八十川先生講義録
来談者中心療法(1) 2003.7/20

長崎・渋谷の事件にからめて
・カウンセラーは社会の出来事に対して敏感でなければならない。なぜなら私たちが関わる子どもたちが持っている問題は社会の中から作り出された問題が多いと考えられるからである。もちろん本人の素質もあるのだろうが、環境の影響はかなり大きいのではないか。はっきりとした学説があるわけではないが、遺伝が3〜4割、環境が6〜7割ぐらいではないだろうか。(ただし馬は違う。環境ではなく血統がものをいう。)
・そう考えると「市中引き回し」発言には問題が多いのではないか。親の育て型にも問題はあったのかもしれない。だが、この発言には、社会で子どもを育てるという視点が抜け落ちている。こういった観点からもカウンセラーは常に世の中の出来事に関心を持ち続けることが必要である。
・社会の問題としては「ゲームのリセット感覚」が挙げられる。身近に「死」を学ぶ機会がない社会が背景としてあるのではないだろうか。八十川先生は祖父が亡くなったとき、子どもを葬式に出してお骨を拾う体験をさせた。もちろん「死」を学んで欲しい、との考えからである。だが実感として「死」を理解はできていない様子であった。だがその後、仏壇に供えたお菓子を持ってこさせると、「おじいちゃん、死んだら見るだけだね」とびっくりしたように話した、という。いろんな場面で「死」に触れてきた、そういう体験が減っているのかもしれない。
・またゲームを作る人は「リセット」が子どもの成長に及ぼす影響までも考えているわけではないだろう。だが1つしかない命ということを学んでいく時期にリセットがどのように影響を及ぼすのか、よく考えた方がよい。


繰り返し〜続き
・繰り返しはクライエントの発言をそのまま繰り返す。

例6
S1 私はA科の一年生ですが、B科に転科したいんです。私は海外移住が目標で、A科に入学したんです。でも最近、病気になり、医者から、海外移住は無理だと云われました。海外移住ができないならばA科にいる意味がないのでB科に転科したいんです。
C1 あなたはA科の一年生なんですね。そして海外移住が目標でA科に入学したけれど、最近病気になり、医者に海外移住は無理だといわれたのですね。そして海外移住ができないならば、A科にいる意味はないと思い。B科に転科する気持ちになったんですね。
S2 はい。夏休中によく考えた結果、そういう気持ちになったんです。海外移住ができないでA科にいることは苦痛なんです。他の科に移れば他の科目も勉強でき私の苦痛もやわらぐと思います。
C2 夏休み中によく考えて、そう決心したんですね。海外移住ができないでA科にいることはあなたにとって苦痛なんですね。他の科に移れば他の科目も勉強できて、あなたの苦痛もやわらぐと思うんですね。
S3 私は海外移住を目標にしてA科に入ったので、それができないとA科にいることが苦痛なんです。
C3 あなたは海外移住を目標にしてA科に入ったので、それができないと、A科にいることが苦痛なんですね。
S4 私は家族の人ともよく相談しました。私の家は町工場を経営しているんですが、両親も私の将来は私にまかせてくれ、私の考えに賛成してくれたんです。
C4 あなたは家族ともよく相談したんですね。両親もあなたの考えに賛成してくれたんですね。


・C1 はクライエントの発言をそのまま繰り返している。これはテキストなのでひたすら繰り返しているが、大切なのはクライエントの発言の大切な部分を繰り返すことで、「本当にそれでいいのか?」「もっと考えてみなくていいのか」と確認することである。これは鏡の役割だといえる。カウンセラーの発言として自分の姿を突きつけられることで、クライエントは自分の発言を確かめ、再考し、軌道修正する効果を生む。

