八十川先生講義録

来談者中心療法(4) 2001.11/18
4技法の続き
5)共感
「他人と一緒に存在し、他人と同じように感じる」こと
・クライエントと一緒に物事を感じる
・クライエントが「辛い」と言ったとき、一体化して「辛い」と感じられること。つまり相手と同じ考え方をすること。


具体的には

(a)自分の価値観を放棄する。
・相手にあわせるとは自己主張しないこと。従って自分の価値観は放棄する。そして相手と同じように理解する。
・そういう意味で、これは「感情移入」と言ってもよい。
※感情転移とは無関係。

(b)相手の立場に立って考える。
・役目どり(roll taking)、役割演技(roll playing)。つまり相手と役割を変える。
・これは他人の感情や行動(反応)を予測すること。そのためにはクライエントの内(部)的準拠枠internal frame of reference(=ものの考え方の枠組み、ものの理解の仕方、受け取り方のおおもとになっているもの。価値観の基礎をなすもの)に依拠する。

(c)生まれながらに「共感」する能力は持っていない。生き物である人間は、本来自己中心的なもの。共感は教育(訓練)で身につけるもの。



※菊田注

「人間とは何だ!? V」
 11月にTBSで放映された「人間とは何だV」には次のようなシーンがあった。
 4才の子どもに次のような劇を見せる。
 「女の子がお気に入りのぬいぐるみを箱の中に隠す。女の子が退場した後、男の子が登場して、隠してあったぬいぐるみをこっそり別の箱の中に隠す。そして何も知らない女の子が再び登場する。」
 ここで劇を見ていた子どもに「女の子はどの箱を探すでしょうか」と聞くのである。すると子どもはぬいぐるみが入っている箱を指さす。つまり「劇中の女の子はぬいぐるみを移されたことがわからない」ということがわからないのだ。
 ところが5才の子どもはそれが理解できる。つまり「相手の立場で考えることができる」という能力は生まれつきのものではなく、4〜5才頃に学習によって獲得するものだということである。番組ではその後、それを脳の活動の面から解説していた。



 さて、
 共感が進むと気が楽になる。受容よりも積極的に理解されたという気持ちになる。


テキストより

S1 主訴は「失望」ではなく、「考え方を変えることができない」こと。だからC1では「変えられない」を主に共感する。
C2 上手にまとめた返し方。ただ、抽象的すぎてクライエントがわかるかどうか。
S3 「はい」とあるのでカウンセラーの答えが通じている。「風船」とは他人にふくらまされたもの。それをC3では「たよりない」と受けている。カウンセラーがクライエントに考え方を読みとり、あわせようとしているのが窺える。
・このクライエントに診断的なことを言えば、強迫神経症となるだろう。だがそういうことは言わない。ただ相手の心を受け止め、理解しようとしている。そのため、だんだんクライエントの話す量が増えている。言葉のキャッチボールをしながら、相手の心の枠組みを理解しようとしている。
S8 上手にまとめている。「テストのように感じられるんですね」
C8 これは完全癖の症状。一種の強迫神経症。
S8 S9まで増えてきていたクライエントの発言が減少している。それに気づいたカウンセラーはC9で繰り返しを入れて建て直しを図っている。
S11 これでいいんだという満足感がない、ということ。


共感と同情
・共感empathyによく似たものに同情sympathyがある。だが同情と共感は違う。
・自分と相手の気持ちが一つになる、という点では両者は同じ。同情は自然の感情である。だが共感は訓練して得られる感情。
・野生児の例にインドで発見されたカマラとアマラの例がある。妹が死んだとき、カマラは涙ぐんだ、とシング牧師の日記にはある。つまり同情は狼に育てられた人間にもある自然の感情である。
・移動中のゾウの群れが動けなくなった子ゾウを置き去りにするとき、ゾウは去りながらも振り返る。母親ゾウは特に何度も振り返るという。
・相手の立場に立つ、ということはある程度の経験が必要。失恋の経験がないと、失恋した人の感情はなかなかわかりづらい。同じ経験がなくても、似た経験があれば、理解しやすい。
・同情には自己満足(=優越感)がある。分かり合えたという一体感はある意味思いこみである。だから心中できる。
・共感は「いったん」自分の感情を放棄することである。従ってカウンセラーは心中したりしない。


STsensibility trainning感受性訓練
・これを行うことによって共感などの感性をみがく。講習会などがあればぜひ出ると良い。
・日常生活の中でも、「変わった人」というのは時々いる。そういう人をただ「ヘンな人」にしないで、その人がどんなように物事を考えているのか考えることで共感能力を育てることができる。

 (文責:菊田)