八十川先生講義録
人間理解(2) 2002.3/17

なぜ周辺領域を学ぶか
・例えばいじめ。もちろんいじめがあっていいと言っているわけではない。しかし生き物である以上、自分と異質な者と相容れないのはある意味当然である。これは本能といってよい。その証拠に、戦後50年経つが一向に戦争はなくならない。



動物の持つ本能
・1970年代バルト三国のラトビア(エストニア?)で次のような実験が行われた。様々なサル科の動物をたくさん放す。それらには動物園育ちのサルも、野生のサルもいた。いずれにせよこのような寒いところで生活するのははじめてである。つまり、新しい環境の元でどれだけ順応するか、という実験である。
・その結果、そこには80種程度の毒を含む動植物が存在したが、どんなサルでも、どんな育ちのサルであっても、毒物だけは食べなかった。そして決まって栄養価の高いモノから食べる、という傾向が見られた。
・つまり本来、動物はこのような能力を持っている、ということである。
(日経新聞 米原マリのコラムより)
・500万年前、人間はサルから別れ、とてつもなく進化したが、その結果本来動物が持っている本能的な能力をなくしてしまった。
・カント*1は、「人間は本能のかわりに学習をする必要がある」と言っている。
・八十川先生の家の犬も、庭で放し飼いにしているが、馬酔木*2は絶対に食べないという。



ハーローの実験
・スタンフォード大学でのサルの研究で、ある有名な実験が行われた。
・ハリー・フレデリック・ハーローは檻に入った2匹の子ザルに対し、棒で突くなどストレスを与えた。通常であれば、子ザルは母親の許へ行ってストレスを癒すのだが、この実験では片方のサルには針金で作った母親ザル、もう一方は布を巻いた柔らかい母親ザルを準備しておく。どちらも哺乳瓶がセットされており、ミルクが出るようになっている。
・いじめられたサルはそれぞれ母親ザルの所に行くのだが、針金の母親を与えられた子ザルはスキンシップができず、発育に不良が出た、という。
・またおもちゃを入れてやると、布の母親を与えられた子ザルは関心を示し、次第に遊び始めたが、針金の方は好奇心を持たず、手を出そうとしなかったという。
・ストレスがたまると周囲が見えなくなり、いい考えが浮かばなくなる。これは人間も同様である。また必ずしも肌によるスキンシップでなくても良い。八十川先生のお子さんは
寝付きが悪いときにガーゼのハンカチを与えると、握ったりくわえたりし、安心して寝るようになったという。(菊田家の悠悟も綿毛布をかじりながら寝ます。)このような肌・皮膚の感覚はとても大切である。
・先月扱ったヘイズ夫妻の実験では、チンパンジーの子はパパ、ママ、ミルク、カップ程度は言える。だがパパとママの区別はつかなかった。知能テストではことばの理解や空間の把握が大きな要素である。つまり、ことばの理解、特に抽象的なことばの理解は人間と動物の違いとして大きな意味を持つ。



ニワトリの実
・ニワトリの母親は卵を抱いて温める。また、ヒヨコをいじめると母親はすっ飛んできて敵を追い払おうとする。これを見て、人間は「ニワトリのお母さんはえらいなぁ」「母性本能が強いんだなぁ」と思う。だが実は、この時期ニワトリの母親はお腹が熱くなり、卵を抱くことで冷やしているのだそうだ。
・またヒヨコをガラスケースの中に入れていじめる。すると母親は鳴き声が聞こえないので、いじめられている現場が見えても母親は来ない。つまり聞こえなければ「母性本能」は働かないのだ。
・また次のような実験も行われた。えさを入れた箱を準備し、その前に金網を張る。ニワトリを放してやると、ニワトリはえさに向かって突進し、金網に体当たりし、金網を迂回できない。一方同じことを犬で行うと、犬は金網にぶつかると網に沿って迂回し、えさにたどり着いた。迂回できる分、犬の方が賢いといえる。



次回に向けて
・様々な思いでこの会に参加している人がいる。そんな中で、講義で何を扱うか。
・三大理論(来談者中心療法、精神分析、行動療法)の他は様々な理論・療法がある。



論理療法
 アルバート・エリス ダイレクトに理詰めで話す。理屈に合う合わないを整理していく
ゲシュタルト療法
 ルビンの壺 ものごとをどう受け止めるか
交流分析
 精神分析の口語版 エゴグラム(P・A・C)
箱庭療法
 ローエンフェルト 子供(〜高校くらい)によい
家族療法
 家族の力関係の歪みが一番弱いところに出てくる、という考え方に基づく。分裂のカウンセリングからはじまる。
絵画療法
 HTP(house/tree/person)、家族画療法、バウムテスト(実のなる木を描く)
 診断と治療を兼ねる

これらの内、次回からは論理療法を扱う。
 (文責:菊田)
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