例5
C1 学校ではどんなことが面白いですか。
S1 勉強と昼食をたべることです。勉強は理科と国語が面白いです。昼食をみんなと一緒にたべるのが面白いです。
C2 学校では勉強と昼食が面白いんですね。学校の課目では理科と国語が面白いんですね。
S2 はい。理科の先生が落語のように話すから面白いんです。放課後、野球をします。野球部に入っています。
C3 理科の先生が落語のように話すので面白いんですね。あなたは野球部に入っていて放課後、野球の練習をするんですね。
S3 はい、それで野球部の中に仲の良い友達がいてよく遊びます。
C4 野球部の中に友達がいてよく遊ぶんですね。
S4 はい……(沈黙)
C5 野球部の中に友達がいてよく遊ぶんですね。
S5 (沈黙)
C6 学校では理科と国語の勉強が面白いし、理科の先生が落語のように話すので特に面白いんですね、そして野球部に入っていて放課後、野球の練習をするんですね。
S6 (沈黙)
C7 野球部の中に友達がいてときどき一緒に遊ぶんですね。
S7 はい、そしてその友達は私の家にときどき遊びにきます。人数は七〜八人です。
C8 あなたの友達はあなたの家にときどき遊びにくるんですね。そして友達の人数は七〜八人なんですね。


・繰り返しは沈黙の処理にも使われる。基本的にはクライエントが黙ったときにはカウンセラーも黙る。それはクライエントが考えている時間であると考えるからである。だが沈黙にはいろいろな種類があり、それがよくわからない場合は、クライエントが最後に言った言葉をそのまま繰り返す。C5、C6などはその例である。
・また、繰り返すのは、ただうんうんと聞くよりもちゃんと聞いてもらったという安心感を与える。つまり、受容的態度の表れの1つのカタチともいえる。
・クライエントの言葉をそのまま繰り返すのが繰り返しである。違う言葉を使うと話がずれたり、クライエントが不安になることもある。

明確化(明瞭化)
・何を明確にするのか。一番大切なのは感情の明確化をすることである。

例1
S1 こう、みんなと話した時、みんなが何か、みんながいっているわけじゃないですけれど、大部分の人が相談室に来ても別にどうってことないと、勝手なこと言っているんですね。(ウン)何ていうか、ただ話をしてただ聞いている、先生が聞いているだけで(ウン)何かちっとも、こうなんていうのか。
C1 役に立たない。


・相談室に不満を言いたいが、面と向かってはいいづらい面もあり、口ごもっている。そこをカウンセラーはスパッと相手の気持ちをはっきり言っている。

例2
S1 私は家内が時間通りに食事を準備してくれることを望むのです。私は家では一回しか食事をとりません。家内に朝早く起きて食事の準備をしてくれというわけではありません。昼食も街の食堂でとります。でも一回だけは家で食事をとりたいのです。そうすべきだと思います。それで、夕方、家に帰ったときは食事が準備されていることを希望しているんです。少しぐらい家内と争っても、そうさせるべきだと思っています。でも実際は、このことで家内に小言をいうことはほとんどありません。
C1 あなたは食事のことで非常にしゃくにさわっているのですね。奥さんが怠慢であると思っているのですね。でもそれをいうまいとして我慢しているのですね。


・ここでも「我慢しているんですね」と相手の気持ちを汲んでいる。「あなたの気持ちは〜なんですね」という1つの定型パターン。

例3
S1 私の悩みがもう一つあります。私の父は奇術が大好きなんです。それで親類の人が集まると、父はときどき奇術をしてみせるんです。そして ○○子、お前もできるだろう といいます。私は いいえ と答えます。たとえ、それができても、私はそんなことを人前でする気になれないんです。
C1 あなたは、そんなことをする父が嫌いなんですね。そしてそんなことをする気持は全くないんですね。
S2 はい、奇術なんか大嫌いです。
C2 どうしても、そんなことをする気になれないんですね。


・おそらく中高生ぐらいであろう。この時期は真理や正義を求める時期である。そういう中にあって奇術はあくまでもごまかしなのである。
・C1は、「あなたはお父さんが嫌いなんですね」でもいいのではないか。ただ、それでは余りにも生々しいので「そんなことをする」を付け加えている。
・繰り返しと明確化は何が違うか。繰り返しはフィードバックfeedbackであり、つまり後ろを向いているのに対し、明確化はリードleadする要素がある。つまり先を見ている。
・繰り返しは相手の言葉をそのまま繰り返し、確かめるものである。それとは違い、明確化はカウンセラーの言葉で返す。そのとき取り上げるのは感情である。例3ではC1 で「奇術はしょせんごまかしだもんな」と返してもよい。だがそうではなく「父が嫌いなんですね」と返すほうがよい。

