八十川先生講義録
精神分析(3) 2000.12/13
※ 前回の講義録中、8精神分析の主要理論に防衛「規制」とあるのは防衛「機制」の誤り
 
〜前回に引き続き、力動論
こころはどのように動いているか、「自分を守る方向に動く」
 
5)知性化intellectualization
・感情の知性化(ごめんなさい → 反省しています、遺憾に思います)のように難しい言葉に置き換える。
・自分の弱さを認めるのが怖いから、自分を傷つけないように難しい言葉に置き換える。例 嫌い → 抵抗がある
  (定年を迎えて)仕事くれ → 「何か役に立つことがあったら…」
・比較的インテリに多い(ボキャブラリーが多い)
 
6)退行regression(↓下に逃げる)
・年相応のレベルから低いところへ逃げる。エネルギーを使わない方法ではある。
例 赤ちゃん返り、年下の子と遊ぶ(同年齢と遊べない)、パチンコ屋へ行く
 
7)逃避escape(→水平方向に逃げる)
例 学校へ行かないで映画を見に行く、ゲームセンターに行く
 
8)白昼夢(白日夢)daydream(↑上に逃げる)   
・空想の世界へ逃げる
例 本を読みながらニコニコしてお姫様になりきる



 フランクル「夜と霧」みすず書房
 心理学者の目でナチスのユダヤ人収容所の中の追いつめられた極限の状況を捉えた記録。このような状況の中では↑上向きに逃げるしかない。人は空想の世界の逃げていく。そして空想の世界に逃げた(逃げ得た)人間が生き延びた。ホワイトカラーとブルーカラーで比較すると、ブルーカラーはすぐ発狂して狂い死にした。一方ホワイトカラー=インテリは白昼夢に逃げることで結果的に生き残った。
 またお母さんのいる子といない子では、いる子の方が生き延びる。母親が死ぬと子供はすぐ病気になったという。
 平安時代の歌に
  いとせめてこひしき時は むばたまの夜の衣をかへしてぞきる
              (小野小町「古今和歌集」巻第十二 戀哥二 #0554)
とある。これも夢に逃げる例。小野小町もインテリである。インテリはいろいろな思考ができるということ。



9)同一化identification
・自分を相手の分身のように思うこと。
例 八十川先生は一時期ヒゲを生やし、パイプたばこを吸っていた。ある意味カッコつけていた。あとから考えたところ、それはフロイトに同一化していたと考えられる。
・集団に同一化することもある。みんなと同じようにしないとという思いから周囲に合わせる。
例 田舎は朝が早い。朝、雨戸を開けていないと何をいわれるかわからない。だからとりあえず開けるだけ開けておいて、また布団で寝ていた。
 敵前逃亡も強い方に合わせるという意味では同一化。いじめられっこがいじめる側にまわったりするのも一種の敵前逃亡。
 
10)摂取introjection
・自分の中に他者を取り入れて恐怖を乗り越えたり、生きる源としたりする。
例 高村光太郎  智恵子のブローチを自分の懐に入れて共に生きる
  連れ合いののど仏を肌身離さず持つ
  神と共にある
  お遍路さん … 同行二人 杖二人(杖=お大師様=弘法大師=空海)
  宮本武蔵(小説ではあるが)一乗寺の決闘の際、「武蔵ひとりか?」「二人だ」「誰だ」「影とだ」一人は寂しいということ
 
11)投影projection
・人のせいにすること、なすりつけること。責任転嫁。自分の弱いところを認めるのはつらい。
例 遅刻して「電車に遅れました」
  野球選手が空振りするとバットを替える
 
12)補償compensation
・劣等感inferiority feelingの克服
・社会には常に比較がある。(頭がよい・悪い、スタイルがよい・悪いetc)優劣があれば当然劣等感を持つことがある。
<直接補償>
・パラリンピック 義足で100m走に出場する。マイナスを取り戻すだけではなく、さらに早く走れるようになろうとする。
<間接補償>
・他の残っている部分で頑張ろうとする。
・劣等感は比較から生まれるのだがその理由として多いのは、順に、
  身体的な条件 … 見てわかる
  社会的条件 … 勤務先の地位、給料
  生育歴 … 保護者が何回も変わった=教育に一貫性がない、過保護



※ アドラーは劣等感が成長の原動力であると考えた。ある程度の劣等感も必要である。一方フロイトはリビドー(性欲 → 生きるエネルギー)が原動力であるし、最後には衝突した。
 相撲取りは50連勝しても「今日一日を頑張るだけです」と言う。努力して追いつける差なら伸びる。しかし余りにも遠い理想だと投げてしまう。またノイローゼになることも。ただこの話はある程度知的に高い人の話。知的に低い人は最初から高い目標を持たない。



