八十川先生講義録
来談者中心療法(1) 2003.6/15

来談者中心療法とは
・来談者中心療法は、長短はあるがどのようなカウンセリングにも使える理論である。
・その特徴は、「素人にもできる」ところにある。かつては「心理療法は医者がするもの」(フロイト)、「心理学者がするもの」(ウイリアムスン)とされてきたが、ロジャースは素人でもだれでもできるとした。なお、ロジャースは心理療法とカウンセリングを同じ物と考えている。
・来談者中心療法以外でも同様だが、まず「理論」があって「技法」がある。だがこの来談者中心療法の講義では技法から入る。それは実際の生活の中で使ってみることが大切だからである。理論はあとで話をする。

場面構成
・場面構成とはクライエントが来て、まず最初に行うことである。この時「カウンセリングはこのようにやるよ」と話をしておかなければいけないことがある。

例1
C1 この相談では、私はあまり助言を出さないで、おもに、あなた自身に考えて頂き、あなたの考えを自由に話しして頂きたいと思います。 あなたが自分の問題を真剣に考え、自分の考えを自由に発表していくと、やがて、自分でその問題の解決策が見つかってくると思います。

・日本人の感覚から言うと、「相談」というと相手から良い案をもらってくるというイメージがある。だがカウンセリングはそうではない。「カウンセリング」という語の訳として「相談」という語を当てはめることもあるが、適当とは言えない。
・ポイントは2つある。
1)クライエントは自分で解決法を見つけることができる存在である。従ってカウンセラーはそれをアシストすればよい。
2)「あなた自身の問題である」ことをはっきりさせる。ロジャースには「人間は放っておいても良い方向に向かう」という人間観がある。だからカウンセラーは「ああせい、こうせい」とは言わない。即ちnondirective非指示的(ノンデレと呼ぶ)である。ただ、日本では「お前自身の問題で、うまくいかなくてもお前の責任だ」ではなかなか受け容れられない。「いっしょに考えようよ」というスタンスがよい

例2
C1 あなたはあなたの問題について自由に考え、自由に話しして下さい。私はあまり質問したり、助言したりしません。そのような状態で話しあう気持ちがありましたら、毎週、水曜日と金曜日に来て下さい。その日に一時間だけ時間をとっておきます。

・ここでは水・金曜日の2回とあるが、カウンセリングは大抵は週1回である。
・「1時間だけ」という枠組を提示することが大切。

例3
C1 どうぞお寒いからそのままで、私はNというものですが、今日からしばらくの間、私がお母さんのお話相手をさせていただきます。
S1 は、そうですか、よろしくお願いします。
C2 今二時一五分ですけれど、三時まで、四五分、時間がとってありますから御自由にお使いください。
S2 はあ、そうですか。(しばらく沈黙)
S3 この前におうかがいして、先生にお話ししましたが、それも……
C3 はい、うかがっております。

・例2と同様、「あなたのために使える時間はこれだけである」ということを示す。相手が話し終わるまで延々と話を聞き続けるわけではない。相談しに来る人は、良くも悪くも依頼心が強いことが多い。また世の中は自分を中心に回っていると考える自己中心的な人も多い。だが世の中にはルール(現実原則)がある。あなただけの時間ではないし、あなただけのカウンセラーでもないことをきちんと伝える必要がある。このような「制限枠」は前もって伝えておくこと。
・面接時間は1時間であることが多い。緊張が続くのは1時間程度までである。45〜50分程度を面接時間として、残り10〜15分を記録、整理の時間とするカウンセラーもある。

例4
C1 ここは君が自分で本気で真実のことを考え、話し、自分の考えを進めてゆく場所です。私の方で何かうまい答えを君に助言すると考えると期待はずれになります。やっぱり君が進歩し、対決していくのは君自身だと思って下さい。


・なぜあなた自身の問題であるのかを伝えている。

例6
C1 ここで話されたことは全部、秘密にとりあつかいます。どんなことでも結構です。何でも話しして下さい。人に聞かれてはずかしいようなことでも、何んでも結構です。どんどん話しして下さい。


・「秘密に取り扱う」ことを約束する。だからクライエントは安心して話ができる。秘密を守るにはエネルギーが必要である。
・また親・担任などからカウンセリングの内容について聞かれることもある。その際何も言わないわけにはいかない。そのような場合、本人に「今日の面接で言ってはいけないことがあるか」と聞き、「こちらからしゃべることはないが、聞かれたらこんな内容で話をすればいいか?」と確認する。これは周囲に心配している人がいることをわかってもらう意味もある。なお以上は場面構成の場で言う必要はない。
・またテキストにはないが、料金についても話す必要がある。1回1万円〜が多い。現時点ではカウンセリングに保険は効かない。
・料金を取る方が治りが早いという。お金がかかっている分だけ本人の気持ちが違うからだと思われる。

ラポートraportづくり
・話をする上でのちょっとした「雰囲気作り」といってよい。
・お天気の話、スポーツの話など。
・ラポールrapoleとも言う(フランス語)。

受容acceptance

例1
S1 あの先生の講義は少しもわからないのでこまります。話しに少しもまとまりがないんです。
C1 はあ。
S2 話が支離滅裂なんです。あの先生、少し頭が悪いんじゃないでしょうか。
C2 はあ。君はそう思うんだね。


・普通なら受け容れがたい内容でも「うんうん」と受け容れる。反対は批判・攻撃である。
つまり批判せず、攻撃しない。その上で「君はそう思うんだね」と言った言葉の責任の所在をはっきりさせる。

