“ゆい”例会報告−2001(平成13)年2月

2001(平成13)年2月例会の報告 

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 2月例会の報告〔2月23日〕    【文責:茶田敏明】
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○参加者=高校4名、中学校3名、小学校1名、計8名 〔会場=加藤先生宅〕
     伊東商業高校…菊田・猪俣・齋藤・荒井
     伊東南中…向井・春日  熱海多賀中…加藤  熱海泉小…茶田
     ※ 猪俣氏・齋藤氏・荒井氏の初参加により、大いに盛り上がる。終
      了時刻は10時半過ぎ。茶田は終電に間に合わず、春日先生に熱海
      まで送っていただく。春日先生、どうもありがとうございました。
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│ @荒井報告「経済社会の発展と流通−環境問題−」 (商業科:流通経済)
│ A猪俣報告「企業のコミュニケーションとその方法」(商業科:流通経済)
│ B齋藤報告「合併損益計算書の作成」       (商業科:簿記U)
│ C春日報告「円高・円安」            (中学:公民的分野)
│ D向井報告「南北問題」             (中学:公民的分野)
│ E加藤報告「知の組み換え−原始・古代の場合−」 (中学:歴史的分野)
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§1 高校商業科が育てる学力の3つの側面
 菊田氏に誘われ、自ら学ぶ意欲的な若い教師が3名も参加。荒井氏、猪俣氏、齋藤氏は年間5回の研究授業を実施。今回の報告は、その最後の学習指導案と授業実践である。
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│     《実践報告から見える商業科が育てる学力の3つの側面》
│ ○荒井報告=地球に生きる人類という視点からの認識力(考える授業)
│ ○猪俣報告=企業社会で必要なコミュニケーション能力(参画型授業)
│ ○齋藤報告=職業人として必要な専門的な技能    (鍛える授業)
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 荒井報告は、現代社会で深刻化しつつある廃棄物の問題を“自分ごと”として認識することをねらいとする高校1年の授業。「企業の一員である前に、人類の一員であれ」という願いが読み取れる。
 猪俣報告は、ジェスチャーの意味の違いやALTとの英会話を通して、英語で話す動機づけを高める高校1年の授業。「商業科卒として期待される専門的な技能の前に、広く人間関係を築く技能や態度を」という願いが読み取れる。
 齋藤報告は、簿記検定3級を取得していない生徒が2級の授業に耐えうるのか
という疑問を持ちながらも、根気強く指導してきた高校2年の授業。集中力に欠けるクラスで敢えて研究授業を行った勇気を称えたい。


 1 荒井報告「経済社会の発展と流通−環境問題−」(全4時間)
  @ 昔も今もリサイクルは不可欠(3/4時)
 本時の目標は、飲料容器を主たる教材として「昔も今もリサイクルが不可欠」という結論に導くこと。
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│            「コカコーラ」の会社資料
│ ◇缶の軽量化   ・350〓スチール缶
│           1982年=45g→2000年=33g
│          ・350〓アルミ缶
│           1982年=20g→2000年=16g
│ ◇缶の再資源化率 ・スチール缶…建設用の鉄骨
│           1985年=38%→1995年=74%
│          ・アルミ缶 …アルミ缶、自動車部品
│           1985年=41%→1995年=66%
│ ◇ワンウェイ瓶  ・回収→カレット(ガラス原料)
│           →ワンウェイ瓶
│            (1995年=ガラス瓶原料の61%はカレット)
│           →断熱材
│ ◇リターナブル瓶 ・回収→洗浄→再使用(例の独特の曲線美をもつ瓶)
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「子供の頃、コカコーラの空瓶1本が10円になるので、よく集めてこづかい稼 ぎをした。でも、10円かどうか自信がない。そこで、コカコーラの会社に問 い合わせた。確かに10円だった。」
「昭和40年代後半の頃、コカコーラの瓶は7〜8回繰り返し使わないと採算が 取れなかったらしい。それほど瓶は高価なものだった。回収費として10円上 乗せしたのも頷ける。」
 

 A 廃棄物問題は先送りしてはならない(4/4時)
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│ 〈展開1〉=高杉晋吾『産業廃棄物』(岩波書店) 廃棄物処分場の写真 │
│ 〈展開2〉=ボルボ社(自動車メーカー)のコピー │
│       「私たちの製品は、公害と騒音と廃棄物を生み出しています」│
│ 〈展開3〉=高杉晋吾『産業廃棄物』(岩波書店) オフィス町内会 │
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「不法投棄防止のアルバイトをしていた友人によると、仕事は粗大ゴミを捨てに きた車のナンバーを記録するだけだそうだ。『ゴミを捨てるな。』などと注意
 してはいけないらしい。」