例6
S1 それからいろいろあります。(ふむ)人と合わへんね(え)人と合わへんのですね。(ふむ)どうも人と、こう、ああ、合うというか一緒になってやれない、人がさわいでいてもね、(うふーん)たいていの場合おもしろくないんですよ、(ふむふむふーむ)人が何とも思わぬことちゅうか、話しても悪いと思いますしねぇ。(ふむ)いろいろ話しますからね、(ふむ)合わんようになって――になりますし。
C1 ふむ、ふむ、何かこう人と感じ、自分の感じというか、こう、人の思ってることと自分の思っていることが少し、こう違うということかしら。

・S1 では「人と合わない」が何度も繰り返されている。ここに大切なポイントがあるのではないかと考えられる。従って「人と合わない気がするんですね」でもよい。

・一般に、言葉としては、
「あなたはとても悩んでいるんですね」
「あなたはとても怒っているんですね」
「あなたはとても苦しいんだよね」
「あなたはとても辛いんだよね」
「あなたはとても幸せなんですね」
「あなたはとても悔しいんだよね」
「あなたはとても自己嫌悪に陥っているんだね」
「あなたはとてもどうにもならないんだよね」
「あなたはとてもどうしていいかわからないんだよね」
といったフレーズが定型句である。
・例7までが感情の明確化である。クライエントの混乱している感情を明確化し、整理する役割である。
・例8〜は考え方の明確化である。

例9
S1 卒業が近いので四年制に進むか、田舎へ帰って家業を継ぐか、迷っているんです。
C1 進学するか、自家営業するか迷っているんですね。
S2 はい。進学するなら現在東京にいるのですから、このまま進んだ方が都合がいいんです。一たん家に帰ると、もう一度東京に出てくることは難しいと思います。そして私の先生も、もしも進学する気持ちがあるなら、四年制の方に進めるように推薦してくださるといっておられるんです。

C2 進学するならこのまま進学した方がいろいろな点で好都合なんですね。
S3 はい。でも家のことを考えると早く帰らなければいけないという気持ちになるんです。父も年をとってきたし、私は長男ですから、私が帰れば、父も安心するし、楽ができると思うんです。それに進学した場合には学費のことも別に考えなければなりません。
C3 進学しようとすると家のことが心配になり、家に帰らなければならないという気持ちにもなるんです。二つの気持ちが同時に働くわけですね。
S4 はい。それで迷っちぁうんです。でも田舎に帰っても、田舎の農業を指導できるだけの技術があるかどうか心配なんです。最近は農業技術がとても発達したし、私もまだ二年間勉強しただけなので新しい技術を私の村に導入できるかどうか心配なんです。遠い将来を考えたら、もう少し頑張って、もっと東京で勉強した方がよいとも考えるんです。
C4 将来のことを考えるとやはり東京に残って勉強を続けた方がよいと思うんですね。それで田舎の両親はどうしますか。
S5 はい、田舎の両親のことを思うと迷っちぁうんです。
C5 田舎に帰った場合、あなたの両親はきっとよろこぶけれど、田舎の農業を改良しようとしたら、もう少し東京で勉強しなければならないという気持ちにもなるわけですね。別に学費のこともあるわけですね。
S6 はい。でも自分の気持ちをよく整理してみますと、もう少し東京で勉強した方がよいと思います。私が一生懸命勉強していれば、両親も私の気持ちをわかってくれると思います。学費については私も少しアルバイトをするつもりです。

・繰り返し・明確化で聞くうちに、S6ではクライエントが洞察insightに至る。先が見えるようになっている。

・ただし、ロジャース式のカウンセリングで全てがうまくいくわけではない。例えば統合失調症(かつての精神分裂病)のクライエントが来たらカウンセリングの範疇ではない。精神科を紹介するべきである。その際は具体的な病院まで挙げて詳しく説明できた方がよい。このようなreferリファーの知識も時には必要になる。
・考え方の明確化の中には「あなたが言うのは〜ことですよね」とフィードバックする役割もある。そういう意味では繰り返しに似ている。
・例11までが考え方の明確化である。例12からは両方が入り交じったケース。
・ここまで扱った、受容・繰り返し・明確化は重要な技法である。日常生活の中で実践し練習することが大切である。

 (文責:菊田)
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