八十川先生講義録
来談者中心療法(2) 1999.8/4
ロジャースの来談者中心療法の2回目。

 カウンセリングの流れを大まかに説明した後、技法のうち受容と繰り返しをプリントで

扱いました。

 「受容」で大切なのは、相手の発言をそのまま聴き取ること、犯罪・非道徳的内容でもとがめない。「繰り返し」はクライエントの言葉をそのままくり返すことで鏡の働きをする。特に面接中に固有名詞・問題発言があったら繰り返すとよい。

 プリントの出典は「カウンセリングの原理と原則」。


 
(休講) 1999.9/22
 先生の体調が悪いということで急遽お休みになりました。なるべく電話でお知らせするようにしたのですが、不手際で連絡できなかった方、また当日会場で待っていただいた方、大変申し訳ありませんでした。今後、このようなときの対処を考えたいと思います。

 また、連絡の取れなかった方の中には、本年度の申し込みをいただいていない方がいらっしゃるかもしれません。そのような場合には改めて申し込みをお願いしたいと思います。


 
来談者中心療法(3) 1999.10/27
 ロジャースの来談者中心療法の3回目。技法のうち「共感」を扱う。共感とは「自分の感情を放棄し、相手と同じ気持ちになる(なろうと努力する)こと」。例えば「ほんにお月さんはさみしかろ」。共感してもらうと=自分の気持ちが分かってもらえると、うれしい。そこから変わることができる。

 共感は自分の価値観を捨てるのだからかなり苦痛なことである。また「共感(empathy)」は「感情移入」とよく似ているが「同情(sympathy)」とは違う。同情は人間が本来持っている感情で、相手と同じ気持ちになれたことによって自己満足のようなものが生まれる。しかし共感は、相手と同じ気持ちになることに抵抗感がある。共感する能力は人間には生まれながらには備わっていなのである。そのつもりで学習するしか身につける方法はない。 ではどうやればよいのか。それは「相手の立場に立って見る」こと。その相手の立場が良いか悪いかは関係ない。相手の立場に立ってみることで、相手は味方ができて安心するのだ。そこに安堵感が生まれる。すると心が洗われる。そこに洞察が得られる。

            
来談者中心療法(4) 1999.11/17
 ロジャースの来談者中心療法の最終回。

 「カタルシス」はカウンセラーの技法ではない。クライエントの反応である。様々な技法を用いて接すれば、相手は自分が攻撃されないことに気づき、安心する。すると抑えていた感情・話の内容を一気に吐き出す(confess告白)。時には涙を伴い、心が洗われるよう感じを持つ。これがカタルシス(catharsis浄化)である。そうすると「洞察=(見通し)」が得られる。例えば自己を受容できるようになる。他を受け入れない人は自分を受け入れていない。自分の痛みを知る者は他人の痛みを知るのである。また一つの見方ではなく、いろいろな見方ができるようになる。

 ところで資料p.9の例1ではカウンセラーが「その考え方はとても大切なことだと思います」と「支持」をしている。ロジャースはクライエントの発言に対して良い悪いは一切言うな、つまり「支持」はするなと言っている。支持をするとクライエントはカウンセラーに褒められたくて、いいクライエントを演じるようになったり、カウンセリングのハシゴするようになるという(“ショッピング”と呼ぶ)。しかし国分先生、八十川先生は、少しは甘えさせてやることも大切なのでは、と「支持」をしてもよいのでは、という。

 続いて「沈黙」技法。面接中にクライエントが黙ることがある。基本的には沈黙を大切にする。原則は「黙ったら黙る」どれだけでも黙る。相手が考えているのなら邪魔しない。とはいえ永遠に黙っているわけにもいかない。処理としては「クライエントが最後に言った言葉を繰り返す」。また「先生はどう思いますか?」と聞いてくる場合もある。そのような場合には「僕に考えがないわけじゃないけど、君自身が答えを見つけることが大切なんじゃないのかな」、といった感じで切り返す。