13)昇華sublimation
・化学では固体が気体になること(ドライアイス、ナフタリン)。
・欲望をナマのままでそのまま現すと品がない。それを社会的に認められた形で表す。
例 高校生のスポーツの原動力は性欲である。性欲をそのまま出せないので置き換えている。
例 外科医 … 人間を切り刻みたい
  天文学者 … のぞき見をしたい
  ボクサー … 殴りたい
・不遇の子供時代を送った人が先生・保母になって、自分がそうしてもらえなかったことを自分がしてあげたいと思うのも昇華の形である。
・社会的に認められる場で、形で欲望を出す。ことが大切。一般にヘンタイ的な行為であっても
、例えば夫婦であるとか、社会的に認められた関係の中ならよい。従って人を殴りたくて仕方がない子はボクシングジムへ連れて行く。
「本能を生々しい形で表すのは知能が低い」「性を売り物にするのは知能が低い」



 爆弾を仕掛けて人がバラバラになるのを見たかった、銃を乱射したかった、という少年の事件があった。

ビデオ店爆発事件:「人の悲鳴を聞いてみたかった」少年供述(2000.12.06)

 東京・歌舞伎町のビデオ店で起きた爆発事件で、栃木県内の県立高校2年の男子生徒(17)=銃刀法違反容疑などで逮捕=が、警視庁新宿署捜査本部の5日の調べに対し、「爆発物を投げ、散弾銃を撃つつもりだった」などと供述した。「人の悲鳴を聞いてみたかった。骨や内臓を見たかった」とも話しており、捜査本部は生徒が無差別殺傷事件を計画していたとみて追及している。
 捜査本部は同日午後、爆発物取締罰則違反容疑で生徒の自宅などを家宅捜索した。
 調べでは、生徒は今年8月と11月、金属製マグカップを悪用した手製の爆発物を1個ずつ作った。殺傷力を高めるために、火薬、ネジくぎのほか、カッターナイフの刃の破片も入れていた。
 今月3日夕、自宅前の乗用車に、キジ、シカなどの猟を終えた祖父が散弾銃と実弾を置いているの見つけ、持ち出した。
 東武日光線などを乗り継いで、午後8時半ごろ、渋谷に到着。散弾銃は銃身を外し、バックに入れていた。公園で夜を明かした後、4日午後に新宿に移動し、銃を組み立てたという。この後、初めて訪れたビデオ店に爆弾を投げ入れていた。
 生徒は「人の悲鳴を聞いてみたかった。人をバラバラに壊して骨や内臓を見たかった」などと供述。その理由は「人間は表面ばかりよく見せて、裏ではとんでもないことを考えているので中を見たい」と話している。
 さらに、「人を殺すと法律に触れるのは知っているが、法律そのものが正しいか疑わしい」と身勝手な論理を展開している。
 また、「爆発物を投げ、散弾銃を撃つつもりだった。今でも銃を撃てばよかったと思っている」と、大量殺傷事件を狙っていたことを淡々と話しているという。(毎日新聞)

 そういう欲望そのものは誰もが持っている。問題はそういう欲望をどこでどのように出すのか、である。
 昆虫の手足をむしってみたり、カエルを殺してみたり、そういうことをする好奇心は誰もが持っている。持ち論をそれを人間にやってはいけない。だが人間以外ならよいのではないか。その区別をしっかりしないで、安易に虫を殺してはいけません、昆虫採集はいけませんなどと禁止して、人間以外の動物を人間のように扱うから、それがヘンに人間をバラしてみよう等という方向に行くのではないか。一方で魚の活き作りを食べながら、余りにも安易なことが言われているのではないか。シラスに至っては「赤ん坊のゆでたて(!)」を食べていることになる。その上で、動物は我々に命を与えてくれている、そのことに感謝する、それが必要なことではないか。



14)合理化rationalization
・正当化、負け惜しみ、理屈づけ
・イソップ物語のキツネの話。ブドウに手が届かなかったキツネは、「あのブドウはすっぱいに違いないmust be sour」と言った。自分が短足でブドウに届かないことを認めるのはつらい、だから他の理由をつける、つくる。生徒を殴って「愛のムチ」と称するのも合理化であり。
 
15)やりなおし(打ち消し)undoing
・人の悪口を言った後、「言い過ぎた」と気まずさを感じて、あとからいいところを口にする。「そうは言っても、こんないいところあるよね」
 
16)従順
・yesman何を言っても反論しない。これも攻撃されないようにする一種の崩御の姿勢。
 
 
 人間の心は自分を守る方向に動く。攻撃も守る一つの方法。いずれにせよ、自分がかわいいということ。その方法がワンパターンになることがあり、それによってぎくしゃくすることもある。
 
 次回も精神分析の続き



「夜と霧〜ドイツ強制収容所の体験記録」V.E.フランクル みすず書房 ¥1,339
                 
 (文責:菊田)