例2
S1 私のこまった性質はみんな母の影響だと思います。私は母に対して少しも愛情を感じません。私は小さいとき母に可愛がられた経験が少しもありません。母はいつも冷たい人でした。
C1 はあ。
S2 それで私は他人が信頼できない人間になってしまったんです。私は他人に対して愛情を持つことができません。これもみんな小さいとき、母にそのようなとりあつかいを受けたからです。私は私が小さいとき母が死んでいてくれればよかったと思うこともあります。
C2 はあ、あなたにはそのように思うんですね。


・「母が死んでいてくれれば」といった内容でも批判せず受け容れる。内容について怒ったり叱ったりする必要はないのである。なぜか。攻撃・批判されないで聞いてもらえる、ということは、クライエントが安心して全てを話すことができる、ということに他ならない。そうすれば先が見えてくることになるからである。

例4
S1 少し質問してもいいですか。
C1 ええ、いいですとも。
S2 ええ……前に聞いたこともあるんですが、数学の試験はとても難しいでしょうか。
C2 数学の試験ですね。
S3 ええ……とても難しいと聞いているんです。そして、私もそう思うんです。
C3 ああそうですか。
S4 それで、試験をうけなくても数学の単位が取れるような数学の講義がないかと思って聞きにきたんです。
C4 はあ。
S5 でもそんな講義ないでしょうね……


・完全な独り相撲である。批判せずにひたすらうんうんと受容することでいつの間にか自分で気がついている。これこそがロジャースのカウンセリングである。

受容のための心掛け
・カウンセラーは自分の価値観を表に出さない。これは「カウンセラーは価値観がなくてもよい」という意味ではない。持っているのが当たり前であるし、持っていて良いが、それをクライエントの前には出さずに横に置いておくという意味である。
・クライエントが不道徳なことを言ったらどうするか。例えば「ぶっ殺してやる」と言ったらどうするか。その場合もそのまま聞く。それでよい。憲法に内心の自由が認められているように、心の中でどのように考えても良い。ただ表現をすると時には他者との関係で問題となることもある。それと同様である。もちろん行動を起こそうとしたら止める。だがそれを言葉として言っているうちは受容する。
・「うんうん」と受容的な態度で聞くことは、相手を理解しようとすることにつながる。ロジャースは「治そうとするな、わかろうとせよ」と言った。

繰り返し
・繰り返しとはクライエントの言葉をそのまま繰り返す技法である。

例5
C1 学校ではどんなことが面白いですか。
S1 勉強と昼食をたべることです。勉強は理科と国語が面白いです。昼食をみんなと一緒にたべるのが面白いです。
C2 学校では勉強と昼食が面白いんですね。学校の課目では理科と国語が面白いんですね。
S2 はい。理科の先生が落語のように話すから面白いんです。放課後、野球をします。野球部に入っています。
C3 理科の先生が落語のように話すので面白いんですね。あなたは野球部に入っていて放課後、野球の練習をするんですね。
S3 はい、それで野球部の中に仲の良い友達がいてよく遊びます。
C4 野球部の中に友達がいてよく遊ぶんですね。
S4 はい……(沈黙)
C5 野球部の中に友達がいてよく遊ぶんですね。
S5 (沈黙)
C6 学校では理科と国語の勉強が面白いし、理科の先生が落語のように話すので特に面白いんですね、そして野球部に入っていて放課後、野球の練習をするんですね。
S6 (沈黙)
C7 野球部の中に友達がいてときどき一緒に遊ぶんですね。
S7 はい、そしてその友達は私の家にときどき遊びにきます。人数は七〜八人です。
C8 あなたの友達はあなたの家にときどき遊びにくるんですね。そして友達の人数は七〜八人なんですね。


・繰り返しのテキストだと理解すること。面接場面では最初から最後まで繰り返すわけではない。
・なぜ繰り返しが大切か。受容はクライエントを批判しない、従って安心感を与える。一方繰り返しは、クライエントの言葉をそのまま繰り返すことで鏡の役割を果たす。自分の吐いた言葉をそのままクライエントから聞くと、客観的に聞くことができる。「お前はこう言ったが、本当にそういう意味で言ったんだな?」と確認することができる。

(受容)例2
S1 私のこまった性質はみんな母の影響だと思います。私は母に対して少しも愛情を感じません。私は小さいとき母に可愛がられた経験が少しもありません。母はいつも冷たい人でした。
C1 はあ。
S2 それで私は他人が信頼できない人間になってしまったんです。私は他人に対して愛情を持つことができません。これもみんな小さいとき、母にそのようなとりあつかいを受けたからです。私は私が小さいとき母が死んでいてくれればよかったと思うこともあります。
C2 はあ、あなたにはそのように思うんですね。


・ここでは受容のテキストであるのでC2 は「そのように思うんですね」と返しているが、「あなたはお母さんが死んでいてくれればよかったと思うんですね」と繰り返してもよい。
・繰り返す時には、例えば固有名詞など大事な言葉を繰り返す。例5ではただ機械的に繰り返しているので、必要でない繰り返しも多く、話がおかしくなっている。

(受容)例4
S1 少し質問してもいいですか。
C1 ええ、いいですとも。
S2 ええ……前に聞いたこともあるんですが、数学の試験はとても難しいでしょうか。
C2 数学の試験ですね。
S3 ええ……とても難しいと聞いているんです。そして、私もそう思うんです。
C3 ああそうですか。
S4 それで、試験をうけなくても数学の単位が取れるような数学の講義がないかと思って聞きにきたんです。
C4 はあ。
S5 でもそんな講義ないでしょうね……


・この例は受容のテキストなのでC4 では「はあ」と受け止めているだけだが、「あなたは試験を受けなくても単位が取れる講義を探しているんですね」と返すと、自分の発言内容がいかにわがままなものかが伝わる。

最後に
・このような技法は普段の生活の中で練習する。「今日は受容の日」「今日は繰り返しの日」などと決めて練習すると良い。
 (文責:菊田)
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