妊娠中の事故

第1 損害賠償
死亡(早流産)、後遺症、人工中絶、切迫流産による入院、その他、に分けて損害賠償の判例を調べてみました。

1 胎児が死亡したケース   早産、流産による胎児の死亡の事例
※ 流産は22週未満、早産は22週以上36週6日までです

○大阪地裁 昭和52年6月28日判決
婚約中に本件事故のため妊娠3ヵ月の胎児を流産し結婚も延期したことにつき50万円、婚約者に30万円の慰謝料がそれぞれ認められた事例

○旭川地裁 昭和54年8月6日判決
同乗中の妊娠9か月目の妊婦である被害者が、追突事故に遭い、子宮内で胎児が死亡、その8日後に女児を死産した事案で、右死産と本件事故との相当因果関係が否定された事例。

○東京地裁 昭和60年7月26日判決
妊娠2か月の被害者が横断歩道を青信号に従って横断中、右折進行してきた加害車に衝突され、切迫流産した事案につき、右被害者胎児喪失に伴なう固有の慰謝料120万円が認められた事例。同じく胎児を失った被害者の夫には、固有の慰謝料請求権を有するものとは認められず、慰謝料請求は理由がないものと否認された。

○高松高裁 平成4年9月17日判決
 原審・松山地裁今治支部 平成3年6月14日判決
出産予定日を4日後に控えて本件追突事故で被害軽四輪車は大破、はじめての女児を死産した事案につき、母親に胎児死亡慰謝料800万円が認められた事例。父親も胎児死亡慰謝料500万円を請求していた右事案につき、1審は300万円(母親分600万円、計900万円)認められたが、2審は、胎児慰謝料を排除して示談を締結したと認められないとされ、請求が否定された事例。

○大阪地裁 平成8年5月31日判決
妊娠約2か月の胎児を失った事案で、腹部に加わった圧力が大きかったこと、妊娠初期における腹部への圧力は流産の要因となるとされ、本件事故による衝撃で胎児が死亡したと、胎児死亡の慰謝料が150万円認められた。

○横浜地裁 平成10年9月3日判決
乗用車が対向乗用車と衝突し、助手席同乗中の妊娠27週胎児が死亡した事案で、慰謝料250万円が認められた。

○東京地裁 平成11年6月1日判決
妊娠36週胎児が死亡した事故につき、被害者である母親に700万円の慰謝料を認め、父親にも固有の慰謝料300万円を認めた。

○大阪地裁 平成13年9月21日判決
シートベルトが食い込み、妊娠18週で子宮内胎児死亡の慰謝料350万円認定

○大阪地裁 平成18年2月23日判決
41歳女子の胎児死亡流産との因果関係認め慰謝料200万円認めた


2 胎児に後遺症が残ったとき
○東京地裁 平成4年11月13日判決(確定)
妊婦が事故に遭い、妊娠7ヶ月目の早産で男児を出産し、出生した男児にも高度な難聴と精神障害が残る事案で、相当因果関係があるもの認められた事例。4級相当の障害が残る事案で、逸失利益はセンサス平均で18歳から67歳まで60%の労働能力が喪失するもの、後遺障害慰謝料が600万円それぞれ認められた。

○千葉地裁 昭和63年1月26日判決
予定日より1月半早く出産した子供に、1級相当の後遺障害を残した事案で、事故との相当因果関係を認め子供の損害賠償を認めた事例。18歳から67歳に達するまで49年間就労できないものと、労働能力喪失率100%を基礎にライプ式で逸失利益が算定された。慰謝料が1000万円認めた事例。

○最高裁  平成18年3月28日判決
(2審) 名古屋高裁金沢支部 平成17年5月30日判決
(1審) 富山地裁高岡支部 平成15年3月31日判決
無保険車傷害は胎児の損害等賠償義務者の負う義務は免責を除きすべて填補対象となると判決した母親の胎内で本件事故に遭遇し、緊急帝王切開により出生したが重度後遺障害を残した事案。


3 人工中絶 
因果関係が認められる事例では、ほとんど手術費用、慰謝料が認められているようです。

○東京地裁 昭和51年12月23日判決
原告ら夫婦に共通する損害として堕胎による慰謝料各100万円が認められた。

○横浜地裁 昭和56年12月24日判決
 妊娠中絶と事故との相当因果関係を認め、30万円の慰謝料を認めた。

○高松地裁 昭和56年12月25日判決
 妊娠2か月の妊婦が2か月の治療を要する頸推捻挫の傷害を負い、進行流産となり妊娠中絶手術を受けた事案につき、120万円の慰謝料が認められ、夫に対しても50万円の慰謝料が認められた。