  B 生徒の思考の流れに沿った展開(茶田の独善的な試案)
   ア ビール瓶の謎
 ビール会社は、他社の瓶も流用する。そこで、瓶自体の社名とラベルが異なるビール瓶を教室に持ち込む。
「これらのビール瓶を見て、気づいたことを○つ書きなさい。」
生徒は、ビール会社が瓶を使い回している事実をつかむ。
「これは企業の協力によるリサイクルだ。ビール瓶の他にもあるかな。」
・瓶といえば、田舎の旅館に出てきそうなコーラの瓶
 
  イ コカコーラの瓶の謎
「コカコーラの瓶でこづかい稼ぎができた。どのような方法か?」
 当時の瓶のコカコーラの定価と、瓶を返すと10円が戻ってきたことを話す。捨てられた空き瓶を集めて店に持ち込むと、元手なしでこづかい稼ぎができた。
・そんなことしたら、店は損するんじゃないの?
・10円返してでも、瓶を集めたかった
 瓶を回収したいのは会社。回収意欲を引き出す効果的な方法が10円というわけ。もちろん10円は瓶代に含まれるので、企業や販売店の損はない。
 
  ウ 「リサイクル」が叫ばれる理由
 瓶は販売店が回収することによって、ゴミになりにくかった。しかし、最近はリサイクルという言葉をだれもが口にする。
「今、なぜ、リサイクルが叫ばれるようになったのか?」
 選択肢を出して、瓶と缶とペットボトルの生産量の違いを予想させる。抽象的な問いは、誰もが参加できるように加工する。
 出回っている容器の「量率グラフ」が作成できればしめたもの。瓶が主流の頃とペットボトルや缶が主流の頃の「量率グラフ」である。
・リサイクルできる瓶の生産量はずいぶん減っている
・反対に、缶やペットボトルはぐうんと増えた
・缶やペットボトルは店が引き取ってくれないから、ゴミが増える一方
   エ 飲料容器のゴミを減らす方法
「善意に依存するだけでは破綻する。そこで、缶やペットボトルのリサイクルが したくなる方法を考えよう。生産者は?消費者は?」
 

 C 資料のささやかな加工
   ◇ 「私たちの製品は、公害と騒音と廃棄物を生み出しています。」
 もし、ボルボ社のポスターにこの言葉があるならば、「公害」「騒音」「廃棄物」の3つにマスクをかけて伏せ字とする。
「ここには、どんな言葉が入るだろう。」
 逆説的な表現の効果にはっとする。



§2 耳にするけれど意味が分かりにくい“円高・円安”

 1 1ドル札を手に入れる方法
 まず、1ドル札のコピー(表面・裏面)を配布する。“ONE DOLLAR”等の手がかりからアメリカ合衆国の1ドル札であるとすぐ分かる。
 次に、本物の1ドル札を提示する。生徒は目を輝かす。
「どうやってその1ドル札を手に入れたの?」
 生徒は指導者が海外旅行で手に入れたと思い込んでいる。そこで、プリントを配布。「外貨両替一括売渡計算書」だ。静岡銀行伊豆高原支店で今年の1月12日に両替したもの。
 何だ、近くの銀行で両替できるのか。意外と身近なんだ。

