「貿易ゲーム」とそれを元にした4時間の近現代史


●はじめに

 本校(前任校)の生徒は、チョーク一本で立ち向かうにはかなり手強いものがある。そこで、シミュレーション教材やさまざまなアクティビティのような、「生徒自身が動くことによって学ぶ」タイプの教材を積極的に利用してきた。そのような活動に「貿易ゲーム」というものがある。長い間、これを利用して授業が組み立てられないだろうか考えていた。

 そんな中、韓国への修学旅行に伴う事前学習に時間をとられ、本来の世界史の授業時数が極端に不足するという事態が発生した。そこでこの貿易ゲームを行った上で、それを元にして近現代史を4時間で片付けるという無茶なことを試みた。


●一時間目「産業革命」

 ここでは通常の授業として産業革命を扱う。


●二時間目「貿易ゲーム」

 貿易ゲームとは、グループごとに与えられた資源(紙)、技術(はさみ、のりなど)をもとに製品(紙の鎖)を生産するというものである。そしてその中で「持てる国」と「持たざる国」の存在や立場に気づく、というアクティビティである。
(準備)
 グループ毎(今回は6グループ)に、次の道具(技術)、紙(資源)、資本金(おもちゃの紙幣十万円分)を封筒に入れたものを準備しておく。

・上質紙一枚、はさみ三つ、のり三本、鉛筆三本、定規三本
・新聞紙一ページ、はさみ二つ、のり二本、定規一本、鉛筆二本
・新聞紙一ページ、上質紙一枚、はさみ二つ、のり二本、定規二本
・新聞紙二ページ、はさみ一つ、鉛筆二本
・新聞紙五ページ、のり一本、鉛筆一本
・新聞紙十ページ、上質紙十枚
            (道具・紙の枚数は適宜変更する)

 これらはあえてグループ間に差が生じるようにしてある。それぞれが、技術はあるが資源がない先進国、資源はあるが技術がない途上国といったイメージである。実際の配布時には、先進国セット、途上国セットをそれぞれどのグループに与えるかもよく考えたい。
(ゲームのすすめ方)

 まずプリントを配布し、ゲームの内容を説明する。作るのはタテ十九センチ、ヨコ三センチに切った紙を両端を二センチづつ重ねて輪をつくり、それを五つつなげた鎖である。できた製品は教室内に設置した「世界銀行」(今回は担任に依頼)に持っていき、現金と交換する。買い取り価格は一つ五万円とする。最も稼いだ国(グループ)が優勝である。生徒が自分のはさみなどを持ち出しては意味がないので、道具類は全て準備されたもののみを使うことを徹底する。

 開始の合図と共に生徒は袋を開けて鎖を作ろうとする。だがすぐに必要な道具が足りないことに気づき、「先生、定規がないよ」などと言い出す。だがこちらは何も言わない。「先生が準備したものだけを使って下さい」と繰り返す。生徒達はどうしたらよいかわからないため、「これじゃーできねーよ」「どういうこと?」「ワケわかんない」などといった声がもれ出す。

 一方で初めから道具の揃っていたグループは、いち早く鎖の製造にとりかかっていく。そのうち、豊富に道具があるグループもあること、また資本金が準備されていることなどから、道具を国際的な(グループ間)取引によって調達すればいいのだ、ということに気づくようになる。それでもわからないという生徒には、ルールを記したプリントの「貿易ゲーム」という語を黙って指差してやる。

 そうなると教室中が俄に騒がしくなる。元気な男子生徒あたりが近所のグループと掛け合い、道具を手に入れようとするのだ。だが敵もさるもの、道具をできるだけ高く売りつけるといった、様々な駆け引きがあちこちで見られるようになる。逆に「道具がないなら貸してあげるよ」などと優しい対応をしたグループは馬鹿をみることになる。

 こうして各グループが製造を始めた後、頃合いを見計らって、「臨時ニュースです。製品がだぶついているので、鎖の価格が一つ三万円になりました」と告げる。後は鎖を作るだけと思っていた生徒は慌てふためき、教室は蜂の巣をつついたようになる。そのうち世界銀行の前にはずらっと長い列が生じる。

 その後さらに「消費者の高級志向が強まったので、新聞紙の鎖は一万円、上質紙の鎖は六万円とします」「新しい技術が発明されました。それはホチキスです。のりではなくホチキスを使用して作った鎖は新聞紙で十五万円、上質紙で二十万円です。ホチキスは一個三十万円。限定二個のみ販売します」などと価格変動、技術革新を引き起こす。このような価格変動や技術革新の波は先進国にも途上国にも訪れる。だが新聞紙(低質な資源)しかない国は波に乗り遅れ、新しい技術(ホチキス)を導入するだけの資本のある国のみがそれを手に入れられる。こういった活動を通じて、途上国は途上国なりに、先進国は先進国なりに、生徒はそれぞれの立場に基づいて世界を捉える視点を獲得していく。