 「ロジャースの人間観」。ロジャースは、「@人間は有機体(organism生き物)である」という。ここまではフロイト(Sigmund Freud 1856〜1939)と同じ。フロイトは「人間=生き物=本能で生きる=犬・猫と同様」と考えるが、ロジャースは「人間には先天的(生まれながら)に『自己実現』の傾向がある」と考える。それは成長の傾向、自律の傾向、独立の傾向であり、「よくなる力を生まれながらに持っている」ということ。と同時に、学習効果による「A自己self」を想定した。

 「性格論」。ロジャースは「現象論phenomenology」の立場で性格を考えた。すなわち「受け止め方(見方)によって全ては変わる。行動も変わる」と考える。例えば「女性にフラれた」事実を「俺はもうダメだ」と感じるか「また新しい女とつきあえる!」と考えるかは受け止め方である。ではどうしたら別の見方ができるようになるのか。それは受容してやること。受容してやれば新しい見方ができるようになる。これがロジャースの考え方である。

 さてこのロジャースの思想は、心理療法を一般化し、素人でもできることを知らしめたことで評価をされる。一方ロジャースのカウンセリングは大学生の学生相談の中から生まれたもので誰にでもあてはまるものではない。洞察を得るにはある程度の知能が必要である。また診断がつかない点、赤面恐怖などはロジャースでは治らない点、世の中を変える力にはなり得ない点など限界もある。

<八十川先生から紹介していただいた、ロジャース・カウンセリングおすすめの本>

・佐治守夫・飯長喜一郎「ロジャーズクライエント中心療法」有斐閣新書

・伊藤 博「新訂 カウンセリング」 誠信書房 1990ごろ改訂

・友田不二男「カウンセリングの技術」誠信書房


行動療法 1999.12/15
 行動療法は今まで学習してきたロジャースの来談者中心療法とは違い、心には触れないで行動だけを変えるものである。ex.お駄賃でお手伝いをさせるetc これに対し批判もあるが、実際の世の中では全ての問題を「心」に還元して解決はできない。

 行動療法の定義は「学習理論を生体の行動変容に適用する試み」。つまり、心を変えないで行動を治す、ということである。なお行動療法には精神分析のフロイト、来談者中心療法のロジャースのような「教祖」的存在はない。

 定義中の「学習理論」とは「同じことを繰り返して、ある(望ましい)行動を身につけること」。その学習理論には「条件反射理論」と「試行錯誤法」の2つがある。

条件反射理論は有名なパブロフの実験に代表される。実際にはお風呂にはいる前に常にトイレに行く習慣を付けると、「お風呂に行くよ」と声をかけるだけでトイレに行きたくなる、といったもの。条件反射理論からレスポンデント療法が成立した。

 一方試行錯誤法は、ケージに入れたネズミが偶然レバーを押してエサを得ることから、レバーとエサの関係を学習する(スキナーの実験)のが代表である。試行錯誤法はオペラント療法の理論である。これら二つは別のものではなく共に「条件付け理論」として一つに括られる。おおざっぱに言って、レスポンデント療法は感情の学習、オペラント療法は行動の学習に用いられる。

 レスポンデント療法で多く使われるのが「逆制止療法」である。例えば「バカヤロー」と大声で叫ぶ、カラオケで思いっきり歌うなどでストレスを解消するのがこれに当たる。

また、副交感神経を優位な状態にすることで不安を安定に変える「弛緩反応」は自立訓練法として知られる。

 オペラント療法の例としては、お駄賃・ご褒美で相手の良いところを伸ばす(正の強化)

「報酬学習reward leaning」(豚もおだてりゃ木に登る)、その反対に、間違えたところを何回も練習する・しかる・電気ショックを流すなど、罰することで相手を変える(負の強化)「処罰学習punishment learning」などがある。

 ただし、一般に人間は褒めた方が伸びる。暴力で人を変えるのは無理である。

 次回は自律訓練法の予定。

 
自立訓練法(1) 2000.1/19
 前回の行動療法に続いて「自律訓練法」。かつては自己鍛錬法、自発性訓練、自生訓練、自立性訓練など、様々な呼び方があった。

 1890年代ドイツの大脳生理学者オスカー・フォークトが、知能の高い者の中に、催眠後、疲労・緊張・頭痛が軽減することを発見。その後シュルツ、ルーテの研究により自律訓練法が誕生。