 2 1ドルの価値は一定ではない
 この1ドル札で何が買えるかを問う。1ドル=約100円と知っている生徒は、缶ジュース1本ぐらいと答える。
 「外貨両替一括売渡計算書」に戻る。「換算相場(レート)=120.70」とある。1ドル=120円70銭という意味だ。だから、10ドル=1207円となる。この時点なら、缶ジュース1本は買える。しかし、授業参観当日のレートは約116円なので、買えない。
 えっ、いったいどうなっているの?
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│ ◇ 抽象的な概念を先に出すと、生徒は退いてしまう。だから、「円高・円
│  安」という用語は最後に出す。
│ ◇ まず、「貨幣の価値は、商品と同様に変動する」ということを1ドル札
│  で印象づける。次に、「1ドル=80円の場合」「1ドル=120円の場
│  合」の2つに単純化する。さらに、「海外旅行するなら、どちらの場合が
│  いいか」という生徒の感覚に近い土俵で為替相場の意味を考えさせる。
│ ◇ こうして、「1ドル=80円」になる方を「円高」といい、「1ドル=
│  120円」になる方を「円安」という理解が確かになる。「円高は輸入し
│  やすい」「円安は輸入しにくい」という理解も容易になる。
│ ◇ 授業プリントに「円相場の推移(東京市場)」の折れ線グラフがある。
│  すでに、具体的に概念を獲得した生徒は、縦軸を見て「普通は上にいくほ
│  ど、数値は高くなるけれど、これは逆だ。それは、一目で折れ線が上がる
│  のが円高で、下がるのが円安と読めるためだ。」と理解する。
│ ◇ “しゃべりっぱなしの春日劇場”の要点
│  ・少なく教え、多くを学ばせる
│  ・具体的な事柄から抽象的な概念の獲得へ
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§3 南北問題−低学力の生徒も参加できるしかけ−
 OHPで世界白地図を投影し、アメリカ合衆国・インド・エチオピアの位置を確認する。生徒の視線はスクリーンに集中する。これが残像効果をもたらし、次の発問(10ページ)への足掛かりとなる。
 「乗用車の台数」「テレビの普及率」「医者の数」「輸出額」「輸入額」「G
NP」「1人あたりGNP」の項目から、A・BとC・Dとの格差に気づく。
A・Bは経済が豊かな国、C・Dは経済があまり豊かでない国。人口の知識があれば、C=インド、B=アメリカ合衆国、A=日本と分かる。だから、D=エチオピア。資料の一部を隠して発問に変えたところが味噌。
 統計資料から南北格差を理解したところで、写真資料を出す。水を汲んだ樽を
転がす人々、山のように積まれた廃棄自転車、子供がぎゅうぎゅう詰めの小学校の教室。こうして、南北格差の違いが鮮明にイメージできる。
 しかし、〈北=豊か〉〈南=貧しい〉という陳腐な理解で終わらない。家財道具等をすべて外に出して並べた写真資料で、〈物質的な豊かさが絶対のものさしではない〉と押さえる。
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│ ◇ 南北問題における“構造的暴力”(菊田氏) │
│   摂取方法が異なると、世界で生産される穀物が何人を養えるか。 │
│  ア 穀物→人間(7人) │
│  イ 穀物→家畜→人間(1人)…肉として食べる │
│   北の国々はイの占める比率が高い。南の国々はアの占める比率が高い。│
│  北の国々が肉の摂取を増加すればするほど、南の国々は穀物が減少すると│
│  いうしくみになっている。しくみそれ自体が暴力になるということから、│
│  “構造的暴力”とよぶ。(“ネコ缶”を参照) │
│ ◇ 南北格差が一目で見える地図=GNPを面積に置き換えた世界地図 │
│ ◇ 簿記の考え方の基礎(荒井氏) │
│  「この例会のテーブルにある飲み物やお菓子は〈会議費〉です。それは、│
│   この会合に必要なものと判断されるからです。しかし、同じ飲み物やお│
│   菓子が、休憩時間などに誰が食べていいという場合は、〈福利厚生費〉│
│   となります。使途による明確な区別は、税金への適切な対処や経営上の│
│   諸問題の的確な判断材料になるのです。」 │
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§4 知の組み換え−原始・古代の歴史学習−
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│ 【原則1】 現代に通ずる(子供に響く)視点から学習内容を組み換える │
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○「農業が生んだ大文明」…ピラミッドを造ったのは誰か
 ・子供の誤解…強大な権力を持つ王が奴隷を酷使して完成させた
 ・本当は…ピラミッド建設労働者である農民たちは、ナイル川の氾濫で農業が  できない4ケ月間働き、その代わりに食料をもらっていた。〈長期間、強制
  的な奴隷労働〉というのは大きな誤解。
○「5300年前の男、よみがえる」
 ・子供の誤解…熱帯地方で原始的な生活を送る人々の服装や持ち物を想像
 ・本当は…下の図版を参照
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│ 【原則2】 どの生徒も参加でき、集団思考する場面を一つ設定する │
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○「“ヒト”と“サル”の間」
 →手立て=原寸大アウストラロピテクスの絵
  発問「サルかヒトか」
○「5300年前の男、よみがえる」
 →手立て=ヨーロッパアルプスで発見された冷凍ミイラの写真
  発問「“アイスマン”の持ち物や服装はどのようなものか」
○「農業が生んだ大文明」
 →手立て=ナイル川の断面図
  発問「どこで農業をしたか」