 適当な時間でゲームを切り上げ、アンケートを行う。内容を振り返らせるとともに、自分が獲得したイメージを言語化させるのが目的である。

 なお、資本金や製品の支払いに使った現金は、子ども銀行(おもちゃ)の一万円札を印刷して使用した。過去の実践例では、売り上げを帳簿に記録しておくだけのことが多いようだが、紙幣が目に見え、手にとれることで生徒の反応は全く違ってくる。自分自身も何千万円もの札束を目の前にして、なんだかわくわくする気持ちを抑えられなかった。このゲームは、隣のグループとの貿易によって道具を手に入れる必要があることに気がつかないと始まらないのだが、そのことに気がつくためにも目に見える紙幣は必要である。

 ほとんどのグループは自然に道具の調達に気がつく。だが、過去に一グループだけ、結局最後まで何もできなかったところがあった。適切な援助が必要である。


●三時間目「貿易ゲームからわかること」

 このゲームから生徒達は、技術を持つ先進国と技術の乏しい途上国の存在と資本主義経済の厳しさを身をもって体験した。

 生徒のふりかえりを読むと、「技術のある国はどんどんもうけることができた」「技術のない国は価格の変動に弱く、また新技術も導入できない」といった点に気づいていることがわかる。時には国際(グループ間)紛争が勃発することもあれば、はさみがなくても定規で紙を切るというベンチャー的な発想をするところもある。また道具が足りない国の中には労働力を販売するところも現れた。

 さらに「貿易をスムーズに行い、お互いに発展するためにはどうしたらよいか」という問いかけに対しては「話し合い」「お互いの文化を理解する」「技術を交換し合う」「自分の国のことばかり考えない」などいった真っ当な意見が多く記されている。このような国ごとの格差をなくすためにどうしたらよいのか、どう行動すべきなのか、実は生徒はちゃんとわかっているのだ。だがわかっていても、実際の場面ではそれができないのだ。自国の利益を最大にしたいと思えば技術を独り占めし、他国を蹴落とすのが最善の策なのである。決してそれが正しくないとわかっていてもそうしてしまうのだ。

 このゲームの問題点をそのように押さえた上で、実際の歴史上でも十九世紀から同様なことが起こったことを説明する。安価な原料と市場を求めて他国を植民地とし、支配していった帝国主義である。世界で一番最初に産業革命を成し遂げ、資本主義社会に移行したイギリスから始まり、そして日本もその仲間入りをしていく。そしてその帝国主義国による植民地獲得競争が飽和点に達したとき、今度は植民地再分割戦争が起きる。

 
●四時間目「戦争を終わらせた力」

 貿易ゲームから大戦への道筋を明らかにした前時に続くのであれば、2度の大戦の内容について扱うのが本来であり当然である。だがここでは、それよりも「戦争の終わらせ方」を問題にしたい。何よりも万一再び戦争が起きた時、それが最も必要なことだと考えるからである。

 第二次大戦がなぜ終わったのか、教科書からそれに該当する部分を生徒に探させた。そして千人針、反戦川柳、小原ミチさんの「あの人は帰ってこなかった」また、地元地域の出征兵士による戦争を詠んだ短歌などに触れ、植民地支配に対する抵抗、戦争が終わって欲しいという人々の願いと行動がその力であるというまとめ方をした。


●おわりに

 「産業革命→資本主義の成立→資本主義の究極形としての帝国主義→植民地再分割戦争としての大戦」という歴史のとらえ方でこの四時間を組み立て、貿易ゲームを現実の世界に切り込む足がかりとして利用したわけだが、問題点も多い。戦争をイヤだと思っただけで戦争が終わるわけではない、イヤだと思いながらも戦争に協力せざるを得なかった状況など、単純化したとらえ方により複雑な現実の問題を欠落させてしまった点は数多い。いくつかの疑問を既にいただいた。さらに検討しながらよりよいものとしていきたい。

(実践記録は前任校の伊東商業高等学校でのもの)


◆すべて終わって◆
 歴史地理教育9月号92ページの 「先生教えて『戦争の呼称がいろいろあるのはなぜ』」にあるように、、例えば第二次大戦をとっても、そこにいろいろな側面があります。そこを単純化しすぎたこと、それによってあの戦争の一面しか提示できなかったことが、この実践の最大の弱点だと思います。いろいろな方にご意見をうかがえれば幸いです。

◆実践を読まれての感想は、掲示板へぜひどうぞ。◆




◆資料◆

 ・生徒配布用 貿易ゲーム説明プリント   html  一太郎ファイル(jtd)
 ・生徒配布用 貿易ゲーム振り返りプリント  html  一太郎ファイル(jtd)
 ・生徒の振り返りをまとめたもの(jpg画像50〜70kb)  2A1 2A2 2B1 2B2 2B3 2D1 2D2 2D3 2E1 2E2
 ・3時間目「貿易ゲームからわかること」4時間目「戦争を終わらせた力」板書例板書例 html
 ・4時間目「戦争を終わらせた力」資料   html  一太郎ファイル(jtd)



◆リンク◆
 ・身延山短大にて実施した「貿易ゲーム」の概略
    http://www.cer.yamanashi.ac.jp/narita/materials/tmm/tradingg.html というのが最も参考になったのだが・・・(今、見に行ったら行けなかった)



 

(2001年8月  伊東高校 菊田兼一)