 一言でいうなら「自己催眠(の一種)」。「催眠」と聞くと、「内心を見透かされてしまうのでは」など、恐怖感を感じる人も多い。しかし医者の前で服を脱ぐのが恥ずかしいとは言ってられない。興味本位で行うのは論外だが、きちんとした治療法であることを十分理解する。

 姿勢には三種ある。単に重感・温感を出すだけなら仰臥位の方が良い。しかしどこでも手軽にできるという意味で腰掛け坐位が適当。仰臥位だと寝てしまう。

 公式は口には出さない。遠くから「竿竹〜」「焼き芋〜」と聞こえてくるようなイメージで心の中で繰り返す。小さな声の方がよい。1分以内に重感が出るようになったら合格。次の温感に進む。

 公式も大事だが覚醒運動も大事。1回が終わったら、親指を中に入れてぎゅっと握り、腕に力を入れる。その後手を前に伸ばして脱力。これを3回。深呼吸を3回。

 寝過ぎたときなど、筋肉は緩めっぱなしだとかえって疲れた気がする。必ず覚醒運動を行うこと。 

 自律訓練を指導すると、「こんなので俺の悩みが治るのか?」と疑問・不安を持つ者も多い。自律訓練の成立、メカニズムなどを十分に説明することで納得してもらうこと。また、「悩んでる方が良ければ悩んでなさい」と言うのも有効。

 自律訓練は自己臭、どもり、赤面恐怖などに有効。自律訓練をすることによって心身が安定し「気にならなくなる」、また「それがどうした」と開き直れるようになる。


−NOTE−

自律訓練法 AT:AutogenicTrainning
・成立

 1890 O.Vogt(独)大脳生理学者 催眠と睡眠の関係を研究

      → 知能の高い者の中に、催眠後、疲労・緊張・頭痛が軽減

 1905 Jh.shultz 自律訓練を研究

 1932   〃 “AutogenicTrainning”を出版(誠信書房から全五巻で 絶版?)

    Luthe(ドイツ系カナダ人)“Autgenic Therapy”出版

・特質

 @体系的に研究されたもの 

 A練習者中心である(クライエントの主体性が大切である)

 B受動的注意集中 

 C集団実施が可能(能率的)

・目標

 筋弛緩 → 心身の再体制化

○練習の進め方

1.準備段階

 (ア)場所 静かなところ 快適 暑くなく寒くなく 

 (イ)服装 身体に圧迫感・違和感・束縛感を与えるものは取った方がよい ex.めがね、ネクタイ、靴下 

 (ウ)姿勢 仰臥位 腰掛け坐位 よりかかり坐位のうち腰掛け坐位がよい 

 (エ)閉眼

2.受動的注意集中

 (ア)公式 

 (イ)虚心 無理をしない、力を抜く、一生懸命やらない 

 (ウ)留意 気持ちは(例えば)右腕に集める (エ)持念 その気持ちを持ち続ける

3.練習時間

 1回60秒*3回=1セッション(5分程度)を一日3回 少なくとも2回

◎標準練習

公式0 安静感 「気持ちがとても落ち着いている」

公式1 重 感 「右腕がとても重たい」右腕→左腕→右足→左足(利き腕から)

公式2 温 感 「右腕がとても温かい」右腕→左腕→右足→左足(利き腕から)

公式3 心臓調整 「心臓がとても静かに規則正しく打っている」

公式4 呼吸調整 「とても楽に息をしている」

公式5 腹部温感 「胃の当たりがとても温かい」

公式6 額部冷涼感「額がとても冷たい」or「(かすかに)涼しい」

※禁忌

 公式3 心臓疾患、特に不整脈  公式4 呼吸障害、結核  公式5 胃潰瘍、胃に痛みがある



 次回も自律訓練法。

 
自立訓練法(2) 2000.3/15
自律訓練法 AT:AutogenicTrainning

・力を抜くことの学習であるため、力を抜くことが第一である。
・かけるようではなく、かけられるようである。
・なるべく低い声がよい。
・しびれはよほど不快感がない場合よいと思われる。
・筋弛緩により何らかの患部の痛みを感じることがある(古傷が痛む)(=自律放電) その場合には「患部の痛みは軽くなる…」を挿入する。その上その部分を軽くマッサ ージすることもよい。
・行動療法はリハーサルによる脱感作療法


