絵画史で切り取るルネサンス授業の試み

はじめに

 絵に興味のある私としては、絵画史というのは結構面白い。特に「ルネサンス」はそれが単なる描画技術の変化ではなく、人間の考え方、生き方、社会に及ぶものであるだけに良い教材になり得るはずである。

 ちょうど年度初めの事でもあり、授業のようで授業でない、何か面白い事ができないかと考え、「絵」そのものから「ルネサンス」を導きだす事を考えてみた。



絵の比較から

 まず「中世の商人」「夜警」(レンブラント)の二枚(ともに山川のパネル)を黒板に貼る。

A(「中世の商人」) B(レンブラント「夜景」)

T 片方は一五世紀半ば、つまり中世の絵、もう片方は一七世紀半ば、近代の絵です。  

  その差およそ二○○年、どちらが古くて、どちらが新しい絵だと思いますか?

 (生徒は口々にどちらがどうだと言い合う)

T じゃあ、どちらが古いかは置いといて、この二つの絵、どう思う? どう違う?

 適当な所で絵を見る視点を与え、対比表の作成に誘導する。(表1)
 
 それぞれの観点について、生徒に問いかけながら、表に○×を書き込んでいく。こうしたヒントや表作成の中で、中世の絵の持つ「キリスト教による抑圧」感、近代の絵に感じる「人間の自由」「生き生き」感を生徒に湧き起こさせ、イメージさせる。

(表1)
立体感・奥行き感 ×
光のあて方 ×
人間の骨格 ×
(あるクラスでの結果)

 絵の新旧を明らかにした上で、発問する。

T これらの違いはなぜ生まれたんだろう?

  二○○年の間に何が起こったのだろう?

 (生徒からの反応はない)

T これだけの変化が一気に起こるわけがない。2枚の絵の間に描かれた絵を見ればその秘密(!) が解るかもしれない。

 ここでボッティチェリの「春」(同じく山川のパネル)を示す。


A(「中世の商人」) C(ボッティチェリ「春」) B(レンブラント「夜景」)

T さっきの表の基準だと、この絵は中世の絵? それとも近代の絵?

 再び生徒の意見を聞きながら、表を作り直していく。(表2)

T 結局この絵は近代の絵なんだろうか?

S ???(少し考えている様子)

(表2)
中世 ルネサンス 近代
立体感・奥行き感 ×
光のあて方 ×
人間の骨格 × ×
(あるクラスでの結果)


T 確かにこの絵には人間の描き方に不自然な所、つまり中世的なところがある。そういう意味で は近代の絵とは言えないね。でも近代的な部分が絵の中に既に現われてもいる。今回はそれを評 価して、この絵は「近代の始まり」の絵としたい。

 このような「中世から近代への変化」を「ルネサンス」といいます。



技術面の進歩について

 さらにルネサンスの理解を深化させる。

 まず「春」の作者ボッティチェリについて詳しく説明する。そして幾つかの発問を重ねながら、「果たして彼は画家として食べていけたんだろうか?」「そんなに大勢の画家の絵が一体売れたんだろうか?」といった関心を醸成していく。

T じゃあ絵を買うような人ってどんな人?

S 絵の好きな人。金持ち。

T そんなにたくさんの金持ちがいたの?

S いない……と思う。

T いない? 本当に? じゃあ調べてみよう。イタリアはたくさんの金持ちを生むような商売やってなかったか?

 東方貿易(既習済)で利益を得た商人が、絵を購入し、画家を援助するようになる。こうして画家が増え、絵の技術も発達した。       

ルネサンスの意味

 これら商人のおかげで、遠近法など絵を描く技術が進歩したのは事実である。しかしルネサンスは単なる絵の技法の変化ではない。考え方や社会までもが変わったのだという事までを理解しなければ意味はない。

T 絵の技術は進歩したけれど、それだけでこの中世の絵から近代の絵への変化を説明できるか? まだ何かないか?

  金持ちの商人は一体どんな絵を描かせ、玄関に飾りたいと思ったか?

 成功した大商人は自分の「肖像画」を描かせるようになる。

 それまで人間は、風景のなかのモノとしてしか描かれなかった。それが、その人となりが浮かび上がってくるような、リアルな絵の主題として、描かれるようになったのである。

 こうして見ると、ルネサンス以降の絵に「自由」「生き生き」感があるのに対し、中世の絵は何か抑圧されているように感じる。

T 一体中世の人達は何に抑圧されていたのか? 人間より「上」の存在って何?

 中世はキリスト教中心の世の中であり、神様が一番偉い。何でも神様優先であり、あくまで人間はNO.2の存在。したがって絵や彫刻に表されるのは神様であり、人間は描かれない。もちろん人間の姿が描かれる事もあるが、それは単なる風景としての人間である(事が多かった)。

 「神様中心」の考え方から「人間中心」の考え方へ、「神様中心」の世の中から「人間中心」の世の中へ。それがルネサンス。



終わりに

 生徒の反応から見ると、ある程度の知的関心を引き出す事ができたのではないかと思われる。しかし準備不足のため、発問の吟味が充分になされず、上手に「導きだす」事ができなかったと思う。

 また必ずしも中世は暗黒時代ではなく、リアルな人間表現も実際あったのだが、自分自身の認識にも不確かな点があり、生徒にかなりステレオタイプな理解をさせてしまった事は否めない。