○東京地裁 昭和58年8月22日判決
 妊娠初期の妊婦が受傷し、慰謝料80万円が認められた事例。妊婦の夫は100万円の慰謝料を請求するが否定された。

○奈良地裁葛城支部 昭和63年9月27日判決
34歳主婦が受傷し、治療検査の結果人工妊娠中絶を余儀なくされたとして、妊娠中絶のための慰謝料30万円が認められた。

○大阪地裁 平成元年3月31日判決
31歳で本件事故後妊娠し中絶して、中絶費用と中絶による慰謝料60万円を請求する右事案につき、中絶費用は認められたが慰謝料は斟酌された。

○宮崎地裁延岡支部 平成3年3月15日判決
妊婦が2度に亘り中絶手術を行なった事案で、1度目の中絶手術についてのみ本件事故との相当因果関係を認めた。

○静岡地裁沼津支部 平成7年10月27日判決
23歳女子が乗用車を運転中、乗用車に追突されて、レントゲン検査、投薬を受けたが、検査時が妊娠初期であったため妊娠中絶を受け、これの慰謝料が150万円認められた。

○東京地裁 平成9年12月17日判決
衝撃は軽微で他の搭乗者は受傷しておらず、症状も私病入院中の症状と同じで、本件事故で受傷したと認められないとされ、疑問が多いとして、因果関係を否認した。

○京都地裁 平成16年7月14日判決
乗用車運転中の有職主婦が原付車に追突され腰椎捻挫の受傷と胎児中絶の因果関係認め慰謝料を増額し、通院期間214日の慰謝料を180万円認めた。


4 切迫流産による入院   因果関係の認定が困難なようです
※ 切迫流産=出血や下腹部痛のような症状がありながら、流産にはなっていない状態のことをいいます。

○東京地裁 昭和50年1月16日判決
「分娩が正常であったと認められるので、他に特段の証拠がない以上、右入通院をもって本件事故と因果関係を有するものと認めることはできない。」(判決文)

○東京地裁 平成5年12月7日判決
被害車同乗中の妊婦が加害車に追突され、切迫流産した事案で、事故後1か月を経過してから出血し、因果関係に関する医師の的確な証明書等がない事から、切迫流産と事故との相当因果関係が否定された。


5その他
○岐阜地裁大垣支部 平成6年7月29日判決  胎児の被保険者性否定
妊娠23週の妊婦が追突事故により翌日胎児を出産するも直ちに死亡したため、右胎児を被保険者とする搭乗者傷害保険金を請求する事案で、「私権発生は出生による」という民法大原則より、右胎児の権利能力を否定し、請求棄却とされた。

○神戸地裁 平成13年8月10日判決(確定)
乗用車同乗中の追突事故、1か月半後の早産と、7か月後の出生児死亡との因果関係認定


第2 刑事責任について

刑法では誕生前の胎児には人格権はなく、人ではないとみなされています。
出産して体が一部露出した段階で人となります。胎児を殺しても殺人罪にはなりません。堕胎罪になるだけです。出産して一部露出した後に殺せば、人になっていますので殺人罪となります。

ただし、1988年に行われた水俣病に関連する訴訟では出生後死亡した人(発病時は胎児)への業務上過失致死罪の成立を認める判決も言い渡されており、最高裁も「出生後に程度が悪化した場合には成立の余地がある」という条件付きでこれを容認しています。

検察、警察の業務上過失致死傷の考え方の流れをまとめてみました。

○ 昭和54年 秋田地裁は業務上過失致死傷を認めなかった
○ 平成15年 札幌地裁は業務上過失致死傷を認めなかった
○ 平成15年9月 鹿児島地裁は業務上過失致死傷を認めた
 事故:眠り運転が原因で対向車との衝突事故を起こし、このクルマに乗っていた当時妊娠7カ月の女性が負傷。女性は胎盤早期剥離などの症状をおい、胎児の生命に危険が生じたことを理由に緊急の帝王切開手術を決行した。
平成18年6月 静岡地裁浜松支部判決は認めている。
只木誠・中大法学部教授(刑事法)の話 「交通事故で胎児に致死罪が認定されるのは初めてではないか。画期的な判決だ。」   毎日新聞 平成18年 6月8日
○ 平成18年9月23日  毎日新聞記事より 
  交通事故で妊娠中の女性を負傷させ、事故直後に緊急手術で生まれた男児を死亡させたとして、長崎県警は22日、男性会社員を業務上過失致死傷容疑で長崎地検五島支部に書類送検した。事故による胎児の死亡や負傷を巡っては、検察が業務上過失致死傷罪で起訴した例は全国で4件あるが、警察が送検段階で適用するのは初めて。

※ 参考条文
民法第886条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
       2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
民法第721条 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。


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