自立訓練法(3) 2000.3/15
特殊公式
1 器官公式
「目が冷たい」「まぶたが冷たくてしびれている」(気管支ぜんそく)
「鼻が冷たい」(〃、鼻炎、鼻が詰まったとき)
「鼻があたたかい」(しもやけ)
「のどが冷たい」「のどが広い」「飲み込むことは何でもない」(嚥下障害)
「肺があたたかい」(肺結核)
「首筋が温かい」「首筋から肩が温かい」「足が温かい」(赤面恐怖)
「うなじが温かい」「頭が軽い」(頭痛)
「膀胱が温かい」(夜尿症) → 実際にカイロを当てて暖めるとよい
「肛門が冷たい」「肛門が重い」(痔)
2 意志訓練公式
@中和公式nutralizing formula
「〜のが気にならない」ex.飲み込むのが〜。眠れなくても〜。(不眠症)
A強化公式
「ますます〜してくる」ex.疲れてますます眠気が差してくる。眠れなくても気にならない、だんだん眠くなってくる。(不眠症)
B節制公式
「〜しないと分かっている」ex.人前に出てあがらないと分かっている。〜不安にならないと〜。顔が赤くならないと〜。
C逆説公式
「他人は〜だろうが、私は〜でない」ex.人はあがるだろうが私はあがらない。人は不安だろうが、私は不安でない。
D実存公式
「〜である。それでよいのだ」
 

 自律訓練法(AT:AutogenicTraining)とは、筋弛緩を条件付けることで精神的安定を得ようとするものである。自己催眠といってもよい。しかし、自分で「催眠をかけよう」とするの、力が入ってしまうのでよくない。他人にかけてもらうように、心の中で、小さい声で、かすかに聞こえるように公式を唱える。

 自律訓練の際には時折痛みが生じることがある。これを「自己放電discharge」と呼ぶ。精神身体医学では痛みがあっても悪いことではないと考えるが、自己の安定を目標とする自律訓練ではいったん中止して患部をマッサージするのがよい。

 眠くなった場合は、1分の筋弛緩を30秒にするなどして早く切り上げる。眠くなるのはリラックスするからであり、そのこと自体はよいことだが、「筋弛緩 → 安定」という仕組みを体に覚えさせる自律訓練としては無意になってしまうからである。

 また「音が聞こえる」「夢を見ているようだ」「(閉眼すると)色が見える」「むずがゆい」「ガクッとからだが落ち込む」はよい兆候である。一方「突っ張った感じ」「しびれ」「胸が締め付けられる」はよくない。

 重感に関しては、「ある一部だけ重い」はよい反応である。それを広げればよい。心臓公式では脈拍は10程度下がるという。腹部温感では「胃酸が出てお腹が痛い」場合は中止すべきであり、「ゴロゴロいう」のはよい反応であるという。

 また精神病的な人、妄想の出る人は中止し、やらせない方がよい。

 標準公式が終了して以降、生理的・治療的効果を狙う特殊公式がある(NOTE)。

 最後にまとめ。
 カウンセリングには諸理論があるが、来談者中心療法と精神分析と行動療法が三本柱。八十川先生は三島高校で年間のべ444回面接しているが、カウンセリングはクライエントが来ないとどうにもならない。そして同時にカウンセラーの立場、あり方が問われる事になる。

 カウンセラーの条件としては、まず「人間が好きであること」。人間に関心がある。みんなでいることの楽しさを知っている。そして閉じこもらない。 人の中に入っていく勇気を持ち、人とふれ合う楽しさを感じられるそんな生活を送れる人間である事が大切。人と関わるのが嫌ではカウンセラーは無理である。俺についてこい、という人を引っ張る力が必要である。そういう人間でなければ「俺のように生きろ」と胸を張って言えない。

 そして何より「あるがまま」であること。自分自身が本音で生きていること。自然体で生きていること。いつも本音で接すること。上手に上っ面だけを繕わない。「今ここでHear&Now」をどう生きるか、が問われる。実はこのあたりが技法の勉強以上に大切なことである。

 「事実は1つ。見方は360度」ひとつに捕らわれないことが重要である。 


 (文責:菊田)