を2018年度に2014年度末の10分の1程度まで減らすとしていますが、14年度末にどれくらいあったかというと約6万5600トンです。いまは3万5000トンぐらいなので、さらにいまの5分の1ぐらいまで減らさなければならないから、なかなか大変だと思います。
 建屋地下の汚染水ですが、これまでにどれぐらい処理してきたかというと、4月9日現在、直近の1週間で、東芝のSARRY(サリー=第2セシウム吸着装置)で2120トン、一日あたり300トンくらいずつ汲み上げて処理しています。高濃度汚染水の放射性セシウム濃度が数万分の一に減りますから、そうすると廃棄物が出るわけで、それを建屋を作って廃スラッジとか使用済ベッセルとか呼んで保管しています。
 汚染水問題ではもう一つ、ALPSで処理しても、トリチウムが除去できずに残ります。この汚染水濃度が法律の基準の数十倍、東電が自主的に決めた運用目標の何百倍か高いのです。それをどうするかです。規制委員会は法律を守る立場ですから、法律に従って希釈して海に捨てるように言っていますが、東電は厳しい運用目標(自主基準)を作っているし、風評の問題もあるからそう簡単に捨てられず、いまのところタンクに貯めています。それを将来的にどうするのか。
 結局そこは住民との合意ということになると思いますが、いちばんの困難は、事故対策の責任を負わなければならない政府や東電が国民の信頼を失ってしまっていることです。何をやっても信用されない状況ではなかなか前に進まない。とくに最近のように、安倍政権は信用できない、国会で平気でウソをついていると多くの国民が思っているような状況ではなおさらです。政府が国民の信用をなくしているというのが、汚染水問題一つを解決する上でも大きな障害になっていると言えます。

水産物の検査結果

 福島県内の魚の線量検査の結果ですが、水産庁が3ヵ月ごとにまとめたデータを見ても、基準値超の検体は限りなくゼロです。
 たとえば県内の魚だと2015年から2万9300件も測って基準値超え25件ですべて淡水魚です。海水魚は基準値超はなく、ほとんどが検出限界値以下です。海水魚で放射能の減り方がいちばん遅いシロメバルでさえも、もう3年3カ月以上も基準値超はありません。
 淡水魚だと、去年も基準値超が何点かありましたが、阿武隈川水系の支流のイワナとヤマメの一部に限られます。県内河川のアユも基準値の100ベクレルを超えなくなっています。減り方が海水魚より遅い淡水魚も着実に濃度が減ってきていることは確かです。

■玄米の検査結果

 米は平成24年度から全量全袋検査が始まって、スクリーニング検査で基準値超か否かがはっきりしない怪しい検体は詳細検査に回すのですが、平成24年度には詳細検査に回した検体が867件あって、基準値を超えたのが71件あった。それが28年度は、1021万件測って、詳細検査に回されたものは51件だけで、全部25ベクレル以下でした。全然問題にならない低さです。
 去年について調べると、去年8月からことし4月12日までですが、およそ995万件測って、スクリーニングで50ベクレルを超えたものはゼロ。25〜50ベクレルが35件、25ベクレル未満が285件で、詳細検査に回されたのが320件あって、これも全部50ベクレル以下です。だからもう基準値超の米が出ることはないと思っています。ただ、避難指示解除された地域で、これまで米を作っていなかったところで作り始めて、カリウム肥料の散布が不十分だったりすると、基準値超の米が出ることがあるかもしれません。

内部被ばく検査結果

 内部被ばくについて言うと、県内の市場に出回っている食材を210点ぐらい買ってきて、それで食事を作って食べたらどれだけ体内で被ばくするか、MB法という検査を2012年から年2回やっています。どれくらいの被ばく量になるかというと、福島県では内部被ばくが2012年には年間4〜7マイクロシーベルトありましたが、2017年には1マイクロシーベルトあるかないかです。
 年間1マイクロシーベルトというのは、たとえば私たちが天然のカリウム40で年間170マイクロシーベルトぐらい内部被ばくしていることと比較しても、その0・1%以下に過ぎません。他の県と比べても、福島だから特に高いということはありません。天然の放射性物質による内部被ばくは年間1400マイクロシーベルトぐらいあり、福島県内に住んでいるから内部被ばく線量が高いということはありません。ホールボディーカウンターで検査してもほぼ全員が検出限界以下で測れないほどの低さです。

除染の効果

 除染の到達点はどうか。山林で手の付いてないところはありますが、山林だからといってどこでも線量が高いわけでないし、十分に安心して住める状況です。山の中を除染していないからといって、山から市街地に放射性セシウムが飛んでくることはないです。
 除染の効果ははっきりと出ています。たびたび紹介している例ですが、本宮市和田地区という、本宮市で一番線量の高い地域に居住する兄妹の場合、兄の幼稚園入園前3カ月の外部被ばく線量は兄が0・8、妹が0・74ミリシーベルトで、年間被ばく線量が3ミリシーベルトでした。避難するような線量ではないにしても高かった。しばらくして兄だけ線量が半分にガクッと減った。原因を調べたら、兄は幼稚園に入園していたのです。幼稚園は園庭の除染が終わっていました。妹はそのまま線量の高い自宅回りにいるので被ばく線量が減らない。家回りの除染が始まると妹の線量も減って、除染が終了すると妹の線量も半分以下に下がりました。いまでは兄弟二人とも線量は3カ月で0・02ミリシーベルトという水準です。
 「除染しても数値が元に戻る」などと言う漫画がありましたが、実際はそんなことはなく、下がったら下がったままで、放射能はどんどん弱くなっているわけですから当然下がり続ける。居住地域では安心して住める状況です。これが除染の到達点です。
 だから居住地域で言うと、放射線防護的には問題はなく、あとは避難指示解除されたところでこれまでの居住地域に比べればやや線量が高いところがあるでしょうから、そういうところの除染が今後の課題になると思います。
 昨年、本宮市でも、学校の校庭や保育園の園庭に埋めた汚染土を掘り出して、中間貯蔵施設への運び出しが始まりました。ただ中間貯蔵施設が完成していないので、いまのところは中間貯蔵施設の保管場所に持って行って保管するだけになっています。個人でも、自宅庭に埋めていた土を掘り出している人もいます。安全上は、埋めたままで問題ないのですが、地価への影響といった問題があるようです。
 そこで30年間保管したあと、県外に運び出すというのですが、その先どうするのかは見えてきません。ただ、中間貯蔵施設に持って行って30年も経てば、放射能はさらに減ります。他県に持って行くと言っても、受け入れる県があるのか、これはなかなか難しい問題です。