30年後の日本


第9回 フリーターの定義


 シナリオBに入る前に、フリーターの定義のことを少し。

〈若者を中心に定職に就かないフリーターが約200万人超に上っている〉(公明新聞06年7月16日付)
〈フリーター四百万人ともいわれる。そのひとりひとりに、仕事にプライドをもって働きたい、との夢がある。その夢の破壊に痛みを感じることなく、「全産業に派遣労働者を送れることになった」などと、豪語すべきものではあるまい〉(鎌田慧・西日本新聞06年7月16日付)

 新聞こそ違えども、同じ日付だ。なのに、フリーターの数は倍ほども違っている。なぜだろうか。そして、よく読むと、この両者はフリーター観が根本から違っていることがわかる。



フリーターは「減っている」?

 福岡の、ある自治体の議会を傍聴する機会があった。
 フリーター数が増えており、対策を求める、という共産党議員の要求にたいして、「議員とは認識が違う」という出だしで、「ゆるやかな景気の回復とともにフリーターの数は減っている」と言い出したのには驚いた。
 厚労省の統計では、「フリーター」は、2004年推計で213万人となり、たしかに前年より4万人減っている

 この役人の認識には、山田昌弘が『希望格差社会』で批判した「フリーター観」がそのまま反映している。
 すなわちフリーターの増加を(1)若者はしばられたくないというライフスタイルの変化に根本原因を求める説、(2)不況のせいでいあるという説、の二つの見方への批判である。

 なぜか。

 「景気回復でフリーターが減る」という発想が(2)の考えと結びついているのはすぐわかるだろう。雇用の構造がかわり、それゆえにフリーターが生み出されているのだ、という認識がないのだ。

 では(1)と役人の答弁はどう結びついているか。



厚労省定義と内閣府定義

 厚労省によるフリーターの定義は、労働白書に出てくるもので、15〜34歳のうち、学生や主婦をのぞき、「アルバイトやパートで働いて5年未満の者」と「アルバイト・パートの職を探している無業者」の合計である。

 これにたいして、内閣府の定義は、15〜34歳のうち、学生や主婦をのぞき、パート・アルバイトだけでなく派遣社員・契約社員など非正規雇用全体が入っており、さらに、無業者についてもパート・バイト志望だけでなく正社員希望の人を数に含めている。(「パート・バイト・派遣・請負・契約など非正規雇用全部」+「完全失業者」+「就職を希望する無業者」の合計)。

 「派遣・契約・請負」などを排除し、「正社員志望」の無業者を除いていること──これによって統計上は、倍ほども数が違ってくる。
 国(厚労省)の機関であるハローワーク福岡中央がだしている「ワークライト」という広報紙では、厚労省定義を紹介しながら「『フリーター』は、アルバイトと似ていますが、あえて違いを挙げるなら、『フリーター』は“本業をもっていない”ということでしょうか」(06年5月号p.3)と書かれている。

 国がフリーターを憂え、対策をとるのは「本業」がないから。派遣であろうが、請負であろうが、契約であろうが、いやそれどころかバイト・パートであろうが、「本業」=定職としてやるなら、もうそいつは憂えるべきフリーターではない──これが国の考え方である。

 ここには「定職もなくブラブラしている若者」というフリーター観が透けて見える(だからこそ彼らにとって「フリーター対策」は、「ニート対策」と一体になる)。それゆえに、厚労省でも、そして前述した自治体も、そのあとの答弁で、フリーター問題について「就職観・職業観に問題がある」と答えたし、「若年者については、職業観・勤労観の低下とともに、コミュニケーション能力等の基礎的資質・能力の低下が指摘されており、その向上を図る」ことがその自治体の「フリーター対策」のかなめになってしまっているのだ。

 これにたいして、内閣府の定義は、非正規全体をふくめている
 「フリーターとは正社員(安定した雇用)を得られない人である」というフリーター観があることがわかる。収入が低く、身分も不安定で、将来に見通しが持てない働き方であるがゆえに、非正規雇用=フリーターが増加していくことは問題なのだ、という基本的に正確な問題把握がこの内閣府の定義には反映している

 実際、総務省の労働力調査をみると、15〜34歳の「非正規の職員・従業員」は2003年1〜3月期には533万人(被雇用者全体の28%)だったのにたいし、最新の06年1〜3月期には595万人(32%)に増加している



企業が栄えればフリーターは減るのか

 冒頭に述べた自治体の首長は、役人答弁につづいて、「地元企業の経済振興をすすめることでフリーター対策をする」といった。要するに、「企業が栄える」→「雇用が増える」→「フリーターが吸収される」という発想しかそこにはない。
 雇用がふえても、それは非正規雇用が増えるだけである。じじつ、製造業の新規求人に「業務請負」(あのNHK「フリーター漂流」で有名になった)がしめる比率が日本で最も高いのは九州地域だ(06年1月厚労省調査で33.9%。全国平均は24.7%)。
 福岡県の請負事業所77のうち、国が是正指導書を出した、つまり「おまえアカンやないか」と指導したのは40ヶ所、実に52%にのぼる。まさに「無法」の巣である。その首長は、非正規雇用が正社員の半分ほどしかない低収入であり、身分が不安定であるがゆえに様々な横暴を押しつけられているという実態をまるで見ていないのだ。

 福岡県のフリーター比率は全国第4位の高さであり、無業者も多いが、非正規比率も高い。そこでは一般的に職に就かせるということが課題になるのではなく、非正規を正規に変えること、もしくは非正規でも見通しが立てられるような働かせ方に改善することがあわせて必要になってくる。